漆壱 帰還
[Side Kinot]
「…どう? もうすぐ抜けれるけど、ついてこれてる? 」
「うん! もうちょっとスピード上げても大丈夫だよ」
ええっ? まだいけるの? …あれから結構時間が開いたからまとめて話すと、シオンちゃんが自分の事を話してからは、"陽界の神殿"で休ませてもらえることになった。ルーンさんはちょっと話してから"月の次元"に帰っていったんだけど、休んでる間に色んな事を教えてもらった。シオンちゃんはピンク色のセレビィと話したけど、前にソレイルさんに会った時から起きた事が中心…、なのかな? ぼくとししょー、それからシャトレアさん以外にも協力している人がいるみたいで、その人のお陰で"月の次元"からの侵入者の拠点が分かっているみたい。…ただ本拠地って事もあって守りも厳重みたいで、潜入していたその人達でもギリギリの状態。だけどそれでも作戦? は上手くいったみたいで、その中から何人かの協力者を引き抜けたんだとか…。
それからししょーの師匠のフライさんは、チェリーさんとか…、他の伝説の種族の人達と情報を集めていたみたい。その中にカプ・コケコのコークさんもいたんだけど、風の大陸の殆どが敵に占領されちゃってるらしい…。その人達も詳しいことは別ってないみたいだけど、山と海で囲まれた"リヴァナビレッジ"っていう村だけが無事、って言ってた。
…それで話を今の事にすると、朝になってから、ぼくとシオンちゃんは"陽界の神殿"を出発点した。フライさんも一緒に出てるんだけど、他にも用事があるあらそのついでに"アクトアタウン"まで送ってもらえることになった。ぼくはフライさんに乗せてもらってるんだけど、今ちょうど"青藍の空"っていうダンジョンを通ってるところ…。空中のダンジョンだから飛行タイプとか虫タイプの種族しかいないんだけど、…やっぱりししょーの師匠だね! ダンジョンに入って二時間ぐらい経ってると思うんだけど、一回も技を発動させてないのに野生を沢山倒してる。種族上腕が短いから、長い尻尾を叩きつけたりして攻撃してた。それもただ打ちつけるだけじゃなくて、羽とか翼を攻撃して、少ない力と時間で叩き落としてた。おまけに進むのを止めずにしてたから、そういう事もあって結構進んでるんだと思う。
「わかったよ。…でも無理だって思ったら…」
「グォォッ…」
「ガァッ! 」
「ふっ、フライさん! 前に…! 」
「うん、ボクも確認したよ」
なっ、何? あの数…! 多分フライさんは無理って思ったら言って、って言おうとしてたと思うけど、その途中で沢山の唸り声に遮られてしまう。すぐに見つけて確認したんだけど、その数にぼくは言葉を失ってしまう。…モンスターハウス、っていうエリアだと思うけど、初めてだからぼく、多分シオンちゃんも圧倒されてしまう。
「この調子だとこのままいけるかなー、って思ってたけど…、そうはいかなそうだね」
だけどフライさんだけは、凄く落ち着いた様子で身構えていた。
「フライさん、ここからはぼくもたた…」
「ううん、ボクだけで十分だよ」
「でっ、でも、フライさん! こんな数どうするの? 」
「まぁ見てて」
何か考えがあるんだと思うけど、流石に…。パッと見三十体ぐらいいると思うから、少しでも多く倒すためにもぼくも戦う…。そのつもりでエネルギーレベルを高め始めたんだけど、それはししょーの師匠に制止されてしまう。結構なスピードで飛んでるからシオンちゃんはオレンジ色のオーラを纏ってるんだけど、それでもフライさんの方が少し速い。そんな中でフライさんは、何か考えがあるらしく右手で鞄の中を漁りながらこう言う。もう十メートルぐらいしか敵の先頭と離れてないけど、自信ありそうな感じで、二本の銀の針を引き抜い…。
「目覚めるパワー、ドラゴンクロー! 」
「ァッ…! 」
「ええっ? フライさん、今何したの? 」
いっ、今何が起きた? 針を引き抜く時に斬ったんだと思うけど、その瞬間が早すぎて何も見えなかった。倍速状態のシオンちゃんは見えたみたいで、凄く驚いた感じで声を荒らげていた。
「グァッ? 」
「それって…、銀の針ですよね? 何かオーラを纏ってますけど…」
見間違いじゃないと思うけど、絶対にそうだよね? フライさんが三体をすれ違い様に切り落とした時にやっと分かったから、ぼくはすぐにその事を訊ねてみる。一瞬の事だったけど、右の針には紺、左には黒のオーラが纏わりついていた。聞こえた感じだと、右は多分ドラゴンタイプ。だけど左の方はぼくには分からなかった。
「ううん。ボクの仲間のオリジナルでね…」
「カッ…? 」
「…っと、"
依属の針"って言ってね、銀の針から創ってるんだけど、見ての通りだよ」
「って事は、属性を針に付けれるんですか? 」
「そんな感じだね」
オリジナルって…、もしかしてししょーが作ってた回復薬みたいな感じかな? 右とか上…、色んな方向から襲いかかってきてるけど、フライさんは全く動じずに切り続けてる。時計回りに回転するみたいに回避したり、宙返りしたり…、ぼくが乗ってるのに全然気にしてなさそう。喋りながらでも敵の群れを倒し続けていて、後ろからついてきてるシオンちゃんを守る事も忘れてない。ルーンさんのスピードで慣れたから、ほぼ振り回されるような感じになってるけどぼくは割と平気。速さに目も大分慣れてきたから、針に憑いてるオーラが細く鋭くなってるのも見えた気がした。
「…じゃあフライさん? さっき同時に技を発動させてたけど、ウォルタさんみたいに伝説に関わってたりするの? 」
「ううん。ボクはどこにでもいる普通のフライゴン。他人よりも少しだけ戦闘慣れしてるだけだよ」
「でっ、でもフライさん? 同時に技を発動させるなんて、"チカラ"でもないと出来…」
「そんなことはないよ。修得するのに結構時間がかかったけど…、ふぅ。練習すれば誰でも出来るようになると思うよ? 」
「そうなの? 」
「うん。ボクの時代だと、シルク…、ウォルタ君のもう一人の師匠しかしらないけどね」
そんな事が、普通に…? それにししょーの師匠って確か…、伝説の当事者だった筈だよね? ぼくは全然気づけなかったけど、技を同時に発動させるなんて、ぼくは聞いたことがない。もしかしたらマスターランクとか…、そのぐらいの凄いチームなら出来そうな気がするけど、"光の雲海"を突破してるししょーでも出来ない様なこと…。だからぼくは、ししょーとその師匠みたいに伝説の"チカラ"、その一部だって率直に思った。だけど違ったみたいで、いつの間にか敵の群れを撃退してたフライさんは首を左右に振っていた。
「もう一人の師匠? 」
「うん。ぼくは会ったこと無いんだけど、兎に角凄い人なんだよ。フライさんと同じで五千年前のエーフィなんだけど、昔話に出てくる"絆の従者"なんだよ」
「あっ、そっか。シルク達って七千年代だとそうなるんだよね」
「きずなの…? 」
「うん。ししょーとシャトレアさんと同じ伝説なんだけど…」
"終焉の戦"のアドレスの時代だと、"失われた地位"って事になってるんだよね、確か。ぼくはししょーから聞いてて知ってるから、訊いてきているシオンちゃんに教えてあげる。話を利いたりししょーの"導かれし者達の軌跡"っていう本の事しか分からないけど、その範囲だけで…。もう一人の師匠のシルクさんの仲間のフライさんに訊いた方が早い気がするけど、とりあえず順を追って話していく事にした。
―――――
[Side Kinot]
「…ふぅ、やっと着いた」
「ええっと、ここがそうなんですよね? 」
「うん! 」
あの時はすぐ出ちゃったけど、よく見たら綺麗な感じだね。シオンちゃんに話してる間に、ぼく達はダンジョンを抜けることが出来た。突破した後も少し飛んでくれてたんだけど、その間にフライさんの事を少し教えてもらった。フライさんはチームの中では最年少で、ラティアスのライトさんの誘いでメンバー入りしたみたい。フライさんだけ昔話には出てこないんだけど、チームの中では二番目に強いらしい。
そんな感じで話している途中で、今回の目的地、ししょーが入院してる"アクトアタウン"に着いた。一応ぼくは一回だけ来てるんだけど、あの時はししょーに頼まれて呼びに来ただけだから、ほぼ初めてって言ってもいいぐらいだと思う。フライさんは大きな水車がある建物の前で降ろしてくれたんだけど、ぼくが訊いたらシオンちゃんが大きく頷いてくれる。翼をたたんでからぴょんとぼくの前に出て、一番に建物の入口をくぐっていった。
「最近来たばかりなのに、何か凄く久しぶりな気がするよ」
「…ってことは、シオンさんはここのギルドには…」
「うん! "伍央の孤島"? に連れてってもらう前、ちょっとだけここに…」
「この声は…、シオンちゃん! 無事だったのね! 」
「あっ、フィリアさん! 」
えっ、嘘でしょ! ぼく達も続いて中に入ったんだけど、パッと見た感じここは探検隊のギルドらしい。ルガルガンに進化したからよく見えるけど、入口の反対側には沢山の紙が貼られた掲示板がある。ロビーになってるんだと思うけど、真ん中ぐらいに街の水路が通っていて…。…こんな感じでロビーを見渡していたんだけど、ぼく達の話し声が聞こえたみたいで、奥の方から知ってる人が駆けてきた。まさか"ラスカ諸島"に来てるなんて思わなかったけど、"伍央の孤島"に一緒に挑戦した、"導かれし者達の軌跡"の関係者のグレイシア。記憶が無かった時は気づけなかったけど、ぼくが会いたかったフィリアさんが驚いたようなホッとしたような…、そんな表情で話しかけてきた。
「うん! 話すと長くなっちゃうんだけど、キノト君と色んな人に助けてもらって…」
「キノト君に? …けれどキノト君は…」
「フィリアさん、ぼくです! 進化して分からないかも知れないですけど、Zギアでスキャンすれば分かると思います」
ぼくは"黄昏の姿"だから"太陽の次元"にはいないけど、元の姿と似てるから分かってもらえるよね? シオンちゃんが大分省いて話してくれたけど、イワンコの
ぼくがいないからキョロキョロと見渡してる。すぐにぼくの姿を捜してるって分かったから、すぐに右の前足を挙げて名乗り出る。でしょだけど"空現の穴"に落ちる前と違って進化してるから、フィリアさんが着けてる専用モデルのZギアに目を向けてこう頼んでみた。
「えっええ…。たてがみが違って色も違うけれど…、わかったわ。けれどフライゴンのあなたは…」
「ボクの事だね? 一応はじめましてだけど、フライゴンのフライ。シルクと同じ時代の出身、って言ったら分かりますか? 」
「フライゴンの…て事は、あなたがそうなのね? ええ、シルクから聞いてて知ってるわ。五千年前の出身なのよね? 」
「そうだよ。キノト君達から聞いたんだけど…」
…あれ? もしかしてフライさんとフィリアさん、お互いに知ってるけど、感じなのかな?
「ライトも入れた五人で、"黄央の祭壇"の"ビースト"を討伐しに行ってくれたんですよね? 」
「そうよ。ライトちゃんの事まで知ってるなんて驚きだけど、何とか倒せたわ」
「そっか、倒せたんですね? ですけどフィリアさん? "ラスカ諸島"に来てるのって、ぼくとシオンちゃんを…」
「それが一番の目的だけれど、回線を設置しに来たら帰れなくなった、て感じね」
「そうなの? でも帰れなくなったって…」
続く