陸陸 リバーサイド(デルタ)
あらすじ
“伍黄の孤島”に上陸したぼく達五人は、海岸を歩きながらフィリアさんの話を聞く。
フィリアさんの話によると、“伍黄の孤島”には三つのルートがあって、ぼく達は西側のリバーサイドから行くことになる。
その後シオンさんの提案で使える技を教える事になって、ぼくから順番に言っていった。
だけどシャトレアさんだけは“チカラ”の事も話していたから、一瞬だけ場の空気が騒然となっていた。
――――
[Side Kinot]
「…スキャン完了。今のところは問題無さそうね」
「へぇー。Zギアって、そんな事も出来るんだね」
「ってことは、私のPギアもできるの? 」
「いいえ、スキャン機能はCギアと私達三人専用モデルとアーシアちゃん達のものだけね」
って事は、ししょーのZギアは出来ないのかな? 一通り教え合ってから、ぼく達五人は予定通りダンジョンに潜入した。フィリアさんの言う通り川になってて、水の近くの土は少し湿ってる。岩タイプのぼくにはちょっと嫌だけど、流されてきて乾いた落ち葉とかの上なら何とか我慢はできる。シャトレアさんはどうって事無さそうな感じだけど、やっぱり足が泥で汚れるのは嫌らしい。ぼくと同じで、水気が乾いたところを選んで歩いていた。
それでライトさんに乗せてもらってるフィリアさんは、潜入してからずっとZギアを触っていた。ぼくにはよく分からないけど、フィリアさんが使ってるギアは開発者用の特別仕様らしい。そのうちの一つの機能を使ってたみたいなんだけど、ダンジョンの地形とか…、広さを読み取って教えてくれるみたい。シャトレアさんもその機能が気になってるみたいだけど、フィリアさんが言った感じだと、ししょーから借りてるPギアには無いのかもしれない。
「そうなの? 」
「ええ」
「よく分からないけ…、電光石火! 」
「ァッ? 」
えっ…、敵? 話に気が逸れてて気づかなかったけど、河原の方から泡みたいなものが飛んできた。ぼくは水際から離れてたから何ともなかったけど、一番近くで飛んでいたシオンさんはそうじゃなかった。シャトレアさんの傍から見た感じだと、シオンさんは咄嗟に力を溜め、すぐに翼の力を開放する。素早く動かすことで技を発動し、ぼく達のところに戻てきていた。
「ニョロモとハスボー…。それならシオンちゃんでも倒せるんじゃない? 」
「わたしに? …あっ、そっか。海岸の洞窟にいたポケモンとあまり変わらないもんね」
「でしょ? 」
「じゃあさ、キノト君と組んで戦ったらどう? 」
「えっ、ぼくもですか? 」
相性悪いですけど、ぼくもですか? シオンちゃんが下がってきている間に、フィリアさんを乗せて浮いているライトさんがこんな風に呟く。ぼくも今確認できたけど、シオンちゃんが翼をたたんで降りてきたタイミングで、川の方からニョロモとハスボーが一人ずつ上陸してきていた。これにシオンさんは最初はピンときてなかったみたいだけど、すぐに何かを理解したらしい。パッと明るく声をあげ、提案していたライトさんの方を見上げていた。
それでぼくはこのまま戦闘になるかと思ってたけど、ここでシャトレアさんがついで、って感じで話しかけてくる。シャトレアさんはぼくの実力を知ってると思うけど、まさかこのタイミングで提案してくるとは思わなかった。
「うん。“漆赤の砂丘”でも戦えてたんだから、大丈夫なんじゃない? 」
「でも相性…」
「何事も挑戦よ、キノト君」
「危なくなったら私が助けるから」
「それなら…」
ライトさんが助けてくれるなら…。ぼくはあまり気が進まなかったけど、万が一の時に助太刀してくれるって言ってくれたから、渋々了承する。シオンさんは先に前に出て相手との距離を測ってるから、とりあえずぼくもその隣に並ぶ。ここまでの間に野生の人も近づいてきていたから、何とかぼくも気持ちを切り替える。
「…シオンさん、ごめん。遅くなって」
「ううん、大丈夫だよ。まだ戦ってなかったから」
「グルルル…」
「そうみたいだね」
シオンさんがどれくらいできるか分からないけど、やるしかないよね? 隣に並んだぼくは、戦闘態勢に入っているシオンさんに声をかける。するとシオンさんはぼくの方を見てから、うん、って大きく頷いてくれる。だからぼくもこれに答えるようにエネルギーを活性化させる。喉元に集めてから解放し…。
「うん! 」
「じゃあシオンさん、
いくよ! 」
「きっキノト君? 」
ぼくは高らかに声をあげ、闘うんだ、っていう感じで士気を高めた。
「まずはわたしからいくよ! 電光石火! 」
「ッ? 」
さっきもチラッと見たけど、シオンさん、結構早いね。ぼくの合図で羽ばたき始めたシオンさんは、凄い速さでまっすぐ敵に向かっていく。飛んでいった方向からするとハスボーを狙ってると思うから、ぼくはニョロモの方へと走り始める。足元が湿ってて少し気持ち悪いけど、ぼくは気にせず八メートルある距離を駆け抜ける。二メートルになったところで力を溜め…。
「体当たりっ! 」
「ッ! カァッ! 」
「くっ…」
力一杯相手にぶつかる。頭から突っ込んだから前は見てないけど、手ごたえがあったから命中はしたと思う。だけどぼくはすぐ返り討ちにあってしまい、相手の尻尾で思いっきり叩かれる。思ったよりは痛くなかったけど、ぼくは反撃された事に少し驚いてしまった。
「ガァァ…」
「吹き飛ばし! 」
「ァッ? 」
「キノト君、大丈夫? 」
「うん。シオンさんは? 」
「わたしも大丈夫。翼で打つで倒せたからだ…」
驚いたから少し隙を作っちゃったけど、急に吹いてきた突風にぼくは救われる。驚きながらもそっちに目を向けてみると、そこには一メートルぐらいの高さを維持して飛んでいるシオンさん…。そういえばさっき吹き飛ばし、って言う技をと変えるって言ってたから、至近距離で泡を発動しようとしていたニョロモを飛ばしてくれたのは彼女だと思う。シオンさんは…。
「ゥガァッ! 」
「えっ…」
「岩落とし! 」
「グァッ? 」
危ない! シオンさんはそのまま何かを言おうとしてたけど、その後ろから何かが接近してきていた。多分ポッポだと思うけど、このままだとシオンさんが攻撃されるから、ぼくは咄嗟にエネルギーレベルを開放する。解放する直前に岩タイプに変換して、相手がいる場所にエネルギーを送り込む。すると振りかえっていたシオンさんの背後、ちょうどつつこうとしていたポッポの真上に岩が現れ、標的諸共落下。結果的にポッポの上に落ちて、一発で倒すことが出来た。
「キノト君、ありがとう! 」
「どういたしまして」
「もしかしてキノト君、キノト君
も他の世界…、翼で打つ! 」
「噛みつく! 」
「ガァァッ…」
「…キノト君も他の世界か、違う時代から来てるの? 」
「体当たり! …えっ? 」
シオンさん、今、何て言った? シオンさんはぼくに何かを訊こうとしてたけど、その途中で別のポッポが襲いかかってくる。今度は流石に気付いたらしく、シオンさんは右の翼で叩き落としていた。そこへぼくが駆けこんで、墜落したポッポの左翼に噛みつく。咥えたまま上に放り投げて、着地点まで追いかけてもう一度頭から突っ込もうとした。シオンさんが訊いてきた事に気をとられて、攻撃は外れたけど…。
「ぼっ、ぼくは覚えてないんだけど、一昨日ししょーと隣の世界? に行って戻ってきたみたいなんだよ」
「じゃっ、じゃあ、わたしと同じって事? …電光石火! 」
「ゥァッ…! 」
「体当たり! どっ、どういうこと? 」
「今は抑えてるんだけど、…ふぅー。ほら、濃さは違うけど、わたしもそうだから」
ええっ? ちょっ、ちょっと待って! もっ、もしかしてシオンさん、シオンさんも“陽月の被染者”なの? ぼく達は次々に襲いかかってくる野生を倒しながら、ふたりで言葉を交わし合う。だけどシオンさんが言った一言に、ぼくは思わずシオンさんを二度見してしまう。抑えてるとか同じとか…、全然意味が分からなかったけど、ある程度野生は倒せたみたいだから、このタイミングでシオンさんに訊いてみる。するとシオンさんは空中で羽ばたいたまま深く深呼吸し、気持ちを落ち着かせているように見えた。…だけどその瞬間、シオンさんにオーラ…、ぼくよりも濃いオレンジ色のオーラを纏っていた。
「これって…」
「グアアアァァッ! 」
「っ電光石火! 」
「ッガッ? 」
「翼で打つ! 」
ぼくは思った事を言おうとしたんだけど、こういう時に限ってまた別の野生が襲いかかってくる。するといち早く反応したシオンさんは、咄嗟に滑空して敵に突っ込み、間髪を入れずに右の翼を叩きつける。その速さは普通に飛ぶよりも早くて、倍速状態なんじゃないか、って見間違うぐらいだった。
「わたしは速く動けるんだけど、キノト君はどうな…」
「ガルルル…」
「っ? この距離なら、いけるかも」
立て続けにキャモメが距離を詰めてきて、それにシオンさんはすぐに反応する。ぼくに何かを訊こうとしてたけど、その途中で高く浮上し始める。十メートル浮上したところで急降下を始め、飛ぶスピードが更に上がる。地面スレスレで滑空し、早さに驚いているキャモメに急接近する。そして標的の一メートル手前で高さを合わせ…。
「燕返し! …できた! 」
「ッ! 」
すれ違い様に二発、翼の先端の方で斬り裂く。どんな風に命中させたのかは早すぎて見えなかったけど、成功したみたいで、そのままの勢いで急旋か…。
「しっ、シオンさん? 」
「ええっ? こっ、こんな事って、あり得るの? 」
シオンさんは急旋回してたけど、その途中で突然激しい光に包まれ始める。ぼくは一瞬何が起こったのか分からなかったけど、光ごとシオンさんが大きくなりはじめたから、すぐに理解する事が出来た。…だけどこれはあり得ない事だから、ぼく、シャトレアさん、それからフィリアさんも、驚きすぎて変な声をあげてしまっていた。何故なら…。
「やった! 初めて成功…、あれ? キノト君、そんなに小さかったっけ? 」
「ううん、ぼくはぼくで変わらないよ。だってシオンさんが大きくなって…、進化したんだから」
降りてきた頃には光が治まっていて、シオンさんは逞しくなっていたから…。まだ実感ないみたいだけど、ぼくの言葉を聞いても、オオスバメに進化したシオンさんは、いまいちパッとしない表情で首を傾げていた。
続く