陸参 ラスカ諸島のギア事情
あらすじ
長時間の船旅で、ぼくは抜けている記憶の重大さに改めて気づかされる。
ライトさんは船酔いで席を外していたけど、その間に船が“ルデラ諸島”の“ポートタウン”に到着する。
乗船所でライトさんが出てくるのを待っていたけど、その間に迎えのフィリアさんと合流する事ができた。
軽く話している間にライとさんが出てきたけど、ライトさんはフィリアさんの事を知っているみたいだった。
――――
[Side Kinot]
「…そういえばフィリアさん? 」
「ん? 」
今思い出したけど、Zギアって…。ライトさんとフィリアさんと合流出来てからは、簡単に今日の事の打ち合わせをしていた。本音を言うとすぐにでも“伍黄の孤島”に行きたかったんだけど、チャーター便の手続きが間に合わなかったみたいだから昼から、って事になった。…よく考えたらぼく達も急に言われて来ているし、多分ししょーがフィリアさんに連絡したのも夜遅く。昨日の今日の事を頼まれても困るわ、ってフィリアさんが嘆いていたけど…。
だからそれまでの時間に空きができたから、その間にフィリアさんに街を案内してもらえる事になった。“ポートタウン”は“アクトアタウン”ぐらい大きい町だけど、観光地の数ではこっちの方が多いと思う。今からエメラルド海岸、っていう所に連れてってもらうんだけど、そこは夏になると凄く賑やかになる薄緑色のビーチらしい。他にも灯台とか神殿があって見てみたいって思ってるんだけど、時間の関係で無理かもしれない。丁度今見えてきたからシャトレアさん達は先に行っちゃったけど、ぼくはふと思った事を、グレイシアの彼女に訊いてみる事にした。
「通話機能はラスカでは使えなかったような気がするんですけど、ししょーはどうやって連絡を入れたんですか? 」
「そうね…、アタシも見逃しそうになったのだけれど、機能の中にあるカスタマーサービスを使っていたわね」
「かすたまー…、さーびす? 」
初めて聞いたけど、何なんだろう…? ぼくまだ少し着くまでにかかるから、ぼくはこの事を聞いてみる事にする。ししょーから聞いただけだからどうか分からないけど、Zギアは確か、“ラスカ諸島”ではメールとか照明…、あと他に少しの機能しか使えなかったような気がする。そのメール自体も諸島外に送れないとも言ってたから、今更ながら送れなかったんじゃないか、ぼくはこう思っていた。一応フィリアさんはすぐに教えてくれたけど、そのカスタマー…、何とかっていうものがぼくには分からなかった。だからぼくは、フィリアさんの言葉にこくりと首を傾げる事しか出来なかった。
「ええ。不具合連絡とかサポートとか…、そういうものよ。Zギアでも電波強度が足りなくて届かないのだけれど、カスタマーサービスだけは別の電波を使っているのよ」
「そう…、なんですね」
「そうよ。ルーターがあれば他の機能も使えるのだけれど、ラスカでは一軒のギルドしか契約していないのが現状ね。確か…、“パラムタウン”ていう町だったかしら」
「“パラムタウン”の? 」
よく分からないけど…、ししょーなら分かるかな? だけどもしかして、“パラムタウン”に行ったら他にも色んなことができるのかな? フィリアさんは歩く足を止めずに話してくれたけど、やっぱり難しくて何が何だか分からない。…だけどその機能だけは少し違う、これだけはぼんやりとわかったような気がする。
「うちの研究オタクからはそう聴いているわ。ギルドマスター用のMギアとギルド用のCギアだけど、そう思うとそこのギルドマスターはラスカでのパイオニアかもしれないわね」
「へぇー」
ZギアとPギアは知ってたけど、他にもあるなんて知らなかったなぁ。
「ええっと“パラムタウン”のギルドって、確か親方が“ルデラ諸島”の出身なんだよね? 」
「しゃっ、シャトレアさん? いつから聞いてたんで…」
「ルーターがどうのこうの…、ってところからかな? 」
ぜっ、全然気づかなかった…。相変わらずフィリアさんの説明は分からないことだらけだけど、ぼくが訊いた事だから聞かない訳にもいかない。分からなくてモヤモヤするけど、とりあえず相づちを打ちながら耳を傾ける。潮の香りが濃くなってきたところでしってる名前が出てきたけど、そのタイミングで急にエネコロロ…、シャトレアさんが話に割り込んでくる。ぼくはてっきり先に行ってると思い込んでいたから、多分フィリアさんも驚いていると思う。これはぼくが訊いたから分からないけど、シャトレアさんはぼくが言い切る前に答えてくれていた。
「それでフィリアさん? “パラムタウン”のギルドのお蔭で、ラスカでの普及率が上がってきてるんだよね? 」
「そっそうよ。それでもまだ、ラスカでの普及率は二パーセントしかないわ。富裕層とか高ランクのチームには広まってきているけど…」
「Zギアを使った詐欺が出始めてるから、ラスカの連盟が渋ってる…。そうだよね? 」
「えっええ…。でもそうしてそれを…」
「これでも私、二等保安官だから。ラスカの“オアセラ”でZギアの偽物を売りつける詐欺集団がいてね。街の中だけだから四級程度のお尋ね者だったんだけど、ちょっと前に犯人の取り調べをした事があるんだよ。ルデラの事も
読みとれて楽しかったんだけど、“エアリシア”の件が手一杯で解決できてないのが現状かな…」
「そういえば実家に帰った時、そういうニュースを聞いたような気がします」
「そうだったのね。副責任者として広報活動しているけど、そういう事情があったのね。そう思うと…、納得ね」
「ぼくの知らないところで、そんな事もあったんですね」
「そうね。近いうちにラスカの連盟にかけあうつもりだけど…、その、“エアリシア”ていうのは」
“エアリシア”…? 確かラスカでは一、二位を争うぐらい古い街だったと思うけど…。保安協会総出でしてるって事は、何かあったのかな…?
「“ラスカ諸島”では凄く古くからある街なんです。…ですけどシャトレアさん? 」
「キノト君が訊きたい事は分かるよ。一等保安官と私を入れた一部の人にしか知らされてない極秘事項なんだけど、三日前に“エアリシア”で大量殺人事件が起きて…」
えっ、極秘って…、言っちゃってもいいの? 途中からシャトレアさんも入ってだったけど、フィリアさんは詳しくZギアの事を教えてくれた。この内容になると少しは分かったけど、フィリアさんの反応を見た感じだと、シャトレアさんは心を先に読んで話してくれていたんだと思う。シャトレアさんが言い当てた時に訊き返していたけど、言い切る間もなく答えていたから、多分そうなんだと思う。だけどそれでもフィリアさんの中で繋がった事があったらしくて、納得したようにうんうん、と小さく頷いていた。
それでいつの間にか話題が変わっていたけど、シャトレアさんは“エアリシア”っていう街の事を話し始める。“エアリシア”はラスカでは観光地として有名な街だけど、ぼくはそんな大事件があったなんて全然知らなかった。記憶を失くしてて忘れているのか、保安協会が極秘にしているからなのか…、どっちかは分からないけど、ぼくはこのシャトレアさんの一言に凄く驚いてしまう。何でシャトレアさんが知ってるのか気になったけど、ぼくは気付くと事件の事に聴き入っていた。
続く