伍漆 去り訪れる者達
あらすじ
ししょーが“証”を外したから、あの白い生き物を倒せていた。
だけど倒したっていうレベルを超えていて、真っ二つに裂かれてしまっていた。
この時にユキメノコさんとエーフィさんが来たんだけど、それから少ししたら急にししょーが暴れはじめてしまう。
エーフィさんがししょーを同じ方法で止めたみたいだけど、シャトレアさんはエーフィさんに違和感を感じたらしかった。
――――
[Side Unknown]
「…例の件、進んでいるな? 」
「はい。ジク様が――諸島から―――を雇い、その方達が数日後には到着すると伺っております。ですがムナール様、本当に決行するのですか? 」
「当然だ。貴様もジク殿の部下なら言わずとも解するはずだろう? 叛逆因子の排除…、その烽火としての・・・タウン―――だ」
「“太陽”の連中はそんな事も分からないのか。平和ボケもいいところだな」
「嵐の前の静けさというものだ、気にするな。…しかし貴様、―――、―――、―――の三軒を潰せば――――という事は誠か? 」
「はい、―――ですので」
――――
[Side Kinot]
「一応止める事はできたけど、予断を許さない状態という事は変わりないわ」
『ええ。峠は越えてルと思うけど、私が折ったつば…、前足ノ事もあるから…』
「そうだよね。…だったら、すぐ病院に連れて行った方がいいよね? 」
「ぼくもそう思います! 」
だってししょー、あんな風に暴れてたから…。駆けつけてくれたエーフィさんが何とかしてくれたけど、それでもやっぱり、ししょーはまだ危ない状態らしい。今のししょーは元のミズゴロウの姿に戻ってるけど、十何分か経っても意識が戻ってない。この間にユキメノコさんとエーフィさんが応急処置をしてくれていたんだけど、肝心のぼくは何も出来なかった…。シャトレアさんは二人の心を読み続けてたみたいだけど…。
それで応急処置も終わったから、ユキメノコさんはふぅ、って一息ついてからぼく達に話しかけてくる。エーフィさんも続いていたけど、その内容はやっぱり良くないもの…。だからって事でぼく達はうん、って頷き、そのうちのシャトレアさんがこう提案する。ぼくもその方が良いって思ってたから、救護してくれた二人に向けて大きく頷いた。
『そうね。それなら…、彼を“アクトアタウン”まで運んでもらってもいいかしら? 』
「“アクトアタウン”に? “ワイワイタウン”とか“パラムタウン”じゃなくて? 」
「“パラムタウン”がだめなのは何となく分かるけど…、なんで“ワイワイタウン”もダメなんですか? 」
“パラムタウン”は土砂崩れの事で忙しい、って実家に帰った時に聞いた気がするけど、何でなんだろう…? エーフィさんは一度ししょーに視線を落としてから、ぼく達に街を指定してくる。その街の名前が凄く意外だったから、ぼく、それからシャトレアさんも、思わずエーフィさんに訊き返してしまった。シャトレアさんが言った街にはラスカ諸島でも一位二位を争うぐらい大きな病院があるから、普通ならその二つのどっちかを指定するはず。…だけどエーフィさんは、その二つじゃなくて少し規模が大きいぐらいの“アクトアタウン”にしてほしい、って言ってた。何か考えがあるのかもしれないけど、ぼくにはその意味がさっぱり分からなかった。
「確か“パラムタウン”は、土砂災害の被災者たちの治療で忙しい、て聞いてるけれど…。そう思うとフィフちゃん? 私は“ワイワイタウン”の方が…」
『普通なら、そうなるわね。…だけど“ワイワイタウン”の方も、今頃重症患者が失踪してそれどころじゃないはず』
「まさかフィフちゃん、その患じ…」
『だから“志”のあなた、それからイワンコのあなたも、ウォルタ君の事を頼んだわ』
えっ、患者さんの行方が分からなくなったって…、大ごとですよね? ユキメノコさんも訳を知らないらしく、白い服を羽織ったエーフィさんに問いかける。だけどその途中に答えが返ってきていたから、そこで口を止めていた。…だけどその内容に、ぼくは思わず言葉にならない声をあげてしまう。ユキメノコさんもぼくと似たような感じで驚いていたけど、もしかすると別の事で驚いているのかもしれない。行方不明になっている人に心当たりがあるのか…、その事かどうかは分からないけど、エーフィさんに凄い勢いで迫る。だけど無理やり遮られて言い切れいなかったから、ユキメノコさんは不満そうな顔をしてしまっていた。
「はっ、はい…」
『…だからミウさん、予定通り“エアリシア”に…』
「“エアリシア”にって…、フィフちゃん、ウォルタく…」
『ついていきたのは山々だけど、今の私には出来ないし、会う資格も無い…。だからミウさん、…お願い』
「…わかったわ。そこまで言うなら…」
何かもめてたけど、解決したのかな…? エーフィさんとユキメノコさんは言い争ってたけど、思ったより早く解決したらしい。解決っていうよりは言いくるめられた? 言葉を失った? ような感じだったから、みていたぼくはあまりスッキリしてないけど…。何かエーフィさんは凄く自虐的になってて、口が全然動かない表情が凄く曇ってる。そんなエーフィさんを気の毒に思ったかのように、ユキメノコさんは渋々頷い…。
「うわっ! 」
「テレポート! 」
「…えっ? 」
きっ、消えた? ユキメノコさんが小さく頷くのを見ると、エーフィさんは急に鞄から何かを取りだす。多分光の玉か何かだと思うけど、エーフィさんはダンジョンじゃないのにそれを作動させる。いきなりだったからぼくは思わず目を瞑っちゃったけど、その一瞬で信じられない事が起きてしまう。何故ならぼく達の目の前…、エーフィさんとユキメノコさんがいるはずの場所に、誰もいなかったから…。この事に何かを考えていたシャトレアさんも、思わず声をあげてしまっていた。
「なっ、何で? ユキメノコさん達は? 」
「分からないよ! 心読んでたらユキメノコさんが普通のユキメノコじゃない、って分かったんだけ…」
「ふっ、普通じゃない? 普通じゃないって…、ししょーとシャトレアさんの地位を知ってた、って事ですか? 」
これしか思い当たらないんだけど? シャトレアさんがずっと心を読んでいたのは知ってたけど、それでも分からない事があったらしい。心を読んでたなら全部分かるはずなのに、それでも分からないってなると、余計に訳が分からないくなってくる。エーフィさんがあり得ないけど伝説の当事者って事は分かったけど、ぼくはまさかユキメノコさんもそうだとは夢にも思わなかった。多分シャトレアさんは、この事が気になってたから読んでたんだと思うけど…。
「それもだけど、ユキメノコさん、多分ユキメノコが本当の姿じゃないと思う。…心を読んでも読み切れなかったし、そうじゃないとテレパシー使ってた訳がわか…」
「おいおい、強い光が見えたから来てみたが、ここで一体何が起きたっつぅーんだよ」
本当の姿じゃないって…、どういうことなの? それだと、ししょーとシャトレアさんと同じ、って事になるよね? 確かに白いスカーフを首に巻いてたけど…。ぼくが訊いた質問に、シャトレアさんは一瞬大きく頷きかける。だけど違うこともあったらしく、下げかけた視線をぼくの方に戻してすぐに話始めてくれる。…確かにししょー達の事を知ってたからただものじゃないって思ってたけど、そのレベルはぼくの想像を超えていた。姿を変えれる地位はししょー達の“英雄伝説”しかぼくは知らないから、何回も繰り返すけど本当に訳が分からない。ししょーの同じ伝説の地位は五つあるけど、そのうちの“理想”は覚醒してないし、“英雄”もまだ見つかってない、って聞いた事がある。シャトレアさんの“賢者”は三人揃ってるけど、確か変えた種族の中にもユキメノコはいなかったはず…。さっきのエーフィさんも、謎といえば謎だけど…。
それでこんな感じで声を荒らげているところに、また別の誰かが赤い砂の史跡に来る。声的に男の人だと思うけど、その人も凄く驚いているような感じだった。
「それにそのミズゴロウ、気ぃ失ってるじゃねぇーか! お前ら、ここで何があったのか説明しろ! 」
だっ、誰なんだろう? 知らない種族だけど…。
「はっ、はい。ここの遺跡で激しいバトルがあったんですけど…」
流石に全部話す訳には…、いかないよね?
「ししょ…、ミズゴロウは相討ちになって気絶してしまったんです」
「相討ち、か。ミズゴロウな辺り大したこと無いかもしれねぇーが、大体分かった。…フッ、これは遺跡の調査どころじゃあ…」
「だけどその前に、考古学者みたいだけどきみの事が全然分からないんだけど…」
…だよね。勢いに乗せられる感じで話しちゃったけど、本当にこの人の事が分からない。見た事が無い種族って事もそうだけど、“漆赤の砂丘”に何で一人で来たのかも分からない。観光とかなら他に誰かがいる筈だけど、見た感じゾロアークに似てるけど違うこの人だけしかいない…。だからぼくはこの人に訊こうとしたけど、ほんの少しの差でシャトレアさんに先を越されてしまった。
「…デアナ諸島の史…、考古学者のミナヅキだ。それよりも、先ずはミズゴロウのコイツの事が先だろぅ? 」
「えっ、あっ、はい! ちょっと遠いですけど、水の大陸の“アクトアタウン”まで連れていこうとしていたところです! 」
考古学者なんだ…! ミナヅキって名乗ったこの人は、少し詰まりながらも自己紹介してくれる。シャトレアさんは少し難しい顔をしてるけど、ミナヅキさんは自己紹介するとすぐにししょーの方に目を向ける。右手の爪でもししょーを指さし、ぼくに肝心な事を思い出させてくれる。だからぼくは慌てて頷き、ミナヅキさんにも今からしようとしていたことを教えてあげた。
「水の大陸、か。確かラムルから船が出ていたな。イワンコのお前…」
「キノト、っていいます! 」
「…そうか、お前がキノトか。分かった、ミズゴロウを運ぶ事に俺も協力する。エネコロロのお前も、それでいいな? 」
「えっ、…うん」
…もしかしてミナヅキさん、ぼくの事を知ってる? って事は、記憶が無い間にししょーが会ってたのかな?
「ならエネコロロ、お前の背に乗せてコイツを運ぶ。キノトは例の街まで案内を頼む」
「はい、任せてください! 」
ミナヅキさんも手伝ってくれるんだ! 訳を話すと、ミナヅキさんはぼく達にこう名乗り出てくれる。目つきとか喋り方がキツイけど、見かけによらず優しいんだな、って僕は率直に思った。それに対してシャトレアさんは不思議そうな感じで首を傾げているけど、ミナヅキさんに呼ばれてハッと声をあげる。ほぼ成り行きに身を任せて頷いていたから、それを見たミナヅキさんはテキパキと指示を出してくれる。だからぼくは、大きく頷いて彼の指示通り“アクトアタウン”まで案内する事にした。
――――
[Side Chatler]
…あんな風に言ってるけど、本当にそうなのかな…?
続く