伍肆 再突入
あらすじ
再会したシャトさんの案内で、僕達は保安協会代表のサードさんと対面する。
彼は自分の事について含みのある言い方をしていたけど、ベリー達が対峙した生き物の事を教えてもらう事ができた。
その後“半常席員”の彼から例の生き物と“空現の穴”の関係を聞き、合わせて出現する場所の手がかりを教えてもらう。
既に一か所は倒されたみたいだけど、そのうちの一か所に、僕、キノト、シャトさんの三人で向かう事になった。
――――
[Side Wolta]
「…砂も赤くなってきたから、そろそろ突入地点かな」
「へぇー。…それにダンジョンに潜入なんて、探検隊みたいで面白そうだよね! 」
「みたいじゃなくて…、ししょーはちょっとだけ探検隊だったことがあるんです」
「見習いの時に、一か月ぐらいね」
確かギルドが遠征に行った少し後ぐらいだったかな? 懐かしいよ。サードさんから“ビースト”の事を教えてもらった僕達は、そのまま出現地点である“漆赤の砂丘”へと向かった。僕はこれで三回目だけど、一回目は一人で、この間の二回目はキノトの二人…。そのどちらも飛んで来てるから、歩いてくるのは初めて。三回目の今回はシャトさんもいるから、オアセラから目印の旗を辿ってここまで来ていた。
それで周りの砂が赤味を帯び始めところで、僕はこんな風に知らせてあげる。本当はキノトは一回来てるけど、記憶が抜けてるから覚えてない…。興味津々という感じで辺りを見渡しているシャトさんと同じように、彼もキョロキョロと赤い砂漠に目を向けていた。シャトさんはシャトさんではしゃいでるけど、多分これはダンジョンに潜入する事になるからだと思う。保安官という職業上それなりの実力は必要だけど、それは探検隊が捕まえたお尋ね者から反抗されないようにするため。身柄の引き渡しも突入地点でするのが普通だから、よっぽどの事が無い限りダンジョンに潜入する事は無い。
「そうなの? 」
「はい! 保安官なら悠久の風、っていうチームは訊いた事があると思うんですけど、そのチームで活動してた事があるみたいなんです」
「ゆっ、悠久の風と? 悠久の風って、“星の停止事件”を解決した有名なチームだよね? 」
「うん。その副リーダーと幼なじみでね、その関け…」
あの時は師匠の二人が動けなかったからだけど、それはそれでいい経験になったからなぁ。多分キノトとシャトさんは気づいてないと思うけど、“漆赤の砂丘”に突入した辺りで、キノトが僕の事を話してくれる。キノト自身は会った事は覚えてないと思うけど、話自体は何回もした事があるから、その通りに説明する。ベリー達のチームはウルトラランクだからっていう事もあるけど、その前、ゴールドランクぐらいの頃から名は知れている…。だけど見習いの頃の僕と、駆けだしの頃のベリー達が一緒に行動していた事は殆ど知られていない。副リーダーのベリーと僕が幼なじみ、それも僕が預けられていたって事となると、尚さ…。
「ガァァッ! 」
「うわっ! 」
「熱風! 」
っと、危ない危ない…。その関係で一緒に行動していたんだよ、そう言おうとしてたけど、それは叶わなかった。何故なら突然乱入してきた第三者の声で、僕の話し声が遮られてしまったから…。話をしていて気付くのが遅れたけど、僕の話しに割り込んできたのは目に光が無いノクタス…。何故か一番遠くにいるキノトに向けて走ってきていたけど、僕が咄嗟に発動させた焼けつく風に迎撃されていた。
「うぁー、びっくりしたー。噂では聴いてたけど、本当に襲ってくるんだね」
「あれ? って事はシャトレアさん、ダンジョンに潜入した事ないんですか? 」
「うん。保安官って突入地点までしか来ないから…、あっそうだ! ウォルタくん、祭壇に着くまであたしも戦っていい? 」
「シャトレアさんもですか? 」
シャトさんが、かぁ…。あの一撃で倒せたらしく、ノクタスが立ち上がって襲いかかってくる事は無かった。だから僕は警戒のレベルをほんの少し下げ、ふぅと一息つく。ウォーグルの姿だからずっとホバリングしてるけど、その下でシャトさんがこんな風に声をあげる。ダンジョンに潜入した事ないって事は意外だったけど、潜る事が当たり前になりつつあるキノトにとっては驚き以外の何事でもないのかもしれない。シャトさんの発言に、えっ? っていう感じでハッと見、思わず声を荒らげてしまっていた。
「うーん…、じゃあキノトと二人で戦ってくれる? 」
「キノトくんと? 」
「そうだよ、今なら砂嵐も起きてないからね。キノトの練習にもなるし」
本当は体力を温存できるからなんだけど、いつ天候が荒れるか分からないからね。シャトさんに質問されたけど、僕はすぐには答えずに少しだけ考える。“チカラ”を使えるシャトさんなら大丈夫だとは思うけど、キノトは正直言って際どいと思う。一応キノトには砂嵐の中で戦わせた事はあるけど、生憎その時の記憶は欠落してしまっている。かといって僕が先頭に立って戦うとなると、今回のメインである“ビースト”の討伐でエネルギー切れを起すかもしれない…。
だけど一応ここ…、“漆赤の砂丘”のレベルは知ってるから、それと合わせて僕は結論を出す。確か野生自体はシルバーレベルのはずだから、天候が安定している今ならキノト一人でもギリギリ勝てるレベル…。シャトさんの実力は未知だけど、“志の加護”を発動させれば最悪のパターンを回避できる。そういう訳で僕は、志の彼女と弟子の彼に向けてこくりと頷いた。
「って事はししょー、実戦形式ですか? 」
「うん。シャトさんと僕の“加護”があればなんとかなるからね」
「あたしの“加護”…? うん! 実戦で使うのは初めてだけど、すぐ発動させるね! 」
「頼んだよ」
本当は“絆の加護”が一番良いんだけど、シャトさんのでも十分補えるからね。これだけの説明で分かってくれたらしく、キノトは僕が課した事を察して訊き返してくれる。当然僕は大きく頷き、今度はそのままシャトさんの方に目を向ける。実際に見た事は無いから詳しくは分からないけど、シロからどんな効果があるのかは聞いている。だから僕は、いまいちパッとしない表情の“志の賢者”にこう頼み込んでみた。
すると彼女は、十秒ぐらい青い空を見上げ、何かを考える。この間にヴィレーさんと話してたのか僕の心を読んでたのか…、どっちかは分からないけど、何とか理解できたらしい。パッと明るい声で言い放ち、精神を研ぎ澄ますためにすぐ目を閉じてた。そして彼女は…。
「“我が志に、希望あれ”…! 」
僕は初めて聞くけど、発動のきっかけとなる文句を高らかに唱えあげた。
「…ちゃんと発動出来てるね」
すると僕達の周りに薄赤い光が纏わりつき、すぐに雲散する…。発動させて目を開けたシャトさんの瞳も、ほんの少しだけ赤味を帯び…。
「…あれ? シャトレアさん、何も変わらないんですけど…」
「えっ、変わらない? シャトさん、発動させる時、キノトの事も意識した? 」
だけどキノトだけは、不思議そうに首を傾げていた。“加護”を付加してもらうと何かしらの守られるような感覚に満たされるはずだけど、僕の“加護”を知ってるキノトは何故かそう言っている…。可能性としてはこの事しか考えられないから、僕は念のため彼女に確認のため尋ねる事にした。だけど…。
「うん。ヴィレーに教えてもらった通りに発動させたよ? 」
シャトさんはそんな事は無い、って感じで首を横にふる。
「何か変な感じがあったんだけど…、ウォルタくん、ウォルタ君も“加護”を発動させてくれる? 」
「いいけど…。…“真実の導きに、光あれ”」
“加護”を付加できない筈は無いんだけど…。シャトさんは違和感を感じたのか、チーゴの実をかじった時みたいな表情で僕に頼んでくる。元々僕も発動させるつもりだったから、彼女が言った事に首を傾げながらもとりあえずは目を閉じる。いつものようにキノトとシャトさんを強く意識し、同時に“チカラ”の方も活性化させていく…。いつもならこれで白いベールが僕達を包み込…。
「えっ? ちょっ、ちょっと待って! なななっ、何起きたの? 」
「ぼっ、ぼくにも分からないです! いつもなら神秘の守りみたいになるはずなのに…! 」
「やっぱりそうだよね? 」
「はい。…上手く言葉に出来ないんですけど、シャトレアさんの時もししょーの時も、体が受け付けてないような…」
「そんな感じだったような気がするよ。ウォルタくんとキノトくんは見えなかったと思うけど、あたし達の“加護”を発動させた時、キノト君が薄いオレンジ色のオーラ纏ってたような…」
「オレンジ色の…? って事はもしかして、“陽月の穢れ”の影響…? 」
「ようげつの…? ウォルタくん、何なの? その…、“陽月の”何とか、っていうのは」
「ええっと、話はじめると長くなるんだけど…」
続く