よんのいち 友達の友達
[Side Minauki]
「ほぅ、ここが、か」
「そのようです」
規模としては小さい町だが、俺はこういうのは嫌いじゃねぇーな。
「事前の調査によりますと、世襲制により町の長が管理しているようです」
「…さながら王政と言ったところか」
その点では・ナール様の政治と変わらないなぁ。
「はい。…この屋敷が、統治者の居城だそうです」
「ふむ…」
石造りな辺り、法による統治はされているのだろうな。
「…はい、どちら様ですかー? 」
「この邸宅は・・リテ・家の住まいであってるか? 」
「そうだけど、あなた達は…」
「おおっとすまない。昨日伺ったミナヅキという者だが」
「あっ、・ガ・・ン? のミナヅキさんだね? ちょっと待ってて! 今父上を呼んでくるから! 」
「…ミナヅキ、仕事が早いな」
「これでも・ナール様に仕える一市民でありますから」
「
月の次元では気にも留めなかったが、中々のものだ」
「ありが…」
「ミナヅキ殿、待たせてすまない。儂が・・リテ・家総帥、エ・・・ア市長のジクだ」
この・イリ・ーが、か。統治者に相応しい種族だな。
――――
[Side Kyulia]
「…兎に角、大事に至らなくてよかったね」
「ええ。折れてはいたけれど、折れた骨が肺とか心臓に刺さってなくてよかったわ」
本当に不幸中の幸いね…。三碧の氷原から帰った私達は、街に着いたところで一旦チームで別行動をする事になった。明星のハクさんとシリウスさん、それと化学者のシルクさんはそのままギルドに帰って、私達はシリウスさんの勧めで病院で怪我の状態を診てもらう事になった。シリウスさんも診てもらった方がいいって思ったけれど、調査報告をまとめるから明日に行くつもりらしい。私自身その病院の場所は知らなかったけれど、ランベルが自由時間の間に近くまで来ていたらしい。
それで病院で診てもらったら、肋骨が二本折れていたらしい。本当は安静が一番だけれど、探検隊だからって事で痛み止めを処方してもらった。それ以外にも骨と骨を元通り治す薬とか…、私にはよく分からないけれど、化学者のシルクさん、それとリアンさんなら分かるかもしれない。
「本当にそうだ…、ん? 」
「あら…? あれって…」
彼ならギルドの方にいるはずよね? 話に戻ると、陽がすっかり暮れ、松明と月明かりだけになった街中を、私達はハクさん達のギルドへの帰路に就いていた。だけどその途中、私、それからランベルも、ふと街の南側にあるモノを見つける。大通りだから一瞬店の光かな、って思ったけれど、昨日見た感じではこの街の光源の主流は松明。それもフワフワと上下に揺れているように見えたから、そうでないってすぐに分かった。そうと分かったら、その光は誰かが光の玉か何かで照らしている、と言う事になる。丸くて白い光だから、その可能性は十分高いと思う。
そしてその光が私達から二十メートルぐらいになったところで、私はその光の近くにいる誰かに気付く。その人は今頃ここにはいないはずだから、私は思わず首を傾げてしまった。その人は…。
「シリウスさん、先に帰ったんじゃなかったんですか? 」
「はい、帰りましたけど、色々ありまして…」
「ええっとシリウス? この人達は? 」
「知り合い、みたいだけど…」
光源の傍にいたのは、先にギルドの方に戻っているはずの、アブソルのシリウスさん。右の前足を負傷しているから浮かせているけれど、彼はランベルに気付くとすぐに答えてくれる。後ろからついてきていた人の光…、フラッシュか何かだと思うけれど、その光に照らされている彼はどこか不安そうな表情をしている。
色々ということは何かあったのかもしれない、私がそう思いはじめたその時、シリウスさんと一緒にいた人のうちの一人、ワカシャモの彼女が不思議そうにわたし達に視線を向ける。私達も初めて会うけれど、“さん”付けしていないという事はそれなりの仲、私は率直にそう感じる。残りの一人、光の玉を作り出しているニンフィアの彼女も、ワカシャモに続いて尋ねてきていた。
「ベリーには何日か前にトレジャータウンで話しましたけど、このお二人がチーム火花の ランベルさんとキュリアさんです」
「えっ、うそ! この人達がそうなの? 」
「えっ、ええ。…こうして紹介されると恥ずかしいけれど、そうさせてもらっているわ。…シリウスさん? この子達も、何かしらのチーム、なのかしら? 」
こうして驚かれると、ちょっと複雑な気分ね。…その、何というか…、嬉しいような、恥ずかしいような…。ワカシャモの彼女達の問いかけで、シリウスさんは折れている方の前足で示しながら紹介してくれる。流石に種族は割愛していたけれど、目線も送ってくれていたからそれだけで分かっているとは思う。もう一人の方はいまいちパッとしない様子だったけれど、ワカシャモの彼女はチーム名を聴くと、驚きで声を荒らげてしまっていた。ここまで驚かれたから私までビックリしてしまったけれど、何とか受け答えをする事は出来た。第一印象は肝心だから、気恥ずかしさで引きつってしまったけれど、何とかにっこりと笑顔を浮かべる。そのまま私は、彼女達にも同じ質問をぶつけてみる事にした。
「ううん、私は違うけど、ベリーちゃんはそうなんだよね? 」
「うん! チーム悠久の風の副リーダーをしてる、ベリーて言います! シリウスから聴いてたけど、まさか本当に会えるなんて夢みたいだよ! 」
悠久の風? どこかで聴いたような…。…どこだったかしら?
「悠久の風…、確か草の大陸のチーム、ですよね? 」
「私はよく分からないけど…、そう言ってたっけ? 」
「うん! 」
この子、結構元気いいわね。溌剌とした声をあげるワカシャモ、ベリーさんはパッと明るい声で応えてくれる。ワカシャモで副リーダーと言う事は、多分それなりのチーム、だと思う。ランベルに言われて少し思い出したけれど、何年か前にあのプクリンのギルドを一年足らずで卒業した、って聞いたような気がする。私の記憶が正しければ、チームメイトは彼女のニンフィアじゃなくてブラッキーだったような気がするけれど…。
「それと…、ニンフィアのあなたは? 」
「あっ、ごめんなさい。ニンフィアのテトラ、っていいます。ええっと…、五千年前の出身? って言ったらいいのかな? 」
「ごっ、五千年? …と言う事は、シルクさんを知っ…」
「ええっ? シルクを知ってるんですか? 」
「えっ、ええ…。一昨日会ったばかり、だけれど…」
五千年前の出身? 五千年前ってことは、シルクさんと同じ時代よね? 私は光の玉で照らしてくれている彼女にも、同じ質問を向けてみる。ニンフィアの彼女もうっかりしていたらしく、小さく声をあげてから話してくれる。…話してくれはしたけれど、私、この様子だとランベルも、テトラさんが言ってくれたことに耳を疑ってしまう。ただでさえシルクさんでも驚いたのに、その彼女と同じ出身って言われたから尚更ビックリしてしまった。更に追撃ちをかけるように、ランベルが訊こうとしていたシルクさんを知っている、と言う事まで知らされた。…よく考えるとシリウスさんも過去の世界の人だけれど、私は驚きすぎて何が何だか分からなくなってしまった。
「私も今日知ったばかりだけど、参碧の氷原の調査、シルクも一緒に行ってたんだよね? 」
「えっ、ええ」
「シルクさんの戦い方には驚かされてばかりでしたね。僕は奥地の祭壇の前でしか見てませんけど、あれはハイパーランクかそれ以上ぐらいの威力はあったと思いますね」
「シルクの特殊技は規格外だからなぁー」
「私はシルクが“チカラ”を持つ前から知ってるけど、その時から強かったもんね」
おとぎ話に出てくるような伝説の当事者だ、って聴いているけれど、そうじゃなくても強かった、と言う事なのね、シルクさんは。
「…あっ、そうだ。シリウス? 」
「はい? 」
「街に着いてから訊きそびれてることがあるんだけど…」
街に着いたらと言う事は、シリウスさんはそんなに遠くまで出ていたという事ね? けど…。半ば私達は話題に乗り遅れていたけれど、そんな私達を置き去りにして次の話になる。ベリーさんが何かを思い出したかのように声をあげると、そのまま右の前足を浮かせているシリウスさんにこう声をかける。そんな彼女に不思議そうに首を傾げていたけれど、そのままベリーさんは話しを続ける。…けれどシリウスさんが答えていたそれは、ついさっきまで一緒にいた私達、それから知り合いらしいテトラさんも、揃って驚愕させる内容だった。その内容とは…。
つづく