さんのに 最終確認
―あらすじ―
未開の地の調査のために、私達五人は参碧の氷原に足を踏み入れる。
二組に分かれて南部に潜入し、私はチーム明星のリーダーのハクさんと、化学者のシルクさんと突き進む。
戦闘の前に技の確認をしたけれど、その時私はシルクさんの秘密に驚かされてしまう。
技の使い方でも常識外れな彼女に、私は圧倒されてしまっていた。
――――
[Side Kyulia]
「…一度僕達の技と特性、戦略とも照らし合わせて、チームを組み直してみましょうか」
『ハク達でさえ断念したぐらいだから、その方が良いわね』
ええ、私もそう思うわ。二組に分かれて潜入していた私達は、予定通りダンジョンの中継点で合流する。今は私の日照りで晴れているけれど、ついさっきまで吹雪いていたらしく、四十センチぐらいの雪が積もっている。だけれどウィルドビレッジの雪とは質が違い、サラサラでなくて湿気が多い…。足と身体が濡れて気持ち悪いけど、そうも言ってられない。この先もっと天候が荒れる筈だから、私は何とか我慢していた。
それで一歩遅れてランベル達も着いたから、潜入する前に一度仕切り直す。私の日照りでも雪が融ける様子が無いから、未開の北部は猛吹雪かもしれない。多分明星の二人とシルクさんもそう感じているはずだから、話のキリがついたところでランベルが代表して話題を出す。それにシルクさんも、頭の中に話しかけながら続いていた。
『…そうね。ランベルさん以外は知ってると思うけど、私が使えるのはサイコキネシス、シャドーボール、ドラゴンタイプの目覚めるパワー、朝の日差し、十万ボルト、ハイドロポンプの六つ。一応遠距離でも戦えるけど、誰がどう見ても中、遠距離タイプ、ってところかしら? 』
「じゅっ、十万ボルトですか? シルクさん、エーフィは…」
「ランベル、シルクさんは何か凄い事に関わっているらしいのよ。だから、シルクさんの事は後で話すわね」
まだ全部聞けた訳じゃないけれど、シルクさんには驚かされてばかりね…。私は一足先に訊いていて知ってたけれど、別行動をしていたランベルは頓狂な声をあげてしまう。普通なら四つしか使えないはずだけれど、シルクさんは何故か六つ…、それもエーフィが覚えられない筈の二つを発動させることが出来る。体質か何かだとは思うけれど、聴いてないだけでまだ何かあるのかもしれない。少なくとも私と同じ少数派、これだけは分かったような気がした。だからと言って、今はこれだけしか知らないけれど…。
「うっ、うん」
「…私は炎タイプの時は日照りの特性で、技は熱風、ソーラービーム、神通力、秘密の力の四つ。氷タイプになると雪降らしで、技は吹雪、マジカルシャイン、オーロラベール、秘密の力の四つよ。氷タイプではまだ本気で戦った事が無いけれど、どっちの属性でも範囲攻撃を中心に特殊技で攻める、と言ったところね」
オーロラベールとマジカルシャインは今日出来る様になったばかりだけれど、発動事態は出来るから何とかなるかもしれないわね。どのみちランベルに私からは話せないから、訊き返される前に私はこの流れに乗る。いつもの炎タイプならそうだけれど、氷タイプではまだ全力で戦った事が無い。だけれどどっちの姿でも尻尾は九本あるから、たてがみの長さが違うだけで勝手は変わらないと思う。そのためにリアンさんからマジカルシャインの方法を、アリシアさんから補助技のオーロラベールをそれぞれ教わった。補助技はあまり性に合わないけれど、雪降らしの特性を生かすなら、この技が最適、それにランベルも補助技は使わないから、そう意味合いも込めてこの技を私は選んだ。
「遠距離技が得意、と言った感じですね? 自分の特性はプレッシャーで、技は影分身、鎌鼬、辻切り、ギガインパクトの四つです。戦略を短い言葉にするなら…、中近距離タイプ、と言った感じですね」
「まぁ悪タイプらしい戦い方をする、って感じやな」
シリウスさん、私達とは正反対ね。これはこれで、中々面白い戦い方をするのかもしれないわね。シリウスさんは、私の戦略から何となく悟ったらしい。その彼は続けて、自分の事を話してくれる。ギガインパクトと鎌鼬、癖の強い技が二つもある。攻撃の反動が大きい技、溜めが必要な技、できれば同時に使いたくない組み合わせだけれど、影分身を使うという事は、それで欠点を補っているのかもしれない。
「ウチは竜の舞、十万ボルト、アクアテール、逆鱗の四つやで。特性の脱皮とシルクの“平生の襷”で混乱状態を防げるで、近距離を軸に戦っとるよ」
「混乱状態にならないのは、凄く大きいですね」
そうね。近距離を軸にしているという事は、ランベルと同じで逆鱗を戦略の中心にしているのかもしれないわね。ハクさんは矢継ぎ早に言葉を並べ、自分の事を語ってくれる。ハクさんは近距離の方が得意なのかもしれないけれど、南部での立ち回りを見た限りでは遠距離もいけそうな気がする。それにチームとしてのバランスを考えるなら、シリウスさんが溜める、あるいは反動で動けない間に、ハクさんが接近して連続攻撃を仕掛ける。もしかすると、こういう連携をとっているのかもしれない。そして今回はあまり役に立たないかもしれないけれど、お尋ね者とかの手配犯相手なら、プレッシャーの特性が生きるとは思う。この特性は相手のエネルギーを多く消費させる効果があるから、長期戦に持ち込めば有利に闘う事が出来る。ハクさんはハクさんで強化技、そしてシリウスさんも影分身があるから、チーム明星が“年間検挙大賞”を受賞したのも納得できる気がした。
「僕もキーのリングルで防いでいますけど、僕は完全な至近距離型ですね。僕の種族は特殊技の方が秀でていますけど、性に合わないので雷パンチ、炎のパンチ、逆鱗、それと牽制用のシグナルビームを使っています」
『キュリアさんの特性と合わせている、と言ったところかしら? 』
「そうなるわね」
シルクさんの認識で間違いないわ。この頃には驚きから立ち直っていたみたいだから、ランベルも遅れず個人情報を話し始める。ランベルはこう言ってくれているけれど、シルクさんが伝えてきた事が本音だと思っている。それにランベルの戦法なら、相手の動きを高確率で制限する事が出来る。牽制しながら混乱状態にさせ、接近する事で静電気の特性の発動を狙う…。もし両方が発動すれば、黒い眼差し以上の拘束力を発揮する事が出来る。この二つが重なる事は稀だけれど、私達は今までに何回もこの効果に救われてきた。
『ええ。それともう一つ、念のため私が創った装備品の効果を話しておくわね。ハクの“平生の襷”は割愛するけど、シリウスの水色のブレスレット、私とハクのピアスには、素早さ変動系の効果を無効化する効果があるわ。次にキュリアさんの紅いリボン。エネルギーの密度を高める効果があるわ』
「エネルギーの密度? 」
『そうよ』
シルクさん達のアクセサリー、そんな効果があったのね? それに私がもらったリボン、これはどんなふうに使えばいいのか分からないけれど…。そのままシルクさんは、一人ひとりに配ってくれたアイテムについて語り始める。昨日の明け方、家で何か作業をしていたから、もしかするとその時に私達の装備品を創ってくれていたのかもしれない。そんな短時間で、効果が優秀な装備品を創ったという事は、何度も失敗を繰り返してきた…。探検隊活動を似たような部分があるのかもしれない、化学者という職業を知らないなりに、私はこう感じた。
『技のエネルギーに干渉してるから、攻撃技、変化技、問わず強化する事が可能なのよ。まだ試作の段階だから、お腹が減りやすくなる、っていう副作用を改善出来てないけど…』
空腹になるぐらいなら、ダンジョンで食料を確保すれば、何とかなるわね、きっと。そもそも十分に大きな林檎を持ってきているから…。作成者のシルクさんは、私の右耳に結んでいるリボンの事を教えてくれる。可愛いアクセントが気に入ってたけれど、効果があるアクセサリーだとは思わなかった。エネルギーの密度と言われてもいまいちパッとしなかったけれど、どの技に対しても効果があるなら、すごくありがたい。シルクさんが言うにはデメリットもあるみたいだけれど、程度が軽かったから気にならないと思った。
「それとシルク? ランベルさんの帯って、ベリーちゃんとお揃いやんな? 」
「攻撃技の威力を高める、でしたよね? 」
『それであってるわ』
ランベルも、戦略に見合った物を作ってもらえたみたいね? 今度はシルクさんからじゃなかったけれど、彼女の事をよく知っているハクさん、シリウスさんが、ランベルが左肩の辺りに短く結んでいる茜色の帯の事を話してくれる。そのベリーっていう歩との事は聴いた事が無いけれど、三人の共通の知り合い、多分そうなんだと思う。
「でしたら…、五人全員のバランスを考えると、ハク、シルク、ランベルさんの三人、自分はキュリアさんと組むのが良さそうですね」
「そうね。接近戦が得意なランベルは、遠距離で立ちまわるシルクさん、中近距離でも戦えるハクさんと組めばカバーできる。私もシリウスさんと組めば、属性相性と戦闘のつなぎでも補いあえるわね」
相性では一番不利なハクさんも、三人なら対処できるし、シリウスさんも、もし格闘タイプがいても私の神通力で倒す事が出来る。未開の地である以上、十分すぎる備えがあるのも大きいかもしれないわね。五人とも一通り話し終えたから、頃合いを見てシリウスさんがチーム編成を話してくれる。私も個人的に考えていたけれど、理由は分からないけれど似たような感じだった。だから私は、もし自分ならこういう理由で編成した、っていう前提で考えを伝える。これに四人とも、うんうん、って相づちを打ちながら聴いてくれた。
「そうやな。…じゃあ、これで決まりやな! 」
『そうね』
「ええ! 」
「ですね」
未開の地の調査は久しぶりだけれど、私達なら問題なくいけそうね? 私達は依頼された身だけれど、これまでの作戦会議でそう思えてくる。シルクさんの実力は未だに諮りきれてないけれど、少なくとも並のチーム以上の実力…、いや、もしかするとウルトラランクのチームぐらいの実力はあるのかもしれない。シルクさんの戦い方は少ししか見てないけれど、サイコキネシスの使い方は凄く上手かった。リアンさんも慣れているような感じはしたけれど、シルクさんはそれ以上、手作業をするような感覚で発動させているように私には見えた。加減していたとは思うけれど、属性、効果不明の特殊技の威力も申し分なかった。だから私は、案外簡単に突破できるかもしれない、根拠はないけれど、そんな気がしてきた。他の四人はどう思っているのか分からないけれど…。…兎に角、これで方針は決まったから、私達は気持ちを一つにし、揃ってかけ声をあげて一団結した、未開の地の調査をする、そういう目標を掲げて…。
つづく