にのさん 水の街での語らい
―あらすじ―
化学者のシルクさんとジョンノエタウンを発った私達は、二時間ぐらいかけて水の都に到着する。
試したい事もあって、ここで私は“氷華の珠石”を身につけ、氷タイプとしての姿に変える。
特性の効果で雪が降り始めた丁度その時、私達は依頼人の一人で、アブソルのシリウスさんと遭遇する。
それぞれの自己紹介も済ませ、私達は彼のギルドへと向かい始めた。
――――
[Side Kyulia]
「…でもまさか、シルクが来ているとは思いませんでしたね」
『私達も急だったから…』
「急用? その…、保安官としてですか? 」
もしそうなら、探検隊の私達にもお尋ね者の情報が来るはずだけど…。依頼人のシリウスさんと合流した私達は、その彼が経営しているギルドへと向かい始める。私は一度“氷華の珠石”を外し、元の姿に戻してからその後をついていく。街の入り口からの中間点に達したところで、話題は親友だというシルクさんの話になる。シリウスさんと、その本人も予定外だったらしく、二人そろって同じように呟いていた。
「保安官? シルクは保安官ではないですよ」
「保安官、じゃない? というと、その教師関係…」
『確かにそうは言ったけど…、やっぱり…、言葉足らずだったかもしれないわね』
えっ、違う? シルクさんの事を良く知っているらしいシリウスさんは、ランベルの質問に首を横にふる。私も彼と同じこと度思っていたから、思わず声をあげてしまう。となると急用と言えば、教師そしての仕事か何かかもしれない、そう思って訊こうとしたけれど、その本人に否定されてしまう。少し引っかかるような言い方だったけれど…。
「と言う事は、私達の勘違い…? 」
『ええっとその…、ごめんなさい。七千年代の事に合わせると説明が難しくなってしまっ…』
「シルクさん、昨日から気になっているのだけれど、シルクさん、その…、よく“年代”って言ってるのだけれど…」
それだとまるで、シルクさんがこの時代? の人じゃないように聴こえるのだけれど…。勘違いしていたことに、私は恥ずかしさから顔を赤らめてしまう。シルクさんはシルクさんで申し訳なさそうにしていたけれど、その彼女が伝えてきた言葉に、私は少し引っかかってしまう。昨日からそうだったけれど、変わった人とはいえ、シルクさんはこの時代の人じゃない、そんな感じが伝わってくる言葉に含まれている。今も七千年代に合わせると…、って言っていたから、そんな筈はないけれど、そんな気がしてきてしまっていた。だから私は、あまり信じてはいないけれど、気付いたらシルクさんにこう質問してしまっていた。
「そうですよね。自分も初めは苦労しましたからね。ランベルさんとキュリアさんには信じられないかもしれないですけど、シルクさんは“過去”…、五千年前からこの時代に来ているんです」
「ごっ、五千年前? 嘘よね? それだと…」
「まさかタイムスリップしたとか、そうなりますよね? 」
だけれど彼から返ってきたのは、予想外の答え…。本当かどうかは分からないけれど、シルクさんが五千年前の住民だと言う事。そう言ったシリウスさんは役職上嘘はつかないはずだけれど、どこか夢物語の様な…、そう強く感じてしまう。本当に信じられず、私、それからランベルも、思わず取り乱してしまった。
『タイムスリップ…、そうね。ある意味似たようなものがあるのかもしれないわね』
「ですね。セレビィ、とい種族をご存知ですか? 」
「…聞いた事無いわね」
『それもそうよね。“時”を超えるチカラを持っている伝説の種族でね、その彼に連れてきてもらっているのよ。…話すと長くなってしまうけど、ちょっとした縁があって知り合った、って感じかしら? 』
「そうなるでしょうね。彼がいなければシルク達も来れなかったと思いますし、自分もこの時代にはいないですからね」
「そっ、それだと、シリウスさんも…」
「ご察しの通り、シルクとは時代が違いますけど、自分も三千百年代…、過去の出身ですから」
しっ、シルクさんだけじゃなくて、シリウスさんまで? さっきの事もそうだけれど、シリウスさんは俄かには信じられないようなことをさらっと語ってくれる。もし一昨日の私なら信じなかったと思うけれど、昨日から引っかかる部分が合ったから、本当なのかもしれない、そう思っている私も確かにいる。職業病なのかもしれないけれど、嘘を言っている人は大体目を逸らしたり、そわそわして落ち着きが無いけれど、シルクさんにシリウスさんも、真っすぐ私達を見、堂々と語ってくれている。シリウスさん自身も過去…、私達にとっては遠い先祖だって事にはビックリしたけれど…。
『ラテ君もそうだから、類は友を呼ぶ、っていうのは本当なのかもしれないわね』
「ですね。…そういえばシルク? 今回はフライとライトさんと一緒じゃなかったんですか? 」
『いいえ、フライは来てないけど、ティル君も一緒だったわ。…だけど“時渡り”の途中でアクシデントがあって、別々の場所に飛ばされしまったのよ…』
「別々の…? 」
『ええ。今回もいつも通り、トレジャータウンの海岸に降り立つ予定だったけど、その直前に突風に吹かれて…。私は霧の大陸のジョンノエタウンだったけど、あとの三にんは分からないわ…』
「そうだったんですか…。シードさんでもそうなったって事は、ただ事じゃないですね」
何のことか分からないけれど、普通じゃない、って事は確かかもしれないわね…。話の内容が全然入ってこなかったけれど、二人の表情、声のトーンから、ただ事じゃない事だけは分かった気がする。話しに出てきた四人が誰なのかは分からないけれど、話の流れからすると、シード、という人がセレビィなんだと思う。突風といえば最近起きている自然災害も気になるけれど、流石にそれとこれは関係ないような気がする。結局話にはついていけなくなってしまったけれど、ほんの少しだけ、シルクさんとシリウスさんの事が分かったような気がした。
――――
[Side Kyulia]
「…着きましたよ。ここが、自分達のギルドです」
「ここがそうなんですね」
『トレジャータウンのとはまた違った感じね』
新しいギルドだって聞いているけれど、案外人の出入りは多いのかもしれないわね。シルクさんとシリウスさんの話しには驚いたけれど、ひとまず私達は、アクトアタウンのギルドに到着した。二年目のギルドだって聞いていたから、それほど有名ではない、そう思っていたけれど、それなりに人の往来はあるらしい。シリウスさんの案内で一階に立ち入ると、そこはちょっとしたロビーみたいな感じになっている。街の水路もこのフロアに続いていて、依頼の掲示板の前を横切るように、この空間を貫いている。広さもそこそこあって、バンギラスみたいな大型の種族が入っても、圧迫感は少なそうなくらい…。まだ一階部分しか見ていないけれど、それなりに使い勝手の良さそうな造りをしていた。
「私達はギルドの出じゃないけど…、そうなのかしら? 」
「トレジャータウンの親方に訊…」
「あらシリウス、案外早かったわね」
「朝一の便で帰ってきましたからね」
そもそも私達がチームを結成した頃は、探検隊というものはあまり有名じゃなかったから…。私達がそれぞれに感想を呟いていると、このフロアの奥の方…、ちょうど階段の辺りから、一人の女の人がこちらに歩いてくる。真っ白なタオルで体を拭きながらアマージョの彼女は、意外そうにシリウスさんに話しかける。その彼は途中で遮られていたけれど、気にせずこう答えていた。
「となると、トレジャータウンの方は昨日のうちに出てきたという事かい? 」
「そうです。…やっぱりフロリアは昔から、何でもお見通しですね」
「たまたまよ。…にしてもまさか、ハクよりも早く、それも“火花”の二人と戻ってくるとは思わなかったわね」
「自分もまさか、ここまで早く出逢えるとは思っていませんでしたからね」
「それは私達も同じね」
この感じだと、彼女はギルドの関係者かしら? アマージョの彼女、フロリアさんは一度上を見上げ、すぐにシリウスさんに視線を戻す。何かを計算していたのか、その通りに彼に問いかける。その彼女に対しシリウスさんは、参りましたよ、とでも言いたそうに軽い笑いを浮かべ、彼女に対してこう返事する。フロリアさんは大らかに笑い、そのままの流れで私達にも目を向ける。私も同じ事を思っていたから、その彼に続いて呟き、同時に頷いた。
「そうよね。…“火花”のお二人とも、わざわざ遠い所をご苦労様ね。遅くなったけど、アクトアタウンにようこそ。自己紹介が遅れたけど、アタイはこのギルドで会計士をしている、アマージョのフロリア。親方のハクは席を外しているけど、よろしく頼むわね」
「いえいえ、僕達もたまたま、予定が空いていましたから。…“火花”のリーダー
で、デンリュウのランベルです」
「同じく、キュウコンのキュリアよ。こちらこそ、よろしくお願いしますわね」
ギルドの会計士ね。もしかすると、ギルドの依頼の管理とかもしているのかもしれないわね。会計士だというフロリアさんは、霧の大陸から来た私達に労いの言葉をかけてくれる。少し歩いただけであまり疲れてはいないけれど、ひとまず私は、ありがとうございます、と答えておく。そのままフロリアさんは自分の事を名乗り、私達に右手をさし出す。それにランベルも同じように応え、私も腰を下ろした状態で、彼女の右手に右前足を重ねた。
「それとエーフィのあなたは初めましてね」
「そういえばフロリアは、シルクとは会った事はありませんでしたね」
『そうね。もしかするとハクとシリウスから聴いてるかもしれないけど、私はエーフィのシルク。二千年代の出身で、化学者と教師をしているわ。それ以外にしている事と言えば…、地方の治安維持活動をしているわ。この時代には喉の状態の確認で来てるけど、一応組織の管理職なんかも兼任しているわ』
治安維持…、となると、保安官というより救助隊とか探検隊って言った方が近いのかもしれないわね。私達は聴くのは二回目だけれど、シルクさんもフロリアさんに自己紹介する。私達とは少し違う紹介の仕方だったけれど、予め聴いていたから、私はすんなりと聴き流す。私達の時は保安官みたいなもの、って言っていたけれど、あながち間違いじゃあないのかもしれない。シルクさんはどんな風にしているのかは分からないけれど、お尋ね者を捕まえるという意味では似たようなものかもしれない、私は率直にそう感じた。
「へぇ、あなたがシルクちゃんね? ハクからよく聴いてるわ」
『ハクなら話していると思ったわ。…だけどシリウス? ハクは席を外してるって言ってたけど…』
「あぁハクね? ハクなら喫茶店でコーヒーでも飲んでるんじゃないかい? …時間的にも、郵便局に寄っていてもそろそろ戻ってくる頃だと思うわ」
郵便局…、もしかすると、私が昨日郵送したメールを確認してるのかもしれないわね。結局直接こっちに来たけれど…。
「あっ、そうそう。シルクちゃん、キュリアさんにランベルさんも、二階に空き部屋があるから、自由に使っていいわ。扉が開いている部屋なら、誰も使ってないから」
「ありがとうございます。それじゃあ…、お言葉に甘えて使わせてもらうわね」
それはありがたいわね。フロリアさんは思い出したように、訪問者の私達にこう提案してくる。何日滞在することになるかは分からないけれど、元々私達は街の宿をとってそこに宿泊するつもりだった。だけどフロリアさんがこう言ってくれているなら、断る理由なんて無い。だから私は、ランベルの方をチラッと見てから、彼女の提案に大きく頷く。ギルドで部屋を貸してもらえるなら、貴重品も安心して置いておくことができる。大したものは持ってきてないけれど、少し高めの備品も持ってきているから、安心して任せられそう。
『じゃあ、ありがたく使わせてもらうわね』
シルクさんも、助かったわ、っていう感じで、フロリアさんに頭を下げる。頭を上げてから、シルクさんは喋れない分満面の笑みを彼女に見せていた。
つづく