さいしゅうわ エピローグ
[Side Kyulia]
「おつかれさまね。ランベル達も来たから、これで全員ね」
「そのようですね」
ギルドに囚われていた全員を救出し終え、私達は一度外に集まる。入ってきた裏口から出たから他に誰もいないけれれど、耳を澄ましてみると遠くの方で話し声が聞こえるような気がする。元々私達は表から侵入するつもりだったから、もしかするとこの話し声は、G4のメンバーとテトラちゃん達かもしれない。
それでもぬけの殻になったギルドから出ると、既にビリジオンさんが私達を待っていた。ランベル達は私達の少し後だったけれど、疲れているだけでそれ以外は何ともない。
「そうだね。……だけどあれだけいた隊員達をどうやって逃がしたんですか? 」
確かにそれは気になるわね……。合流した後ランベルは、ふとヴィレーさん達に質問する。私も気になってはいたけれど、正直な話、そっちまで気が回らず訊けずにいた。二人三人とかなら何とでもなると思うけれど、私が救出しただけでも、軽く三十人以上はいっていると思う。その人数をこの戦場で逃がす事は、どう考えても不可能だと思うけれど……。
「それはですね、ミウ様とアルタイルさん達……、ミュウと他の伝説の種族の人達がテレポートで逃がして頂いていました」
「みっ、ミュウって、世界を作ったっていう、伝説の種族よね? そっ、そんな凄い人が、作戦に……? 」
まさかとは思ったけれど、本当にどうなってるの……。ヴィレーさんはすぐに話してくれたけれど、あまりの内容に私、それからランベルも、揃って言葉を失ってしまう。ミュウといえば世界だけでなくて、私達の種族すべてを生み出したっていう、神話にも登場するぐらい有名な神のひとり。そんなとんでもない人が協力していたとなると、今更ながら事の重大さ、壮大さに圧倒されてしまう。そういえば今思い出したけれど、テトラちゃんが似たような名前の人の事を話していたような気がするけれど……。
「動いていたのは、俺達やミウ様達だけじゃねぇ。ホウオウやセレビィ……名だたる伝説の種族が関わっていたらしいな」
「そっ、そうだったのね……」
みっ、ミュウだけじゃなかったのね? この様子だとコバルオンさん達も聞いた話なのかもしれないけれど、セレビィは何となく想像できた気がする。行方不明になっているシルクちゃんとテトラちゃん、それからコット君達は、シルクちゃん達の時代のセレビィにこの時代に連れてきてもらっている、って言っていた。他にも別のセレビィに友達がいる、ってハクさんも言ってたから、多分セレビィはこの二人のことだと思う。
「知らなかったよ……。……とりあえず、逃がし終わったからテトラちゃん達と合流しようか」
「そうね」
たくさんの伝説の種族も手伝ってくれていた、って知って驚いたけれど、ひとまずテトラちゃん側の事情は何となく分かった気がする。そういうことで私達は、一度分かれていたテトラちゃん達と合流するため、ギルドの表側へと向かう。そこでG4のメンバー、それからB1のコット君達とも合流できたから、一緒に“エアリシア”を後にする。ヴィレーさん達、それからフライゴンさん達と一緒にいたオンバーン、オドシシの二人とはここで別れたけれど……。
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[Side Kyulia]
“エアリシア”から帰還した後、私達はハクさん達のギルドで最後の会合に出席した。そこで改めて事件での状況を聞いたんだけど、他の班の何にんかも、犯人グループの“術”とか技で大けがを負ってしまったらしい。中でも一番重傷だったのが、G4でチーム悠久の風のベリーちゃん。昨日の今日の事だからまだなんとも言えないけど、ヴィレーさんの相方? が能力を使って助けてくれているらしい。でも失敗か成功か分かるのが、九日後。その間は凄くもどかしくなりそうだけれど……。
そしてハクちゃん達のギルドの朝礼に出席した後、私達はすぐにギルドを出る。すぐにでも病院に運ばれたベリーさん、それから昨日ハクさん達と合流していたらしいシルクちゃん達のお見舞いに行きたかったところだけれど、やっぱり空腹には勝てないわね……。だからアーシアちゃんとテトラちゃん、二人を誘って、“アクトアタウン”のモーニングで朝ご飯を食べてきたところ。
「キュリアさん、ランベルさんも、朝ご飯ごちそうさまです」
「どういたしまして」
「だけどこんなにいい店があったなんて知らなかったよ。キュリアさん達って、他にもこういう店、知ってたりするの? 」
「ううん、僕達も知ったのはついこの間。シリウスさん達と行った“参碧の氷原”の前日知ったばかりだよ」
ランベルとは違う店だったけれど、私もあの日が初めてだったわね……。朝で賑わい始めている街道を歩きながら、アーシアちゃんがぺこりと頭を下げる。よっぽど気に入っているらしく、今のアーシアちゃんはグレイシアの姿でいる。テトラちゃんはテトラちゃんで、この朝の……、平和なひとときを楽しんでくれたらしい。だから弾けるような笑顔で、元気よく声を上げてくれている。
テトラちゃんの事は昨日聞いたけれど、この何日間は凄く過酷だったらしい。特に捕まっていた時は酷くて、拷問とか……、非人道的な事もされていたらしい。そういうことを考えると、こうして楽しんでくれて凄くホッとしている。そのそもこの一週間ぐらい、多忙すぎてそういうことを考える余裕すらなかったけれど……。
「それからランベルさん? これからどちらから先に行くつもりなのです? 」
と話題が一段落したという事もあって、アーシアちゃんがふとこう問いかけてくる。一応どこに入院しているのかは知っていると思うけれど、人数が人数だから、ずっと気になっていたんだと思う。
「そうね……。私はあまり知らないけれど、確かアクトアの病院にルガルガンの男の子が入院しているのよね? 」
「うん。私は“無名の泉”と目の下の傷を診てもらった時に話せたんだけど、ウォルタ君の弟子なんだって」
「ウォルタ……、ウォーグルのあの子ね? 」
考古学者のあの子とは“陸白の山麓”の調査の後で話せたけれど、あの歳で有名な学者になったなんて、本当に凄いわね……。
「そうだよ! ってことは、ベリーさんの方も一緒に行くんだよね? 確か同じ病院のはずだから」
「そうなるね。まだ一日しか経ってないから、目覚めては無いと思うけど」
私はベリーさん達、悠久の風の事は深くは知らないけれど、ランベルならよく知ってるはずよね。その時私はテトラちゃんとコット君の三人で“壱白の裂洞窟”に行ってたけれど、ランベルはその四人で“弐黒の牙壌”にいたのよね……。今でも何で潜入許可が出たのか、全く分からないけれど……。
「確か九日後、でしたね」
「ええ。その後で、“ワイワイタウン”のシルクちゃんのところに行くつもりよ」
「シリウスさん達、最初にシルクのところに行く、って言ってたから、入れ違いになっちゃうかもしれないね」
フィリアさんはルデラの方に連絡を取ってから、って言ってたから、三人とは向こうでは会えなそうね、きっと。ベリー三の事も心配だけど、今は手術を控えているあの子、それからシルクちゃんの心配をした方がいいかもしれない。ハクさんの話によると、その子は事件の黒幕と戦って大けが、シルクちゃんも、フラフラの状態で戦って、血を吐いてるような状態みたいだったからね……。私はまだ会えてないし、“参碧の氷原”の調査後に分かれて以来、話せてすらいないけれど……。
……とにかく私達は、この戦いで怪我をした知り合い達が入院する病院に向けて歩き始める。この三人、それからアーシアちゃんにテトラちゃんも、この一週間ぐらいで知り合ったばかりだけれど、いろいろの事がありすぎて凄く昔の事のような気もしている。確かに今までも依頼で忙しい日々を過ごしてきたけれど、今回以上に濃厚な一週間はなかったかもしれない。よく考えたら今回の事件は、アリシアさんとリアン君と初めて会った一週間前、ジョンノエの使節として行った“ウィルドビレッジ”から始まって、その翌日に“参碧の氷原”の調査。ここでシルクちゃんとハクちゃんが飛び出しちゃって、そうこうしている間にテトラちゃんと“陸白の山麓”を登頂した。帰ってウォルタ君を紹介してもらった間に“パラムタウン”が襲撃されて、ほんの短時間にシルクちゃんとテトラちゃんが行方不明になった……。ものすごく心配だったけれど、考える暇も無く“ビースト”の討伐。ここから暫くはランベルとは別行動だったけれど、アーシアちゃんとリアン君、コット君の四人で“壱白の裂洞窟”に行った。あのときは私もアーシアちゃんも気づけなかったけれど、テトラちゃんも一緒に戦ってたのよね……。その後すぐに、昨日の作戦が発表されたから、ね……。
だけど思い返すと、充実した一週間だった気がするわね。確かに辛くて大変な事もあったけれど、その分知り合いもたくさん増えた。だから私は、こういう状況ではあまり言わない方がいいのかもしれないけれど、この一週間一連の事件が起きて、私は良かった、って思ってる。
「キュリアさん、何ぼーっとしてるの? 」
「……えっ? 」
「ぼーっとしてるなんて、らしくないよ」
「えっ、ええ……」
「ですからキュリアさん、行きましょう? 」
「そっ、そうね」
だけど今は、入院してる三人の事を考えるのが先ね。まだまだどんな状態かは分からないけれど、すぐに分かる事よね? そういうことで私は一緒にいる三人、生涯のパートナーのデンリュウと、元々ブラッキーだけど今は他に三つの種族になれるイーブイ……。それから凄く過酷な事があったけれど明るく元気な、五千年前の世界出身のニンフィア……。この三人に呼ばれ、追いかける。まだまだ事件の事でやる事がたくさんあるけれど、今はひとまず、ゆっくりと落ち着けそうね? またいつ忙しくなるか分からないから、ね。
“たんけんのきろく〜七の色彩と九の厄災〜”
火花編 完