くのろく 解放の小刀
―あらすじ―
あの場をテトラちゃんに任せることにしたけれど、私達は一緒にいるはずのアーシアちゃんの姿が無い事に気づく。
ランベルはあの場所に戻ろうとしていたけれど、すぐに私はそれを制止する。
それでまた出会い頭に“ルノウィリア”と出くわしたけれど、偶々通りかかったコバルオン、ビリジオンの二人が制圧してくれる。
その後テラキオンの彼からギルドの前の状況を聞いたけれど、あまりのことに私達二人は言葉を失ってしまった。
――――
[Side Kyulia]
「話には聞いてるが、ここであってるんだよなぁ? 」
「裏口は初めてだけれど、そのはずよ? 」
多分ここから入るのはもう無いかもしれないわね。ヴィレーさんからとんでもないことを聞いたけれど、あの後ちゃんと詳しい状況を教えてもらった。確かにベリーちゃんは当たり所が悪くて亡くなってしまったけれど、彼と“心”が繋がっているエネコロロが能力で何とかしているらしい。何日かしないと、うまくいったかどうかはわからないみたいだけれど……。
それで話している間に、私達は目的地に辿り着く。私達が来たのは、今も戦いが続いているはずの表でなくて、人通りの少なそうな裏手。ヴィレーさん達の提案でこっちに来ているけれど、普段はギルドの隊員達が通用口として使っているらしい。
「でも裏口にしては結構大きいのね。この大きさならアタイ等でも通れそうね」
「ここの副親方がサザンドラだからね。……だけどやっぱり開いてないね」
状況が状況だから、仕方ないわね……。戦闘を歩いていたランベルはこう言いながらドアノブを捻ろうとしたけれど、この様子だと扉が開きそうに無い。元々鍵がかかっていたらそれまでだけれど、そもそも今ギルドも“ルノウィリア”に占領されてることになってる。だから鍵がかかってるのは当然といえば当然だけれど……。
「んなら強行突破すればいいだけの話だろぅ? ……アイアンヘッド! 」
見かけによらず豪快なのね……。しびれを切らせたのかどうかは分からないけれど、手を離したランベルを差し置いてコバルオンが前に出る。すると前もって力を溜めていたらしく、彼は扉に思いっきり頭突きする。
「あっ……」
するとよっぽど力が強かったのか、派手な音をたてて金属製の扉がひしゃけてしまう。外開きなのを強引に突いたから、ちょうつがいが付いてる壁ごと内側に開いたけれど……。
「ボヌートは相変わらずですね。では、早速いきましょうか」
「そうね。結構広いから……、手分けして探した方が良さそうね? 」
ヴィレーさん達は慣れてるのかもしれないけど、彼の力業に私達は言葉を失ってしまう。一刻を争うから大目に見てもらえるかもしれないけれど、壊したことになるから問題になると思う。けれどそうも言ってられないから、気を取り直して得意げなコバルオンの後に続く。薄暗い廊下に全員入ったのを確認してから、私は四人にこう提案してみることにした。
「その方が良いわね」
「うん。じゃあキュリア。キュリアはテラキオンさんと一階から頼んだよ」
「ええ。じゃあ上はランベル達に任せたわ」
二対三で一人余るけれど、私とランベルは別れた方が良さそうね? 偶々近くに階段があったから、ランベルは一番離れた私とヴィレーさんにこう頼んでくる。多分ランベルならそこも考えてくれると思うけれど、この中で囚われた隊員、一般の人達を解放できるのは、“隷絶の小刀”を持ってる私達だけ……。一応予備で一本ずつ持ってはいるけれど、老舗で広いギルドではその方が効率は良いと思う。だからそんな彼に対して、私もこんな風に言葉を返す。
「ですね。お三方も、頼みましたよ」
「おぅ! 」
ヴィレーさんも同じように声をかけていたから、コバルオンさん達も階段を登りながら会釈してくれていた。
「……じゃあキュリアさん、いきましょうか」
「ええ」
前に来たのが結構前であまり覚えてないけれど……。上の階に登っていく三人の背中を見送ってから、私とヴィレーさんは廊下の奥の方に歩き始める。一応私はこのギルドには来たことがあるけれど、生憎何年も前で覚えてない。流石に迷路みたいにはなってないはずだから、何とかなるとは思うけれど……。
「っと、何となくそんな気はしてたけれど……」
まさかこんなに酷いことになってるとは思わなかったわね。入り口から殆ど歩いてないけれど、私はこの光景に思わず言葉を失ってしまう。多分弟子達の私室だと思うけれど、どの部屋も目を当てられないぐらいに荒れ果ててしまっている。アクトアの部屋よりは少し広いと思うけれど、真ん中に鉄格子が設けられてるせいで狭く感じる。そして何よりここで何があったのかは分からないけれど、至る所にに乾いた血の跡がこびりついている……。
「あまり想像したくないですね。……この部屋も空です……」
「こっちにも誰もいない――」
人の気配が無いから、私は別の部屋も覗いてみる。ヴィレーさんは左側の部屋を確認してくれているけれど、この様子だと右と同じだと思う。凄惨な事になってるのか、ヴィレーさんの声もどこか覇気が無いような気がする。私の方も誰もいなかったか――
「……誰? そこに誰かいるの? 」
「――っ! ヴィレーさん! 」
「うん、某にも聞こえました! 」
気のせいじゃなかったわね。誰もいなかったけど、あまり離れていないどこかから小さな声が聞こえてくる。本当に小さかったから空耳かと思ったけれど、ヴィレーさんもハッと声を上げていたから、そうじゃないんだと思う。彼のお陰で気のせいじゃ無いって分かったから、私は小走りで次々に部屋を覗いていく。足音を聞く限りではヴィレーさんもペースを速めてくれてると思うから――
「誰かいるんだね! 」
「ええ! 」
「はい! ……いました! 無事ですか? 」
「えっ……」
そこね! 私達の話し声に気づいたのか、幼そうな声が声を張り上げる。どこかおびえきったような感じがしたけれど、その分期待も含んでるような気もする。それで三部屋目を確認した辺りで、ついに見つけたらしくヴィレーさんが声を上げて教えてくれる。だから私は回れ右をしてその彼の元に向かい、呼んでくれた部屋に足を踏み入れた。
「でっ、伝説の種族が、何で……! 」
「某達は“ルノウィリア”ではないので、安心してください! 」
「だから少し待って、今助けるから」
やっとこれの出番ね。するとそこには、ヴィレーさんを見て驚くオシャマリ。先に入っていたヴィレーさんがなだめてくれているけれど、この様子だと落ち着くまでしばらくかかるかもしれない。だから私は、その間に鞄からあるものを取り出す。オシャマリの彼女の元に歩み寄り――。
「キュリアさん、それは……」
「切れ……た? 」
彼女の首に着けられた赤黒い鎖を断ち切る。支えを失った鎖は、ジャラジャラと音を立てて地面に落ちる。
「私の知り合いが創ったものだけれど、“隷断の小刀”って言うらしいわ。効果は見ての通りだけれど、ラティアスの能力の一つが込められてるらしいわ」
私は一番左側の尻尾で持っている銀赤色の針を彼に見せ、簡単に説明する。それ以外にマフォクシーのあの人の炎も混ざってるけれど、伝説の種族の彼なら、これだけで何となくは分かってくれると思う。
「らっ、ラティアスの? だけど彼女たちはルデラ――」
「テトラちゃん達と同じ時代のラティアスらしいわ」
「伝説の種族って……君たちはいったい……」
「元々は別々ですけど、占領された“エアリシア”を救いに来た、という感じでしょうか」
「そうね。それと事件の主犯を捕まえに来た、って感じかしらね? 」
「ですね。……それはそうとオシャマリさん、あなた以外に捕まっている方は――」
「どうなったか分からないけど、多分まだ捕まってると思う」
「ありがとうございます。でしたら某の仲間が遅れてくるはずですので、それまで少しお待ちください。……キュリアさん、次、いきましょう」
「ええ」
続く……