くのごのに 伝説の種族達の報告
―あらすじ―
協力者のひとりが行方不明だったテトラちゃんって分かったのもつかの間、私達は新手の奇襲を受けてしまう。
アーシアちゃんが守るで防いでくれたけれど、その相手は二人にとって因縁の相手らしい。
テトラちゃんによると“ルノウィリア”の幹部らしく、彼女は彼に敗れて捕まってしまっていたらしい。
それでリベンジをしたいって思ったらしく、私達は彼女に流されるままにその場を託す事にした。
――――
[Side Minaduki]
「
ミナヅキさん」
「ん? どうした、シリウス」
「
この事件が解決した後の事、何か考えていたりしますか? 」
「この後か……。元々無理矢理連れて来させられた身だからな、何も考えていねぇな。おそらく“月の次元”に帰る事になると思うが」
「
やっぱりそうなりますよね。もしも……、もし可能でしたら、こちらの世界に残ってみませんか? 」
「“太陽の次元”に、か? 異世界の住民の俺にとっては贅沢な話しだが、そんな事が許され――」
「
案外できるんじゃないでしょうか? 」
「ハァ? 俺なんかに許――」
「
自分も時代が違うっていう意味では異世界出身ですが、噂では七千年代の“太陽の次元”には結構いるみたいなんですよ。だからもしかすると、ミナヅキさんも許してもらえるのではないかな、と――」
――――
[Side Kyulia]
「……フラッシュ! 」
幹部相手だと少し心配だけれど、テトラちゃんなら大丈夫なはずよね? “ルノウィリア”の幹部と鉢合わせになった私達は、戦闘を覚悟して身構える。何で幹部が一人でいるのか分からないけれど、これほどのチャンスは今を逃すと無いような気がする。だからすぐにでも倒そうと思ったけれど、テトラちゃんがひとりで戦いたい、って名乗り出た。相性が最悪だからそうはしてほしくなかったんだけれど、決心したようなテトラちゃんに対して何も言い返せなかった。
だからって訳じゃないけれど、テトラちゃんは私達の答えを待たずに光の球をつくりだす。ほぼ流されるような感じになってしまったけれど、フラッシュを発動させたってことは、私達には目が眩んでる間に走り去ってほしいんだと思う。ほんの一瞬の事だったから、私は本当にそうなのかを確認する間もなく目を閉じる。目を瞑ったまま四肢に力を込め、隣の足音に耳を傾けながら一気に駆け出した。
「キュリア、いるよね? 」
「ええ。アーシアちゃんも、ついてきているわね? 」
テトラちゃんがどんな風に戦うのか気になるけれど、ここで戻ってもテトラちゃんに申し訳ない。ランベルがこんな風に訊いてきたから、もしかすると私と同じような事を考えているのかもしれない。臨時で同じチームとして活動しようとしていたぐらい仲が良いみたいだから、アーシアちゃんは何て思っ――。
「……アーシアちゃん? 」
まだ目を瞑ったままだから、私はアーシアちゃんにもランベルと同じ事を訊いてみる。だけど返ってくるのは、パートナーが絶えず走る足音、それだけ……。二、三秒待っても彼女の声が聞こえてこないから、私は目を開けて左右に目を向けてみる。念のため横目で後ろも確認したけれど、グレイシアの姿の彼女を見つける事ができなかった。
「いっ、いない? まさかはぐれたんじゃあ……」
ここでランベルも気づいたらしく、彼にしては珍しく声を荒らげてしまっていた。目を瞑って走ってたから、仕方ないと言えば仕方ないけれど……。けれど私は――。
「たっ、多分それは無いと思うわ。アーシアちゃんがイーブイに退化した原因はあのキリキザン、っていってたから、テトラちゃんと残ったのかもしれないわ」
「げっ、原因? 毒を盛られた、って聞いてるけど……」
本人から直接聞いた私はこう思う。私はアクトアの病院で聞いたからよく知ってるけれど、だけどその時ランベルは、チーム悠久の風のベリーさんと“陸白の山麓”の調査報告をしに行っていた。その後の“壱白の裂洞”の時も別だったから、知らないのも無理ないと思う。
「それであってるわ。毒薬――」
「おおっと、ここから先は行かせねぇぜ? 」
「っと」
だから当時“弐黒の牙壌”に行っていた彼に話そうとしたけれど、この状況がゆるしてはくれなかった。たくさんの人が囚われているギルドはもう目と鼻の先だけれど、角を曲がったところでまた鉢合わせ……。多分さっきのキリキザンの部下だと思うけれど、ラムパルドをはじめとした一段に道を塞がれてしまった。
「あいにくだけど、僕達もここで立ち止まるわけにはいかないからね。悪いけどここを通らせてもらうよ」
「たった二人でか? この数――」
「がっ、ガルシア! この二人、チーム火花だ。“月の次元”のあんた達は知らないと思うけど、マスターランクの探検隊で幹部クラ――」
この様子だとラムパルドが異世界の人で、アーケオスが殺し屋側の人みたいね? 一団のうちのひとり、地上に降りてきているアーケオスは私達の事を知っていたらしく、リーダー格の彼にこう耳打ちする。耳打ちにしては声が大きすぎるけれど、ある意味これで相手二人がどちら側なのか分かった気がする。
「幹部クラス? んなら尚更ここで討ち取らないとなぁ! マスターだかなんだか知らんが、武勲をあげるまたとないチャンス。首を持ち帰ってリフェリス様に献上するまたとない機会だ! 」
「首をって……、“ルノウィリア”は物騒な事を言うんだね」
何かとんでもない言葉が聞こえた気がするけれど、私はできるだけその言葉の意味を想像しないようにする。ランベルは思わず、思った事を口にしているけれど……。
「はいはい……。じゃあ、いくら二人だからと言って油断しないように! 多分この二人が敵の主力。手を抜――」
「俺等三人を見ても、同じ事言えんのか? 。……正義の剣」
「ただでさえ遅れてるのに、これはやむを得なそうですね」
「ぐぁっ! 」
こっ、今度は何? 相手のリーダー格が号令をかけ始めてるけれど、私達とは合流した別の道から二つの声が遮る。まさに颯爽とっていう言葉が相応しい感じで、私達二人を三つの陰が跳び越える。そのうちの一つ、黄緑色の陰だけはその足を止めず、力を込めているらしい角で次々に敵を突いていっている……。いきなりの事で何も言えなかったけれど、テトラちゃんから聞いていたって事もあって、私はその三人の種族でピンとくる。何故ならその三人は――。
「テラキオン……。って事は、テト……、クアラさんの仲間ね? 」
彼らしかいない種族、テラキオンにコバルオン、ビリジオンだから。テトラちゃんからあらかじめ聞いていたって事もあって、この三人が彼女たち側の味方だってすぐに気づく事ができた。ビリジオンは鬼神の如く次々に“ルノウィリア”を倒していってるけれど、それに対しコバルオンは、口調は荒いけれどラムパルドに睨みを利かせて牽制。真逆の口調のテラキオンは、やれやれといった感じで穏やかに呟いていた。
「クアラ……、あの色違いのニンフィアのことですね? はい、そうです。デンリュウにキュウコンという事は、お二人がS1のチーム火花、ランベルさんとキュリアさんですね」
「なっ、何で僕達の事を……」
うっ、嘘よね? あの伝説の種族のテラキオンが私達の事を知ってる? 思わず私は呟いたけれど、それをテラキオンの彼? は聞き取ったらしい。彼女から聞いていたのか……、どうなのかは分からないけれど、振り返ってからこくりと頷いてくれる。おまけにそれだけでなくて、まだ名乗ってないのに私達の名前、作戦のチーム名まで言い当ててきた。伝説の種族だからって言うとそれまでな気がするけれど、私……、それから同じく言い当てられたランベルも、揃って言葉を失ってしまった。
「シャトレア……、“志の賢者”がウォルタさんから聞いて、“心”で伝えてくれましたからね」
「ウォルタさん、それに“志の賢者”ってことは……」
シルクちゃんと同じ伝承よね? 最初は何が何だか分からなかったけれど、彼の一言で何かが繋がった気がする。私は二、三回しかあって話した事がないけれど、ウォルタさん達が関わってる“英雄伝説”の当事者は、“真実”なら“真実”、“絆”なら“絆”同士の“心”が重なり合ってる、っていってた気がする。だからもしかすると、その“志の賢者”がG4のウォルタさんから教えてもらったのかもしれない。……そういえば今思い出したけど、この何日かで何回か、シャトレアっていう名前のエネコロロをアクトアのギルドで見かけたような気がする。
「そうです。申し遅れましたが、某は“志の守護者”、テラキオンのヴィレーと言います」
伝説っていうと威圧感が凄そうなイメージがあったけれど、彼はそうではなさそうね? 丁寧な言葉使いの彼は、そういえばって言う感じで自己紹介してくれる。伝説の種族に対してキャラ崩壊が起き始めているけれど、彼は普通の種族の私達に対してぺこりと頭を下げる。
「以後お見知りお――」
「ヴィレー、この辺の敵は倒せたけど、そっちは済んだかい? 」
「あぁはい。とりあえず状況だけは話せました」
「流石ヴィレーは早ぇな」
もっ、もう? 話している間に時間が経っていたのか、戦っていたコバルオンとビリジオンの二人が私達の方に戻ってくる。彼らに言われて初めて気づいたけれど、この短時間で二十人ぐらいいた“ルノウィリア”の集団、全員が気を失い地面に倒れてしまっていた。伝説の種族だからだと思うけれど、あまりの早業にただ呆然と立ち尽くす事しかできなかっ――。
「それからヴィレー、貴方達にも言っておくけど、ギルドには裏から侵入してほしい、ってヴァースが言ってたわ」
「あぁそれは俺もハンナから聞いたな。表で敵を引きつけてるから、その間にどうとか、って」
「表……。うん。僕達もギルドの前で戦闘が起きてる、って聞いてるよ」
この感じだと多分、ヴィレーさん達三人も私達と目的が同じなんだと思う。元々テトラちゃん達もそうだったみたいだから、彼女たち側では同じ作戦のメンバーってことになってるのかもしれない。それにギルドの前では戦闘中って事も、私達はアーシアちゃんから聞いて知っている。私が言う前にランベルが話してくれたけれど、この感じだと情報共有とかは必要なさそう。
「なら話が早いですね。……時間が惜しいですから、行きましょうか。可能であればお二人もお願いします」
「味方は一人でも多い方が多いからね。分かったわ」
それで話しが済んだって言う事で、私達は止めていた足を再び……、ギルドの裏口に向けて動かし始めた。
「……そうだ。これも言い忘れてましたけど、シャトレアが“志半倒絶”を使いました」
「うっ、嘘だろぅ? まさかあのフライゴンが――」
「アタイもヴァースから聞いたけど、それはないわ」
「ええっと、何かあった――」
「すげぇ言いにくいんだが、あんた等側の誰かが亡くなった」
「えっ……」
「今確認したけど、ワカシャモが――」
うっ、嘘よね? ワカシャモってことは、ベリーさんが……。
「そうなりますけど、亡くなったと言うと少し語弊があります。“志半倒絶”は“志の賢者”が一代に一度使える“チカラ”。成功するか否かは本人の意思次第ですけど、息絶え死後硬直が始まる前の対象を一人、蘇生させる事ができる能力です。成功すれば“志の賢者”、シャトレアの命を二人で使う事になりますけど、もし失敗すると、二人とも――」
つづく