くのよん 因縁の相手
―あらすじ―
“ルノウィリア”との戦闘を始めた私達は、それぞれで別れて敵と対峙する。
一応私はランベルとケベッカさんの三人で陣形をとっていたけれど、いつしかヘラクロスとの一対一の戦いになっていた。
けれどそのヘラクロスには私達に因縁があるらしく、特に私のことを逆恨みしてきていた。
私にとっても親の敵だったけれど、ひとまずは返り討ちに知ることが出来た。
――――
[Side Kyulia]
「…にしてもまさか、テトラちゃんだったとは思わなかったわね」
「私もびっくりしました」
何か事情があるのかもしれないけれど、驚きね……。因縁の相手との戦いに勝利した私は、一度ランベル達と合流して状況を確認した。戦っている間だったから仕方ないけれど、その間にアーシアちゃんのギアに救援要請があったらしい。出したのはA1のハクさん達らしいけれど、遠いからって事で私達S1はそのままギルドの方に向かうことになったらしい。けれど協力者……、正体を隠していたテトラちゃんが言うには、ケベッカさんだけがA1の方に向かったんだとか。
「だよね。……そういえば“壱白の裂洞”で会った、ってキュリアから聞いたんだけど、その時も正体を隠してた、って本当? 」
「私もグレイシアの姿でしたから……」
って事は、アーシアちゃんが一緒に戦うのは実質二回目になるわね。テトラちゃんの事を聞いてから何を思ったのか、ランベルはその彼女にふと問いかける。私も言われるまで気づかなかったけれど、アーシアちゃんもいつもとは違う姿……正体を隠して戦ってたことになる。今もアーシアちゃんはグレイシアに姿を変えているけれど、ですよね、ってぽつりと呟いていた。
「だよね。本当はあの時に言いたかったんだけど、シルクに口止めされてて……」
……ん?
「テトちゃん? 今シルクさん、て言いました? 」
「あっ……」
って事は、聞き間違えじゃなかったのね。最初は聞き間違いかと思ったけれど、この感じだとそうでもなさそう。グレイシアの姿のアーシアちゃんが不思議そうに訊いたら、訊かれたテトラちゃんは右のリボンで口元を押さえていた。それもうっかり言ってしまったって感じだったから、テトラちゃんは言うつもりは無かったのかもしれない。
「もしかしてテトラちゃん? シルクちゃんのことを知って……」
「うっ、うん……。本当は誰にも言ったらいけないんだけど、正直に話すよ。私は助けてもらうまで知らなかったんだけど……」
テトラちゃんが? 一応口を滑らせたらしい彼女を問いただしてみると、テトラちゃんは渋々、って言う感じで話し始めてくれる。テトラちゃん自身も行方不明になっていたから、もしかすると何か知っているかもしれない。昨日チーム悠久の風が“肆緑の海域”で見かけたって言ってたみたいだけれど、私達が知っているのはそれだけ……。だから少しでも何か手がかりがほしい、そう願うような……。
「助けてもらった、て“パラムタ…”…守るっ! っくぅっ! 」
……えっ? 気になったことがあったらしく、アーシアちゃんは話の途中だけれどテトラちゃんに問いかける。“パラムタウン”の時ですか、多分そう訊こうとしていたんだと思うけれど、彼女は何の前触れもなく緑色のシールドを張りはじめる。一瞬のことで私は訳が分からなかったけれど、その直後に起きた衝撃、それから爆発音でようやく気づくことが出来た。その代わりアーシアちゃんのシールドは、音を上げて崩れ落ちてしまっていたけれど……。
「アーシアちゃん、助かったよ」
「ど、どういたしましてです」
「けれどこれって……」
「奇襲、みたいだね」
壁を破られた反動でのけ反っていたけれど、アーシアちゃんはこの一瞬で何とか立ち直れたらしい。もし彼女が気づいてなかったらって思うとゾッとするけれど、だからこそどの方向から襲ってきたのかが分かったのも事実。あれから結構進んでギルドの近くまで来てはいるけれど、生憎まだその建屋は見えてない。待ち伏せされていたらそれまでだけれど、他に考えられるのは、鉢合わせになった、そのぐらい。
「そうとしか……」
「チッ……。所詮不良品ハ不良品カ」
「あっ、あんたは……」
「ま、まさか……」
彼が犯人で間違いなさそうね。辺りを警戒しながら探っていると、やっぱり近くに誰かが潜んでいたらしい。潜んでいたというよりはすれ違った、って言った方が正しいかもしれないけれど、十字路の右側……、ちょうどギルドがある方向から、一人のキリキザンが姿を現す。喋り方がカタコトで少し違和感があるけれど、その彼は私達を見るなり舌打ちを一つ。その彼とは対照的に、アーシアちゃんとテトラちゃんは言葉を失ってるけれど……。
「フッ、誰カト思エバアノアルビノカ。牢獄デ死ンダト聞イテイタガ、マサカ生キテイタトハナ」
「アルビノ……、捕まってた時以来だよ、そう呼ばれるの。……あんた達は知らないだろうけど、確かに私は一度死んでる」
「しっ、死んでって……テトラちゃん? 」
今、確かに死んだ、って言ったわよね?
「それってどういう……」
「仮死状態、ってこと。……だけどまさか、イトロシウスだけじゃなくてリフェリスとも戦うことになるなんてね」
もしかしてテトラちゃん……、知りあい? 一瞬驚いたような声をあげていたけれど、私達三人とはちがってテトラちゃんだけすぐに落ち着きを取り戻す。私が見た限りでは何かを悟ったように、自分に言い聞かせるように呟いていたけれど、私にはその意味がさっぱり分からない。多分行方不明になってる間のことだと思うけれど、ふと聞こえてきた単語に、私……達は耳を疑ってしまう。訊こうとしていたランベルを遮って、すぐ答えてくれていたけれど……。
「何故俺ノ名ヲ……。マサカ貴様、イトロシウスヲ……」
「そう。"ルノウィリア"の幹部の一人、ドサイドンのイトロシウスを失脚させたのは私達。まさか本人も下等種族……、それも死んだはずのアルビノに手を下されるなんて夢にも思ってなかっただろうね」
ドサイドン……? ってことはもしかして、"壱白の裂洞"の時のドサイドン?
「貴様……ッ! 」
「それに今回の目的は、"ルノウィリア"を終わらせる事。個人的な恨みもあるけど、幹部のあんたにも、ここで潔く捕まってもらうよ! 」
「捕マル? 俺ガ? 」
「そう。あの時は建屋が崩れたせいで負けたけど、今回はそうはいかないよ! 」
テトラちゃん、もしかするとここで彼を倒すつもりなのかもしれないわね。それなら……。
「テトラちゃ……」
「キュリアさん、シアちゃん、ランベルさんも、先に行って」
「先にってテトラちゃん。それだと相性が悪す……」
「普通ならね。だけど"チカラ"を授けてもらった私なら、属性相性なんて関係ない。それに元々私はキュリアさん達の班のメンバーじゃないからね」
「で、ですけどテトちゃん……」
「来ナイナラ俺行クゾ! 」
「
何も言わずにまっすぐ走って! 」
「うっ、うん」
「ええ……」
「
フラッシュ! 」
つづく