くのさんのに 交錯する二つの因縁
―あらすじ―
テレポートで“エアリシア”に着いた後、私はアーシアちゃんに頼んでB班への連絡をしてもらう。
その後“壱白の裂洞”で会った二人組とも合流し、お互いが持っている情報を交換する。
けれど情報交換してすぐに、私達は“ルノウィリア”からの奇襲を受けてしまう。
おまけに私達は二手に分断されてしまい、別々の場所で戦わざるを得なくなってしまった。
――――
[Side Kyulia]
「野郎共、やっちまえ! 」
「おぅよ! ロックブラスト! 」
「ボーンラッシュ! これは少々厄介ね…」
岩タイプの技を使うとなると、私達は特に迂闊には近づけないわね…。次々に放たれる岩塊で分断された私達は、咄嗟に左の方へと退避する。私が見た限りでは、この技を使ってきたのはヘラクロス…。属性相性では私の方が有利だけれど、ロックブラストを使える以上は油断しない方が良い。それに残りの二人も同じ世界の住民とも限らないから、尚更…。
「だよね…。ルカリオさん、きみは急な温度変化は平気な方? 」
「温度? そんな事アタイは気にした事ないわね」
「なら気兼ねなく戦えそうね? …熱風! 」
ってことはきっと、ランベルは私に属性を変えながら戦ってほしいのかもしれないわね? 視線を正面から離さないまま、ランベルはルカリオの彼女に問いかける。私が属性を変えれる事は彼女は知ってるけど、一応ランベルはそのことを確認するためにも訊いたんだと思う。“壱白の裂洞”の時でもそんなような感じだったから、彼女は気にするようなそぶりを見せずにこくりと頷く。…けれどこの間にも相手三人との距離が四メートル位まで詰められていたから、私が焼け付く風を吹かせて押しのけて見る事にした。
「日照りに熱風…、こりゃあ厄介だな…」
「日照り? 何の事か知らねぇが、ブッ潰せばいい話だろぅ? 」
「ただ日差しが強いだけ、よね? 」
「そうか、“月”のお前等は知らないのか」
ってことは、あのローブシンとレパルダスは“月の次元”の住民ね? 牽制のつもりで風を吹かせたから、当然相手三人は攻撃に耐える。けれどそのうちの一人、リーダー格らしいヘラクロスは一度空を見上げ、ため息交じりにぽつりと呟く。そんな様子に残り二人は首を傾げていたけれど、かえってそれが私達にとっては良い情報になったような気がする。
「“月”が二人…。デンリュウのあんた」
「ランベルでいいよ」
「…と」
「キュリア。ケベッカさん、名乗ってなかったけれど、それが私の名前よ」
ルカリオの彼女、ケベッカって前に名乗っていた彼女も悟ったらしく、維持している骨状のエネルギー体を構えた状態でランベルに目を向ける。私も今までうっかりしていたけれど、名乗ってなかった事もあって、ランベルは自分の名前を口にする。すると次に私の方にも目を向けてきたから、続けて…、今更だけれど私自身の名前を教える事にする。
「ランベルにキュリアね。…じゃあアタイが前衛でいくから火花の二人は後え…」
「ううん、僕も前に出るよ。接近戦の方が得意だからね」
「そうさせてもらうわ。…ソーラービーム! 」
向こうも何か話し終えたみたいだから、戦闘開始ね? 簡単な作戦会議が終わったって事で、私、ランベル、ケベッカさんの三人はそれぞれで陣形をつくる。彼女は一人で前に立つつもりだったみたいだけれど、ランベルは首を横に振り、そのまま彼女の隣に並ぶ。手元に電気を纏わせているから、多分彼は相手を痺れさせて身動きをとれなくするつもりなんだと思う。だからって事で私は、全身で照りつける陽光を吸収し、即行で光線を一直線に解き放った。
「ちっ…」
「どんな魔術かしらないけど、同じ魔術師のあたしに任せて頂戴」
「…ただエネルギーを飛ばすだけだろぅ? 」
向こうも仕掛けてきたわね…。私の光線で右、左、空中に分断された三人は、それぞれで私達の方に距離を詰めてくる。それに合わせてランベル達も走り始めたから、私も二メートルぐらい空けて彼らの後に続く。
「それはどうかしらね? “ルノウィル帝国”が誇るあたしの魔術、受けてみるがいいわ! 」
「そんな緩い攻撃じゃアタイは倒せないわよ? 神速! 」
「援護するよ。シグナルビーム」
「神通力! 」
その帝国っていうのは…、確か“月の次元”の何か…、だったわね? 私から見て左側から迫ってきているレパルダスは、私達を挑発するようにして攻撃を仕掛けてくる。“魔術”っていうものがどういうものかは分からないけれど、見た限りではエレキボールとか…、弾丸系の技と形態は似ているような気がする。口元に溜めた黒い球体を撃ち出してきたから、私達三人もそれぞれで対応する。先頭を走るケベッカさんは更に加速して相手の攻撃をくぐり抜け、ランベルは七色の光線でそれを援護する…。一メートル半ぐらいの高さを飛んできているヘラクロスに向けて放出していたから、私は膨大な念波を残りのローブシンの方に送り込んだ。
「キュリア! へラクロスをお願い! 雷パンチ! 」
「ええ! ランベルも、ローブシンは任せたわ! 秘密の力! 」
「端から分断させるつもりだった訳か…。気合いパンチ! …っ! 」
「くっ…! 」
中々の威力ね…。パートナーから託された私は、真っ直ぐ標的に狙いを定める。ヘラクロス自身は手近なランベルの方に攻撃しようとしていたけれど、ローブシンが振り上げた岩柱に阻まれてそれが出来ていなかった。だからって事で私に狙いを変えてくれたらしく、滑空しながら右手に力を溜め、重い一撃を仕掛けてくる。私もそれに高さを合わせ、九本の尻尾全てに力を溜めて振り抜いたけれど、パワーバランスが拮抗して互いに弾かれてしまった。
「流石マスターランクの探検隊サマだなぁ」
「あなたこそ、まさか私の攻撃を凌ぐなんて思わなかったわ」
「お前等に捕まった親父の恨み…。お前等火花を屠るためだけに生きてきた俺を侮って貰っちゃあ困るなぁ」
「わっ…私達を…? 」
今まで数え切れないぐらいお尋ね者を捕まえてきたけれど…、逆恨みよね、これって…。弾かれて着地した後、ヘラクロスは徐に話しかけてくる。その言葉には賞賛のような…、でも恨みにも似た…、なんとも言えないものが含まれていたような気がする。一応私はそれなりの返しはしたけれど、気にくわなかったのか、鋭い目つきで私を睨み、こう言葉を返してくる。職業上逆恨みされる事があるのは分かってるつもりだけれど…。
「あぁそうだ。お前等探検隊にとっちゃあ一犯罪者に過ぎないだろうが、俺にとってはただ一人の父親だ。…なのに部下の悪事の責任を取らされ捕まり、終いには警備協会も解体された…」
警備協会…。ってことは…、あの事件しか考えられないわね…。
「そう…。なら私にとっても、あなたの親御さんが私の両親の
敵って事になるわね…」
「…何が言いたい? 」
「あなたの親の組織が起こした冤罪で私の父親は殺され、母もそれが苦で自殺した…。言うまでもないと思うけれど、“霧島大虐殺事件”…、
日照りの特性のキュウコンを忘れたとは…、言わせないわ! 」
「んな事俺の知ったことかぁっ! そもそも疑われるような親が悪いだけだろぅ? 」
「っ! 」
私の父さんが悪いですって? つい相手のヘラクロスと口論になってしまったけれど、私は私で譲れないものがある。まさかこんな所で“警備協会”の関係者に会うなんて夢にも思ってなかったけれど、この様子だと相手も私…達に恨みがある様子。…けれど相手が感情にまかせて言い放った一言で、私の中の何かがぷつりと切れてしまったのを感じる…。
「そんな事、絶対に認めないわ! 熱風! 」
私の父が悪いような言い方をされたって事もあって、私の中からせり上がってきたナニカをエネルギーに乗せ、辺りの大気を暴れさせた。
「何とでも言えっ! ロックブラスト! 」
相手は相手でいくつもの岩を出現させ、真っ直ぐ私を狙って撃ち出してくる。…だけれどそんな攻撃、どうって事無い…。
「秘密の力! 」
九本の尻尾全てに力を溜め、後ろ足に力を込めて大きく跳ぶ。反時計回りで右側二本を一発目に叩きつけ、着地してからその場で逆回転…。左の二本分で二発目を砕き、前に向けて走り出す…。
「マスターランクともあろう探検隊サマが、とうとう血迷ったかぁっ? 」
「っうるさいわね! そんな口を叩ける暇があるなら、今すぐ撤回しなさいよ! 」
三、四発目は左右に跳んで回避し、そのまま私は低姿勢で相手に急接近…。
「んなことする訳ねぇだろぅ? 」
相手の手前二メートルで大きく真上に跳び…。
「なら意地でも撤回させてみせるわ! 」
「インファ…くぅっ…! 」
頭から一回転するような体勢になり、残った中央五本分の秘密の力で相手の頭頂部を狙う。声と気配からすると格闘タイプの技で対処しようとしているみたいだけれど、それよりも早く私の五本の尻尾が頭を捉えた。
「…イン…ファイト! 」
「っあぁっ! 」
中々の威力…ね…。勢いそのままに地面に叩きつけたけれど、相手はここで反撃を仕掛けてくる…。発動しかけていた大技で力を溜め、頭を振り上げるようにして私を弾き飛ばす。当然私は無防備…、それも技の効果が切れた直後だったから、対処しきれずにまともに食らってしまう。後ろに飛ばされながら見てみたけれど、まだ効果が続いているらしく、羽を広げて追撃してくる。なら私は…。
「……」
エネルギーを左の前足に集中させ、その状態で二つあるうちの一つの宝石に意識を向ける。そうする事でリアン君に作ってもらった“変色のブレスレット”を通して、“氷華の晶石”にエネルギーを流し込む。するとすぐにソレが逆流してきて、強い氷の属性が私を染め上げていく…。毛並みも薄水色になって雪も降り始めてきたから…。
「…オーロラベール! 」
味方の周りの空気の一部を凍らせ、氷の障壁を創り出した。
「んなっ…! 何…」
咄嗟に創り出しはしたけど、それでも何とかダメージを軽減する事は出来た。ちょうど相手が角で突いてきた所だったから、タイミングを合わせてそれを口で咥える。生憎噛み砕くとか…、そういう技は使えないけれど、氷の障壁で軽減されていたから、辛うじて受け止める事は出来た。だからすぐに真上に振り上げ、勢いよく頭上に敵を飛ばす…。
「っ吹雪! 」
すぐにエネルギーで空気に干渉し、今度は氷の粒を凍てつく突風に乗せて無数に吹かせる。
「なっ…何故キュウコンがっぐぁぁっ…! 吹雪…を…」
当然相手はかわす事が出来ず、それらを至近距離でまともに受ける。
「っぁっ! 」
吹き飛ばされた相手は受け身さえとる事が出来ず、派手に地面に叩きつけられていた。
「私の父の事を悪く言うあなたにだけは…、絶対に言いたくないわ! マジカル…シャイン! 」
更に私はエネルギーを口元に溜め、真上を向いた状態でソレを爆ぜさせる。すると目を覆いたくなるような閃光と共に、フェアリータイプの衝撃波が辺りに解き放たれる。
「ぐぅっ…っそれ…だけ…は…っ」
流石に耐えられなかったらしく、相手は何かを言い切る事も叶わず、そのまま意識を手放してしまっていた。
つづく