はちのに 姿が違っても
―あらすじ―
“壱白の裂洞”を脱出した私達は、一度“ワイワイタウン”にあるリアン君の研究室に立ち寄る。
そこで完成版の“変色のブレスレット”を作ってもらい、私とアーシアちゃんは依頼のお礼としてそれを受け取る。
日暮れも近くなったって言う事で、私、アーシアちゃん、コット君の三人は、アクトアのギルドへの帰路に就く。
けれどその途中で、分かれたはずのリアン君が走って追いかけてきていた。
――――
[Side Kyulia]
「噂には聞いとったけど、ここがそうなんやな? 」
「そうよ」
「古い水車小屋を改築した、てシリウスさんが言ってました」
「何回見ても思いますけど、“アクトアタウン”らしい造りですよね」
水路の上流にあるから、街の浄化設備も取り入れている、って言ってたわね。私達三人にリアン君が追いついてからも、そのままの流れでハクさん達のギルドを目指す。…というのも合流した道のつきあたり見えてたけれど、着くまでの間にリアン君が追いかけてきた訳を聞いていた。一言で言うなら、避難してきた人達の支援。私達が出てからそういう話になったらしく、リアン君達の店からギルドに物資を送るって言ってた。それでリアン君は書状とか必要な書類を揃えてから、直接ギルドに届けるために走ってきた。…で支援物資の方は明日の朝一で発送するらしく、その受け入れのためにもアクトアに来ているんだとか。
走行している間に入り口の前まで来れたから、私達は一度その前で立ち止まる。もう日が暮れていて半分閉ってるけれど、特徴的な建物だからすぐに気づいたらしい。見上げる彼がこう呟いたから、私、アーシアちゃん、コット君の順番でそれぞれ返事した。
「そうよね。…シリウスさん、いるかしら? 今戻ったわ」
「へぇ、中にも水路通っとるんやな」
“風の大陸”の人達を受け入れるのに忙しそうな気がするけれど…、流石にもう終わってるはずよね? 半開きになった入り口をくぐりながら、私はロビーの奥に向けて声をあげる。ハクさんはまだまだ帰らないような時間だと思うけれど、副親方のシリウスさんならギルドに戻ってきているとは思う。…もしも忙しくて手が離せなくても、今は壊滅した“パラムタウン”の親方のスパーダさんでも対応はしてくれると思う。隣でリアン君が興味深そうに声をあげているけれど、私は気にせずに辺りを見渡し始めた。
「…いないみたいで…」
「今行くから待っててほしいのだ! 」
「この声は…、キュリアさんね? 」
「そうよ! グレイシアということは…、あなたがフィリアさんね? 」
一応アーシアちゃんのZギアで話したけれど、面と向かって話すのは初めてね。私の呼びかけが聞こえたらしく、コット君が呟き始めたあたりで声が帰ってきた。帰ってきた声はシリウスさんじゃ無かったけれど、この特徴的なしゃべり方をする彼なら、リアン君の対応もしてくれるとは思う。私の予想通り物陰からゼブライカ…、スパーダさんが出てきたから、私は内心ホッとした。そしてその彼と何かの作業をしていたのか、実際には初めて会うグレイシア、フィリアさんが初対面の私に声をかけてきていた。
「ええ。ギア越しには話したけれど、一応はじめましてね。サンダースとエーフィのあなた達も、初めましてかしら? 」
「そうやな」
「そうなりますね。サンダースのコット、って言います。フィフさ…、シルクさんの従兄弟、って言えば分って頂けますか? 」
「シルクの…、て事はあなたがそうなのね? 」
「はい! 」
「ということは、五千年前の世界から来ているのね? 」
…よく考えたら、結構な人数が大昔の世界から来ている事になるわね? 行方不明のシルクちゃん、テトラちゃんと、サンダースのコット君。それからマフォクシーのあの子と、ラティアスっていう種族のあの子がそうだったわね。途中でリアン君はスパーダさんと席を外したけれど、グレイシアの彼女は一人一人に視線を向けていた。その中でもコット君の事は誰かから聞いていたのか、シルクちゃんの従兄弟、って聞いたら納得したように頷いていた。シルクちゃんと彼女との関係は分らないけれど、出身の世界を知っているって言う事は、少なくとも面識はあるんだと思う。
「コット君達はそうなりますね。…えとフィリアさん、お久しぶりです」
「ええ、久しぶりね」
「今はイーブイに退化しちゃったのですけど…」
「そう言ってたわね。…けれど変な感じね。アーシアちゃんて言えばブラッキーていうイメージがあるけど…、思えば初めて会った時もイーブイだったわね」
私はブラッキーと言うよりは…、グレイシアのイメージの方が強いわね。途中から会話に合流したアーシアちゃんは、少し気まずそうにフィリアさんに話しかける。私はブラッキーだった頃のアーシアちゃんの事はあまり知らないけれど…。…それでダンジョンの中で話していたって事もあって、フィリアさんはイーブイの彼女がアーシアちゃんってすぐに分ったらしい。思い出話になってるみたいだけれど、気まずそうにしていたアーシアちゃんに、優しく声をかけてあげていた。
「そうでしたね。…ですけどフィリアさん。ギアでもお話ししたのですけど、フィリアさんと同じグレイシアにもなれるようになりました」
「一時的にみたいだけれど、彼女には助けられたわね」
「ううん、フィリアさんみたいに上手く戦えなかったの…」
「そんな事はないと思います。“壱白の裂洞”の時も、リアンさんを守りながら…、あれ? リアンさんは…」
「リアン君なら、スパーダさんと奥の方に行ったわ」
多分今頃、支援物資とかの手続きをしているわね、きっと。私は十分に戦えていたと思うけれど、この感じだとアーシアちゃんは謙遜しているんだと思う。前衛に徹していた私の代わりにリアン君を守っていた事もそうだけれど、何よりも私の手の回らない野生、それから“ビースト”を討伐してくれた。種族が分らない誰かと一緒に戦った、って言ってたけれど、それでもあの“ビースト”を倒したのは凄いと思う。彼女は“ルデラ諸島”のプラチナランク、って言ってたけれど、見た感じではラスカのスーパーランクぐらいの実力がありそうだった。
そんな感じのアーシアちゃんに、コット君が首を横に振りながらこう言う。その流れでリアン君を探してたみたいだけれど、例の彼は少し前に離れてこの場にはいない。多分話していて見てなかったからだと思うから、私はサンダースの彼にエーフィの青年の居場所を簡単に教えてあげる。口で教えるのと同時に目線でも示したから、多分これだけで分ってくれたと思う。
「スパーダさんと地下の方に行ってました。…そだ。リアンさんで思い出したのですけど、リアンさんにこのような物を作ってもらいました」
「ブレスレットみたいだけど…」
「私のとは別の型だけれど、これで姿…、アーシアちゃんなら種族を変えられる、って言ってたわ。氷と炎と水しかないから…、今はグレイシアとブースター、それからシャワーズに変えれる事になるわね」
「ぐっ、グレイシア以外にも…? 」
「はいですっ。まだ試しては無いのですけど、今からでもできるかと…」
「私も属性を変えれたから、大丈夫だと思うわ」
方法は同じだから、あとは慣れと属性次第ね。アーシアちゃんはふと思い出したらしく、後ろ足だけで立った状態で話し始める。左のブレスレットを見せながら話しているから、面を向かっているフィリアさんは興味深そうに視線を落としていた。私は属性が二つだから試しようが無いけれど、アーシアちゃんは九つの穴があるタイプをもらっているから、“属性の石”さえあれば九種類に変える事が出来る。…けれどここに戻ってくるまでに試していなかったから、フィリアさんの問いかけに、あまり自信…、それか実感が無いのか、返事が尻すぼみになっていた。
「折角ですからアーシアさん、今試してみたらどうですか? 」
「い、今ですか? 」
「そうね、それが良いと思うわ」
今すぐ試す必要は無いと思うけれど、明後日の事を考えると少しでも慣らしておいた方が良いかもしれないわね。…あぁそうだ。あのルカリオから頼まれた事、ハクさん達にも言っておいた方が良いわね? 人手がいる、って言ってたから…、もしかすると他に何人か協力してもらえるかもしれないわね。けれど二人とも今はいないから…、夕食の後でも良いかもしれないわね、休むにはまだまだ早すぎるから…。
つづく