ななのなな 白坎の戦い(炎撃)
―あらすじ―
三人の攻撃で戦闘が始まったけれど、私達はその数に圧倒されてしまう。
雨のように襲いかかってくる“ビースト”に対し、私達四人は防戦を強いられてしまう。
更にこの空間に別の一団が乱入し、固まって戦っていた私達は分断される。
そのうちの一人が“陽月の穢れ”の状態だったので、どう考えても苦戦を強いられそうだった。
――――
[Side Kyulia]
「…ナラバ俺ガソノ狐諸共…」
「…ケベッカ! 」
「ええ! クアラそっちは任せたわ! 神速! 」
「――ぅっ! 」
こっ、今度は何? コット君が後ろ足で弾いたマルマインは、明後日の方向に飛んでいく。けれどその先には、いつからいたかは分からない誰か…。種族が何かは確認できていないけれど、丁度目にも留まらないような早さで駆け抜けてきている最中。一瞬の事で見逃しそうになったけれど、その人物は焦る事無くマルマインを左の拳で払いのけていた。
「次カラ次ヘト…」
「“穢れ”のドサイドン…。一発目の任務で“月”のナンバー三なんてとんだ当たりくじを引いたものね」
「ええっと…、あなたは…」
「ルカリオ、でいいのよね? 」
その人物は駆ける足を止める事無く、私達の前に躍り出る。今やっとわかったけれど、声的に彼女の種族はルカリオ…、だと思う。口元を布で隠してターバンを巻いているけれど、体格と特徴的な手元の棘があるから多分そう。何かをを知っていそうな感じで、相対しているドサイドンに向けて呟いていた。
「そうよ。マスターランクのバッジにキュウコンって事は…チーム火花ね? 」
「えっ、ええ…。…でもあなたは…」
「…ケベッカ。今はそういうことにしておいて」
ルカリオのケベッカ…、聞いた事無いわね? 女の人だからすぐに分かりそうだけれど…、ラスカ以外の人なのかしら? 颯爽と登場した彼女は、私の事をチラッと見てこう呟く。彼女は私の事を知っているみたいだけれど、生憎私は彼女の事を知らない。女性のルカリオといえばパラムの副親方の事が浮かぶけれど、確かケベッカ、って言う名前じゃなかったような気がする。尋ねてもはぐらかされたけれど…。
「今ノデ駄目ニナッタカ…。…ナラバ」
「あっ、新手? 一体どこから? 」
「分からないわ。…でも一筋縄ではいかないってアタイは思…っ? 」
きゅっ、急に? ひとまず私は、彼女の隣まで出る。私に背中を向けていたという事は、少なくとも敵では無い…。こう思ったから確認しようとしたけれど、そんな時間はとってもらえそうにない。ついさっきまで連れて? いたマルマインの姿が見えないけれど、ドサイドンは手綱を握るような体勢で何かを起動させる。すると彼の真横、二メートルぐらいの位置に、何の前触れもなくオニドリルが出現する。驚きすぎて声をあげてしまったけれど、そのオニドリルの首にも、マルマインと同じ赤黒い鎖が繋がれている…。目に光が灯って無くて虚ろだか…。
「“エアリシア”の親方? まさか捕まってて…」
「おっ、親方って、どういうことなんですか? 」
「聞いたそのままよ! でもまさか捕まって寝返っただなんて…」
「ホゥ、コノ駒ノ出所ヲ知ルトハ、貴様ハソノ手ノ者カ」
「それにあの鎖…、どこかで…」
“エアリシア”って…、確かハクさんが言ってたあの事絡みよね、絶対に! 隣の彼女が信じられない、って言う様子で言い放った事に、私は思わずハッと声をあげる。後ろでコット君も問いただしてきているけれど、ケベッカって名乗った彼女は答えにならない返事をしてきた。“エアリシア”の親方達と連絡がとれないらしい、って事を少し前にハクさんから聞いたような気がするけど、もしかするとこのことを言っていたのかもしれない。そうなるとルカリオの彼女は連盟の関係者、って事になるけれど、今はそんな事を聞いている暇はなさそうだった。
「“月”のあんたには言えないけどアタイはあんたの敵これだけは言えるわ」
という事は、私達の味方、ってことになるわね?
「敵カ。…シカシ一人増エタ所デ変ワラン。“太陽”ノ分際デ、“月”ノ前ニヒレ伏スガイイ! 」
「キュリアさん、来ます! 」
「えっ、ええ! ソーラービーム」
「ボーンラッシュ! アタイとしても願ったり叶ったりよ! 」
…来るわね! ドサイドンは荒々しく言い放つと、右手で持つ鎖を力任せに引っ張る。するといきなり、側に控えていたオニドリルが何の前触れもなく飛び立つ。天井ギリギリまで浮上したから、確実に何かを仕掛けてくる…。だから私は、日照りで乱発出来る光線を準備し、戦闘に備える。隣の彼女も両手に骨を出現させ、縦回転させるように投擲。続けて左のソレも正面に向けて投げ、追うようにして駆けだした。
「キュリアさん、ルカリオさん、後ろは任せてください! チャージビーム! 」
「面白い技使うのね? 」
「――っ! 」
「グロウパンチ! 」
「秘密の力! あなたこそ! 」
「目覚めるパワー! 」
あの構え…、ゴッドバードね。私は彼女を援護するように光線を放ち、天井直下のオニドリルに注意を向ける。両方の翼に激しい光を纏っているから、物理技の類いである事に間違いなさそう。それもルカリオの彼女が言うには、オニドリルは親方クラス…。ソレを考えると、最上級の技を使ってきてもおかしくない。案の定急降下しながら突っ込んで来ているから、私は共闘する彼女の隣まで駆け、力を溜めた九本の尻尾全てで応戦…。二人がかりで何とか止める事が出来、その隙にコット君が氷タイプの球弾を命中させてくれた。
「揃イモ揃ッテ魔術師カ…」
「――、―っ! 」
「神速! 」
「見切り…! やっぱり…、“服従の楔”で間違いなさそう…。チャージビーム! 」
「服従の…? コット君、あの鎖の事よね? 神通力! 」
コット君がダメージを与えてくれたけれど、相手は全く怯む素振りを見せずに羽ばたく。後方に飛び下がり、また同じ事を繰り返す。今度は斜めに滑空するようにして、一番背の高いケベッカを狙う。それに対し私は回避行動をとるために、一度並走している彼女から離れる。ただ距離を置くだけでなく、大量の念波を狂ったオニドリルに直接送り込んだ。
そして当然狙われた彼女も、自分の方法で対処する。彼女は回避するのではなく、多分迎撃…。瞬間的に筋力を増強し、瞬く間に加速する。そのままの勢いで斜め前に跳躍し、捨て身で相手に突っ込む。肩から体当たりを食らわし、弾かれた勢いで空中に投げ出されていた。
後ろからついてきていたコット君も、相手に向けて攻撃してくれる。ケベッカとぶつかっても勢いは止まらなかったらしく、その余波が彼に襲いかかる。けれどこうなる事を予測していたらしく、瞬間的に運動能力を活性化させる。方向転換しながら前に跳び、ムダのない動きで回避…。そのまますぐ口元にエネルギーを集め、隙だらけの背中に電気のブレスを吹き出していた。
「目覚めるパワー! 」
「目障リダ! 」
「…っ! インファイト! っくぅっ! 」
「秘密の力! 」
「――ぁぁっ…」
「アシストパワー! これで最後です! 」
一方ゴッドバードを回避した私はというと、すぐに追いかけ追撃する態勢に入る。相手との距離を測りながら力を溜め、三メートルまで接近したところで大きく跳ぶ。丁度今コット君が強化された氷球を命中させてくれたから、オニドリルに一瞬の隙を作ってくれる。これを狙って私は頭から前に一回転し、その勢いを乗せて尻尾を思いっきり叩きつける。重撃の反動でその場から跳び退き、巻き込まれないよう相手から距離をとる。するとそこへ見計らったかのようなタイミングで、コット君の切り札とも言える攻撃が放たれていた。
「コット君、合図も送ってないのによく合わせれたわね」
「ちゃんと状況を観察していたら、合図がなくても大体は分かりますよ。…アシストパワー! 」
「…っと、そうだったわね。ソーラービーム! 」
オニドリルは倒せたけれど、まだ本命が残っていたわね。ここまでの道中で大体話分かっていたつもりだったけれど、私の見立てよりコット君は少し上だと思う。得意げに胸を張る彼は、技の威力こそ低いけれど状況を判断する目は確かにある。今の戦いでも私の行動に合わせて戦っていたから、少なくとも状況判断力は並のチームを遙かに凌いでいると思う。それもただ把握するだけでなく、状況に合わせて行動することも出来ている。…確かにまだまだ荒削りな部分はあるけれど、経験さえ積めばかなりの手練れ二なるような気がする。
…とそんな事をひとり考えていたけれど、確かな観察眼を持つ彼の次の行動で、私はふと我に返る。強化された状態の薄紫色の球体を放った彼は、行動で次にすべき事を語ってくれる。慌てて私もコット君に続き、牽制の光線を放ちながら彼の後を追いかける。もちろん私が狙ったのは…。
「グァッ…。…ダガコノ程度、痛クモ痒クモ無イ! 」
「…ふぅ。流石にインファイトは…消耗が激しいわね…」
濃いオレンジ色のオーラを纏ったドサイドン。多少息切れしているものの、十五メートル離れたこの場所から見た限りでは目立った外傷はない。…ただルカリオの彼女の方は、大技を発動させた直後なのか、肩で息をしている状態だった。
「…コット君、これから雪を降らせるけれど、大丈夫かしら? 」
「氷タイプに変えるんですね? 大丈夫ですよ! 」
代わりに遠距離攻撃が出来なくなるけれど、コット君がいるから問題なさそうね? 私はコット君にこう尋ねながら、下げている鞄の中を尻尾で漁る。さっき仕舞ったばかりだからすぐに見つかったけれど、それを取り出しながら耳を傾ける。横目で確認すると頷いてくれたのが見えたから、私はすぐに取り出したネックレスを首にかけた。
「助かるわ。…オーロラベール! 」
すると辺りに雪がちらつき始め、私自身の体温も急激に下がる。全身で属性が変わった事を感じながら、私は雪が降る範囲にいる味方に氷の守りを授けた。
「ありがとうございます! 目覚めるパワー! ルカリオさん、遅れてすみません! 」
「…! サンダースベストなタイミングね」
「何ッ…ッ! 」
「秘密の力! あなた一人に任せてしまって申し訳ないわ」
「それはお互い様よ! 」
「いえいえ。…ルカリオさん、僕が後衛にまわるので、キュリアさんと前衛をお願いできますか? 」
「キュウコンの事ね? 問題ないわ」
「キュリアさんも大丈夫ですか? 」
「ええ」
私と彼女が前に出て、コット君が後ろからサポートする…、妥当な判断かもしれないわね?
「コット君、私達の背中はあなたに預けたわ! 」
「はい! 」
つづく