ななのさん 採掘の副産物
―あらすじ―
リアン君からダンジョンの事を聞いている間に、私達は目的地の"壱白の坑道"に到着する。
聞いた話によると、ダンジョンの中はちょっとした鍾乳洞にになっているらしい。
潜入早々に野生の襲撃を受けたけれど、その代わりにコット君の大体の実力を把握することができた。
それと合わせてリアン君の体質の事も詳しく知れたけれど、突破するのに苦戦しそうな気がしてきた。
――――
[Side Kyulia]
「…着いた着いた。この辺でよう採れるで、ちょっとだけ待っとってくれへん? 」
「はいですっ! それならその間に、準備しておきますね」
この場所なら少しは休めそうね。あの後も進んでいた私達は、戦闘数は多かったけれど、苦戦することなく攻略することができた。道中ではアーシアちゃんの事は心配してなかったけれど、私が思ってた以上にコット君が活躍してくれて助かった。使える属性も言ってた通り三種類で、その三つともが特殊技。目覚めるパワーとチャージビーム、アシストパワーっていう癖の強い技ばかりだったけれど、私が見た限りではとりあえずは使いこなせていたと思う。まだ本気の戦いを見てないから分からないけれど、今のところは遅咲き…、と言ったところかしら? 技の威力は低いけれど、その代わりに身のこなしとか…、判断力は同年代の子よりは遥かに上。まだまだ粗削りだけれど、将来が期待できそうね。
「ええ。…アーシアちゃん、グレイシアの姿は慣れたかしら? 」
「んーと、まだちょっとだけへんな感じがするのですけど…、最初よりは慣れました」
「って事はアーシアさん、種族が違うと感覚も変わるんですか? 」
「上手く言葉にできないけど…、体の軽さが違うと…」
「確かに、それはあるかもしれないわね」
軽さね…。軽さと言うよりは、氷タイプの時の方が痛みを感じにくい、っていう方が正しいかもしれないわね。話を今の事に変えると、"壱白の坑道"を突破することができたから、今から小休止をとるところ…。途中で"氷華の珠石"に換えたから雪がちらついてるけれど、抑えてるから積もる程ではないと思う。中間地点に着いたって事でリアン君は壁際の方に走っていったけれど、私、アーシアちゃん、コット君の三人は小部屋の真ん中辺りで腰を下ろしている。グレイシアとして初めて戦う筈だから、私は一応彼女に調子を聞いてみる。すると一瞬天上を見上げて考えていたけれど、すぐに私の方を見、優しく答えてくれる。コット君も訊きたいことがあったらしく、私に続いてこう尋ねていた。
「ということは、キュリアさんもなのです? 」
「ええ。体温が物凄く変わるのは勿論だけれど、氷タイプだから打たれ強くなっている気がするわね」
「僕もサンダースに進化した時に思ったんですけど、属性とかに関係してるのかもしれないですね」
「属性ね…。属性といえばだけれど…」
"陸白の山麓"に初めて行った時は驚いたけれど、コット君の言うことは間違いじゃないかもしれないわね。私がふと呟いた事に共感してくれたらしく、グレイシアの彼女はこくりと傾げながら聞き返してくれる。確かグレイシアもブラッキーも守りに優れた種族だったと思うけれど、その中でも少しだけ違いがあるのかもしれない。コット君が言った進化もそうだけれど、属性の違いだけでステータスが変わる、って事は凄く分かる気がする。この数日間で感じた事だけれど、いつもの炎タイプは攻撃寄りで、今の氷タイプは守りに適している。…技の関係もあるかもしれないけれど…。
そんなことを考えていたけれど、ふと私はあることが気になってくる。そのきになった人物、シルクちゃんの従弟らしいサンダースに目を向けてから…。
「コット君って電気タイプだけれど、十万ボルトとかは使わないのね? 」
疑問に思ったことを口にする。コット君はそれなりに経験を積んでいるのは分かったけれど、それにしては変則的な技ばかり使っているような気がする。まだ残りの一つの技は見てないから分からないけれど…。
「そうですね。一回試してみようとは思ったんですけど…、何か性に合わないんです。放出系の技が苦手、っていうのもあるかもしれないんですけど、元の時代に全体技を使える仲間がいるからかもしれないで…」
「あっそうかもしれないですね。コット君は五人チームのリーダーなのですけど、吹雪とか熱風とか…、そのような技が多いかもしれないですっ」
吹雪って…、氷タイプの中でも最上級の技よね? まだまだ若いのに熱風も使える仲間がいるなんて…、コット君は私が思っている以上にでき…。
「アーシアさん、キュリアさんにコット君も、ちょっと来てくれへん? 」
「はっはいっ! 」
…ん? リアン君、何かあったのかしら…? コット君に技の事を訊いたら、色々と話してくれる。チームのリーダーって事には何となく納得できたけれど、私はそれ以上に彼の仲間の事に驚いてしまう。この感じだとアーシアちゃんは有ったことがあるんだと思うけど、ピンときたらしくその事を詳しく話してくれる。種族までは聞けなかったけれど、技を聞く限りではプラチナレベルぐらいなら普通に突破できそうな感じだった。
けれどグレイシアのアーシアちゃんが話してくれている最中に、小部屋の端の方からリアン君の声が響いてくる。その声はどこか嬉しそうで、聞いただけでも何か良いことがあった、ってすぐに分かる。いきなり呼ばれてアーシアちゃんはへんな声を出してしまっていたけれど…。
「少し焦げ臭いですけど、何かあったんですか? 」
「爆裂の種か何かを使った、って感じね」
「そうなんよ! 石灰岩以外に
CaC2も採れたんやけど…」
案外大雑把なところがあるのね、リアン君って…。リアン君の方に行くと物が焼けた臭いがしたけれど、多分コット君は構わずエーフィの彼に訊ねる。私は炎タイプだから嗅ぎなれてるけど、この感じだとコット君、アーシアちゃんも割と気になってはいないのかもしれない。それで一部が崩れた白い岩壁に目を向けながら、私は採掘者の彼にこう尋ねてみる。その彼の傍には、白と灰、二種類の鉱石が色別に分けて積み上げられていた。
「僕がずっと探しとった石も見つかったんよ! 」
「石…? 他とは違って青いですけど、何なのです? 」
「青い欠片とか水の石でもなさそうですけど…」
他とは違う色だけれど、それがそうなのね? よっぽど嬉しかったらしく、かなりはしゃいでいる彼は見えない力で浮かせている青い石片を見せてくれる。掘り出したばかりで白い欠片もへばりついているけれど、青い部分は若干透き通っているような気がする。青い石といえばサファイアとか…、宝飾品が思い浮かぶけれど、リアン君の事だからそれはないと思う。
「コット君の言う水の石が近いんかもしれへんね」
「水の石が…? どういう事なんですか? 」
「キュリアさんとアーシアさんなら分かると思うんやけど、"属性の石"なんよ! 」
「本当に? リアン君、やったじゃない! 」
"属性の石"なら、リアン君の研究がまた一歩進みそうね!
「ほんまやよ! 」
「それでリアンさん? その石の属性は何なのです? 」
「まだ氷タイプでしか試せてへんのやけど、水タイプの可能性が高いんよ! 」
「水タイプ? ということは、"属性の純石"にすれば、アーシアちゃんがシャワーズにもなれそうね! 」
まさかこんなところで出逢うなんて思ってなかったけれど、コット君が使ったら、氷タイプの目覚めるパワーを水タイプに変えれそうね?
「しゃっ、シャワーズにですか? アーシアさん、そんなことが出来るんですか? 」
「そうなのですっ! 仕組みとかは分からないのですけど、今も"属性の純石"でグレイシアになってますっ。キュリアさんのネックレスもそうなのですけど、属性のエネルギーが結晶化しているみたいです」
「それ以外にも、属性によって色んな効果があるんよ。例えば"氷華の珠石"なら温度を下げて、"裂壌の珠石"…、地面タイプやと空気を乾燥させれる。炎やと逆に加熱出来て、飛行タイプなら空気を加圧できる…。僕が分かっとるんは、こんだけやな」
そっ、そんな効果があったのね…? 知らなかったわ…。
「…やけど僕の推測やと、水タイプやと空気を加湿できそうやね。減圧さえ出来れば完璧に空気のコントロールが出来るんやけど、湿度管理できるようになるだけで十分やな」
「フィフさんから聞いたんですけど、化学って温度とか湿度とかが大切みたいですからね」
「コット君、分かってくれるん? 」
「ちょっとだけ、ですけど…」
なんの事かすっぱり分からないけれど、空気を操るなんて、技みたいね…。途中から話が脱線してるけれど、リアン君は嬉しそうに石の事を教えてくれる。他の属性がどうなのかは分からないけれど、使い勝手が良さそう、私は率直にそう感じる。もしリアン君が言っている事が本当なら、私は炎と氷を貰ってるから、温度管理なら自由にできる事になる。どんな風に使ったらいいのかは分からないけれど…。
――――
[Side Filia]
「…お待たせしました。パイルソーダとナナシアイス、モモンタルトと風蓮茶になります」
「ありがとう」
「ご注文は以上でよろしいですね? 」
「ええ。…でもまさか、こんなにも早く会えるなんて思わなかったね」
「ボクもそうだよ。…フィリアさんは例の件の事、どのぐらい知ってる? 」
「"空現の穴"は全部で九ヶ所にあって、"ビースト"を倒せば消滅させられる。あとは"パラムタウン"が壊滅した…そのくらいかしら? 」
「"ビースト"の事を知ってくれてるなら、それだけで充分だよ。…だけどフィリアさん? 何でフィリアさんは、ボクが伝説側の立場で調査してる、って知って…」
「口止めされてるけれど…、このアイス、美味しいわね」
「この店はスイーツで有名みたいだからね。チェリー…、知りあいのセレビィに教えてもらったんだよ」
「セレビィ…、そういうことね? それで少し話が反れたけれど、フォスから色々と教えてもらったわ」
「フォス…、あぁ! なるほどね。じゃあ話が早いよ。これはこっち側の話なんだけど、フォスは二人で"玖紫の海溝"、もう一組が"壱白の裂洞"に討伐と、犯人グループの捕捉に向かっ…」
「ちょっ…今何て? 」
「"ビースト"の討伐と、"パラムタウン"の事件の…」
つづく