ろくのろく 検証実験
―あらすじ―
思い当たる事がある私は、イーブイに退化したアーシアちゃんを連れて“ワイワイタウン”を訪れる。
この街にある知り合いの雑貨店を訪れ、そこで化学者のリアンさんと再会する。
事情を説明しながら彼に店の奥に案内され、そこで私達はあるモノを見せてもらう。
そのうちの一つ、“変色のブレスレット”をアーシアちゃんが前足にはめると、彼女はグレイシアに姿を変えていた。
――――
[Side Kyulia]
「あっ、そういえば。リアンさん」
「ん? キュリアさん、どうかしたん? 」
「ええ。一つ見て欲しいものがあるんだけれど…」
とりあえず拾ってみたものだけれど、もしかするとリアンさんが欲しがるかもしれないわね。アーシアちゃんがある程度落ちついてから、私はふとある事を思い出す。元々アーシアちゃんの事で来るついでに聞くつもりだったけれど、ついうっかり私自身も忘れてしまっていた。その物を沢山入れてるからバッグが重くなってるけれど、訪ねながら尻尾で例のモノを取り出してみた。
「ええとこれは…、石ですか? 」
「ええ。“陸白の山麓”の頂上で拾ったのよ。着いた時は日が暮れていたけれど、青く光ってたから“属性の石”かもしれない、って思ったのよ」
ランベルとテトラちゃんは気づいてなかったかもしれないけれど、結構な数落ちてたわね…。私が一番右側の尻尾で取り出したのは、“氷華の珠石”よりも濃い青色の石。この石を持っても氷タイプの姿にならないから、少なくとも“氷華の珠石”でないと思ってる。もしそうなら室内でも雪がちらつくはずだから、多分確実だと思う。青い石だから水タイプかなとも思ったけれど、冷たくないから多分違うと思う。グレイシアの姿のアーシアちゃんも興味深そうに、けれど首を傾げながら、私がデスクの上に置いた青い石を見てくれていた。
「そうやな…、調べてみんと分からへんけど、色だけで言ったらドラゴンタイプか飛行タイプあたりとちゃうかな? 山頂ならどっちも考えられる訳やし…」
「ですけどリアンさん? “陸白の山麓”て雪山みたいですけど、それだと属性が合わないような気がするのですけど…」
そうよね? 確か“氷華の珠石”は“ウィルドビレッジ”で採れるって言ってたから、場所にも関係あるのかもしれないわね。…でも、そういえば…。
「そうよね。…けれど、山頂で戦った時、ダンジョンと違って息が切れなかったわ」
「そうなのです? 」
「ええ。闘ってる時は気付かなかったけれど、雲の上ぐらいの高さでも普通に闘えたわ」
よく考えたら変よね? 私が出した石について議論が始まったけれど、私はふと思う事があって、山頂での出来事を話してみる。山頂は雲よりも高い標高だったけれど、空気は薄くなくて、寧ろ平地と同じぐらい息が切れなかった。普通は標高が高くなれば空気が薄くなるはずだけれど、“陸白の山麓”の頂上だけは息苦しさは全く無かった。山頂の気候、って言ったらそれまでだけれど…。
「中々興味深い話やね? せやけどお蔭で属性が分かったで」
「えっ、これだけで? 」
「そうやよ。…サイコキネシス」
たっ、たったこれだけで? 殆ど私の気のせいかもしれなかったけれど、寧ろそれがリアンさんにとっては解き明かすヒントになったらしい。私の話しにうんうん、って頷きながら聞いてくれていたけれど、最後には何かを閃いたような感じで顔を上げていた。すると何を思ったのか急に超能力を発動させ、それでどこからか二本の針みたいなものを取り出してくる。その二本とも色が違っていて、一本は氷の様な水色、もう一本は土を思い出させるような茶色をしていた。
「今度は何なのです? 」
「“属性の純石”を精製する時に出た不純物。何か使えるかもしれへん、って思ってとっておいたんやけど…、見とって」
リアンさんは私が出した石も浮かせると、私達から五メートルぐらい離れて向き直る。何をするつもりかは分からないけれど、青い石を私達から見て左、二本の針を右側に移動させる。その位置でリアンさんは私達に声をかけ、二メートルぐらいの高さに浮かせたそれらを見るよう促してくる。アーシアさんも首を傾げていたけれど、ひとまず私は腰を下ろして言う通り見てみる事にした。
「まずは…」
多分実験か何かだと思うけれど、リアンさんは二本の針のうち、土色の方を青い石に向けて飛ばす。途中で拘束を解除したみたいで、土色の針は放物線を描いて青い石へと突き進む。計算されたように針先が石に触れ…。
「あっ、針が…」
針の方がボロボロとひび割れ、すぐに砕け散る。
「次は…」
針が粉状になったのを見届けると、リアンさんはもう一本の棘も同じように飛ばす。すると…。
「こっ、今度は刺さった? 」
「やっぱりな」
ビシッという音と共に、水色の針が石に突き刺さる。それも針の方も粉々にならず、そのままの状態で…。石自体もヒビが入っただけで、割れずにそのままフワフワと浮き続けていた。
「…これでハッキリしたよ。キュリアさんが持ってきてくれた石、“属性の石”で間違いないで」
「えっ、本当に? 」
「そうやよ。種明かしすると、最初に飛ばしたんは地面タイプで、後が氷タイプ。飛ばした結果はさっきの通りやけど、これで気づく事、あるやろ? 」
結果で? 一本目は砕けて、二本目は刺さったけれど…。
「もしかして、属性相性通りになってます? 」
「相性? 」
「はいです。刺さったから氷タイプには弱くて、地面タイプは刺さらなかったからそうなのかなー、て思いまして。違うかもしれないですけど、青い石て、飛行タイプじゃないでしょうか? 」
「飛行…、あっ! 」
言われてみれば、そうね。リアンさんは既に確信しているみたいだけれど、私はアーシアちゃんに言われるまで気付けなかった。よく考えたら子供でも分かる簡単な事だけれど、相性が関係しているとは思わなかった。確かにアーシアちゃんの言う通り、飛行タイプは氷に弱くて、地面タイプの技を無効化する事が出来る。この組み合わせは他の属性には無かったはずだから、先に答えに気付いていたグレイシアの彼女に言われて、ようやく私もハッとなった。
「そういう事やよ。やからアーシアさんの説で間違いないと思うで。そやからもし名前を付けるなら…、飛行タイプやから、飛翔の“翔”に“嵐”って書いて…、“
翔嵐の珠石”なんてどうやろう? 」
「しょうらん…、いいかもですねっ! 」
「いまいちピンとこないけれど…」
響き的にはいいと思うけれど、そういう読み方の文字、あったかしら…? アーシアちゃんは青い石の名前にしっくりきてるみたいだけれど、私にはあまりイメージが湧かなかった。リアンさんは多分思いつきだと思うけれど、何でそういう名前なのか、私にはさっぱり分からなかった。
つづく