ごのに 青の主張
―あらすじ―
一夜明け、ジョンノエタウンの家を出た私達は、雑談を楽しみながらウィルドビレッジへの登山を始める。
その途中で青いニンフィアのテトラちゃんの話を聴き、改めて今と五千年前の違いを実感する。
そのまま話は使える技の事になり、その過程で私はテトラちゃんに特性を言い当てられる。
私は物凄く驚いたけれど、言った本人も少数派の特性らしい。
更に話は進み、テトラちゃんは彼女とシルクさん以外にこの時代に来ている人の事を教えてくれた。
――――
[Side Miu]
「……」
「…けどフィフさん? 本当に何ともないのよね? …そう、それならいいけど」
「だけど十分となると、ろくに戦えないわね」
「シル…、フィフちゃんは前からそうだったけど、それでもするのよね? …そうよね。けどやっぱり頼っちゃうのよね」
「そうよね」
――――
[Side Kyulia]
「…へぇ、ここがそうなの? 」
「うん! 雪しかないけど、すごくいいところなんだよ! 」
まだ村を開いたばかりだから、これからが頑張りどころかもしれないわね。テトラちゃんからブラッキーの女の子、アーシアさんの事を聞いている間に、私達は“陸白の山麓”に位置する小さな村、ウィルドビレッジに辿り着いた。流石に今日は驚かなかったけれど、今の私は氷タイプとしての姿。体温が急に下がる事にも慣れたから、今日はランベルのコートは借りてない。代わりにテトラちゃんが借りているのだけれど、氷タイプだから前回ほど寒くはない。
それで村に立ち入ったところで、私達はひとまず一息つく。リア君は登っている間テトラちゃんに遊んでもらっていたから、今も凄くご機嫌。テトラちゃん自身も満更でもなかったらしく、それなりに楽しんでいるようにも見えた。…それとこれはさっき教えてもらった事だけれど、テトラちゃんはニンフィアだけれど十六歳。進化適正年齢じゃないけれど、テトラちゃん達の時代では普通の事らしい。経験を積むだけでも進化する事が出来るらしく、テトラちゃんは十三で進化したって言っていた。けれど元の時代にいる仲間の一人の方が早かったらしく、その仲間は十一、シルクさんに至っては十歳の時には進化していたんだとか。
「そうですね。何日かぶりに来ますけど、流石にこの日数では変わりなさそうですね」
「そうみたいね。門番はいなくなってたけれど、あとは人が多いぐらいで…」
「それなら丁度今ぐらいの時間は食料調達に行くような時間だから、いつもの事よ」
「調達…、という事は、五合目ね? 」
「ええ」
村が賑やかだけど、そういう事だったのね? 話を今の事に戻すと、村の広場に差し掛かったところで、ランベルは何日かぶりに感じる村の雰囲気に言葉をもらす。色んなことがあり過ぎて随分昔のような気がしてるけれど、よく考えるとこの村に初めて来たのはたった四日前…。だから急に様子が変わる事も無く、多分いつも通りの日常がそこにはあるのだと思う。…けれど前来た時とは違う事もあって、村に入る時にいた二人のニューラ、門番はその場所にいなかった。それ以外に何かを立てる予定なのか、空き地には結構な量の木材が置いてあった。これは私の想像なのだけれど、もしかするとそこには、旅行客用に宿泊施設を建てるつもりなのかもしれない。
「キュリアちゃん達も、これから山の調査に行くのよね? 」
「ええ」
「僕達も気になる事がありましてね、山頂を目指そ…」
「さっ、山頂? らっ、ランベルさん、何かの冗談よね? 」
「えっ、ええ。本気よ」
そうと決まった訳じゃないけれど、“参碧の氷原”の調査の事を考えると、同じなような気がするのよね…。少し離れたところでテトラちゃんがリア君…、と村の何人かの子供たちの相手をしてくれているけど、アリシアさんはその方を気にしながら私達に問いかけてくる。昨日を含めたここまででは詳しく話さなかったから、村の住民としても気になっていたんだと思う。けれどランベルが目的を話しはじめようとすると、彼女は今までに見た事ないぐらいの頓狂な声をあげる。いきなりだったから私もとびあがってしまったけれど、アリシアさんが驚くのは当然だと思う。
「アリシアさん達にとっては違うかもしれないけれど、山以外では“陸白の山麓”は未開の地、って事になってるのよ」
「未開の地? 」
「はい。前に潜入した五合目はノーマルレベルと報告しましたけど、その上は調査できていないですからね」
「それと合わせて、山頂まで行って昔話についても調べようと思ってるわ」
「昔話…、山の怪物の話…、よね? 」
「そうよ」
「ですから、テトラさんも入れた三人で調査…」
「てっ、テトラちゃんも? テトラちゃんってまだ子供じゃない! そんな所に…」
「私の事だよね? 」
「てっ、テトラちゃん? 」
テトラちゃん、いつから聞いてたの? そのまま私達は詳しいことを話始めたのだけれど、テトラちゃんの名前を出すと信じられない、という感じでアリシアさんは声を荒らげる。医者以前に一児の母としてだと思うけれど、私は寧ろこう言う反応された事に驚いてしまった。私達の時代はそうじゃなかったけれど、今時の新人達は十四、五歳で結成するのが普通。テトラちゃん達の時代はどうか分からないけれ…。
「どうせ私の事は知らないと思うけど、私の事を子供扱いしないでくれる? 」
「子供も何も…」
「わかった。それならアリシアさん、アリシアさんも調査についてきてよ。そこで私がアリシアさんを完璧に守る。これなら私も強さを証明できるし、あんたも山の事を知れる。キュリアさん達も、それでいいよね」
「えっ、ええ…」
テトラちゃん…。急に話に入ってきたテトラちゃんは、かなりイラついた様子でロコンの医者に言い放つ。何か口が悪くなってるような気がするけれど、もしかしたら私しかランベル、あるいはアリシアさんが言った事が気に障ったのかもしれない。そう思うと凄く申し訳なくなってくるけれど、そういう事もあって私は空返事しか出来なかった。
「僕はそれで構わないけど…、テトラさん? 」
「…あっ、ごっ、ごめんなさい! ついカッとなっちゃって…。だから今の事は忘…」
「いいえ、アタシも行くわ」
「えっ…」
ランベルも呆気に取られていたらしく、囁くようにテトラちゃんに向けて呟く。けれどある意味これで我に返ったのか、コートを羽織ったテトラちゃんは急に取り乱す。胸元のヒラヒラをせわしなく左右に靡かせ、その場を咄嗟に取り繕うとする。恥ずかしさから少し顔が赤くなっているのが可愛い、って思ったのはここだけの話だけれど…。
結局何が彼女の逆鱗に触れたのかは分からなかったけれど、テトラちゃんは勢いで言ってしまったその事を取り消そうとする。けれど言われた本人、ロコンのアリシアさんは静かに制止する。青と白の彼女とは違い落ち着いた様子で、その彼女に軽く右前足
を添えて呟いていた。
「未だこの村ではあんな古い戯言を信じているバカ共が多くいるのよ。…けどその昔話のせいで、山の開拓も進んでいないのも事実。キュリアちゃん達が調べてくれる、って言ってくれてるけど、外部の人達に任せきりになるのも示しがつかないじゃない? それに村が新しいスタートを切るいい機会…。氷タイプのアタシ達にとっても過酷だって言われてるけど、個人的に山の頂上も見てみたいのよ! …だから、アタシからもお願いするわ」
「ええ…」
この目は…、本気ね。そのままアリシアさんは、始めは嘆くように語る。かと思うと彼女は、すぐに言い聞かせるような口調に変える。その時には前足を降ろしていて、目つきも力強くなっている…。その目つきは母としてではなく、何かを決心したような…、そんな感じ。進化前だから私よりも小さいけれど、心なしか大きく見えた気がした。
つづく