ごのいち レア中のレア
[Side Light]
「…それじゃあ、そろそろ行こっか」
「うん。ええっとライト? 確かカピンタウンから船に乗るんだよね? 」
「そうだよ。シオンちゃんは三日前に乗ってるから分かるよね? 」
「うん! ワイワイタウンで降りて、アクトアタウン、っていう街に行くん…」
「おやおやライトさん、ティル君にシオンちゃん、三人でお出掛けですか♪」
「ウォルタ君達と合流するためにアクトアタウンに行くんです。…って事は、フラットさんもですか? 」
「そうそう♪ 私達も野暮用でカピンタウンに出向く事になりましてね、親方様と行くところなんですよー♪ 」
「そうなの? じゃあわたしと一緒だね! 」
「…だけどラックさんは? 俺達はすぐ発つつもりですけど」
「あぁ親方様ならもうすぐ来ると思います♪ セカイイチを持っていくんだ、って言って準備していましたから♪ 」
「そうなんですね? 」
――――
[Side Kyulia]
「…準備は出来ましたね? 」
「うん! 」
「私達はいつでも構わないわ」
ちょっと早起きだったかもしれないけれど、問題なさそうね。リアンさんから“焼炎の珠石”を受けとった後、私達は一言二言言葉を交わし合ってからその場を後にした。リアンさんの店が船着き場の近くという事もあって、ほんの数分で着く事ができた。…生憎出航まで三十分ぐらい待つことになったけれど、その間にアリシアさん達…、特にテトラちゃんとリア君が打ち解けていた。リア君はテトラちゃんに懐いたみたいで、船の中でもぴったりとくっついていた。テトラちゃんの方は始めは戸惑っていたけれど、私が見た限りではまんざらでもなさそうな感じだった。テトラちゃんの事はそこまで深くは知らないけれど、後から訊いたら子供は嫌いじゃないんだとか。
それでジョンノエタウンに着いてからは、私とランベルは二手に分かれて日課をこなした。ランベルにはテトラちゃんを案内しつつ郵便局に寄ってもらって、その間に私はアリシアさんとリア君を連れて買い物…。ちょっとした街の案内も兼ねてしたから、多分アリシアさん達はそれなりに観光を楽しんでくれていたと思う。集合住宅の三階にある自宅に帰ってからも、小さいとはいえ満足してくれていたと思う。
そして今日の話しに移ると、今朝は速めに起きて簡単に身支度…。リア君が準備をするのを待ってからだったけれど、それでも七時ぐらいには終わってたと思う。買い出しは昨日十分に済ませてあるから、多分ダンジョンに潜入しても問題ないと思う。テトラちゃんも種とか木の実を買いそろえたみたいだから…。
「問題なさそうだね。…ええっとキュリアさん? このまますぐ山を登るんだよね? 」
「そうよ。私達は一回しか行った事が無いけれど、多分テトラちゃんでも楽に登れると思うわ」
私はリア君の方が心配だけれど…、山育ちだからきっと大丈夫ね。一階に降りて西に向けて歩き始めたところで、テトラちゃんはふと私に訊ねてくる。テトラちゃんはミストタウンには寄った事がある、って言ってたけれど、流石に山登りまではしてないはず…。私はウィルドビレッジの事はあまり話さなかったけれど、登山する事を知っているという事は、もしかするとランベルかリア君から聴いていたのかもしれない。だから私はこくりと頷き、私の尺度で登山の大変さを教えてあげた。
「そうね。…だけどテトラちゃん? どうしてわざわざウィルドビレッジに? 」
「キュリアさん達には言ったんだけど、雪を見てみたいなー、って思って」
「雪? ゆきっていろんなところにあるんじゃないの? 」
「ううん。私は森の中で育ってね、殆ど見た事が無い…。活動してる地域も暖かい場所だから…」
「森? 町じゃなくてですか? 」
森…? この諸島は自然豊かだけれど、生活できるような場所なんて殆どないはずよね? テトラちゃんの時代はどうか分からないけど…。街を抜けたあたりで、話題はテトラちゃんの事に変わる。私とランベルは理由を聴いているけれど、リアンさんの店の前で合流したアリシアさん達はそれを知らない…。けれどテトラちゃんがそれを話しきる前に、ランベルが別の事を問いかけていた。私も気になったのだけれど…。
「うん。もしかしたらシルクから聴いてるかもしれないけど、私達の時代にはダンジョンは無いし、そこにいる野生みたいなひと達も存在しない。…だから親が人間に就いてないひとはみんな野良生まれ。種族関係なしに群れをつくって、助け合いながら生活してる、って感じかな?
私はあまりいい思い出は無いけど…」
「大昔は今と随分違うのね? 」
私には想像出来ないわね…。
「うん。私はこの時代には人間がいない、って事の方が驚いたけど。…そうだ。ちょっと話が変わるんだけど…」
青いニンフィアの彼女は多分、言葉を選びながら私達に教えてくれていると思う。さっき地面に傾斜がつき始めてきたのだけれど、さっきまでは明るかった彼女は、私が見る限りでは少し暗くなったような気がする…。最後の方は声が小さくて聞き取れなかったけれど、デリケートな事だと思うから敢えて聞かない事にした。テトラちゃんもあまり訊かれたくなかったのか、思い出したように別の話題を提起していた。
「キュリアさん達って、どんな技が使えるの? 」
「僕達の? 」
「ぼくも知りたい! デンリュウのお兄ちゃんたちって、すごくく強いんでしょ? 」
「ええそうよ。山の野生達も簡単に倒していたわ」
「レベルがレベルだったからね。…僕は雷パンチ、炎のパンチ、逆鱗、シグナルビームの四つ」
「って事は、接近戦がメインなんだね? 」
「そうなるわね。ランベルが接近戦だから、私は遠距離から攻撃する事が多いわ。…だから熱風、神通力、ソーラービーム、秘密の力を使ってるわ」
「へぇー。ソーラービームって、やっぱり特性で選んだんだよね? 」
「えっ、ええ…」
やっぱり、分かる人には分かるのね。
「ずっと晴れてるから、やっぱりそうだと思ったよ! 私も少数派の特性なんだけど、他人と違うから戦う時は便利だよね」
「テトラちゃんも? 」
「うん。私は特製の効果でフェアリータイプの技しか使わないんだけど、チームの中で一番威力が出せるのが自慢かな」
「チームで? 」
「そうだよ」
どういう効果なのかは分からないけれど、きっとギガインパクトの事かもしれないわね? 私の特性を言い当てられた事には驚いたけれど、それ以上に私は、彼女の特性の事が気になってきた。なので彼女に訊ねると、すぐに誇らしそうに答えてくれる。七人チームはこの時代ではかなり多いけれど、もしかするとテトラちゃんの時代では普通の事なのかもしれない。という事はテトラちゃんはチームの主力、私は率直にこう感じた。
それと今気づいた事だけれど、テトラちゃんは私以上に少ない存在なんだと思う。テトラちゃん達の五千年前の世界ではどうなのか分からないけれど、少なくとも私達の方ではめったに会えない存在…。私みたいに少数派の特性は言うほど珍しくはないけれど、毛並みの色が違うとなると話は別。確か何万人に一人の割合で、生まれつき色素細胞が欠落したり余分にあったりする、という事をどこかで聞いた事がある気がする。…少数派の特性と色違いっていう事を合わせると、もしかするとテトラちゃんは伝説の種族ぐらい貴重な存在なのかもしれない。
「私以外に三人がこの時代に来てるんだけど、そのうちのひとりはキュリアさん達も会ってるはずだよ」
「わっ、私達も? 」
「流石にそれは気づきませんでしたね」
「病院にいた時は何も言ってなかったからね。シルクの病室にブラッキーの女の子がいたでしょ? 説明が難しいんだけど、その子がそうなんだよ」
「ええっと確か…、シルクさんを救出してくれた人よね? 」
「そうだよ。シアちゃん、アーシアちゃんは…」
ルデラ諸島の救助隊員って聴いてるけれど、それだと話が合わないわね…。少し引っかかる部分もあったけれど、テトラちゃんは続けてチームの事を話してくれる。あの中にももう一人過去の世界の人がいた事もそうだけど、親子とか親戚出ない限り同じ場所に同族がいる事は稀…。それも全体的に数が少ないイーブイ系となるともの凄く珍しい。時代が違うから偶然だとは思うけれど…。
少し話が逸れたけれど、救助隊員なのにテトラちゃんと同じ時代から来てるとなると、辻褄が合わないと思う。五千年前の世界に救助隊という職業があるのかは分からないけれど、ルデラ諸島から来てる事と矛盾している。それとこれは私の見間違いかもしれないけれど、テトラちゃんが言っていたブラッキーの女の子、種族上できないはずなのに二足で立ってたような気がする…。その事についてはこれから話してくれるのかもしれないけれど、そんな事を考えながら、私は青いニンフィアの彼女の話に耳を傾けていた。
つづく