よんのご 改めて会うと…
―あらすじ―
アクトアタウンを出発した私達は、ベリーさんの案内でワイワイタウンの総合病院に辿り着く。
着いた時にはまだ手術は終わってなかったけれど、ひとり待っていたらしいブラッキーさんと話している間に終わっていた。
執刀した先生が言うには、手術は成功したけれどまだまだ予断を許さない状態らしい。
障がいが残ってしまう可能性があるって言われたけれど、シルクさんの事を知ってるからそれほど驚きはしなかった。
――――
[Side Kyulia]
「…シルクさんにそんな事があったんだね」
「うん。私も全部知ってる訳じゃないけど…」
「けれど…」
昨日見たばかりだけど、その次元になると本当に規格外ね…。あれから結構な時間が経ったけれど、手術を終えたシルクさんが個室に運ばれてから、私達はそこで詳しい状態を聞かされた。少し遅れてシリウスさんニンフィアのテトラさん、それからブラッキーのラツェルさんも来たのだけれど、シルクさんは長時間“弐黒の牙壌”にいた影響で、神経系にダメージを受けてしまったらしい。まだどこに障がいが残るのかは分からないのだけれど、これは多分、喉の事を言っているのだと思う。会った時から聴くタイミングを逃していただけなのだけれど、シルクさんは元々喉に傷を負っていて、それが最近悪化してしまったらしい。バトル…、任務中に正気を失った相手と戦って、そのせいで声を出せなくなった。…だけれどもしそうしなければ、シルクさんの親友…、テトラさんとアーシアさんのチームのリーダーの命が無くなってしまっていたらしい。…だけどその人も無傷では済まなかったらしく、左の視力が完全に無くなってしまったらしい。その人も一緒に私達の時代に来ているらしのだけれど、今は草の大陸で別の知り合いを待っていて遅れて水の大陸に来る予定なのだとか…。
それでシルクさんの事を聴いてからは、私達、シリウスさん、それから部屋にいた全員で今後の予定について話し合った。ハクさんの事も心配だけれど、ハクさんの事はチームメイトのシリウスさん、それとベリーさん達のもう一人のチームメイトが看る予定だから任せて、って言っていた。それと合わせてシリウスさんは、私達が“参碧の氷原”で戦ったあの筋肉の化身、それとベリーさんが戦ったらしい殺戮生物…、それに関する調査の指揮を執ってくれる事になった。ラツェルさんが前もって図書館で調べてくれていたらしいのだけれど、それと合わせてギルドを挙げて追調査をする、って言っていた。本当はシリウスさんも調査したい、とは言っていたのだけれど、私と同じでシリウスさんも骨を折ってしまっている。私も人の事は言えないのだけれど、ちゃんと医者にも診てもらわないといけない、っていう事でこういう事になっていた。
次にベリーさん達のチーム、悠久の風は、今日一日は休養に充てて明日から行動し始める、って言っていた。土砂災害の爪痕が残る“捌白の丘陵”にもう一度行って、今度は万全な体制であの殺戮生物を討伐しに行くつもりらしい。私は聴いただけだから分からないのだけれど、私達の時とは違って相手の属性が何となく分かっている状態…。だからベリーさんを主軸にして闘って、あわよくば捕えて保安協会に追調査を依頼する予定なんだとか。
「やっぱり、心配よね…」
「シルクなら絶対に大丈夫だよ。今までも大丈夫だったんだから、シルクに限ってここでくたばるはずがないよ」
「そうであって欲しいけど…、何でだろう。不思議とそう思えてきますね」
そうよね。ハクさんと組んであの筋肉にも勝ったシルクさんなら、きっと大丈夫よね? …話を今の事に戻すと、予定を相談し終わった私達は、帰宅するのを兼ねて次の行動をし始めようとしていた。結構な時間病室にいたから日が傾いているのだけれど、病院を出てそのまま船着き場に向かっている最中…。いつもなら私とランベルの二人だけなのだけれど、今日は青いニンフィアのテトラさんも一緒に胸突き場を目指しているところ。シルクさんの事は病院を出てから聴いたのだけれど、テトラさんはテトラさんでそこそこ経験を積んでいるらしい。ニンフィアなのに十七歳だから驚いたのだけれど、テトラさんの時代ではその歳にならなくても進化出来るのだとか。…それでそのテトラさんは私達のこれからに関係するのだけれど、雪を見てみたい、って事で一緒に調査することになった。最初は興味本位で言ったのかと思ったのだけれど、最上級技のギガインパクトを使えるみたいだから、それだけで彼女の実力が分かった気がした。
…そんな事を話しながらだったから、私達は船着き場の近くまで歩いて来れていた。シルクさんの事で不安が拭えていないけれど、ランベルの言う通り、何故か大丈夫なような気がしてきている。まだ数日しか過ごしてないのだけれど、あのシルクさんなら乗り越えてくれる、根拠はないけれどそう思えてきている。人柄もあるのかもしれないけれど、シルクさんの良さを改めて感じれたような気がした。
「シルクってそういうひとだからね。シルクっていつも無茶しちゃうんだけど、それでも…」
「…本当にええん? 」
「ええ。街を見せてもらえただけでも…」
「…あら、あの人って…」
この街に店がある、って言ってたけど、こんなに近くにあったのね? テトラさんは自分に言い聞かせるように何か言おうといていたけれど、私は近くの建物から出て来た人達に気をとられて聞きそびれてしまった。その人が普段いる街は聴いていたけれど、私はまさかこんな所で会うなんて夢にも思わなかった。その彼は話し方と容姿が特徴的だから、話し声だけですぐに気付くことになった。テトラ…ちゃんが言った事をスルーする事になったけれど、思わずその方に振りかえり、一言呟いてしまっていた。何故なら…。
「リ…」
「ええっ? なっ、何でシルクがここにいるの? 」
「ううん。凄く似てるけど、違いますね」
「そうね。…リアンさん、ここに店があったのね? 」
シルクさんと凄く似ている、エーフィのリアンさん。私も初めてシルクさんと会った時間違えたのだけれど、彼と初対面のテトラさんが驚くのも分かる気がする。何しろリアンさんは、シルクさんと種族、職業、それに白い服まで同じ…。身につけているアクセサリーと性別は違うのだけれど、遠目で見ると見分けがつかないかもしれない…。…これは私の勝手な想像だけれど、シルクさんはリアンさんの遠い先祖なのかもしれない。エーフィなのは偶然だと思うけれど、五千年違っていても同じ職業、見た目もほぼ同じだから、あながち間違いじゃないのかもしれない…。
「えっ、ちっ、違う人…? 」
「ん? …まぁそうやな。でもまさか、こんな早くランベルさん達と再会するなんて思わへんかったね」
「そうですね。…ええっと、この二…」
「あっ、デンリュウのお兄ちゃんだ! 」
「この声は…、リア君ね? 」
姿が違うけれど、そういう事ならこっちはアリシアさんね? シルクさんの事を良く知ってるテトラちゃんは取り乱してたけれど、それがきっかけでリアンさん達も私達に気付いてくれる。見慣れない二人のロコンが一緒にいたのだけれど、パッと明るい声で話しかけてくれる。つい昨日行動した今なら、そんな彼がシルクさんとハクさんを足して二で割ったような…、そんな風に思えてくる。遅れて小さい方のロコン…、リア君が元気に挨拶してくれたのだけれど、私はこの瞬間まで、彼らがウィルドビレッジでお世話になった二人だと気付けなかった。この時ランベルもようやく気付いたらしく、右手で軽く会釈していた。
「うん! …ってことは、キュウコンのお姉ちゃんだね? 」
「そうよ」
「炎タイプのキュウコンって、そういう姿なのね? 」
「ええ」
「…ええっとキュリアさん? シルクと違うって分かったんだけど…、知り合い? 」
「まだそれほど日数は経ってないけれど、そうなるわね」
色んなことがあり過ぎて昔なような気がするけれど、まだ四日しか経ってないのよね…。元気いっぱいのリア君は、私の問いかけに満面の笑みで頷いてくれる。最初は慣れない属性で戸惑っているって思ったのだけれど、この感じだと何ともなさそう。私の時は何も知らない状態だったから仕方なかったのかもしれないのだけれど、もしかするとリアンさんが前もって教えていたのかもしれない。炎タイプとしての私をもの珍しそうに見ているアリシアさんもそんな感じだから、あながち間違いじゃないのかもしれない。
そんな中話に乗り遅れていたテトラちゃんが、タイミングを見計らって私に訊ねてくる。私は訊かれるまでうっかりしていたのだけれど、彼女はアリシアさん親子、それとリアンさんとは初対面…。リアンさんがシルクさんとは別人だって分かってくれたみたいだけど、私達と三人の関係にはいまいちピンときていないらしい。首を傾げながら訊いてきたから、私は彼女達の間を目線で行き来しながら教えてあげる事にした。
「見た目で何となく気付いたかもしれないけれど、化学者のリアンさん。色んな物を作りながら、店も経営してるのよね? 」
「僕がやっとる訳やないんやけど…、まぁそうなるんとちゃうかな? 」
「…だと思います。それとこのお二人が、アリシアさんとリア君…」
「ウィルドビレッジで医者をやってるわ」
「ウィルドビレッジ…? 」
「ジョンノエタウンとミストタウンの間の雪山やな。…あっ、キュリアさん。ちょっと待っとってくれへん? 」
「えっ? ええ…」
わっ、私? ランベルも私に続いてくれたけれど、言い切る間もなくアリシアさんが話し始めてしまう。結果的に自己紹介する形になったのだけれど、アリシアさんは胸を張ってこう言い切る。けれど五千年前の世界から来ているテトさんは、いまいち分かってないらしく再び首を傾げる。そんな彼女にリアンさんが、ハクさんと似た訛りで補足を加えてくれる。…けれどその途中で何かを思い出したらしく、私にこれだけを言い残して建物の中に入っていってしまった。
つづく