Three-Third 後悔の念に差す光
―あらすじ―
自分の部屋で目を覚ましたウチは、看てくれとったソーフちゃんからシルクの事を聴いた。
ソーフちゃんが言うには、シリウスの代わりにラテ君と、その彼と同族のもう一人が追いかけてくれているらしい。
やけど話を聴いとる途中、急にライトちゃんの声がウチの頭の中だけに響いた。
ソーフちゃんに頼んで部屋に案内してもらったけど、ウチらはライトちゃんから飛んでも無い事を聴かされることになった。
――――
[Side Haku]
「…うそやろ、そのダンジョンって…」
「わたしも今日はじめて聴いたけど…」
そっ、そんな…、シルクが、あのダンジョンに…? 真夜中に来たライトちゃんから、ウチらは順を追ってシルクの事を聴いた。…けどそれは、とてもやないけど普通じゃ対処しきれない様な事やった。
まず初めに、シルクはワイワイタウンの最終便で草の大陸に向かったらしい。生憎ラテ君は乗り遅れたらしいんやけど、ラプラスのライルさんに乗せてもらって事なきを得たらしい。そこからは偶々トレジャータウンの海岸にいたライトちゃんと合流して、気を取り直してシルクを追いかけた。そんで何とか見つけたらしいんやけど、死相の原に突入したで後を追ったんだとか。
…やけど黒の花園に着いたところで、状況が一気に変わってまったらしい。ライトちゃんが言うには、シルクはそこで突然できた穴に足をとられて落ちてしまったらしい。ウチも一回だけ黒の花園には行った事があるけど、そこで行き止まりやと思っとった。けどライトさんによるとその穴が突入口やったらしく、おまけにそれは…。
「“弐黒の牙壌”…。まさかそこにあるとは思いませんでしたね」
「弐黒の牙壌? シリウスさん、何なんすか、弐黒の牙壌って」
「…連盟からは立ち入りを禁じられとる、スーパーレベルのダンジョンやよ…」
設定されとるレベル以上に危険な、幻とも言えそうなダンジョン…。
「立ち入り禁止? そんなダンジョンってあったんすか」
「そうでしゅ。水の大陸なら、参碧の氷原がそれにあたりましゅね」
「そうやな…。ウチとシリウスは連盟から直接聴いとるで知っとるけど、ウルトラランク未満のチームには名前すら知られてへん、危険なダンジョンなんよ…」
「危険な…? 」
「そうです。場所までは知らされていなかったんですけど、立ち入ったら最後、生きて出てくる事はできないダンジョンなんです…」
穴に落ちたって…、シルク…、ほんまに…。ソーフちゃんなら名前ぐらいなら知ってるはずやけど、ウチらは連盟から絶対に知らせたらアカンダンジョンとして釘を刺されとる。野生のレベルとフロアの広さはそうでもないんやけど、環境が特殊過ぎてレベルを引き上げとる。親方に就任した時に聴いた話やと、突入しただけで体力…、命を吸い取られ続けるらしい。そんな訳でギルドは、その大陸を拠点にしとるマスターランクのチームにしか、潜入許可を出してへん。ウチらにとっての“参碧の氷原”の奥地がそれにあたるんやけど、話を聴く限りではその比やないと思っとる。何しろ、ほぼ確実に命を失うダンジョンなんやから…。
「噂だと、バッジの脱出機能も使えないみたいでしゅからね…」
「脱出出来ない? って事は…」
「シリウスも言ったけど、入ったらほぼ確実に死んで…、まうんや…、よ…」
信じたくはないけど…、シルクは…、ウチのせいで…。ウチがあんな事言ったから…、シルクが…。
「わたしもそう聴いてるけど、一つだけ、突破する方法があるみたいなんだよ」
「えっ…? 」
「そう…、なん…? 」
「そうなんでしゅか? 」
あっ、あんな墓場みたいなダンジョンに、攻略法があったん? でっ、でも何でライトちゃんがそんな事知っとるん? シルクが落ちたらしいダンジョン名を聴いただけで、ウチは何とも言えない絶望感に満たされてまう。ウチと喧嘩して、あんな事を言われたせいでそこへ向かった…。ウチがあんな事を言わんければ、シルクは出ていかずに済んだ…。ウチのせいで、…
ウチが、シルクを死に追いやってしまった…。
ウチが、一番の親友を殺めてしまった…! …自分のせいでシルクを死に至らしめてしまい、ウチは自責の念に囚われる。取り返しのつかない事をしてしまった、負の感情に満たされかけたけど、知らせてくれたライトちゃんが救いの手を差し伸べてくれる。ウチ、多分シリウスにソーフちゃんも、シルクを失ったと思い込んでいたから、彼女の吉報に声を荒らげてしまう。ウチのせいでこうなってまったで、ウチはすがる思いでフワフワと浮く彼女に詰め寄った。
「ライトちゃん、本当に弐黒の牙壌を突破する方法なんてあるん! 」
「うっ、うん! ラテ君が一人で助けに行ってくれてるんだけど、敵は無視して、回復しながら走り続ければ、突破できるんだって」
「かっ、回復を? 」
「でしゅけど、ラテ、回復技、一つも使えないでしゅよ? 」
そうやんな? だってラテ君が使える技は、シャドーボール、真空斬り、黒い眼差し、守るの四つ。なのにどうやって回復するん? 走り続けなあかんのに…。ライトちゃんは少し戸惑ってまったけど、そんでもウチらにその方法を教えてくれる。教えてくれはしたけど、それは物凄く過酷な事やった。技の中に回復技があったら別やけど、四足の種族のラテ君にとって走りながらの作業はかなり難しい。その事をウチ…、ウチらはよく知っとるから、当然ウチらはライトちゃんに迫る。シルクとラテ君…、二人の親友の命がかかっとるんやから…。
「うん。だけど…、シルクが創った回復薬、知ってるよね? 」
「はい。自分達もよくお世話になってますからね」
「回復薬…、そう…、そっか。そうやんな! シルクのあの薬なら、弐黒の牙壌を突破できるかもしれへんやん! 」
ついうっかりしとったけど、あの薬の効果なら、何とかなるやん! ライトちゃんが呟いた一言で、ウチの中に電流にも似た何かが駆け抜ける。あの薬は親友の代表作とも言えるぐらい、ウチらも作って使っとる。あの薬は体力を回復するだけやなくて、自分が持っとる自然回復力も一時的に高めてくれる。そんなら体力を奪われるダンジョンでも、いつも通り活動できるはず…。ウチはそう閃いたで、思わず声をあげてまう。そのお陰かは知らへんけど、まだ心配とはいえ少しだけ心の霧が晴れたような気がした。
「そんな薬が売ってるんですか? 」
「ううん、売ってへん非売品やな」
「オレンの実とオボンの実、林檎だけで簡単にできるんでしゅ」
「瓶の中に入れた果汁を混ぜて冷やすだけですからね、今度ネオンにも教えますよ」
「本当ですか! 」
「わたし達の時代とは少し違うけど、すぐに出来るからね」
ずっと話を聴いとったネオンが、興味津々、って感じでウチらに訊いてきた。他の弟子達には教えてあるけど、ネオン達のチームにはまだ教えられてへん。…けどいくつか注意点もあるで、一律でシルバーレベルへの昇格試験の直前に教える事にしとる。試験課題の一環としてね。
…そんな訳で、暗く沈んどった部屋の空気が、一気に新鮮で晴れ渡ったものに変貌を遂げた、親友は無事かもしれない、そんな希望の光に照らされて…。
――――
[Side Minaduki]
「…交渉成立、だな」
「だな。ムナール殿、これからよろしく頼む」
「お主もな」
町の噂で聴いてはいるが…、この二人が組むとなると、何が起こるか俺でも分からねぇーな。
「…ミナヅキ、早速だが例の件、着手してくれ」
むっ、ムナール様、正気かよ? ムナール様とはいえ、冗談がキツすぎねぇーか?
「でっ、ですがムナール様? 隊長達がああな…」
「…いいな? 」
「…はい」
…ダメだ、やっぱり俺じゃあ逆らえねぇ…。あの生き物は危険すぎる…。隊長達でも心が囚われたんだ、一史学者の、護身用に爪術を身につけただけの俺が勝てるはずがない…。だがそれでもしねぇーと、俺の身が…。
「ムナール様のため、必ず…」
皇帝のムナール様に対して、俺はただの一般市民…。宮廷お抱えの史学者とはいえ、身分が違いすぎる…。気が乗らねぇーが、仕方ねぇーよな…。
つづく……