Three-Second 深夜の一室で
―あらすじ―
参碧の氷原から帰った自分達は、一度火花の二人とは別れてギルドへと戻った。
シルクと三人で戻った自分達は、フロリア以外にもフローゼルのハイドさんの出迎えを受ける。
ハクの過去を知っている彼は、ラテ君達に連れられてギルドに来ていたらしい。
しかしそこからハクの実家に関する話になり、それがきっかけでシルクとの間に喧嘩が起きてしまう。
頭に血が上った二人は互いに傷つき、シルクはギルド跳び出し、ハクはシルクの目覚めるパワーで倒れてしまう。
唖然としながらも自分は、ハクをフロリアに任せて、シルクを追って夜の街へと跳び出した。
――――
[Side Haku]
「…っ、ぃっ…たぁっ…」
「あっハクさん、気が付いたでしゅね? 」
「…ソーフ、ちゃん…」
…ウチ、何であんな事言ってまったんやろう…? ギルドに帰ってシルクと喧嘩してまったウチは、勢いに身を任せて思いもしない事をシルクに言い放ってしまった。ウチが気づいた時には言ってしまった後で、喧嘩中とはいえ大切な親友を深く傷つけてしまった。そんでシルクもそんなつもりは無かったと思うんやけど、彼女もウチに対して攻撃…、それも反射的に最大まで溜めたドラゴンタイプの目覚めるパワーを命中させてきた。…ウチは薄れる意識の中で、出ていくシルクを止めて謝ろうとしたけど…、そこまでしか覚えてへん…。
…で、多分フロリアが世話をしてくれたと思うんやけど、ウチは気を失っとる間に自分の部屋に運ばれとった。部屋の小窓から入る光は暗いけど、多分ウチが倒れてから結構な時間が経っとると思う。そんで首元…、シルクの目覚めるパワーが当たったところの痛みで目が覚めたウチは、その痛みで思わず顔を歪めてまう。そんなウチに、いつからおってくれたんかは分からへんけど、シェイミのソーフちゃんが心配そうに声をかけてくれた。
「ハクさん、怪我の方は大丈夫なんすか? 」
「ネオン…、そうやな…、まだちょっと痛むな…」
シルクの特殊技は種族の限界を超えとるでなぁ…。久々に食らったけど、やっぱ敵わへんなぁ…。ソーフちゃんに続いて、一緒に居たらしいギルドの弟子、ケイコウオのネオンも、水路から顔を出してウチに話しかけてくれる。彼のチームはまだまだ新入りのノーマルランクやけど、その分吸収も凄く早い。
ギルドの弟子には“様”付けさせるのが親方とか副親方何やとは思うんやけど、実家の事を思い出してまうでそうさせてへん。あんな親みたいに驕り高ぶりたくもないし、ウチらが威張っとるように見られる気がする…。それに“様”付けされると貴族出身…、金と権力の象徴やって周りに知らしめるようなものやから…。
「シルクさんもそう…」
「…そうや! シルク…、シルクはどうなっ…、ったん? 」
「しっ、シルクさん、でしゅか? 」
「シルクって、昨日から来てるエーフィの? 」
…そうやん、シルク、ウチのせいで出てってまったけど、戻ってきとるんかな…? 戻ってきとるんなら、すぐ謝りたいんやけど…。ソーフちゃんは何かを言おうとしとったけど、その言いかけた一言でウチは大切な事を思い出す。それは少し前に喧嘩して出ていってまった、大切な親友のシルク…。喧嘩中やけど、そのそも悪いんはウチが自分の事を何も言わんかったから…。喧嘩の原因を作ったんはウチやし、謝って今度こそちゃんとウチの事を話しておきたい。ちょっとシルクに対しては負い目を感じてまっとるんかもしれへんけど…。
…そんで、ウチが急に声を荒らげたから、看てくれとった二人を驚かせてまった。そのせいで首元が痛んだけど、構わず親友の事を彼女達に尋ねた。
「そうでしゅよ。ミーはフロリアさんとシリウスさんからしか聴いてないでしゅけど、ラテともう一人が代わりに追いかけてくれてるみたいでしゅ」
「ラテ君が…? 」
「はいでしゅ」
ソーフちゃんが来とるで何となくおるような気がしとったけど、ウチらの事に巻き込んでまったなぁ…。後でラテ君にもお礼を言っとかんと…! この感じやと事が起きた後に着いたんやと思うけど、ソーフちゃんは知っとる限りのことをウチに教えてくれる。彼女自身も全部は知らへんみたいやけど、そんでもウチにとっては十分。ラテ君に任せる事になって待ったのは申し訳ないけど、その分安心できたような気もした。
「最初はシリウスさんが追いかけてたみたいでしゅけど、途中で会ったから頼んだみたいなんでしゅ」
「途中で? それにもう一人って…」
「ミーは会った事がないんでしゅけど、他の諸島の救助隊をしてるブラッキーの女の子みたいでしゅ」
「ラテ君と同じ種族なん? 」
「…みたいでしゅ。ベリーから聴いたんでしゅけど、その子も元々人間だったみた…」
元人間のブラッキー二人って…、そんな偶然もあるんやな。ソーフちゃんの話しを聴いた感じやと、偶然に偶然が重なった、そんな風にウチは感じた。人通りの少ない日暮れ後にばったり出くわすのも稀やけど、同じ種族の二人が同じ事をするんも珍しい。おまけに二人揃って元人間ってなると、もの凄く低い…、あり得んような低確率の事が起きてる。…そもそもラテ君以外に元人間の子がおったって事にも驚いたけ…。
『ハクさん、シリウスさん、ライトです! 』
「っん? 」
『起きてたら開けてください! 』
「ハクさん、どうかしたんすか? 」
らっ、ライトちゃん? こんな時間に何でライトちゃんが? ソーフちゃんは例のブラッキーの事を話してくれとるけど、その途中で急に、ウチの頭の中に一つの声が響き渡る。いきなりってのもあるけど、焦りを含んだその声にウチは思わず声をあげてまう。この感じやとウチにしか聞こえてへんらしく、ずっと耳を傾けとるネオン、ソーフちゃんも不思議そうに首を傾げていた。やからウチは…。
「何でなんかは分からへんけど、ソーフちゃん、入り口を開けてきてくれへんかな? 」
「ロビーの、でしゅか? こんな時間に何…」
「テレパシーで聞こえたんやけど、ライトちゃんがそこまで来とるみたいなんよ」
「らっ、ライトさんがでしゅか? 」
そこまで来とるらしいライトちゃんのために、ソーフちゃんにこう頼む。ウチもさっぱり分からん状態やけど、それは二人も同じ…。そやけどそのままやと分からんままやから、とりあえずは…。ウチもこんな時間に来たで驚いたけど、ソーフさんはもっとやと思う。彼女の事を全く知らへんネオンは、相変わらずモヤモヤしたような顔しとるけど…。
「そうやよ! 」
「じゃっ、じゃあ、行ってくるでしゅ! 」
ソーフちゃん、頼んだで。本当は親方のウチが行かなあかんのやけど、正直言ってまだ痛むから動けそうにない…。そういう訳で頼んだけど、この感じやと察してくれとるらしく、ソーフちゃんはすぐに頷いてくれる。かと思うと彼女は、すぐにウチの部屋から駆けだしてロビーの鍵を開けに行ってくれた。
「…ハクさん? そのー…、誰なんですか、ライトさんって」
「そっか、リル達以外、ライトちゃんの事は知らんのやったね。…ライトちゃんもウチの友達で、シルクと同じ五千年前の世界出身のラティアスなんよ」
まぁネオンが知らんのもしゃぁーないやんな? ウチのギルドに入門してから五日目のネオンは、ソーフちゃんが出ていった後でウチに尋ねてくる。やからウチは、久しぶりに会える彼女の事を思い浮かべながら、ライトちゃんの事を教えてあげる。…よく考えたら、ウチも含めて変わった経歴の友達が多い気がする…。シリウスとフロリアは三千百年代の出身やし、シルクとライトちゃんに至ってはそれから更に千百年前…。チェリーは消滅した世界の七千二百年代出身やし、ラテ君は五千百年代の元人間らしい。
「ラティアス…? 聴いた事ない種族だけど…」
「ウチはこの時代の人には逢った事無いんやけど、ライトちゃんは伝説の種族やでな」
「でっ、伝説? 」
まぁネオンが驚くのも無理ないやんね? ウチのギルドに所属しとるからやと思うけど、ネオンは過去の世界出身と聴いてもそれほど驚かなかったらしい。普通ならそれだけで声を荒らげるところやけど、多分シリウスとフロリア、それから昨日からおるシルクで聞きなれたんやと思う。やけど流石に伝説の種族となると、そうはいかへんかったらしい。ほんまにウチのギルドが特殊すぎるでしゃぁないんやけど、ウチのギルドのメンバーは割と伝説の種族には慣れとる。セレビィのチェリーが出入りしとるでなんやけど、それ以外にも割と伝説の種族との繋がりがあるのがここの特徴…。やけど弟子入りして五日目の彼は、その限りやない。当然彼は、ウチが言った伝説の一言に、声を荒らげてしまっていた。
そんな感じでライトちゃんの事を話しとると、ウチの部屋が一番近いって事もあって、廊下の階段の方から二つの足音が聞こえてくる。大きさが違う二つの音やから、そのうちの軽い方はソーフちゃん。そしてもう一つは、若干爪が引っかかる音が混ざっとるで、パートナーのシリウスやと思う。
「そうやよ。…あっ、来たね? シリウスも起きとったんやな? 」
「結局自分も眠れませんでしたからね」
「…やっぱり、シルクの事だよね? それにハクさん、久しぶり」
「そやな」
ウチの予想はあっとったみたいで、開けられた部屋の扉の外から、その通りの三人が入ってきた。最初に入ってきたんは、真夜中やけどボーっとしてへんアブソル。その次に、ウチの事を看てくれとったシェイミ。それから最後に、遥々五千年前の世界か来てくれとるラティアス。
「…そやけどライトちゃん? その左目、どうしたん? 」
「あっ、この包帯の事? 最近見えなくなってね…。…そんな事より、シルクの事なんだけど…」
…やけどラティアスの彼女、ライトちゃんの左目には、少し汚れが付いた包帯が巻かれていた。翼を畳んで入ってきてくれたライトちゃんに、ウチは気になった事をすぐに問いかける。パッと見その包帯の事以外は何も変わらんけど、巻いとるってことは、何か怪我をしたんやと思う。この感じやとシリウスも知らんみたいで、聞き逃すまいと聴き耳をたてていた。
もしかしたらウチに訊かれる前からそのつもりやったんかもしれへんけど、ライトちゃんは右手で患部を指しながら話始める。見えなくなった、って大ごとのはずやけど、ハイドと同じようにあんま気にしてへんらしい。
そんなライトちゃんは、思い出したように別の話題を提起する。ライトちゃん自身の事も気になるけど、シルクの事も同じ…。すぐにライトちゃんは話してくれたけど、彼女から語られた親友の事に、ウチ、多分シリウスも、思わず言葉を失ってしまった。その内容とは…。
つづく……