Two-Fourth 祭壇前の惨状
―あらすじ―
後発隊として未開の地に足を踏み入れたウチ、シルク、ランベルさんの三人は、潜入早々モンスターハウスに迷い込んでしまう。
シルクの“絆の加護”のお蔭でダメージは受けへんけど、あまりの数の多さに膠着状態が続いてしまう。
シルクが創ってくれた薬品や道具も使いながら戦ってはいたけど、そんでも思うように進むことができなくなってしまっていた。
――――
[Side Haku]
「…ひとまず、ダンジョンは抜けれたようですね」
「吹雪も治まってきたみたいやし、そうかもしれへんね」
『…らしいわね』
大分時間かかってしまったけど、ここまで来れたのも、ランベルさん達とシルクのお蔭やな。あれからも結局戦いっ放しやったから、ウチらはかなりの時間を使ってしまっていた。シルクの“チカラ”のお蔭で傷一つ受けてへんけど、その分エネルギーの消費と疲労の度合いがシャレにならない…。シルクはあの針のお蔭で温存できとるみたいやけど、道具を使ってもウチらは三回ぐらいエネルギー切れを起こしてしまっている。けど先発隊のシリウスとキュリアさんが先に通っとった場所やったらしく、終盤はあまり戦闘をせずに済んだ。そんでダンジョン特有の空気も抜けたで、ウチら三人は揃ってホッと一息ついていた。
『足跡があって空も晴れてるから…、シリウス達はもう着いてるかもしれないわね』
「そうみたいですね。ですからひょっとすると…、キュリア達は戦闘を避けて進ん…」
「ねぇシルク? ランベルさんも、何か聞こえへん? 」
気のせいかもしれへんけど、何か鈍い音がしたような…。シルクは一度足元に視線を落としてから、ウチらの方に目を合わせる。その彼女の白い瞳は、“チカラ”を発動させとる影響で薄ーい水色に染まっとる。今は前を歩いとるで分かりにくいけど、シルクの瞳の軌跡に同じ色の残像があるはず…。
話を元に戻すと、シルクは明るい表情でウチらに、予想を交えて語ってくれる。ウチらの進む先に二つの足跡が残っとるで、多分誰でもそう感じると思う。もちろんランベルさんもそう思ったらしく、シルクに続いて視線を前に向ける。けどその途中で、ウチは何か聞こえた気がしたで、ランベルさんの言葉を遮る。何の音かはよく聞こえへんけど、何か激しいような鈍重なような…、そんな感じ。
『音…? 言われてみれば聞こえなくはないような気もするけど…』
「けど状況的には、僕達五人しかいないはずですよね? 」
「そうやんな? …けどこの感じ、何か…」
『戦闘…、かしら? …っと、こうしてはいられないわ! 』
やっぱそうやんな? ウチがこう言ったら、シルクはやっと気づいてくれたらしい。一瞬首を傾げとったけど、何となく…、っていう感じで語尾を流していた。多分ランベルさんも気づいとると思うけど、彼はこのダンジョンにいる筈の人物の事を考えとるんやと思う。シリウス達の事を思い浮かべながら、ウチらが進む先に目を向けていた。
ウチもそうやと思っとるけど、聞こえとる音がタダの音やないような気もしとる…。何か言葉にし辛いけど、シリウス達が何かしとる…、いや、何かに巻き込まれとる…、根拠は無いけど、長年の勘でそんな風に感じてしまっとる。シルクはどう感じたんかは分からへんけど、この慌てようからすると、平穏やない、少なくともそう思っとるんかもしれへん。それどころか、エスパータイプとしての勘が働いとるんかもしれへんけど、切羽詰まったような感じで駆けだしていった。
「シルク…! …ランベルさん! 」
「言われなくてもそのつもりです! 」
この感じ、絶対に戦っとるやんな? シルクが一人で走ってってまったで、ウチらも慌てて後を追いかける。一度ランベルさんと顔を合わせてからやったから遅れてまったけど、それでもウチは一気に風を切る。這っていってもええんやけど、やっぱそれよりは飛んだ方が早く進める。耳元の羽で風を受け、助走をつけてふわりと浮き上がる。水ん中を飛ぶのとは別のイメージで全身を撓らせ、重心も頭の方に傾ける。そうする事で加速し、ウチはシル…。
「っきゃぁぁっ! っくぅ…っ! 」
『えっ…、うそ…』
「きゅっ、キュリアさん! 」
ちょっ、ちょっと待て! 何が何だか全然分からへんのやけど? ウチらが駆けつけたそこには、目を疑う様な光景が広がっていた。この場所は何かの遺跡らしく、氷っぽい何かで出来とる何かがぽつんと白い雪の中に鎮座しとる。そやけどその前では、おそらく何者かとの戦闘が繰り広げられていたらしい。闘っとったんは、チーム明星の副リーダーでキュウコンのキュリアさんと、何か筋肉の塊って言えそうな何か…。その何かにキュリアさんは跳びかかっとったんやとは思うけど、日焼けしたような肌色の何かの反撃に遭ってしまったらしい。急所の胸部の辺りを思いっきり殴られ、その勢いでキュリアさんは何十メートルもフッ飛ばされてしまっとる…。それに今見つけれたけど、既に気を失ってしまっとるらしく、祭壇の前でシリウスも倒れとる。二人とも諸島を代表するような実力者のはずやのに、為す術無く全滅させられた、丁度その瞬間だった。
「なっ…、シリウスさんまで? 」
『嘘よね? …とっ、兎に角、ハク、ランベルさん! 私があの生き物を引き付けるから、その間にシリウスとキュリアさんの安全を確保して! 』
「しっ、シルク! 待っ…」
シルク、いくらシルクでも無謀すぎるやろ! もちろんウチもそうやけど、ランベルさんはこの光景に唖然としてしまう。けどシルクだけはウチらと違い、ハッとウチらの方に振りかえって強めの口調で言葉を伝えてくる。そのお陰でウチは我に返ったけど、シルクはそれだけど吐き捨てると筋肉体の方へと駆けていってしまう。咄嗟にウチは呼び止めようとしたけど、こうなったらシルクは無理をしてでも倒しにいこうとしてまう。やから、ウチは…。
「シルクさん、いくら何でも一人では無謀…」
「ウチも戦う! そやからランベルさん、二人の事は頼んだで! 」
「えっ、ハクさ…」
ただでさえシルクは喉を手術したばかりで病み上がりやのに、あんな得体のしれない化け物と戦ったら、タダでは済まへんやん! そやからせめて、ウチも加勢して時間を稼げば…、ランベルさんがシリウスとキュリアさんの事を看てくれる! ランベルさんは無謀ですよ、そう言おうとしとったんやと思うけど、ウチが再び声を重ねて止めさせる。探検隊としては先輩のランベルさんの事を無視してまうけど、それよりもウチは親友の身の方が大事。これが普通の凶悪犯とかやったらそうは思わんかった気がするけど、今回はシリウスとキュリアさん…、マスターランクの二人を倒した化け物が相手。シルクはどうかは分からへんけど、この化け物がどんな種族なんかはウチは知らへん。もしかしたら、シルクは二千年代で見た事がある可能性があるんかもしれへんけど…。
「…レ、ツヨイ。オレ―、キンニク、サイキ…」
「―――、――! 」
「十万ボルト! シルク、ウチも戦うで! 」
『ハク…! …ええ、わかったわ! 』
兎に角、まずはこの化け物を倒さん事には何も始まらへんやんな? 筋肉の塊とも言えそうな化け物は、キュリアさん達を倒したことに自惚れとるのか、絶えずポーズをとって自賛しとる。完全に背を向けとるで、多分シルクの行動には全く気付いとらんとは思う。口元でシャドーボールと目覚めるパワーを混ぜ合わせて撃ちだしとったけど、気付いとる素振りは全く無かった。
やからその間に、ウチも化け物との距離を詰める。それと同時にエネルギーレベルを高め、それに電気の属性を纏わせていく。今シルクはあの針は出しとらんけど、それが無くてもウチだけで牽制は出来る。こう言い放ちながらシルクの横に躍り出て、問答無用で筋肉体に向けて解き放った。
「―っ? 」
「何者か知らへんけど、今度はウチらが相手やで! 」
牽制のつもりやったけど、あんま効いてへんっぽいなぁ…。ウチの電撃、シルクの無属性の球弾、両方とも同時に命中したけど、あんま堪えとる様子は無さそう。けどこれでウチらの存在に気付いたらしく、ふっとウチらの方に振りかえった。
それを合図に、ウチらは同時に行動を開始する。ウチは尻尾でバッグから二つの種を同時に取り出し、目の前の筋肉塊にに向けて投擲する。一つは睡眠の種で、もう一つはシルクが創った焼炎の種。前者を先に投げて、相手の眠り状態を狙う。このタイミングに合わせて、シルクは一つの小瓶を超能力で浮かせる。ウチが投げた睡眠の種に追わせるように風を切らせ、同時に瓶の蓋も緩める。その時には睡眠の種が化け物の顔? に命中する。多分砕けて睡眠作用のある粉末を吸い込んだと思うけど、それを確認する間もなく焼炎の種が弾ける。このまま炎が上がり、化け物に炎が纏わりつく…、かと思ったんやけど、そうはならへんかった。シルクが投げた小瓶ん中の液体に引火したんかもしれへんけど、炎が見えた瞬間、派手な爆発が化け物がおる場所で起こる。少し肌寒い場所やったけど、その瞬間だけはキュリアさんの熱風が発動した時みたいな、焼けそうな風が吹き抜けてきていた。
「アツイ。―オレ、ツヨイ、スキ。オレ、タオス! 」
「臨むところやよ! 」
『もちろんそのつもりよ! 絆の名に賭けて、全力でお相手するわ! 』
例え相手が何でも…、シリウスとキュリアさんを倒すような化け物でも…、ウチとシルクが組めば…、シリウスがおれば言う事ないんやけど、勝てへん敵なんておらへん! 親友同士のウチらが組むんやから、負けるつもりなんて…
絶対に無いで! そやから、何者か知らへんけど、覚悟しぃや! つづく……