Two-Third 化学者の戦法
―あらすじ―
二組に分かれて参碧の氷原南部を突破したウチらは、中継点で作戦会議を開いた。
そこの状態から北部の状態を予想し、それも合わせてチーム編成を検討した。
その途中で技と特性を確認し、全員で組み合わせを考える。
最後にシルクが装備品の事を話し、それも含めてペアを決定した。
――――
[Side Haku]
「…やっぱこの寒さだけは敵わへんよ」
「僕もそうですね。…ですけどここまで強い吹雪だと、気配をするのも大変ですよ」
前もそうやったけど、天気は最悪やでなぁ…。作戦会議を済ませたウチらは、少しタイミングをずらして未開のダンジョンに潜入した。潜入する組み合わせは南部とは変えて、ウチはシルクとランベルさんで、シリウスはキュリアさんと組んどる。戦い方を優先して編成したで、多分どっちのチームも不得意な事を補いあえると思う。…そもそも五人とも経験積んどるで、そこまで気にかける必要もないと思うけど…。
そんで二、三分遅れて潜入したウチらは、ダンジョン内の状況に圧倒されてしまう。真っ先にウチらに襲いかかってきたんは、ダンジョンの野生やなくて叩きつけるような吹雪。ただでさえ寒いのは種族上苦手なところに、冷え切った氷の粒が牙をむいてくる。シルクが創ってくれた発熱薬のお蔭て、多少はマシやけど…。
『そうよね。私も今まで色んな場所に潜入してきたけど、ここまで酷い吹雪は初めてね…』
「ウチはここは二回目やけど、前はここまでやなかったでなぁ」
「そうなんですか? 」
「そうやよ。前もホワイトアウトしとったけど、もう少し先まで見えたんよ」
前も天候は悪かったけど、こんなに見通しが悪い事は無かったでなぁ。まだ北部には潜入したばかりやから、ウチらは揃って荒天に対して感想をもらす。シルクもこう言っとるって事は、五千年前の世界でもここまでの天気は無かったんやと思う。ウチも経験してきた以上の事やったから、彼女に続けてこう呟く。一応このダンジョンの事については知っとるって事になっとるで、ランベルさんはウチに確かめる様に尋ねてきた。
『ハクでさえそう言うとなると…、厄介ね。“チカラ”を使うこともできるけど…』
「シルクの“チカラ”やと、天気のダメージまでは防げへんでなぁ…」
「“チカラ”…、ですか? 」
『ええ。技というより、能力、って言った方が良いかもしれないわね』
そうやな。シルクの“チカラ”はそっちの方が近いでね。シルクもこの天気の事は気にしとるらしく、真っ白な空を見上げながら言葉を伝えてくる。直接表情を見た訳やないけど、どこか不安そうな…、そんな感情が響いてきた声に混ざってたような気がする。その途中に入っとる言葉の事は知っとったけど、ウチにも言いようのない不安が襲いかかってくる。いつものウチならそうは思わんかったと思うけど、ウチはシリウスと二人で潜入した時、このダンジョンで気を失っとる。その“チカラ”についてランベルさんに訊かれたけど、そんな事を考えとったですぐには答える事が出来なかった。
「そうやな。もしかしたら聴いとるかもしれへんけど、シルクはおとぎ話に出てくる伝承に関わ…っ! 十万ボルト! 」
「――、――っ! 」
『どうやら、ゆっくり話している暇なんて無さそうね』
そうやな。…やけどまさかこんなに早く出くわすなんて思わんかったでなぁー。シルクはおとぎ話の伝承に関わっとる、ウチはランベルさんにこう言おうとしたけど、視界の端の方で何かが動いたような気がした。やから即行で電気を体に纏わせ、その方向、ウチから見て左斜め前五メートルぐらいの位置を狙って解き放つ。ホワイトアウトしとって四メートルぐらいしか見えへんから、ウチは一瞬気のせいかと思った。やけどシルクも同じタイミングで属性の無い牽制球を打ち出していたで、そうじゃなかったらしい。
「みたいですね」
「…ッ! 」
『だけどこれだけの数がいないと、戦い甲斐が無いわね』
「やけどシルク、病み上がりなんやから無理せんようにね」
そういう所が頼もしいんやけど、シルクって結構無茶してまうでなぁー。ランベルさんも戦闘態勢に入り、右手だけで鞄から何かを取りだす。横目で見ただけやから見間違いかもしれへんけど、彼は多分炸裂の枝を取り出したんやと思う。引き抜くと同時に杖を振るい、一発の光球をマニューラに向けて飛ばす。完全に体力を削りきる事は出来てへんかったけど、近づかせるのを防ぐ事は出来ていた。
他にも何体かに囲まれとるけど、こういう状況でもシルクは落ち着いとる。寧ろ戦いたくてウズウズしている、そんなようにウチには見えた気がする。サイコキネシスで何本かの針を鞄から取り出し、自分の近くにフワフワと漂わせている。それが何なのかは分からへんけど、何かを試そうとしている、それだけは分かった気がした。
「ですけどこの数…、一発目の戦闘では避けたかったですね」
「そうやな。この先もまだまだ続く訳やから、温存したかったけど…」
『分かったわ。それなら…』
そうするのが得策やけど、この数やとそうも言ってられへんでなぁ…。吹雪に紛れて気付くのが遅れてまったけど、この感じやとウチらは、モンスターハウスに足を踏み入れてしまったらしい。今は雪のせいで影しか見えへんけど、ざっと見た感じやと十体以上がウチらを囲んどる…。種族もさっきのマニューラだけやなくて、ドクロッグとかガマゲロゲみたいな、氷タイプ以外の種族も沢山おる。全部が全部そういう訳やないけど、電気タイプの技を使うウチら三人にとっては、厄介な相手になりそう。
『本当はもう少し後で発動させるつもりだったけど、こうなっては仕方ないわね』
「“―――、――――”…っ! 」
「“チカラ”、発動させるんやね? 」
この感じ、久々やな! シルクは自分の中で何かを決めたらしく、独り言のように言葉を伝えてくる。本当に独り言やったんかもしれへんけど、テレパシーは頭で念じて言葉を伝える方法やから、自然と響いてきたんやと思う。かと思うとシルクは、目を閉じて意識レベルを高め始める。声は出てへんけど、いつもなら発動のきっかけになるセリフを唱えていた。
するとウチ、多分ランベルさんも、守られるような温かい何かに包まれる。それと同時に、ウチらに青色の光が一瞬纏わりつく。かと思うとそれは弾け、何事もなく雲散する。
「こっ、これは何ですか? 神秘の守りとは違うみたいですけど…」
『“絆の加護”という“チカラ”でね、私がやられさえしなければ、攻撃技を完全に防ぐことが出来るわ』
「ただその代わりに、シルクは一発でも攻撃を食らったらやられてまうんやけど…」
シルクは元々やけど、この“チカラ”使ったら完全に守りが無くなるでな。当然ランベルさんは初めて経験するで、周りの敵を警戒しながらも驚きで声を荒らげる。もちろんウチとシルクも警戒しとるけど、そんな彼に簡単に“絆の加護”の事を教えてあげる。この“チカラ”は発動者、シルクの守備力をゼロにする代わりに、五人までの味方に強力な護りを授ける事が出来る。うろ覚えやから自信は無いけど、確か伝説の種族とメガ進化した人以外の攻撃を防ぐことが出来る。やけどシルクが一度でも攻撃される、それかその二パターン攻撃を受ける、護られと側も後者の攻撃を受けると、解除されてしまう。本当は戦闘向きの“チカラ”やないみたいやけど…。
「諸刃の剣、といった感じですね? 」
『少し違う様な気もするけど、似たような感じね』
「―――! 」
「そうやな! 竜の舞! 」
「炎のパンチ! 」
兎に角、シルクの“チカラ”も発動できたわけやし、思い切って接近しても大丈夫そうやな。簡単な説明しか出来へんかったけど、ランベルさんは何とか分かってくれたらしい。そんな彼にシルクさんは、若干複雑な顔をしとったけどこくりと頷く。けどすぐに戦闘に意識を切り替え、先陣を切って敵軍団に向かっていく。さっきから浮かせている針、六本ぐらいをサイコキネシスで操り、まんべんなく散らばらせる。同時に十万ボルトも発生させ、完全に攻勢に移っていた。
それに一歩遅れて、ウチとランベルさんも行動を開始する。ウチは体中の筋力を活性化させ、補助技で自身を強化する。氷を滑るように這ってランベルさんと並走し、炎の拳を向けている方向とは別の敵に狙いを…。
「グァァァッ! 」
「ガァッ? 」
「なっ、何が起きたん? 」
「もしかしてシルクさん、ですか? 」
『ええ! 実験が成功した、って感じかしら? 』
もっ、もしかして、さっきから浮かせとった針で誘導したん? 狙いを定めてアクアテールで叩きつけようとしたけど、ウチ、多分ランベルさんも、シルクが発動させた十万ボルトの動きに圧倒されてしまう。上手く言葉に出来へんけど、さっきから浮かせとる六本の針に電気が纏わりつき、その電気で一筆書きするように針と針の間を行き来させる。その間にもう一本の針を口に咥えて取り出し、シルクから見て正面におるクレベースを狙って飛ばす。相当鋭いらしく、シルクに投げられた針はクレベースの額に突き刺さる。するとそれが合図になったのか、周りに漂っていた針が、一斉に針先をソレに向ける。かと思うと、全く同じタイミングで、纏っていた電気がクレベースに刺さっている針に集まっていた。
更にシルクはそれだけでは止めず、電気を流しきった六本の針を操って別の六体に突き刺す。すると今度はさっきの光景を逆再生しているかのように、痺れて気を失っとるクレベースを中心に電気が六方向に散らばる。多分シルクが操っとるからやと思うけど、まるで六岐の電撃に命が宿っとるような…、そんな風に見えた気がした。
『銀の針にちょっとした細工をしてね、二種類の針の間を電気がいったり来たりするようにしているのよ』
「グヮァッ…! 」
『それぞれにプラスの電荷とマイナスの電荷を持った置換基を修飾してるから…』
「化学を使って、そうしとるんやね? アクアテール! 」
『…単刀直入に言うと、そうなるわね』
「これが化学、なんですか…」
大昔の技術やから分からへんけど、要はそういう事とちゃうかな? シルクは自分で創った針の事を説明しようとしとったけど、長くなりそうやったから途中で遮った。どのみち聴いても分からんで、バトルに集中するためにも無理やり意識をそっちに引き戻す。無理やり話を終わらせたから不服そうやったけど、シルクはそれでも、無理やりに締めくくってウチの発言に応じてくれた。
その頃にはシルクが八体ぐらいの敵を倒しとったから、ウチもそれに続いて水を纏わせた尻尾を鞭のように
撓らせる。吹雪のせいで飛び散った水滴が氷ついとるけど、ひとまずウチらは大量にいる野生の群れを倒す事に専念することにした。
つづく……