Two-Second リベンジするために…
―あらすじ―
参碧の氷原に足を踏み入れた明星、火花、シルクの五人は、簡単な打ち合わせを済ませ、二組に分かれて潜入する。
自分は昨日一日を過ごしたデンリュウのランベルさんと組み、東側のルートで中継点を目指す。
小雪の降る中互いの事を確認していると、野生と遭遇したので戦闘を開始する。
難なく敵を倒し、自分達はエネルギーを温存しながら突き進んでいった。
――――
[Side Haku]
『…これで五人全員揃ったわね』
「そうやな」
ここまではブロンズレベルやし、楽勝やな! 女子チーム、男子チームに分かれとったウチらは、予定通りに中継点で合流する事が出来た。シリウス達はどんな風に突破したのかは分からへんけど、ウチらよりも遅れとったで、攻撃技を使わずに進んどったのかもしれない。対してウチらは、シルクの調子の確認、それとキュリアさんが氷タイプに慣らしてからは、戦闘はせずに駆け抜けた。氷タイプのキュリアさんの特性は雪降らしみたいで、炎タイプん時は晴れとったけど雪に変わっていた。
確認は済んだで今は金色の毛並みに戻っとるけど、それでも中継点のここは雪が積もっとる。ウチの体の長さからすると、深さは多分四十センチぐらいやと思う。純粋なドラゴンタイプのうちには堪えるけど、チームリーダー…、それもギルドの親方のウチがそんな弱音を吐く事は許されへん。シルクは白衣、ランベルさんはキュリアさんの毛並と同じ色のコート、シリウスは体毛がフサフサやから問題なさそうやけど…。
「自分達が遅れをとってしまいましたけど、五人とも大丈夫そうですね」
「ええ。…だけれど、中継点のここでこの深さという事は、この先は相当吹雪いているかもしれないわね」
「そうみたいですね。キュリアの日照りはそこそこ強いんですけど、それでも融けないとなると…、気候は最悪かもしれないですね」
「そうやな。一応ここはキュリアさんのお蔭で晴れとるけど…」
ひょっとするとシリウスと二人で来た時よりも、酷い吹雪が起きとるかもしれへんよな…。積った雪と同化しかけとるシリウスは、ウチら全員に目を向けながら安否を確認する。雪まみれで毛並みが湿ってきとるけど、シリウスならまぁ大丈夫やと思う。キュリアさんはシリウスに続き、九本生えとる尻尾を雪の上に上げた状態で、白一色の景色を見渡す。多分自分の特性の事も考えながらやと思うけど、これから潜入する未開の地の状況をこう予測する。チームメイト…、いや、婚約者のランベルさんもそれに付け加え、豊富な経験と照らし合わせて分析していた。
「ここでこんな状態やから、この先はろくに前が見えへん可能性が高いかもしれへんよ…」
ほんまに最悪な状態やな…。
「十分あり得ますね。…ですので、一度僕達の技と特性、戦略とも照らし合わせて、チームを組み直してみましょうか」
『ハク達でさえ断念したぐらいだから、その方が良いわね。…そうね、ランベルさん以外は知ってると思うけど、私が使えるのはサイコキネシス、シャドーボール、ドラゴンタイプの目覚めるパワー、朝の日差し、十万ボルト、ハイドロポンプの六つ。一応近距離でも戦えるけど、誰がどう見ても中、遠距離タイプ、ってところかしら? 』
「じゅっ、十万ボルトですか? シルクさん、エーフィは…」
「ランベル、シルクさんは何か凄い事に関わっているらしいのよ」
シルクは“英雄伝説”の当事者やからな。“絆の従者”っていう地位みたいやけど、初めて聴いた時はウチも驚いたでなぁー。ここで最年長のランベルさんが、ウチら全員の状況を整理するために話題を提起する。ここに着いてからそうするつもりやったから、ウチはすぐに聴く体勢に入る。ウチの場合、シリウスとシルクはもちろん、ここまで組んで進んできたキュリアさんの技と特性は知っとる。…そやけどランベルさんの事は、特性が静電気って事ぐらいしか知らへん…。先にシルクが話し始めたけど、ウチはそこを確認しておきたい。
そやけど、シルクの秘密を知らへんランベルさんは、信じられない、って感じで声を荒らげる。急に声をあげとったけど、キュリアさんもそうやったから、ウチには何となくこの反応は想像する事が出来た。キュリアさんはシルク本人から聴いとるから、ランベルさんの事は彼女に任せてもええと思う。キュリアさんもそう思っとるらしく、取り乱しとるランベルさんに説明しはじめていた。
「…だから、シルクさんの事は後で話すわね」
「うっ、うん」
「…私は炎タイプの時は日照りの特性で、技は熱風、ソーラービーム、神通力、秘密の力の四つ。氷タイプになると雪降らしで、技は吹雪、マジカルシャイン、オーロラベール、秘密の力の四つよ。氷タイプではまだ本気で戦った事が無いけれど、どっちの属性でも範囲攻撃を中心に特殊技で攻める、と言ったところね」
視界が悪い中で広範囲に攻撃できるんは、心強いね。キュリアさんの技構成は、特性を最大限に生かせるもの、ウチは率直にそう思っとる。日照りの特性ならソーラービームは溜めなくて済むし、吹雪もキュリアさんの特性と凄く相性がええ。オーロラベールの効果はうろ覚えやけど、確か雪か霰が降っとる時だけ発動できる技やったと思う。秘密の力もキュリアさんは尻尾を使って発動しとったで、範囲、威力、ヒット数、共に種族の利点、特徴を最大限に生かしとる。…そやから、多分キュリアさんは後方支援、そういう戦い方なんやと思う。
「遠距離攻撃が得意、と言った感じですね? 自分の特性はプレッシャーで、技は影分身、鎌鼬、辻斬り、ギガインパクトの四つです。戦略を短い言葉にするなら…、中近距離タイプ、といった感じですね」
これは偶々やったけど、シリウスとは役割分担ができとるでな、ウチも凄く戦いやすいんよ!
「まぁ悪タイプらしい戦い方をする、って感じやな。ウチは竜の舞、十万ボルト、アクアテール、逆鱗の四つやで。特性の脱皮とシルクの“平生の襷”で混乱状態を防げるで、近距離を軸に戦っとるよ」
シルクのお蔭で、逆鱗を何のリスクも無しに発動できるでな! キュリアさんが説明してくれたで、この流れで明星のウチらも自分の事を話し始める。ウチも中近距離を中心に闘っとるけど、役割分担しとるで問題なく戦えとる。それに前に来てくれた時に創ってもらった装備品もあるで、ウチら二人、それとラテ君達、ウォルタ君も得意な事を生かして普段から安定して戦う事が出来とる。キュリアさんとランベルさんも昨日創ってもらっとったから、もしかすると彼女達も更に利点を引き出してもらえるんかもしれん…。
「混乱状態にならないのは、凄く大きいですね。僕もキーのリングルで防いでいますけど、僕は完全な至近距離型ですね。僕の種族は特殊技の方が秀でていますけど、性に合わないので雷パンチ、炎のパンチ、逆鱗、それと牽制用のシグナルビームを使っています」
『キュリアさんの特性と合わせている、と言ったところかしら? 』
そうなると、さっきまでにも思ったけど、シルクとキュリアさんはあんま組まん方がええね。どっちも遠距離攻撃が得意やし…。キュリアさんの技も極端やったけど、ランベルさんの技構成を聞いて、二人でバランスを取っとる、ウチはそう感じた。これはウチの勝手な想像やけど、ランベルさんが物理技で攻めとる間、キュリアさんが近づかれんように範囲攻撃を仕掛ける。弱ったところをランベルさんが急接近し、連続で野生を倒していく…、多分それがチーム火花の戦い方なんやと思う。
「そうなるわね」
『ええ。それともう一つ、念のため私が創った装備品の効果を話しておくわね。ハクの“平生の襷”は割愛するけど、シリウスの水色のブレスレット、私とハクのピアスには、素早さ変動系の効果を無効化する効果があるわ』
竜の舞の効果を生かしきれへんけど、その分逆鱗を使えるでな! まぁええかな?
『次に、キュリアさんの紅色のリボン。エネルギーの密度を高める効果があるわ』
「エネルギーの密度? 」
『そうよ。技のエネルギーそのものに干渉してるから、攻撃技、変化技、問わず強化する事が可能なのよ。まだ試作の段階だから、お腹が減りやすくなる、っていう副作用を改善出来てないけど…』
「それとシルク? ランベルさんの帯って、ベリーちゃんとお揃いやんな? 」
キュリアさんのは知らんかったけど、ランベルさんのは見た事あるね! シルクはキュリアさん達に渡した装備品の事を話してなかったらしく、ついで、っていう感じで話始める。ウチらのはよく知っとるけど、キュリアさんのは初めて見た。シルクは昨日の夜遅くまで起きとったみたいやから、多分装備品以外にも色んな道具を創っとったんやとウチは思っとる。寝不足やないか、って一瞬心配になったけど、まぁシルクの事やから大丈夫やろう。そやからウチは一瞬浮かんだこの事を頭の端の方に追いやって、ランベルさんの茜色のそれについて親友に確認してみた。
「攻撃技の威力を高める、でしたよね? 」
『それであってるわ』
ベリーちゃんもランベルさんとは似たような戦法やし、最適やな。シリウスもランベルさんのソレ、“闘志の帯”の事を知っとるから、シルクの代わりに話始める。一言で言いきっとったけど、これで間違いないと思う。念のためシリウスはシルクに確認しとったけど、頷いとったから間違いなかったんやと思う。これで五人全員の情報を共有できたで、何とかなりそう。この五人なら、この間のリベンジが出来そう、シルクもおるで、ウチは本気でそう思えてきた気がした。
つづく……