Eighth-Eleventh 太陽と月、二つの世界を駆ける戦い(月下の明星)
[Side Ratwel]
「ラテ君、遅くなって……あれ? 」
「アーシアさん……とテトラさん? てっ、テトラさん、無事だったんですか? 」
「うん。ちょっと話すと長くなるんだけど――」
「私もビックリしたのですけど、シルクさんに助けてもらったみたいです」
「シルクに? 」
「はいです。ですけどラテさん? こちらの方は……」
「それがシロさん……、レシラムが来て、一気に倒してくれた、って感じだね」
「れっ、レシラムが? 今回の作戦に参加してない、って聞いてたんだけど? 」
――――
[Side Haku]
「じゃあ、いくで! 」
「ええ! 」
泣いても笑ってもこれが最後や。個人的な恨みもあるけど、絶対に負けへんで! 突入した“月の次元”で、ウチは再び暴君と対峙する。やけど“ビースト”に取り憑かれたせいなのか、正気が無くて暴れまわっとる。……さっきまで様子見でやり合いはしたけど、やっかいな事に正気無いのに狙いはしっかりしとるで、下手するとウチでもやられるかもしれへん。そういうこともあってウチは、気を引き締める意味も込めて声をあげた。
「ぅがぁぁっ! 」
「来るで! 」
「そんなの、見ればわかるわ! 」
「アクアテール! 」
早速来たな? 正気の無い暴君は咆哮を一つあげると、何の前触れも無くウチらの方に滑空してくる。あの構えからすると暴君が発動させたのは、ノーマルタイプの中でも最上級に位置するギガインパクト。まだ十五メートルぐらいあるで十分かわせるけど、共闘しとるテフラさんが逃げれるように、ウチは彼女の前に出る。尻尾に水を纏わせ他状態で宙返りし、水の鞭と化したそれをその場で振り上げる。
「っ! 」
「くっ……! 」
力負けしてウチの方が大きく弾かれたけど、その甲斐あって暴君の軌道を上に逸らす事ができた。
「もらったわ! 」
「っ? 」
多分ウチの後ろで準備しとったんやと思うけど、テフラさんはすぐに暴君を追撃してくれる。手元に薄桃色の球体を作り出し、それを斜め上、勢い余って弾かれた暴君に向けて解き放つ。あまり狙ってなかったみたいやけど、暴君が気づくのが遅れて、振り返った左の下腹部辺りに命中していた。
「がぁぁぁっ! 」
「ほんまに際限ないな」
暴君を空中に弾いたで、ウチは耳の羽を広げて後を追う。羽で風を受けて浮き上がり、尻尾の先で地面を叩いて一気に飛び上がる。流石にこれには気づいたらしく、暴君は宙で急停止し、そのまま降下してくる。尻尾に紺色のオーラを纏っとるで、今度の技はドラゴンテール。やから多分大ぶりで尻尾で攻撃して、追ってきたウチを地面にたたきつけるつもりなんやと思う。やけど――。
「いくら威力が高くても、当たらな意味ないで? 」
重心移動で左斜め上に浮上し、急降下してきたカイリューをやり過ごす。
「そうよね? さぁ、私の“魔術”、受けるがいいわ! 」
「十万ボルト! 」
そこへエネルギーを溜めたテフラさんが駆けつけ、敵の左斜め下から手元の球体を放つ。狙いはよかったんやけど、タイミングが早すぎた。ウチへの攻撃が外れた暴君は翼を広げ急停止。その位置……、地面から一メートルぐらいの高さでウチらに向き直り、急浮上してくる。やからウチはあらかじめ溜めといたエネルギーを解放し、電撃として解き放った。
「っ! かぁっ! 」
「同じ手は通じへんで? 」
暴君はまた捨て身で突っ込んできたけど、そう来るような気はしとった。やから左へずれながら電気の軌道を修正し、暴君に当て続ける。やけど痛覚が麻痺しとるんかもしれへんけど、全く止まる様子がない。
「ここまで来ると獰猛な獣ね」
このままやと埒が明かなそうやから、十万ボルトを解除し――。
「……逆鱗! 」
速攻で別の技を発動させる。体中にありったけの力を溜め、そこにエネルギーを混ぜ合わせる。そうすることでウチが使える最大威力の技を発動させ、荒れ狂う暴君を迎え撃つ。まず始めにウチは頭から急降下する。そうすることで――。
「っ! 」
「くっ……! まだ……! 」
相手の大技を相殺する。相打ちになって少し視界がぶれたけど、このチャンスは逃したくない。降下する勢いを利用して――。
「がぁっ……! 」
尻尾をカイリューの腹に叩きつける。今度は確かに手応えがあり、暴君は固い地面に吹っ飛ばされる。これでもまだ技の効果が続いとるで――。
「これで……」
三発目を当てるために追撃する。急加速しながら力を溜め直し、今地上に墜ちたカイリューを狙う。
「ぁがっ……! 」
降下する勢いも乗ったってことで、暴君にはかなりのダメージが入ったと思う。
「っ最後! 」
更に相手の上に着地するように尻尾で叩きつけ、全体重を乗せた攻撃で締めくくった。
「……倒せた? 」
暴君の上からすぐに飛び退き、先に降りてきていたテフラさんの横に並ぶ。彼女はウチがトドメを刺しにいった、って思ったらしく、着地したウチに問いかけてきた。やけど……
「ううん、まだ。……十万ボルト! 」
相性は良かったけど、あれで倒せたとは思ってない。やから念のためウチは電気を纏い、倒れている暴君に向けて解き放つ。流石にこれで――。
「っあぁっ! 」
「こっ、今度は何? 」
「っ! 」
やっと、外れてくれたな……。暴君自身の体が限界を迎えたらしく、ウチの電撃が直撃する。それなりのエネルギーを籠めて放ったで、十メートル以上離れたここにまでその衝撃が伝わってきとる。
そんでこれで終わりやなくて、暴君の身に変化が起きはじめる。今までは目視出来んかったけど、ウチが電気を放つのを止めた瞬間、姿を消しとった"ビースト"が実体化する。暴君に覆い被さるように取り憑いとった生き物はそこから離れ、ふわりと真上に漂う。
「あれがカイリューが暴れとった原因や! 」
この様子やとテフラさんは知らへんみたいやから、ウチは手短に説明し始める。同時に全身にエネルギーを送り込み――
「十万ボルト! 今まで見てきたことしか分からへんけど、あの生き物は誰かに取り憑いて暴れさせる。物凄く危険な生き物やから、絶対に近づいたらあかん……。テフラさんには関係ないかもしらへんけど、遠距離から攻めるで! 」
ありったけの電撃を"ビースト"に浴びせる。シルクならここからが本番かもしれへんけど、あいにくウチは接近戦がメイン……。コレしか遠距離から攻撃できる技が無いで、逃げようとする生物に向けて放ち続けた。
「ということは、私の出番ね? 」
「そうなるな」
まぁウチは、そんでも接近戦を仕掛けるつもりやけど……。ウチの説明で分かってくれたらしく、テフラさんは大きく頷く。ウチが電気を放っとる間に横に並び、手元にエネルギー体を作りだす。確か"魔術"とか何とか、って言っとったような気がするけど、テフラさんはたて続けに撃ち出してくれる。これで"ビースト"の足留めはできるはずやから、ウチは――。
「アイアンテール! 」
技を中断して急接近。
「っ! 」
「属性は何かにつけて知らへんけど、力業でいくで! 」
尻尾を硬質化させる。斜め上に浮上しながら構え、敵の目の前で急旋回。そうすることで、鋼タイプを纏った尻尾を力一杯叩きつけた。
「あんた、言ってることとやってることが違――」
「ウチは元々こういう戦法の方が得意やから! やからテフラさん、ウチの背中は任せたで! 」
テフラさんが遠距離中心なんは分かった。なら接近戦のウチにとっては好都合やな。ウチの発言の矛盾に対してなんか言おうとしとるけど、ウチは声を上げてそれを遮る。本音を言うと喋る時間も惜しいで、そんなテフラさんには構わず急接近する。今のところ“ビースト”の属性は分からへんけど、それは戦えば分かるとは思う。やからウチは尻尾にエネルギーを集中させ――
「……っぁぁっ! 」
「アイアンテール! っくぅっ……! 」
硬質化させた尻尾を思いっきり叩きつける。やけどタダで受けてくれるはずもなく、相手もそれ相応の反撃を仕掛けてくる。ウチが得意な尻尾技でも力負けしたで、この技は少なくとも上位に位置する技。アイアンテールを当てた時の手応えからすると、有利な氷とか岩タイプ辺り……。冷えた感じが無くて重い衝撃が返ってきた事を考えると、岩タイプのもろはの頭突きなような気がする。
「言ってる側から……! 」
「っ! 」
「え……」
力負けして遺跡の壁に叩きつけられてしまい、ウチはすぐには動くことが出来んかった。その間に狙いがテフラさんに移ったらしく、半透明の“ビースト”は彼女の方に攻撃を仕掛ける。紫色の球体を放っとるけど、あの技は昔に見たことがある。一時シルクが“チカラ”で使っとったあの技は、毒タイプのベノムショック。それもテフラさんの球体を容易く打ち消しとるで、生半可な威力やない……。これには流石にテフラさんも対応出来へんかったらしく――。
「っきゃぁっ……っ! 」
毒々し弾丸がまともに着弾してしまう。
「テフラ……さん! 十万ボルト……! 」
「ぁぁっ! 」
この間にも何とか立ち直れたウチは、急加速しながら電気を纏う。そのまま“ビースト”に突っ込み、今度はウチが相手を吹っ飛ばした。
「テフラさん……、無事? 」
「多分……」
そうには見えへんで……、もしかすると……。深追いはせずウチは急旋回し、攻撃が直撃したテフラさんの横に並ぶ。見た感じ倒れるような様子は無いけど、表情はどこか青ざめとるような気がする。空中で浮いとってもフラフラしとるで、多分彼女は毒状態になっとる。
「けど何なのよ……、あの“術”……。うぅっ……」
「そうとうまずそう……やな……」
毒状態に対して、向こうはベノムショックを使ってくる……。状況は最悪やな……。横目で見たら浮き上がったのが見えたで、ウチは現状での作戦を即行で考える。遠距離技で攻めるのが得策やけど、この状況では思うように攻められへん。多分相手は毒、岩タイプな気がするで、ウチの十万ボルトではほぼ等倍。頼みの綱のテフラさんは毒状態屋から、“ビースト”がベノムショックを使ってくる状況ではあまり戦わせたくない。やから――
「やから……ここからはウチ一人でいくで……、休んどって」
耳の羽を広げ、一気に風を切る。後ろのテフラさんの反応は見てへんけど、そのままウチは――
「ぁぁぁっ! 」
「……アイアン、テール! 」
使える技ん中で一番有効そうなものを発動させる。向こうはウチのことも毒状態にする気なんか、立て続けに紫色の弾丸を乱射してくる。視界を覆い尽くしそうな数の毒の森を、ウチは右に左にと体を捻りながら突き進む。
「……っ! これで――」
“ビースト”の真下に滑り込むように滑空し――
「どう? 」
直角に急浮上。すぐに頭を下げて体を撓らせ、鋼タイプを纏った尻尾を振り上げる。
「っ? 」
隙を突いて真上に飛ばすことが出来たで、地面スレスレで折り返す。まっすぐ飛び上がるように追撃しながら――。
「逆鱗……! 」
ありったけのエネルギーを体中の筋肉に注ぎ込む。すると爆発的に力が溢れ出し――
「ぁぅっ……っ! 」
勢いそのままに頭から突っ込む。その甲斐あって最大威力の大技が命中し、“ビースト”を更に上空に吹っ飛ばす。ここでウチは技を維持したまま更に加速し――
「二発目……っ! 」
先回りして敵の真上を陣取る。素早く宙返りするようにして、高速で尻尾を叩きつける。為す術がない“ビースト”を地面に向けて打ち返し――
「これで……終いや……! 」
重力も乗せて急降下。もう一度、額の角を向けて急接近し、ウチの全エネルギーをこの一撃に乗せる。まだ技の効果は続きそうな気配はあるけど――。
「っぁぁぁぁぁっ……」
「くぅっ……っ! 」
構わず、捨て身で敵の本体に激突する。なりふり構わず突っ込んだでウチにも凄い衝撃が襲いかかってくる。あまりの衝撃に気を失いそうになったけど、ここは意地でも意識を保ち続ける。このままだとウチも地面に墜落するで、何とか頭を上げて浮上する……。
「ぁ……っ……」
「はぁ……はぁ……っはぁ……。これで……っ倒せた……かな……」
ギリギリ間に合ったウチは、荒い息づかいで“ビースト”に目を向ける。
「今度こそ……、倒せた……のね」
「そう……みたいやな……」
ウチの連撃が決まったらしく、これ以上“ビースト”が浮き上がることはなかった。
続く……?