Eight-Tenth 月と夕日に導かれて
―あらすじ―
シルクと組んで戦っていたウチは、ついにあの暴君を追い詰める。
けど身を削って戦ってくれていたシルクは満身創痍で、ウチは真っ先に彼女の介抱をする。
この隙に相手の行動を許してしまい、ウチらは目の前で事件の首謀者を取り逃がしてしまう。
そんで五人で相談した結果、ウチ、キノト君、ミナヅキさんの三人で、異世界へと首謀者の後を追うことになった。
――――
――
[Side Haku]
「……にしても凄い綺麗なところやな」
「だよな。こういうのは慣れねぇが……」
「ですけど、急ぎましょう! 」
こんな時に思うことやないけど、凄いよなぁ……。キノト君達と三人で渦に飛び込んだウチは、その先の景色に思わず感嘆の声をあげる。右、左、上、下……、どこを見ても満天の星が散らばっとる。今まで色んなところを見てきたけど、ここはウチの中で上位三位に入る綺麗さやと思う。そもそも探検隊としては、異世界に行ける事自体が心躍るようなこと……。キノト君とミナヅキさんが前にもここに来たことがあるって思うと、ちょっとうらやましい気がするけど……。
「そっ、そうやんな」
「だがキノト? ハクはともかく勝てる見込みはあるのか? 」
「わっ、分からないですけど、やるしかないですよ! 」
やけど浮かれとる訳にはいかへんで、ウチはすぐに気持ちを切り替える。ミナヅキさんは独特の浮遊感? にそわそわしとるような気ぃするけど、それでも何とかキノト君に尋ねる。確かに彼のいうとおり、この三人では少し不安な気もする。一応グソクムシャを追い詰めてはいたけど、あれは多分シリウスとサードさんがおったから……。キノト君がどのくらい戦えるんかは把握しとるけど、彼では不十分。ミナヅキさんはもっと分らへんで、キノト君以上に未知。最悪ウチが二人相手にするつもりやけど……。
「だな。……キノト、何か作戦はあるのか? 」
「何も無いですけど、左肩を狙うつもりでいます」
「そういゃあ肩から血流しとったな? そっちで何かあったん? 」
誰がやったんかは分からへんけど、手負いなんは確かやね。ミナヅキさんが訪ねたってこともあって、ウチらは走りながら作戦会議を始める。ウチはいつも通り戦うつもりやけど、この感じやとキノト君には何か考えがあるんやと思う。確かに彼の言うとおり、手負いの相手には患部を狙うのが一番効率的。……やけど人道的にはあまりオススメできへんで、ウチらはよっぽどのことがない限りしないんやけど……。
「ああ。シリウスが技と“術”を掛け合わせていたからな、それで――」
「ぐああぁぁ……っ! 」
なっ、何? 今の声は……! ミナヅキさんが何かを教えようとしてくれていたけど、このきれいな空間に、場違いな悲鳴が響き渡る。声的には追っとるグソクムシャやと思うけど、何か尋常じゃない……、苦痛で悶えるような感じがある……。キノト君が言うにはこの先に異世界があるみたいやけど、もしかするとこの先で何かあったのかもしれへん。大将の姿が見えんくなったで、なんとも言えへんけど……。
「なっ、何ですか今のは? 」
「この声は……、ムナールか! 」
「わからへんけど、何かあったのは間違いなさそうやな」
流石にルガルガンの二人も気づいたらしく、驚きで声を荒らげてしまう。キノト君は訳が分らへんって感じやけど、ミナヅキさんは何かピンときたような……、そんな感じがあるように見える。……やけど確実にいえるのが、間違いなくあのグソクムシャに何かがあったってこと。ウチだけやなくて二人もそう感じとると思うで、確定やな、きっと。
「とっ、とにかく急ぎましょう! 」
ほんまにそうやな! キノト君に言われるまでもなく、ウチは飛ぶスピードを速める。この先にどんな景色が広がっとるんかは分からへんけど、熾烈な戦いが待っとる、これだけは確実に言えとる。
「ああ! 」
キノト君の呼びかけに、ミナヅキさんも大きく頷く。
「そうやな! 」
ウチも自分に言い聞かせるように、声を大にして言い放つ。そうこうしとる間に目の前に大きな渦が見えてきたで、ウチらはキノト君を先頭にそこに飛び込んだ。
――
――――
[Side Haku]
「なっ……! 」
「えっ? ここって……」
「神殿か何かみたいやけど……」
凄いことになっとるな……。一瞬強い光に包まれ、ウチは思わず目を瞑ってしまう。すぐに収まったみたいやから、ウチは間髪を開けずに目を開ける。やけど目に入ってきた光景に、ウチは言葉を失ってしまう。
多分ここが“星華の次元”っていう世界なんやと思うけど、見た感じ古びた神殿のような雰囲気がある。古びたと言うよりはボロボロの、っていった方が正しい気がするけど、至る所が無残には破壊されてしまっとる。それも何百年も前のものやなくて、つい最近崩されたような、真新しいもの……。ウチはここに来るのは初めてやけど、見知った場所なんか、キノト君とミナヅキさんは驚きで声を上げてしまっていた。
「“月界の神殿”、ですよね? 」
「あぁ、間違いねぇ……」
「“月界の神殿”? 」
史跡には間違いなと思うけど、何でキノト君達が知っとるんやろう……? ウチは元の世界で聞いたこととの矛盾に、思わず首をかしげてしまう。ミナヅキさんは知っとってもおかしくなさそうやけど、キノト君はウチと同じでこの世界のことは何一つ知らへんはず……。それなのに最初にその名前を言ったんは、ウチと同じ世界出身のキノト君。それもミナヅキさんが頷いとるで、正解なんやと思う。やからってことで、ウチはこの場所の名前らしきことを復唱して尋ねる。
「あぁそうだ。ここは“星華の次元”でも何でもねぇ。俺の出身の“月の次元”だ」
するとすぐに教えてくれたけど、ウチはある意味別のことに気づかされてしまう。ウチには全然実感ないけど、全く別の世界に来てしまっとるらしい。やけど“空現の穴”に飛び込む前の様子を見た感じやと、ミナヅキさんが嘘を言っとるようには見えへんかった。そうやとしたら、何かイレギュラーな存在が影響した、そう考えるんが自然やと思う。これはウチの予想でしかないけど、そのイレギュラーが、あの“ビースト”――
「そうだ――」
「キノト君! それからその二人も、手を貸して! 」
ミナヅキさんがキノト金に何か言おうとしとったけど、それは叶わず誰かに遮られてしまう。いつからおったのかは分からへんけど、どこか焦ったような声が、ウチら三人に呼びかける。驚きながらハッとその方を見てみると、そこではすでに戦闘が繰り広げられている。それぞれ一対一で戦っとるけど何の種族かわからへん、小さい方の彼女の相手はあの暴君。それから以下にも威厳があって空を飛び回っとる方は、シリウス達が相手しとったグソクムシャ……。
「だっ、誰かは知らへんけど、そのつもりで来たんや! やからすぐいくで! 」
ほんまに何者なんか分からへんけど、暴君相手に戦っとるってことは、少なくともウチらの敵やないのは確か……。元からここにおったのなら、もしかするとこの世界の住民なのかもしれん。
……やけど今のウチらにとって、そんなことを気にしとる暇なんてない。正直言ってあの暴君の仲間やなかったら、例の二人が何者なんかは関係ない。そういうこともあって、ウチは真っ先に、耳の羽を広げて暴君の方へと滑空する。そのまま尻尾にエネルギーを集中させ――
「アイアンテール! 」
「ぁっ! 」
即行で硬質化させる。暴君の目の前で急浮上することで、尻尾をありったけの力で叩きつけた。
「オーラも纏ってないのに、なかなかの“尾術”ね」
「これは“尾術”とはちゃうな。ウチらの世界のアイアンテール、っていう技やから」
“術”? ってことはやっぱり、ミナヅキさんが言ったとおり、ここって“月の次元”なんやな? ウチが叩きつけたってこともあって、暴君は折れた柱の方に吹っ飛ばされる。そういうこともあって怯んどるで、その間に彼女の問いに返事する。聞かれてやっと確信が持てたけど、ウチらはなぜか“月の次元”に来てしまったらしい。
「技? ってことはやっぱり、“太陽の次元”の人ね? 」
「そうやよ」
ウチ言った事でピンときたらしく、彼女はウチの素性を確かめてくる。これはキノト君が教えたんか……、どうなのかは分からへんけど、この様子やとウチらの世界のことを知っとるらしい。もちろんあっとるで、ウチは暴君から目を離さずに大きく頷いた。
「なら話が早いわ! ええっと……」
「ハクリューのハク、それがウチの名前やよ」
「ハク……、随分単純な名前ね。……カプ・テテフのテフラ。それが私の名よ」
一言多いような気も知るけど、ウチらは手短に自己紹介。丁度今暴君が立ち直って動き始めたで、更に取り憑かれた暴君への警戒レベルを高める。
「テフラさんやな」
「ええ。……だけどあのカイリューは何者? 何か正気を失ってるみたいだけど……」
まぁこう思うのも当然やんな……。
「あのカイリューは“太陽の次元”側の首謀者。あのグソクムシャと手を組んだ凶悪は――」
「っあぁぁぁっ! 」
「っ十万ボルト! 」
あの様子やと、ダンジョンの野生と大して変わらへんな……。続けてウチらの世界での状況を教えようとしたけど、暴君が待ってはくれなかった。話の途中で一気に加速し、ウチらの方に突っ込んでくる。技の構えからすると、あの技はギガインパクト。狙いはウチやと思うけど、やむを得ず話を切り上げる。すぐに電気を纏い、まっすぐ暴君に向けて放つ。やけど野生の勘? が働いたんか、暴君はスレスレのところで体を捻る。そうすることでウチの電撃を回避し、速度を緩めず――
「判断力はだけは、残ってるようね? 」
「っ! 」
結果ウチの攻撃は外れたけど、そこは味方の彼女、テフラさんがカバーしてくる。どんなわ――“術”かは分からへんけど、手元に作った濃いピンク色の玉を放つ。丁度ウチの電撃に気をとられとったって事もあって、暴君の頭に直撃する。そのおかげでスピードが弱まったで、ウチらはその隙に急浮上してやり過ごすことができた。
「そうみたいやな」
「っがぁぁぁっ! 」
「アクアテール! 」
「っ? 」
やけどすぐ軌道を修正し、ウチら二人を追撃してくる。流石に今度は予想できたでその間にウチは尻尾に水を纏わせる。思いっきりしならせて振りかぶり、暴君の脳天に力任せに叩きつける。流石にこれには堪えたらしく、技の効果で水しぶきが飛んだ後、暴君は地面に叩きつけられていた。
「技……、さっきの電気もそうだけど、技って中々に便利なのね? 」
「けど流石に“術”の威力には敵わへんな」
……と、そんな事より……。
「テフラさん」
「ん? 」
「このカイリューを“太陽の次元”に連れ戻すために、手ぇ貸してくれへん? 」
大嫌いな父親やけど、ウチらの世界に帰す……。自我はほぼ無いみたいやけど、“月の次元”にも迷惑かけるわけにもいかへんでな!
「当然よ。そのために、追ってきたのよね? だから言われなくても、私は最初からそのつもりよ! 」
ウチは相方の彼女に、威勢よく声をかける。すると彼女は当然のように、勇ましく声を上げる。その声は自信に満ちあふれていて、ウチが呼びかけんでも先を行きそうな勢いがある。そういうわけで――。
「じゃあ、いくで! 」
「ええ! 」
世界を超えた、実の父親を連れ戻す戦いが再び幕を開けた。
つづく……