Eight-Second 相違点
―あらすじ―
朝早くにメンバーをロビーに集めたウチらは、そこで潜入前最後の会議を開く。
詳しい事は昨日個別に知らせてあるで、A、B、G、S、それぞれの班に分かれて打ち合わせを始める。
ウチらのA班は五人で、ウチの実家と議事堂に分かれて主犯格を捕まえに行く予定になっとる。
そんで言いたい事を全部伝えれたで、ウチらは敵陣のど真ん中、“エアリシア”へと赴いた。
――――
[Side Haku]
「…それでは、行きましょうか」
「そうやな」
…やけどまさかこんな形で帰ってくるなんて思わんかったよなぁ…。サナさんのテレポートで現地、“エアリシア”に着いたウチらは、そこで二人とはすぐに別れた。ちょうど議事堂と実家の中間ぐらいに飛ばしてもらったで、パラムの前代の親方二人とは別の方向へ…。やからウチと一緒におるのは、シリウスとミナヅキさんの二人だけ…。ここからやと十分以上歩かな着かへんけど、別でやる事があるで、まぁ問題ないやろう。
「…で、シリウス。まず俺は何から話せばいい? 」
「そうですね、まずは…」
「その前にシリウス? まずは彼の事から話してくれへん? 」
結局彼の事は殆ど訊けてへんでなぁ…。歩き始めたところで例の彼が口を開いたけど、それでもウチは二人の言葉を遮る。この感じやとシリウスが話してくれるつもりやったんかもしれへんけど、ウチとしては何も始めてへん今のうち…、少しでも早く訊いておきたい。そやからウチは、一度自称ルガルガンの彼をチラッと見てから、パートナーのアブソルにこう問いかけた。
「…と、そうでしたね」
「確かに、俺もコイツの事は何も知らねぇな」
ウチに言われたシリウスは、あっ、って小さく声をあげてからウチの方をハッと見る。ミナヅキさんもうっかりしとったんか、似たような感じで言葉を呟く。…よく考えたらミナヅキさんとウチは、顔を合わせてから一度も話しとらへん。一応大まかな事はシリウスから聞いてはいるんやけど…、やっぱりね。
「お互いの事は話そびれてましたからね。…ミナヅキさんは“月の次元”という、自分たちと対になる世界のルガルガン、という事は話しましたね? 」
「それは聞いたで。そのお陰で“術”とか…、色んな事知れたやんな? 」
「俺が話す前から知ってた奴もいたようだが…、そうだな。…なら俺は考古学者だ、っつぅ事は知らねぇよな? 」
「それは初耳やな」
んならもしかすると、世界は違うけどウォルタ君と話が合いそうやな。シリウスが言った事は知っとるけど、これはシリウスやなくてシャトレアさんから聞いた事…。“玖紫の海溝”に潜入しとる時やったんやけど、その時にもミナヅキさんから聴取した事を教えてもらった。
「ということはあのエネコロロから聞いてなかったんだな」
「自分もうっかりしてましたからね…。…それでハクリューの彼女は、自分の相方…、アクトアのギルドの代表のハクです」
「まぁ色んな意味でシリウスとは長い付き合いやでな。…ミナヅキさん、ミナヅキさんなら“ハク=リナリテア”って聞いたらピンとくる事あるやろ? 」
あの暴君と会っとる可能性も十分あり得るで、多分知っとるやろうね。シリウスがウチの事を紹介し始めたで、この流れに乗って自ら名乗る。ミナヅキさんがウチのことをどこまで聞いとるのかは分からへんけど、シリウスの事やから粗方の事を話してくれとると思う。…やけど最後の事は知らへん…、ウチもほんの一部にしか話してへん事やから、試しに彼に訊いてみる事にした。言うかどうかは、ホンマに迷ったけど…。
「りっ、“リナリテア”? まさかとは思うが、ジク殿の娘だなんて事はねぇよな? 」
「そのまさかやよ。十年前に家出しとるけど、ウチはジク=リナリテアの嫡子。家出さえしとらんかったら、今頃ウチが“エアリシア”の市長やったと思う。…けどあの暴君と金の猛者の元で過ごすぐらいなら、継承権を捨てて家出した方がマシ…」
あんな暮らし、二度とごめんやな…。
「ハクは特に親御さんを嫌ってますからね…。ハクが家出していたから、今の自分があるのも事実ですけど」
「そうやな。シリウスも、もしあの時ウチと出逢っとらんかったら、どうなっとったんやろう…? 」
「想像できませんね」
「…要は一言では語れない関係、っつぅ事だな」
ホンマにそれやな。話し始めるとキリが無さそうやけど、気づいたら思い出話の方に脱線してしまっていた。ミナヅキさんの一言で我に帰れたんやけど、シリウスの言うとおり、ウチにも全然想像できへん…。シリウスと出会えて無かったら探検隊にもなってへんし、そもそもその日暮らしで定職にも就いてへんかったかもしれへん。
「ですね。…思い出話もこのぐらいにして、そろそろ本題に入りましょうか」
「そやな」
サナさん達にも伝えなあかんし、少しでも早いほうがええやんな? 仕切り直しって感じで呟くシリウスは、隣を歩くミナヅキさんを一度見る。多分何かの合図を送っとるんやと思うけど、どういう意味なのかはウチには分からへん。…まぁ教えてくれる“術”なような気がするんやけど…。
「あぁ。…“太陽”の技を習得して思ったが…、お前ら“太陽”の奴にとって“ッ術”は簡単過ぎるかもしれねぇな」
「えっ? そんなに簡単なん? 」
それなのにあんな威力が出せるなんて…、ちょっとビックリやな。一度頷いたミナヅキさんは、後ろ向きで歩きながら話し始めてくれる。…やけどその内容の意外さに、ウチ…、多分シリウスも、思わず拍子抜けしてしまう。シリウスもパラムで“術”を見た、って言っとったけど、まさか腕を食い千切るような攻撃が簡単にできるなんて思いもせんかった。やからウチはそれを聞いて、思わず頓狂な声を出してしまった。
「そうだ。イメージが重要な技に対し、“術”は何も考えず
感じる事が基本。純粋に力を溜めて爪や角で切り裂く、と考えれば早いかもしれねぇな」
「という事は、自分達にとっての“通常攻撃”の強化版、と考えたら良いかもしれませんね」
「それで間違いねぇな」
なんだ…。ならホンマに簡単に出来るんかもしれへんな。
「…だがその反面お前らが知る通り、使い方を誤れば他を傷つける事になる。技が相手を痛みや衝撃で疲弊させる事に対し、“術”は相手を負傷させ、手を講じなくさせる事を目的としている。…だからもし“術”で相手を傷つけようものなら、途端に犯罪者扱いされるかもしれねぇな」
「となると、ダンジョンの野生相手にしか使わん方がええかもしれへんね」
そんな気はしとったけど、改めて聞くと怖いな…。ミナヅキさんは順を追って話してくれたけど、後半の方は背筋に冷たいモノを感じてしまっていた。ウチは“玖紫の海溝”で見たで特にそう感じてしまうんやけど、誰かを亡き者にするような攻撃を平気でしてくる敵の事が、ただただ恐ろしくて仕方がない…。やから今更やけど、ウチは今回の作戦の危険性を改めて痛感したような気がした。
「ですね。…そういえばミナヅキさん? 」
「ん? 」
「“月の次元”の方は遠距離攻撃を仕掛けてこなかったのですが…、どうしてなのでしょうか」
言われてみれば…、この間のサメハダーも、ただ咬みかかってくるだけやったな。
「さっきも言ったとおり“月”では傷つける事が主流だが、お前等が言う特殊技を使える奴はほんの一握り…。各国が使える奴をこぞって集め、戦争を始めるぐらいにな」
「…んでその遠距離攻撃を出来る人が、“魔術師”って言われとる訳やな? 」
「そうだ」
そうなるとウチは、十万ボルト中心で攻めた方がええかもしれへんね。さっきは“術”の恐ろしさに背筋が凍りそうになったけど、その後で聞いた事で少しだけ救われたような気がする。遠距離攻撃が出来る人を巡って戦争が起きるぐらいって事は、異世界の人はそれの対処をあまり出来ないかもしれない。そうなるとウチら自身の事も考えると、異世界の人相手の時は遠距離攻撃で攻めた方がかなり安全になる。やからそういう事を踏まえると、ウチの場合十万ボルトだけがそれに当てはまる。やから…。
「――フィフもそう思うか…」
「ええっと…、何なんですか、その元凶って…」
「……」
あっ、あれって…、シルク!
「だからお前らはえ…」
「しっ、シリウス、ごめん! 悪いんやけど先行っとってくれへん? 」
ウチが見間違うはずあらへん…。あれは絶対にシルクやん! ミナヅキさんが続けて何かを言おうとしとったけど、ウチは行く先…、ちょうど一区画先の横道から出てきた人影に、思わず声をあげてしまう。全員で三人おったんやけど、一人はルガルガンに似た種族不明の誰かと、二人目は見知った人…。ウチの記憶が正しければ、あの人はギルドマスター試験の面接の時におった、保安協会の代表やと思う。そしてもう一人は、白い服を着たエーフィ…。目元から青い光がうっすらと出とるで、あれは間違いなく“絆の加護”を発動させたシルク。何で“エアリシア”に…、それも保安協会の代表と一緒に居るんかさっぱり分からへんけど、今に始まった事やないで気にしない事にする。…やけどウチはそのシルクに訊きたい事が沢山あるで、これだけをシリウス達に吐き捨てて地面スレスレを滑空し始めた。
「シルク…」
何であの時ウチに攻撃しようとしたのに、あんな事言ってきたん…? シルクにも譲れへん事があるんかもしれへんけど、“エアリシア”の件はウチの問題でもある…。
「…では、行くぞ」
「はいっ! 」
「――っ! 」
「あれは…」
まさかシルク、あの暴君を何とかするために…。でもここって…。角を左に曲がるとすぐに、ウチは例の三人の姿を捉える事が出来た。だけどその三人が立ってたのは…。
「ウチの…」
十年前に戻らないって決めた、嫌な思い出が詰まったウチの実家、その門の前やったから…。代表の彼が先導しとるみたいやけど、前足で門を開けて立ち入る、ちょうどその瞬間やった。
「手を引け、って言っとったけど…」
本当にあの暴君…、殺人鬼を捕まえる気…? やけど保安協会の代表がおるぐらいやから、本気なんやろうな…。
「やけど…」
ウチの問題なのに、ウチだって…、喧嘩中やけどシルクだけは巻き込みたくなかったのに…。
「はぁ…」
けどここまで来たら、もう引き返せへんやんな…。
「…まさかこんな形で、ウチ…、
私の生家戻ってくるとは思いもしませんでしたわね」
十年前に捨てた言葉遣いでぽつりと呟き、ウチは彼らの後に続いて開かれた門を通り抜けた。
つづく……