Eight-First 作戦当日(明星)
[Side Haku]
「…これで全員やな」
結局昨日は休めてへんけど、まぁ大丈夫やろう。昨日は一応完休日ってことにしたけど、何やかんや言ってうちはあまり休めへんかった。朝礼が終わった後で朝食に行ったんやけど、戻ってから新聞の取材で時間をとられてしまった。おとといの“リヴァナビレッジ”のことで何となく聞かれるような気はしとったけど、ウチの予想以上に長引いて終わったのが昼前やった。終わったら終わったで物資受け入れ云々、それから外部の協力者達の手続きとか…。溜まってた仕事を一気に片付けたで、気づいたら日が暮れてしまっとった。
そんで一夜明けた今日は、前から計画しとった“エアリシア”作戦当日。時間はいつもより早い朝の五時半やから、今出ても店はどこも開いてへん…。やから朝食は経費で支給する弁当を現地で食べることになるんやけど、人数が人数やからちょっと厳しかったなぁ…。
「全員集まった訳やし、潜入前の打ち合わせを始めるで」
…そんなことは置いといて、一通りロビーを見渡したウチは、集まってくれた潜入メンバーにこう呼びかける。初めてウチらのギルド主体でするプロジェクトやから緊張するけど、上位のチーム、隊員だけやからまぁ何とかなると思う。…っていうのも、無事やったパラムが殆どで、ウチらのアクトアの弟子は誰もおらへんのやけど…。
「ですね。…昨日予めお知らせしたとおり、今回は大きく四つのグループに分けて潜入します」
こういう大がかりな潜入は…、確か“星の停止事件”の時に参加したのが最後やったな。ウチが声をかけた後すぐに、シリウスが続けて声を上げる。特に打ち合わせの台本とかを作った訳やないけど、大まかな話の流れだけは決めてある。今グループリーダーとして前に出とるのは五人なんやけど、ウチは作戦全体の責任者って事で別枠。やから名目上はシリウスがウチらのグループリーダーって事になっとるね。
「そのことに関して、私から補足させてもらうわ」
次に口を開いたのは、元々Zギアのルーターを設置しに来てくれとったグレイシアのフィリアさん。本当に偶然が重なってこうなった訳やけど、救助隊としても実力のあった彼女がおるなら結構心強い。
「四つに分けたチームのうち、一つは私と行動してもらうわ。名乗るのが遅れたけれど、私はウォズ副責任者のフィリア。今回は作戦全体のオペレーターとして参加させてもらうわ」
このギアもフィリアさんが開発したものみたいやし、開発者に任せるのが確実やんな? 前足を揃えて喋っていたフィリアさんは、途中で左だけを挙げてギアを見せる。フィリアさんは元々ルデラの救助隊やったけど、多分ウチらぐらいの世代のチームならラスかのチームも知っとるはず。当時はリーフィアとペアで活動しとったみたいやけど…。
「話を元に戻すけれど、四つのグループは便宜上、
A、
B、
G、
Sと呼ぶ事にするわ。そのうちの私はB班、ギアの通信拠点のリーダーを務めさせてもらうわ。…何となくチーム編成で気づいてるかもしれないけれど、作戦中の連絡はギアを通して行うわ。一応私達の方でもモニタリングはしているけれど、何かあったらすぐに連絡して」
確かグループ名は何かの専門用語やったかな? ウチが横目で見た限りでは、フィリアさんはロビー全体を見渡しながら話を進めてくれる。一応ギアのことに関してはウチが昨日各々に知らせたけど、ウチ自身はまだまだ基本的な使い方ぐらいしか分かってない状態。ダンジョンで使ってないシリウスはウチ以上に分かってないと思うけど、そこはフィリアさんがサポートしてくれる、って言っとったで問題ない。やからウチらがギアですることと言えば、作戦全体の指揮と本部…、B班との情報のやりとり、それからA班としての行動、それぐらい。
「ちなみに連絡を入れる時は、要件を伝える前に班名から言ってほしいのだ」
ウチらのA班は少ないで楽やけど、一番多いキュリアさんのところは覚えるのが大変やろうなぁ。スパダはスパダで、パラムの弟子とライトちゃんだけやから問題ないと思うけど…。
「ちなみにA班はウチらチーム明星、S班はチーム火花がリーダーやから、覚えといてな」
B班もウチらぐらい少ないけど、ヒューさんとフィナさんがおるで、何があっても何とかしてくれそうやな。
「そういう事になってたね」
…ん? もしかしてランベルさん、めっちゃ緊張しとる? ウチの後でランベルさんが話し始めたけど、慣れてないのか若干声が震えとる気がする。それによく見てみると、ランベルさんの額が若干汗が滲んできとる。まぁチーム火花はソロのチームやないから仕方ないと思うけど、もしかすると大勢の前で喋ることが余りなかったのかもしれへん。ランベルさん自身は、何とか緊張を誤魔化そうとしとるみたいやけど…。
「初めて話す人が殆どだと思うけど、S班班長のチーム火花、リーダーのランベル。連絡自体はメンバーのもう一人がしてくれる事になると思うけど、よろしく」
「…と、そういう訳で、延々と喋っても仕方ないし、全体の打ち合わせはここまでにするで」
詳しいことはそれぞれのリーダーに任せてあるで、作戦全体としては全部話せたな。これといって重要なことは話してへんけど、ひとまず必要なことは言い終わったで、ウチがこう呼びかける。一部でえっ、って意外そうな声が上がったけど、ウチは気にすることなく話し続ける。
「このままグループごとの打ち合わせ、終わり次第潜入に移るで、何か質問があったらそれぞれのリーダーに聞いてな」
「…と言うわけで、A班の最終会議を始めますけど…」
「何で俺まで参加しないといけねぇーんだよ」
「そうやんな。シリウス? 何か考えがあるん? 」
彼のことは何も聞いてへんのやけど…、どういうつもりなんやろう? 全体の打ち合わせを終わらせたで、ロビーに集まったメンバーは散り散りになる。これから四隅にグループごとに分かれて最終ミーティングを始める訳やけど、ウチの周りに集まったのはそのうちの四人。一人は言うまでも無いと思うけど、パートナーのシリウス。その彼に続いたのは、訳が分からないっていう感じで首を傾げる、自称異世界のルガルガンのミナヅキさん。ウチも何で彼も参加させとるのかは聞いてへんのやけど、確か彼はシリウスがエムリットから身元を預かった、って言ってたような気がする。そんでシャトレアさんが事情聴取して、今日のターゲット、“ルノウィリア”の事を色々話してくれた、って聞いとる。
「はい。現地でアルタイルさん…、エムリットと合流して、可能なら探してもらっているテトラさんと身柄を交換してもらおうと思っています。それまでの間、ミナヅキさんにはA1の自分達に“術”というものを教えてもらいます」
「…敵を知る、って事だな? 」
「その“術”ってのは…、異世界の技か何か、ていってたね」
シリウスは例の彼に目を向けながら、すぐに訳を話してくれる。確かそのエムリット…、アルタイルさんは、“星の停止事件”の時に関わった、いわゆる当事者。ラテ君達とウォルタクンの方がよく知ってるけど、あいにくウチらは軽く顔を合わせた程度…。流石に名前は知ってるけど、その程度の関係。
そんでそんな彼に対し、残りのA班のメンバーが口を開く。一人は背がかなり高いペンドラーで、話しきったシリウスに対し質問。続いてサーナイトの彼女が、昨日の朝礼で聞いた事を再確認してきていた。
「親方さんの言うとおりです」
「サナでいいわ」
「…ウチもサナさんと一緒でよく知らへんのやけど、確か技とは違う、って言っとったやんな? 」
「そう言ったはずだが…」
「はい。詳しいことは現地でお知らせます」
「…でシリウス。俺達はどこへ行けば…」
「オラスさん達は議事堂の方を頼んだで。ウチらはリナリテア邸…、ウチの実家に行くで」
ウチの実家、分かりにくい場所にあるでな、その方がええよな。あんま気が進まへんけど…。
「議事堂だな。了解した」
「…そんじゃあ言いたいことも全部言ったし、フィリアさん達も行ったみたいやからウチらも行こか」
「えぇ。…テレポート! 」
つづく……