Seven-Third 四つの知らせ
―あらすじ―
テレポートで“リヴァナビレッジ”から戻ったウチらは、一度ハイドとヒューさんと分かれる。
残った五人を連れてギルドに戻ると、ロビーでキュリアさんとアーシアさん、ティル君とコット君が何かを話していたらしい。
その場で簡単に情報交換をし、ウチらはキュリアさんから“ルノウィリア”の事について教えてもらう。
キュリアさん達によるとウチら以外に着手しとるグループがおるらしく、明後日に総攻撃を仕掛けるらしい。
やからウチらは、それに備えるべく準備をし始める事にした。
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[Side Silius]
「…皆さん集まりましたね? それでは今から朝礼を始めたいと思います」
この何日かで慣れたつもりでしたけど、非常時とはいえ人数が多いと、圧倒されますね…。昨日は色々な事がありましたが、ひとまず朝を迎えました。自分は諸々の手続きを終えて帰った後、ハクとスパーダ、火花のお二人から様々な事を聞きました。その事は追って話すとして、夜が明けた今丁度恒例の朝礼を始めたところです。自分たちのギルドの弟子達はそれほど多くはないのですか、今は風の大陸の方々が避難してきている状態。当然その中にも同業者や救助隊の方もいるので、動ける方達にも朝礼に出席してもらっています。なので依頼掲示板を背にして前に立っている自分から見た限りでは、普段の三倍以上の隊員達が注目しています。自分とハク以外にスパーダもいるのですが、普段は自分が号令をかけているので、一通りロビーを見渡してから声をあげました。
「昨日消灯前、何人かにはお伝えしましたが、今日の連絡事項は主に四つです」
「まず一つ目。もしかすると噂で知っているチームもいるかもなのだけど、行方不明になっていたエアリシアの副親方、サザンドラのサンドラが救出されたのだ」
これには自分も驚きましたけど、まさかああなっていたなんて夢にも思いませんでしたね…。昨晩の打ち合わせ通りにスパーダに引き継ぐと、流れを切らさずに連絡事項を伝えてくれる。このことは自分も戻ってから知ったのですが、スパーダが言うとロビーの隊員達、特にパラムに所属している弟子達が騒然としています。サンドラさんは自分達アクトアとパラムが共同で捜索していたのですが、“親方会議”後数日経っても全く足取りがつかめていない状態でした。そんな中急に見つかったと知る状況になっているので、こうなるのも無理はないのでしょうね。
「話しによると、昨日“弐黒の牙壌”に潜入していたチーム悠久の風、同行していたチーム火花のランベルがダンジョン内で保護したのだ」
「悠久の風? 」
「悠久の風って、あの悠久の風よね? 」
「そんなダンジョン、聞いた事ねぇな」
「気持ちは分るけど、少し静かにして頂戴。まだ話しは終わってないわ! 」
フロリア、助かりました。スパーダが続けて詳しい内容を伝えると、ロビーが一気にざわつき始める。ただでさえ関心を引く内容な上に、それに関わったのがこの諸島では名が知られているチーム…。おまけに連盟が非公開にしているダンジョンなので、上位のチームでさえ声をあげずにはいられない、と言った様子…。
そんな収集がつきづらくなり始めた状況の中、フロリアが声を大にしてこの場を制してくれる。いつも以上に大きな声を出したらしく、大勢のロビー内でも声が通っていた。その甲斐があり、騒がしかったロビーがピタリと静かになる。
「…救助した悠久の風は今この場には居ないのだけど、サンドラは今アクトアの病院で精密検査を受けてるから、ひとまずは安心して欲しいのだ」
本当ならラテ君達にもこの場で一言欲しいところでしたけど、今自分達の中で草の大陸で動けるのがラテ君達だけですからね…。
「一つ目は以上です。続いて二つ目は三つ目とも関係があるのですが、昨晩“リヴァナビレッジ”からの避難者全員の受け入れを完了しました。それに伴い地下演習場の通常利用を当面の間禁止とし、代わりに避難所として一般開放します。ですのでもし調整として利用する方がいましたら、最寄りの“実りの森”、あるいは“参碧の氷原”の浅部を利用してください」
「予め言っとくと、“実りの森”、“参碧の氷原”はブロンズレベル。…そやけど“参碧の氷原”の深部だけは、間違っても入らんといてな。アクトアの弟子達は知っとると思うけど、深部はまだ解禁されとらへん危険なダンジョン。多分ウルトラかスーパーレベルになるような気ぃするけど、それ以上のランクのチームでも入らんといてな」
奥地で戦ったあの生き物…、今なら分りますけど、あれも“ビースト”でしたからね…。ハク達は遭遇しなかったらしいですが、“陽月の穢れ”の状態の野生も見かけましたから…。一つ目の事を伝え終えたので、今度は自分が声をあげる。要点だけをまとめたつもりですが、これだけで伝わったのか正直分らないです。…ですがそれを見越してなのか、ハクがアクトアから近い二つのダンジョンについて補足を入れてくれる。形式上深部の方も未開ではなくなっているのですが、危険すぎるという事もあり注意も促してくれました。
「そんでここからが重要な事やけど、今日と明日はチームのランクによって予定が違うで、よう聞いとってな」
「所属するギルドに限らず、ウルトラランク未満のチームは暫くチームとしての活動を休止してほしいのだ。傷と精神面の回復ももちろんなのだけど、避難者の手当てと支援、それから“ワイワイタウン”からの物資の搬入、配給を分担して行って欲しいのだ」
「組み分けは朝礼終了後に通達します」
「それぞれの担当リーダーには昨日の間に声かけたけど、搬入班だけはリアン、っていうエーフィの指示で動いてな」
今ここにいるチームの大半になりますけど、避難者の支援活動はかなりの人手が必要、って聞きますからね。“ワイワイタウン”とフリーのチームも応援に来てくれるらしいですが、これだけは実際に動いてみないと分りませんからね。…それに自分も昨晩会いましたけど、リアンっていうエーフィ、性別は違いますけど本当にシルクに似てますね。あれだけ似ていたら、ランベルさんが見間違えるのも分る気がしますよ。…もしかすると、リアンさんの遠い先祖がシルクなのかもしれませんね。
「そして最後にウルトラランク以上のチームに関してですが、今日一日は依頼をのぞき自由行動とします。…ただし事前にお伝えしましたが、明後日の準備だけは済ましておいてください。お伝え出来なかったチームもいるので改めて話しますが、明後日明朝より、“パラムタウン”、“エアリシア”の両町の事件を起こした犯人グループの本拠地の一斉捜索をします。場所は風の大陸の“エアリシア”。既存のチームをベースとした四〜五人一チームで行動してもらいます。調査目的は主に三つ。一つは囚われた市民、隊員の捜索と解放。一つは犯人グループの一斉摘発。残りは首謀者の拘束です。一部の方を除き、皆さんには前者二つを担当してもらいます」
本当に偶然が重なっていますけど、このタイミングでサンドラさんが保護されていなければ、ここまで作戦を立てる事が出来なかったでしょうね。そうなると、ラテ君達とランベルさんには頭が上がらないですね。
「予め言っておくのだけど、明後日の調査では戦闘も覚悟しておいて欲しいのだ。そこで注意して欲しい事があるのだけど…、フロリアさん」
「ええ。ここからはアタイが話すわ。パラムの事件に巻き込まれたチームなら見たと思うけど…」
これだけはどうにもならないですけど、まさかフロリアもこの状態なんて想いもしなかったですからね…。それが今でもトラウマになってるみたいですけど…。自分、スパーダが一通り話し終えた所で、側に控えていたフロリアが一歩前に出る。これはミナヅキさんとティル君から聞いて初めて知った事ですが、犯人グループの半分がなっている状態に、フロリアもなっているらしい。その状態そのものは自分も戦って確認していますが、もしかするとこれが作戦の難点とも言えるかもしれません。その説明も兼ねて、深呼吸で息を整えるフロリアは、意識を集中させ…。
「…こういうオレンジ色のオーラを纏っている敵がいたら、絶対に近づかないで頂戴」
薄い橙色のオーラを身に纏う。ミナヅキさんもその状態みたいですが、このオーラは一度世界“空間”の外に出た事がある人が陥る状態異常。ウォルタ君なら詳しく知っていそうな気がしますが…。
「自分も実際に戦って感じたんですが、“陽月の穢れ”と呼ばれるこのオーラを纏っている方は、種族としてのステータスのバランスが乱れているそうです。ですのでこの状態の敵に遭遇した時は、接近せずに遠距離から対処してください」
「その敵に関してなんやけど、“穢れ”とる敵は手強くて変な技使ってくるけど、代わりに遠距離攻撃は絶対にしてこない。…そやから
オーラを見たら離れて討ち、無ければ一気に攻めろ、これだけを覚えといて。絶対に役に立つはずやから」
よく考えたら、“パラムタウン”で戦ったあの二人組も、遠距離攻撃は全くしてきませんでしたからね。
「…そして最後に調査の編成で補足があるんやけど、組の中に最低でも一台は何かしらの“ギア”があるように組んだで、それも覚えといてな」
「だから調査中の情報伝達は、一括して“ギア”で行うのだ。これは偶然なのだけど、ギアの開発副責任者もこのギルドに来てるから、通信に関してはその人の援助で作戦が遂行される事を覚えておいて欲しいのだ」
「自分はまだ実際に使っていないのですが、その事に関してはパラムの方々の方がよく知っているかもしれませんね。…連絡は以上ですが、何か質問のある方はいますか? 」
つづく……