Seven-Second 集まる情報
―あらすじ―
“玖紫の海溝”を脱出したウチは、“リヴァナビレッジ”の惨状に言葉を失ってしまう。
修業時代の先輩のフィナさん達の話によると、“ルノウィリア”って名乗る殺し屋集団が襲撃してきたらしい。
やけど幸い村におった人が避難した後だったらしく、死傷者はゼロって言っとった。
身を隠しとったシャトレアさん達とも合流し、ウチらはチアのテレポートで村を後にした。
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[Side Haku]
「…こんだけの長距離でも正確なんて、流石やな」
「結構な人数運んでくれたからね、精度が上がったんじゃ無いかな? 」
「そのようね。下手に動かすと悪化する怪我人もいたから、その点に関しては助かったわ」
ホンマにそうやな。チアのテレポートで“リヴァナビレッジ”を脱出したウチらは、静まりつつある水の都、“アクトアタウン”に姿を現す。人通りとか月の位置を見た感じやと、多分今は夜の七時ぐらい。商店とか雑貨屋なんかは閉まりはじめとるけど、飲食店はまだまだ開いとるような時間…。いつもならそうやけど、今日は連絡船がやっとらへんで人通りは疎ら。ギルドの近くに出たみたいやけど、ウチが見た限りでは五、六人ぐらいしか姿が見えへん。
「おねーさんすごい! めをつむったらちがうまちにきちゃったよ! 」
「テレポート、っていう技でね、一瞬で違う場所に移動できるんだよ。…ところでハクちゃん? ここはアクトアのギルドの近くで良いんだよね? 」
「そうやで。そこの水路からもギルドには入れるで、ヒューさんは泳いで行っても構わへんで」
「もし良かったら、わたしが乗せるけど? 」
「気持ちは嬉しいけど…、彼女を乗せてくれるかな? まだ動けないみたいだから」
何かの“チカラ”使ったみたいやけど…、シャトレアさん、何したんやろうな? 月に負けないぐらい目を輝かせているリシル君に、父親のヒューさんが優しく説明する。村、それから歳のことを考えると初めてのはずやから、多分興味津々って言う感じ何夜と思う。そんで簡単に話しとったヒューさんは、その視線をウチの方に向ける。日が沈んで暗くなっとるって事もあるんかもしれへんけど、土地勘が無い先輩はこんな風に今の場所を訊いてきた。やからウチは拠点のギルドがある北の方に目を向けながら、彼の問いに大きく頷く。そのままの流れで鼻先で水路の方を示し、後ろ足が不自由な彼が行きやすい方法を教えてあげた。
「じゃあ俺が案内しますよ」
「頼んだで。…やけどハイド、あんま無理せんようにな? 」
「このぐらい大丈夫ですよ」
「もし何かあったら、僕が何とかするから」
ホンマに大丈夫そうやけど…、まさかハイド、自分が怪我人やって事、忘れてへんやろうな? ライトちゃんのすすめをやんわりと断ったヒューさんに、この中では重傷を負ってるハイドが声をかける。本当なら痛みでそれどころやないはずやけど、彼は何食わぬ顔をしとる。ハイドの事やから自分の事をそっちのけにしとるような気もしるけど、フィナさんを見た感じやとそうでもなさそう。気になりながらもこう言ったウチに返事したハイドは、気にしないでとでも言うように側の水路に飛び込む。そんな彼に続いて、ヒューさんも滑るように水路へと入っていった。
「リシル、いくわよ」
「うん! 」
「すぐ近くやから、ついてきてな! 」
そういゃあフィナさん達は来るの初めてやったな。ヒューさん達が水路に入るのを見届けてから、ウチら六人もギルドに向かい始める。こん中で知らへんのはフィナさんとリシル君だけやけど、一応こう言ってから五人を先導する。“チカラ”の“代償”で身動きがとれへんシャトレアさんは、ウチらが喋っとる間に乗せてもらったらしく、ライトちゃんの上から顔を覗かせとる。そんで上げていた視線を正面の方に戻し、一区画先に見える
水車小屋を目指し、進み始める。リシル君はチアが抱えてくれとるって事もあって、ウチはいつものペースで帰路に就いた。
「ねぇおねーさん? ここがそうなの? 」
「うん。そういえばリフィナさんも、来るのは初めてって言ってたっけ? 」
「ええ。本当は建った時にアタシも来たかったけど、村の依頼が忙しくて来れなかったから…」
「リヴァナは救助隊入れても三人しかおらへんでなぁ…。さぁ着いたで」
距離的に一番近いキュリアさん達は、もう帰ってきとるやろうな。三分もせんうちに着いたで、抱えられとるリシル君は不思議そうに呟く。直接見た訳やないけど、多分イーブイの少年は首を傾げとると思う。それに続きライトちゃんもフィナさんに声をかけ、ウチらが潜入しとる間に聞いたらしい事を本人に尋ねる。結局ウチのセリフと重なったけど、初めてになるわね、ってラティアスの彼女に返事していた。
「あっハクさん、おかえりなさいですっ! 」
「知らない人もいるから…、リヴァナの人も一緒かしら? 」
「そうなるな。キュリアさん達はどのぐらいに帰ったん? 」
「僕達は丁度夕方ぐらいです」
「俺達もそのぐらいかな? 」
…ん? 俺達もって事は、ティル君達もとこか行っとったんかな? ウチらが戻った事に気づいたらしく、一番近くにいたシャワーズが声をあげる。後ろ足だけで立っとるで、彼女は“ルデラ諸島”から来とるアーシアちゃんやと思う。その彼女に続いて声をかけてくれたのは、何故か氷タイプの姿になっとるキュウコンのキュリアさん。彼女はフィナさんの方をチラッと見、ウチに問いかけてくる。やからウチはすぐに応え、この流れで彼女たちに逆質問した。
「ティル君達もなん? 」
「うん。シリウスさんに頼まれてね、ミナヅキさんから色々聞いていた、って感じかな」
「ミナヅキ…、異世界のルガルガンの事やな? 」
そういゃあ昨日、シリウスがテトラちゃんを探してもらう代わりに預かってきた、って言っとったな。ティル君もどこか行っとったのは知らんかったで、ウチは彼に一言尋ねてみる。すると彼は後ろの階段の方をチラッと見てから、今日したらしい事を話してくれる。ウチは例のルガルガンの事はシリウスからしか聞いてへんけど、確かそんなような事を言っとったような気がする。うろ覚えやったから、マフォクシーの彼にもう一度確かめてみる事にした。キュリアさんは、何か凄く驚いたような顔しとるけど…。
「そうらしいです。…そだ。ハクさん、今日の調査で色々と分った事があるのですけど…」
「と言う事は、アーシアちゃん達も何か分ったんやな? 」
「はい。ってことはもしかすると…、ハクさんもですか? 」
「そうやで」
ん? 依頼と兼ねて潜入したって聞いとるけど…、何かあったんかな? ヒューさんとは別のシャワーズの彼女は、ふと何かを思いついたのかウチに目を向けてくる。一瞬何のことなんか分からへんかったけど、“壱白の裂洞”の事やってすぐに気づけた。先を越されたんかキュリアさんは開き欠けた口を閉じ直しとったけど、ウチも言いたい事があるで彼女に訊き返す。…やけど返事自体をし忘れとったで、付け足すような感じで大きく頷いておいた。
「そういえばそんな事言ってたわね。“ルノウィリア”の事だと嬉しいけど…、シャワーズのあなた達はどんな事を? 」
「りっ、リーフィアさん達もですか? ぼっ、僕達も“ルノウィリア”の事です! 」
「コット君達もなん? 」
「ってことは…、ハクさん達もなのね? 」
こっ、こんな偶然って、あるん? フィナさんにはウチが直接話したで、すぐにキュリアさん達に質問してくれる。“玖紫の海溝”とリヴァナの襲撃、どっちも“ルノウィリア”やから、少しでもその事やとありがたい。…やけどそれぞれ行っとった大陸は違うで、ウチはそれほど期待してはいなかった。していなかったら、ウチ、コット君も、偶然とは考えられへん事に思わず頓狂なこえを上げてしまった。
「ええ。こっちのギルドにリヴァナから避難してきている、って事は知ってるわね? 」
「シリウスさん達からそう聞いているわ。今日一日かけて、他の風の大陸の街からの避難者も受け入れているのよね? 」
「そうやで。その事でなんやけど…、避難した後で襲撃されたらしいんよ」
「ハクちゃん自身も、その“ルノウィリア”の一味と戦ったらしいわ」
「そう…だったのですか…」
潜入した後はリル達とヒューさん任せやったけど、あれは間一髪やったよなぁ…。ウチらの予定は朝伝えてあったで、フィナさんの問いかけにキュリアさんは頷く。キュウコンの彼女はこう言っとるけど、時間的にはもう既に全員の受け入れは済んどる頃やと思う。やからって事でウチは、伝えたかった事の本題をキュリアさん達に淡々と伝える。ウチのことはフィナさんが補足してくれたけど、アーシアちゃんは信じられない、って感じで唖然としてしまっていた。
「そうなんよ…。シル…、その相手は二人やったんやけど、赤い鎖で繋いだ沢山の人達を道具みたいに使っとったな…」
「赤い鎖、ですか。僕達の方もです。人数は二人だったんですけど、その中に“エアリシア”の親方も混ざっていたらしいです」
「ウィトさんも? 嘘やろ? 」
「はいです。なのですけど…、野生の方達みたいに理性が無い状態でして…」
この何日か親方総出で捜索しとるけど…、まさか…。ウチは一瞬シルクの事を言おうか迷ったけど、出かけた言葉を慌てて引っ込める。いつもと違うシルクから聞いた事やで本当かどうかあやしいけど、“ルノウィリア”…、やなくてあの暴君はウチのことも狙っとる、って言っとった。これだけやと信憑性に欠けるけど、ウチらのギルドに逃げてきとるリク、殺されたソクの事もあるで、異様に説得力があった。…やからシルク関係の事を伝えると、もしかするとウチらのギルドも巻き添えを食らう事になるかもしれへん。そういうわけでウチは、慌てて話題をドククラゲとサメハダーが使っとった鎖に変えることにした。まさか“エアリシア”の親方もあんな風になってたなんて、夢にも思わへんかったけど…。
「…それからこれはいい知らせなのですけど、私達以外にも“エアリシア”の事件を調べてる方がいました」
「ハク達以外に? アタシはそれどころじゃ無かったけど、確か連盟がスーパーランク未満は着手するな、って通達してたはずよね? 」
「そう聞いてるけど、俺達みたいに流れで協力してる人もいるから、探検隊以外の人なんじゃないかな? 」
「ライトちゃん達も“ビースト”の討伐には協力してくれとるでな。せやけど協力してくれとるんなら、凄く嬉しいやんな」
「そうね」
って事はもしかして、シルク達の方のグループかもしれへんな。ここまでの内容が暗いものやったから、耐えられなくなったのかアーシアちゃんが話題を変える。少し間を空けてくれたで、あの鎖の事やない、ってすぐ気づく事が出来た。それに話してくれた内容には、確かにウチにも心当たりがある。もちろんシルクもそうやけど、一緒におったランターンもその一人で、聞き間違いかもしれへんけど伝説の種族も強力しとる、って言とった。そうなると話には出してないだけで、キュリアさん達が会ったのは伝説の種族の誰かなんかもしれへん。アーシアちゃんには何人か知り合いが…、まぁウチらもそうやけど、伝説に関わるから敢えて種族名は出さんかったんやと思う。
「それでその人達の事でなんだけれど、明後日に“ルノウィリア”…、本拠地の“エアリシア”に総攻撃を仕掛けるから、協力者を募って欲しい、って頼まれたわ」
「その人達もZギア? を持ってたんですけど、当日に色々情報を交換する事になってます」
「明後日やな。…わかった。そうなると明日中に準備できそうやな」
そっちはシルクとは違って、凄い協力的やったんやな? ウチの言葉に頷いたキュリアさんは、頃合いを見て大切そうな事を話してくれる。“エアリシア”の事はシリウスと二人で調べるつもりやったけど、そう言ってくれるんなら悪い気もしない。おまけに人手を集めるように頼まれたって事は、向こうの方はウチら以上に準備が進ん取るんかもしれへん。それにウチらだって、フィリアさんのCギアとギアを使い慣れとるスパーダ達…、事件に巻き込まれへんかったパラムの後輩達がおる。そやから無理強いは出来へんけど、組み分け次第では情報伝達もすんなりいくような気がする。そやからウチは、思う事はいくつかあったけど、シルクの従兄弟の言葉に大きく頷いた。
つづく……