Six-Eighth 警告
―あらすじ―
“玖紫の海溝”の奥地で偶然出くわしたシルクと喧嘩中、痺れを切らした敵が急に襲いかかってきた。
それはサメハダーとドククラゲの二人だけやなくて、どこからか呼び寄せた理性のない人が殆どやった。
ウチらはその軍団に対して防戦を強いられとったんやけど、それに紛れた攻撃でハイドが大けがを負ってまう…。
シャトレアさんと二人を逃がし、ウチはようやく攻勢に移ることが出来た。
何とか倒せはしたけど、別の所のシルクの戦いに、ウチは言葉を失ってしまった。
――――
[Side Flay]
「…あっ、フライさん! 」
「しっ、シードさん? 確か“デアナ諸島”の方に行ったんじゃあ…」
「それが少し予定が変わりまして…、フライさんをずっと探していたんです」
「ぼっ、ボクを? 」
「はい! “太陽”からの伝言を伝えてほしい、ってチェリーから頼まれてまして…」
「ええっと確か…、ソレイルさんですよね? 」
「そうです。僕も何でかは分からないんですけど、キノトっていうルガルガンを“無名の泉”に連れてきてほしいそうです」
「“無名の泉”に? …だけどシードさん、“無名の泉”にはボクだけだと行けないはずですけど…」
「それなら大丈夫です。“南西の観測者”が迎えに来てくれる、ってチェリーが行ってました」
「“南西の観測者”…? 」
――――
[Side Haku]
「――、――…っ! 」
「終わっ…た? 」
ウチが倒すつもりやったんやけど…。シルクの戦いに言葉失っとったウチは、ただ呆然と事の成り行きを見る事しか出来なかった。さっきのドククラゲもそうやけど、顔色の悪いシルクは淡々と、多分何も考えずに“ビースト”にダメージを与えていく。ウチが知っとるシルクの技とは違ったけど、彼女は見た感じやと、冷凍ビームと雷を発動させる。ウチがサメハダーと戦っとる間にやっとったんかもしれへんけど、これだけでシルク…、とランターンは“ビースト”にトドメを刺し、白い渦と共に消滅させていた。
「この感じだと、向こうも終わったらしいわね」
『そのようね…』
「ハクリューのあなた、そっちの方を倒してくれて、助かったわ。フローゼルとサクラビスの姿が見えないけれど…」
「ハイド…、フローゼル達なら、少し前に脱出させた」
大けがしたでやけど、シルク達なんかに言う必要なんてないやんな? 戦闘が一段落したって事で、シルク達はふぅと一息つく。その流れでウチの方にも目を向けたらしく、ランターンが一度辺りを見渡してからぽつりと呟く。薄い黄色い明かりで照らされとる彼女は、背鰭にしがみついとるシルクにも話しかけたらしい。頭の中に声が響くのを待ってから、何を思ったのか今度はウチに対しても話しかけてきた。
一応シルク達とは共闘した事になるけど、ウチは彼女たちを仲間だなんて思ってない。シルクと喧嘩中やからっていわれたらそれまでやけど、戦う前の感じやとシルクはウチらも追い払うつもりやったはず…。やから“ビースト”を倒してくれたのは感謝しとるけど、ハッキリ言って余計なお世話って思っとる。結局邪魔されて出来へんかったけど、シルクなんかがいなくても、ウチだけで“ビースト”は倒せた。…そういう思いもあって、ウチは訊いてきたランターンに対し、これだけを表情を変えずに答える。向こうはこっちの方に泳いできたけど、敵のシルクの顔なんて見たくも無いから、ウチは少し後ろの方に泳ぎ下がった。
『賢明な判断と…言えるわね…。ハクリュー…、いえ、ハク。あの数を一人で…倒したなんて、流石と言うべきね』
「…今更何なん? シルクこそ、“代償”があるのによく生き延びたよね」
『…そう…、ね…。本当にどうして…、かしらね…』
…シルク、ウチらのなのに、何でそんな顔するん…? 喧嘩中のシルクはウチに目を向けると、何故か小さく…、けど弱々しい笑みを浮かべる。それも目的を達成して満足したようなって感じや無くて、どこかホッとしたような…、そんな感じ。それも喧嘩中で敵対しとるウチに対してやったから、ウチは若干苛つきながら彼女を問いただす。毒状態かなんかになっとるんやと思うけど、青ざめた表情の彼女は、ウチにやなくて自分に問いかけるように言葉を伝えてくる。ウチの頭の中に響いてきた声には、どこ悔いとるような…、悲しげな感情が含まれとるような気がした。
「もしかしてフォス? 彼女のことを知って…」
『ええ、よーく知ってるわ。彼女は“アクトアタウン”の親方で、名前はハク=リナリテア…』
「り、リナリテアて…」
『そう、ジクの家出した長女…、本人よ』
やっぱり、シルクやったんやな…。ウチらのやりとりを見とったランターンは、多分ウチらの関係を不思議に思っとったんやと思う。ウチら二人が気まずさで黙り込んだタイミングを見計らって、背中のエーフィにこう問いかける。するとウチが親友やと重っとった彼女は、相変わらずの暗い表情でランターンの問いに答える。どこで知ったんかは分からへんけど、ウチの本名を聞いたランターンは驚きで口が開いたままになってしまっていた。
「て事は、彼女も…」
『いいえ、彼女は…無関係。寧ろ“ルノウィリア”排除…のために動いてくれてるわ。…そうよね? 』
「えっ…、そう…やけど…」
なっ、何でその事知っとるん?
『それだけじゃなくて、“ビースト”の討伐も…してくれてるわ。私が知ってるだけでも…、“青震”、今日も“壱白の裂洞”の討伐の時に会った、ってクアラ達から連絡が入ったわ』
うっ、嘘やろ? 何日もウチらの所におらへん筈やのに、何で今日の事まで…! 本当にどこで聞いたのか想像できへんけど、シルクはウチらのギルドのことまで話し始める。出てって知らないはずの、キュリアさん達の事まで…。この感じやと他に仲間がおるみたいやけど、あり得ん事が多すぎてウチは頭の中が散らかってしまう。他に聞きたいことが沢山あるけど、ただ呆然と聞いて頷くことしか出来なくなってしまった。
「そう思うと…、一応は味方なのね」
『そうなるわ。…ハク、訊くだけ無駄…かもしれないけど、今も“エアリシア”とパラムの…事件を追ってるのよね? 』
「そんなこと、訊かんでも分かるやろ? 」
『…だと思ったわ。それならハク…、伝説側の立場じゃなくて…、一人のエーフィとして、もう一度あなたに警告しておくわ』
「警告って、何を…」
警告って、今すぐ消えろ、って事やろ? シルクらが邪魔されたくないから…。
『…ハク、お願いだから…、あなただけでも、“エアリシア”の件から手を退いて…』
「…退ける訳…、ないやろ? もう知っとると思うけど、ジク=リナリテアはウチの実の父親…。“エアリシア”の殺人事件起こした超本人なんやから、尚さ…」
『だからこそよ…。首謀者は例え身内でも、障害になるって思ったら…、どんな手を使ってでも…、殺めようとしてくる…。だからこのままだと…、ハクが殺される…。…ハクは私の事なんて許してくれないと思うけど…、私はあなたを死なせたくない…』
「フォス…」
「シルク…」
許せない…? それはシルクも同じやろ…? 確かにシルクが敵になったんは許せへんけど、ウチだってあんな酷いこと言ったんやから…。相変わらず声が暗いけど、シルクは立て続けに言葉を伝えてくる。やけどその内容は喧嘩とウチを問い詰めるものやなくて、ウチの身を案じるようなこと…。意外すぎる内容やったから、ウチ…、それから一緒におるランターンも、言葉を失ってしまう。喧嘩している身とはいえ、ウチはシルクっていうエーフィの事をよーく知っとる。無茶をすることなんてしょっちゅうやけど、そういうときは必ず、誰かのために動いているから…。今回喧嘩してシルクの事を聞かんかったのも、もしかするとウチのことを想って、なのかもしれへん。やからシリウス達からも、シルクのことは一切聞かんかったんやと思う。敵の仲間になったのも、そう考えると無理をしてウチの代わりになってくれていたから…。そのために連絡も一切絶っていて、メガネで変装までして正体を分からなくしとる…。それをシルクのことやから、一人で…。
『…ミウさん』
「…ん? 」
『戻りましょ…』
「戻るて…いいのね? 」
『…ええ。伝えることは伝えたから…』
「まっ…、待ってシルク…! ウチはまだ話…」
戻るって…、どこに戻るん? どこか思い詰めた様子のシルクは、ウチにも聞こえるようにランターンに語りかける。ミウっていうのは彼女の名前やと思うけど、唐突に語りかけられたって事もあって、ミウっていう彼女は首を傾げる。もしかすると他に何かを伝えたんかもしれへんけど、傾げる彼女はそのまま逆質問する。戻るって言われてもウチにはどこかさっぱり分からへん…。もしかすると“エアリシア”の事かと思ったで、ウチは慌ててシル…。
「っく…! 」
「テレポート! 」
「シルク! シルク…」
慌ててシルクを呼び止めようとしたけど、それは叶わなかった。
ウチが言い切るまもなく、シルクは提げてる鞄から一つの不思議玉を取り出す。すぐに作動させると、目を覆いたくなるような閃光が突然放たれる。すぐに光の玉やって分かったけど、いきなりやったから反射的にウチは目を閉じてしまう。ほんの一瞬のことやったけど、目を開けた時には既に、その場所には誰の姿も無い…。その場にはただ、ウチの声が暗い毒の水に紛れていくだけやった。
「シルクはウチには関わってほしくないみたいやけど…、ウチにだって譲れへん理由があるんや…。そやからシルク、ごめん…。シルクの気持ちも分かるけど…、ウチはこのまま…、あの暴君を追う…。やからシルク…、お願いやから…」
ウチの事も、止めんといてな…。
「…脱出」
つづく……