Six-Sixth 敵か味方か…
―あらすじ―
“リヴァナビレッジ”近くの河口で合流したウチら三人は、それぞれの事を報告し合う。
村のことは予定通り進みそうやから、続けて“玖紫の海溝”に潜入するための準備に入る。
その流れでシャトレアさんに呼吸器を渡そうとしたんやけど、彼女は何故か、いらない、って言ってきた。
訳が分からず訊き返すと、彼女はサクラビスに姿を変え、“志の賢者”って言うことも教えてくれた。
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[Side Ramver]
「…僕達は先に進みますけど、サンドラさんはどうしますか? 」
「そうだな…、本音を言うとすぐにでも脱出したいが…、ついて行くことにするか…」
「どのみち奥まで行かないと、脱出機能は使えないもんね」
「そうでしゅよね」
「もしかすると戦闘になるかもしれませんけど、僕達が何とかしますから。…じゃあ、行きましょうか」
――――
[Side Haku]
「…あと十メートルぐらい潜れば、目的地やよ」
「ってことは、やっとだね! 」
「そうですね。スーパーレベルは初めてでしたけど、流石に疲れますね」
水中のダンジョンやから余計やけど、下手すれば丸一日かかる広さやでな。三人で“玖紫の海溝”に潜入したウチらは、順調すぎるぐらい簡単に突破することが出来た。スーパーレベルの広さやからもっとかかるはずなんやけど、何故か野生が全くおらんかったでこんなに早なったんやと思う。もしかしたらサクラビスの姿のシャトレアさんは気づいとらへんかもしれんけど、色んな所に氷とか電気、地面タイプの技を使った痕跡が残っとった。いつものウチならこんな事は思わへんのやけど、“緊急事態宣言”が出とる時に潜入するなんて、よっぽどの物好きしかおらへん。…そもそも“玖紫の海溝”は“風の大陸”の近くやから、ウチらみたいに自力で泳いだり、飛んで来ん限りは近づくことさえ出来ん。もし申請しても、“風の大陸”っていうだけで許可が下りへんのは目に見えとるけど…。
そんで想定よりも早くダンジョン地帯を抜けたウチらは、一息ついてから深く潜り始める。抜けたとはいえ深い海の底やから、何にもせんと真っ暗で何も見えへん。やからウチらは光の球を使い、少しやけど周りを見れる状態で潜ってきとる。猛毒を含んだ海水やから紫がかっとるけど、これもシルクの薬のお陰でなんともない。…そやけどこれだけの深さのダンジョンやから、ハイドとシャトレアさんはバテてしまっとった。三十分ぐらい休憩入れたで、今は回復しとるけど…。
「だけど楽しかったから良いんじゃない? 紫の海なんて珍しいし、浅い時は凄く綺麗だったもんね」
「俺も色んなダンジョンに潜入してきましたけど、あれほどの景色は滅多に見られ…、ん? 」
「ハイド、どうかした? 」
「近くで声がしたような気がしたんですけど…」
声…? 気のせいとちゃうかな? 一瞬シャトレアさんが的外れなことを言い始めたかと思ったけど、今回は珍しくそうやなかった。ウチは今今回でココには三回潜入したことになるんやけど、あんなに綺麗やったことは今までなかった。海面から差し込む日の光が反射して、ベールみたいな感じで毒の海中を照らしてくれとった。結局見れたのは推進二十メートルぐらいまでやったけど、ハイドの言う通り、中々見れるもんやないと思う。
やけど海底に背を向けて泳いどるハイドは、話しとる途中で急に首を傾げる。この感じやと何かを聞きとったんやと思うけど、ウチにはそれに気付けへんかった。
「ハイドさんも? わたしもだよ! 」
シャトレアさんも分かったって事は、もしかすると種族的な差があるんかもしれへん。いくらウチが水辺に適したハクリューって言っても、そもそもウチは純粋なドラゴンタイプ。二人とは違って息継ぎせんといかんから、水中で行動できる時間も短い。…とは言っても他の種族と比べると長いし、ウチ自身水中は得意やからどうって事無いんやけど…。
「もしかして“ビースト”じゃないかな? 」
「そうだとは思いますけど…、それにしては多すぎませんか? 」
「…だよね? 何か四つぐらい声が聞こ…」
「――ソイツは頼もしいなぁ! 」
「あっ、ウチにも聞こえたで! 」
って事は…、この声がウチらの前に潜入しとった誰かやな? ウチは今気づいたけど、ハイド達の言う通りいくつかの声が聞こえてきた。何か話とるみたいやけど、流石にその内容までは分からへん。二メートルぐらい潜ったら聞こえるようになったで、多分この声の主達は海底の近くにおるんやと思う。ひとまずウチにも聞こえたで、先に気づいとった二人に対しこう答える。何でおるんかは分からへんけど、ウチは海水を尻尾で強く叩き、泳ぐスピードを速めた。
「…だけどハクさん? わたし達以外に誰かいるなんて思…」
「…しかしここの海はどうかしてる…。お前には言ってなかったが、潜ってから気分が悪…」
「ハクさん、もしかしてあの生き物が…、“ビースト”でしょうか? 」
「見たことない種族やし、きっとそうやな」
何か変な感じするけど、間違いなさそうやな。ウチの泳ぐスピードに着いてきてくれとるシャトレアさんは、何かを思ったらしくウチに訊いてくる。ウチも潜入した時から思っとったけど、ウチら以外に潜入しとる意味が全く分からへん。言いかけやけどウチはそうやね、そう言おうとしたけど、喉に力を入れかけた瞬間にいくつかの人影が見えてきた。合わせて五つあるけど、そのうちの一つは見たことない、スピアーにも似た紫色っぽい何か…。全く見覚えのない種族やったから、ウチはあの生き物が“ビースト”やって確信できた。
「ん? 貴様等は何者だ? 」
「…――! 」
「ええっ? うっ…、嘘やろ? 」
あれは…、絶対にそうやんな! ウチらが来たことに気づいたのか、先にいた四人のうちの一人…、サメハダーがこんな風に問いかけてくる。他にもドククラゲとランターンがおったけど、ウチはもう一人の姿を見た瞬間、驚きで声を荒らげてしまう。まさかこんな所におるなんて思ってもいなかったから、何が何だか分かなくなってしまう…。
「何でシ…」
「わたし達? そんなの決まってるでしょ、君たちが捕まえてる“ビースト”を倒しに来たんだよ」
「どこのチームかは分かりませんけど、その様子だと目的は違うみたいですね」
ランターンにしがみついているその一人は、耳元に水色のアクセサリーを着けていて、トレードマークとも言える水色のスカーフを首元に巻いている。白い服は羽織ってへんけど、サイコキネシスを発動させとるらしく、彼女の周りには空気の層が出来ている…。こんな強い水圧の中でも出来そうな人は一人しか知らへんで、ウチはその人の名前を大声で呼ぼうとする。やけどそれは叶わず、名乗りを上げたハイドとシャトレアさんの声に遮られてしまった。
「“ビースト”の討伐、ね…」
「そうか。…なら俺達とは敵同士って訳だなぁ! 」
ウチはそれどころやないんやけど、これを聞いたランターンは、意味ありげに一言、ぽつりと呟く。やけど何で何か考えるまもなく、ドククラゲの方が荒々しく声をあげる。目線からするとランターンかエーフィ、どっちかやと思うけど…。
「フォス、彼奴ら三人にここに来た事を後悔させてやれ! 」
「俺ら“エアリシア”…、いや、“ルノウィリア”の恐ろしさを思い知ることだな! 」
「……」
「ふぉっフォス? それどういう意…」
「ってことは、やる気だね! 戦えなくて楽しくなかったから、いつでもかかってきて! 」
「俺達は最初から戦うつもりでここまで来ています。相手は違いますが、どこからでもかかってきてください! 」
嘘やろ…? まさか…、でもそんな筈は…。声を荒らげるドククラゲは、対面している二人に向けて命令…。どういう関係か分からへんけど、ランターンとエーフィの二人に、こう指示を飛ばしていた。…やけどそれでも、しがみついているエーフィは一切表情を変えへん。下のランターンが後ろをチラ見して言い放っとるで、エーフィはテレパシーで話しかけたんかもしれへん。そうなると益々親友…、喧嘩して出て行ってしまった彼女と重なってしまう。ここまで来るともう本人そのものやけど、敵対することになりそうなドククラゲに指示されとるで、彼女たちもその仲間、って事になる。喧嘩してウチに怒っとるのは分かるけど、そこまでしなくても良いような気がする。けど無反応の親友に声をかけるまもなく、“志の賢者”と右腕が欠けたフローゼルは声をあげてしまっていた。
「“太陽”のくせに図に乗るな! フォス、殺れ! 」
「……」
「どっからでもかかってきて! ワイルドボ…」
「シルク! 何でシルクがて…」
サメハダーも声をあげると、やっとエーフィが反応を見せる。一瞬ランターンの方を見、正面に視線を戻る。すると辺りの毒水が一気に張り詰め、ピリピリとした感覚が一気にこの場を支配する…。ウチは最悪な状況を覚悟し、戦う気満々のシャトレアさんに続くようにエネルギーレベルを高…。
「っぐあぁぁっ…! 」
「…えっ? 」
「なっ…、フォス、何のつもりだ! おい貴様、何をしたか分かってるのか! 」
いっ、一体何が…。エーフィはエネルギーレベルを高め、ウチらに向けて一気に解放する…。…かと思ったけど、ウチら三人に彼女の攻撃ガ飛んでくることになかった。後ろに下がるように泳ぐランターンに掴まる彼女は、何故か仲間らしいドククラゲに向けて技を発動させる。それも見た感じ水中やと全体技になる電気タイプ…、その中でも最上級の、雷。三十メートルぐらい離れとるこの場所でも、ダメージは無いとはいえビリビリとした感覚がウチらに襲いかかってきた。
もちろんウチらもそうやけど、仲間らしいサメハダーは驚きで声を荒らげる。驚いたと言うよりは怒って、って言った方が正しいと思うけど、裏切りともとれる行動をしたエーフィ達を叱責していた。
「いっ、一体何が…」
『目的の邪魔をする敵を攻撃した、それだけよ』
「なっ…フォス! 貴様、喋れたのか? 」
「…まさかとは思うが…、貴様…、俺達を騙していたのか…? 」
『あら、私があなた達の味方になっただなんて、いつ言ったかしら? そもそも私が意思疎通出来ないなんて、一言も言ってないわ』
「この声…、やっぱり…、シルク! やっぱりシルクやんな! 」
ウチが間違う筈が無い…、あのエーフィ、絶対にシルクやん! 訳の分からない様子のサメハダーに、ようやくエーフィが口を開く。それもウチの予想通り、声やなくて頭に直接語りかけるようにして…。向こうの二人にはどんな風に接しとったんかは分からへんけど、あの様子やとテレパシーさえ使ってへんかったんやとおもう。淡々とトーンと落として語る親友は、無表情のままサメハダー達を挑発する。いつもと違う彼女には驚いたけど、それ以上にウチは、やっと会えたことの嬉しさの方が勝っていた。
「シルクって…、ウォルタ君が言ってたエーフィのこ…」
「そんなもん知るか! 貴様等はムナール様に楯突…」
「悪いけど私達にも都合というものがあるのよ。少し考えれば分かると思うけれ…」
「シルク! 今まで何しとったん? …あの時はウチが悪かったけど、何で敵…っ! 」
『ハクリュー、少なくとも敵じゃ無いみたいだけど、あなた達もそうよ? 何者なのか知らないけど、私達の邪魔をするなら、あなた達にも容赦はしないわ! 』
…えっ? ウチは遂に我慢が出来ず、何日かぶりに再会したシルクに対し声をあげる。姿を消したのはウチの顔なんて見たくないからやと思うけど、それぐらいの事をウチは言ってしまったで、仕方の無いこと…。やけどウチらの敵になる事も無いと思うから、冷たい視線を送ってくる彼女をこう問いただす。やけど言い切るまもなく、ウチは彼女にそれさえも許してもらえなかった。
おまけにシルクは、ウチが思ってもいなかった行動を瞬時にとる。彼女は名前や無くて種族名でウチを呼ぶと、その流れでウチに語りかけてくる。何かもの凄くよそよそしい話し方やったから、あの時の事を今も怒っとるんやと思う。おまけにサイコキネシスで操る長針をウチの喉元に突きつけて脅してきたから、相当…。頭の中に響く声にも、どこか怒りの感情が含まれているような気さえしてきた。
『死にたくなかったら、部外者のあなた達はすぐに立ち去る事ね』
「フォス、そこまで言わなくても…」
「それはシルクの方やろ! ウチは一人の親方として、事件解決のために動く。そもそもウチはリナリテア家の長女なんやから、親族の暴走を止める義務がある。やからウチだって、いくらシルクでもリナリテア家の問題に首を突っ込むなんて許さへん…。シルクがその気なら、ウチもタダじゃ済まさへ…」
「さっきからブツブツと…目障りなんだよ! フォス! 彼奴ら諸共、海の藻屑にしてくれるぁっ! 」
「えっ…? 」
「……っ! 」
「ちょっ、ちょっと待って! 一体どこからあんなに沢山…」
つづく……