Six-fourth 人の上に立つ者として
―あらすじ―
Zギアの事が一段落したで、ウチは思うことがあってリルにハイドを呼んでくるよう頼む。
その場所はウチらにとっては思い入れのある場所やから、スパダとの間で思い出話に華が咲き始める。
やけどその途中、二階から保安官らしいエネコロロが話に入ってくる。
その後呼んでもらっていたハイドも合流し、何故かシャトレアさんも調査に加わる事になった。
――――
[Side Haku]
「…何っ? 」
「経費の方はウチらが持つんで…! 」
今はまだええかもしれへんけど、早いうちに対策しとかんと…! ハイド、チア、エネコロロのシャトレアさんとギルドを発ったウチらは、チアのテレポートで"リヴァナビレッジ"に向かった。リヴァナは風の大陸の東側にあってかなり遠いけど、テレポートで来たですぐに着いた。普段は風光明媚でええ村なんやけど、今はそうやない…。川と海、山にも囲まれて閉鎖された場所やけど、西側のパラムから逃れてきた人達でごった返しとる。いかだが組まれた地上部だけやと収まりきらへんから、パッと見川岸の方にも人影が見える。川底の方は行ってへんで分からんけど…。
そんでついて早々ウチら四人は、すぐにダンジョンには行かずに村を奔走しとる。チアには桟橋の方に行って待っててもらっとるんやけど、二人にはそれぞれの機関の方に報告とか…、情報収集してもらっとる。ハイドは除名しとるで隊員って訳やないんやけど、救助隊連盟の今の状況を聞いてもらっとる。シャトレアさんは支所の方に行ってもらっとるけど、個人的なことと合わせて手続き云々…。最後にウチ自身は、これからの事の段取りと、村長への交渉。今役場におる村長のヌオーに話始めたところやけど…。
「問題は金ではない! 村を捨てて逃げるなど、ワシに出来るものか! 」
「村を捨てるだなんて、そんなこと一言も言ってへん。ウチが言ったんは村民避難。手遅れになる前に手を打たな、守れるものも守れんくなるやろ? 」
村長が全然聞く耳を持ってくれへん。アポイントもとらずいきなり来たウチが悪いんやけど、今の風の大陸の状況を考えるとそうも言ってられへんと思う。…やからウチ…、ウチらが考えたんは、風の大陸で唯一無事な"リヴァナビレッジ"、村ごとの避難。立地的に攻めてられにくい場所にある村やけど、あの暴君の事やから何をしでかすか分からへん。
「避難? 船も無いのにどうしろと? 第一パラ…」
「船なら問題ない。今頃アクトアの方で手配してくれとるはずやから。それにテレポート使える弟子も来る事に…」
現にパラム…、ニアレと他の町が陥落した今、リヴァナが攻め落とされるのも時間の問題。おまけにシリウスとチアの話やと、向こうにはデアナの殺し屋と奇妙な技を使う集団までいる。
「…なっとるから、怪我人を早急に避…」
「いいやワシらに避難など必要ない! 山と海に囲まれたリヴァナが壊滅するわけないじゃろう! 第一ただの小娘に何が出来る? 後先考…」
「
それはそっちの方やろ! 」
何とか抑えとったけど…、そう言われたらもう我慢できへん! ここまでは感情を抑えて交渉しとったけど、ウチの中でぷつりと何かが切れる。つい声を荒らげてしまったけど、多分この村長はウチがハクリューってだけで物事を判断しとると思う。
「パラムを見てて分からへんかったん? あのパラムが攻め落とされたんや! やからこの村ももう時間の問題…。こんなこと、少し考えればすぐ分かるはずやろ? 」
「どの口が言うか…! 手続きもせず来た奴なんぞの…」
「それは謝る…! やけどそんな事しとったら遅…」
「
黙れぃ! ワシにも村長としての立場と責任があるんじゃ、たかがギルドの親方無勢の…」
「ウチにも責任あるけど、
もうええわ! こんだけ言って聞かへんのなら、ウチらで勝手にやらせてもらうで! 」
「
ふん、好きにするがいい。じゃが後悔して泣きついて来ようとワシは何も手は貸さぬぞ! 」
「貸してもらわへんでも結構! 動いとるんはウチだけやない。アクトアではパラムの親方、弟子達も手配してくれとる。それに保安協会にも話は通した。…全部ウチの独断と責任で動いとるけど、その言葉、そっくりそのまま返させてもらうわ! 」
交渉決裂やけど…、ここまで来た以上は後戻りできへん。このまま話し続けても埒があかへん、手配したのを断ると信頼問題にも関わるで…、強行するしかないな。途中感情的になってまったけど、ウチの説得も虚しく話は破談…。このまま交渉しとっても時間の無駄やから、根拠になる、アクトアとシャトレアさん、ハイドがしてくれとる事を吐き捨てる。そのままウチは感情的になったまま、くるりと向きを変えて部屋の出口の方に這う。バタンッ、と扉を力任せに閉めてウチは分からず屋の村長室を後にした。
「…はぁ、噂には聞いとったけど、あそこまで頑固やったとはなぁ…」
「ホント悪いね、わさわざアクトアから来てるのに…」
「ヒューさんが謝る事ないで…」
悪いんはあの村長…、頭が古いんか固いんか知らへんけど…。廊下を進んでロビーに出た辺りで、ウチは大きなため息を一つつく。ウチが前もって連絡せず来た事が逆鱗に触れたんやと思うけど、もう少し臨機応変に対応して欲しかった。…いやそれよりも、ウチはハクリューだからって事で下に見られたんが気に食わへん。カイリューに指図されるよりはマシやけど…。
…で役場のデグチにさしかかった辺りで、ウチは一人の人物に話しかけられる。ため息で気づかれたんやと思うけど、振り返ったそこには一人のシャワーズ。ウチにとっては馴染みのある人やけど、村長秘書のヒュルシラさんが気まずそうに頭を下げていた。
「ううん、僕ももうちょっと人の話を聞いてほしいって言ってるんだけど…、あの人はあぁだからさぁー。…その感じだと上手くいかなかったみたいだけど、僕は協力するよ? 」
「ホンマに? 」
「うん。ハクちゃんも頑張ってるみたいだしね」
ヒューさん、村長に黙ってやって大丈夫なんかな…? シャワーズの彼は独り言のように呟いてから、ウチにこう言ってくれる。まさかいいよ、って言ってくれるなんて思わへんかったで、そんな彼の方にハッと目を向ける。その目線の先には、頼れる先輩の優しい微笑みがあった。
「…でハクちゃん、僕らは何すればいい? 」
「うーんと、そうやな…」
ハイドとシャトレアさんと合流せなあかんけど…。村長の代わりに了承してくれたヒューさんに、ウチはぺこりと頭を下げてお礼を言う。ヒューさんは引退して暫く経つけど、今もウチらとスパダの先輩って事に変わらへん。おたずね者の依頼で大怪我して今も後遺症が残っとるけど、普段の生活をするのには困ってへんらしい。
…話を元に戻すと、ウチらは村役場を出てから、木で組まれた桟橋を渡る。多分村長に聞かれへんようにするためやったんやと思うけど、協力してくれる事になった先輩がこう聞いてきた。やからウチは、麻痺が残る後ろ足を引きずるヒューさんから目を離して…。
「怪我人とか、この村にどのくらいおるんか教えてくれへん? 」
優先順位を決めてこう伝える。
「いいよ。えーっと確か…、怪我人は一般人が九十三人で、隊員は三十六だったかな? 」
ざっと百三十人かぁ…。スパダが手配してくれとる船にもよるけど、乗るかな…。
「百三十人ぐらいやな? 」
「うん。まだパラムしか着いてないから分からないんだけどねぇー…。僕も一つききたいんだけど、いい? 」
「かまへんよ」
「じゃぁー、避難させる方法って、どうなってる? 」
「大まかに言うと、船とテレポートやな。街を出とったパラムのとウチらの弟子におるで、怪我人は先にアクトアに避難させるつもりやよ」
「アクトアってことはー、ハクちゃんのギルドだね? 」
「そうやよ。他の人は地下の演習場を解放して、そこにおってもらうつもり」
「じゃあ怪我人の方は? 」
「スパダが病院の方に連絡入れてくれとるで…」
「スパーダ? 」
「事件の時ウチらのギルドにおったで、無事なんよ。…で船の方は、シリウスが手配してくれとる。便でアクトアから何人か呼んどるで、問題なくいくはずやよ」
アクトアの方はスパダに任せてまったけど…、大丈夫やろう! ヒューさんに質問されたウチは、順を追って話し始める。進捗は首元に提げとるZギア越しにしか聞けてへんけど、役場に来る前に聞いたら病院へのアポもとった、って言っとった。シリウスが頼みに行っとる船次第でいつになるな分からんけど、三人ぐらいの医者が今日中にはリヴァナに来てくれるらしい。
「そっか、ありがとう。…でハクちゃん? この後ダンジョンに潜入するって聞いてるんだけどー、時間は大丈夫なの? 」
「"玖紫の海溝"やから、あと二十分ぐらいはええ…」
「きゅっ、"玖紫の海溝"に行くの? そこって、卒業したすぐ後に明星とスパーダ、リオリナの四人が失敗したダンジョンだよね? 」
「あの時は何も対策せんかったでなぁ…。やけど、もう大丈夫やよ。あの後、シリウスと二人だけで突破できたし」
「それはスパーダから聞いたよ。…だけどハクちゃん、最近毒が濃くなってるみたいだから、気をつけて」
「…えっ? 」
つづく……