Six-Third 混成チーム結成?
―あらすじ―
グレイシアのフィリアさんを連れてギルドに戻ったウチらは、パラムに戻っていなかったスパダから改めて街の事を聞かされる。
その時リオも犠牲になった事を聞かされたけど、フィリアさんが調べたら生存しとる、って事が判明する。
その後でウチはフィリアさんからCギアをもらい、同時に簡単な説明もしてもらう。
そんでウチにはよう分からんかったけど、スパダがいうにはギアを使う環境を整えてくれていたらしかった。
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[Side Unknown]
緊急通達 非常事態宣言発令 (一)先告のパラムタウン襲撃事件により、保安協会は“ラスカ諸島”における非常事態宣言を発令する。これにより犯人グループの渡航阻止の目的で、当面の間、乗船所での全ての業務を休止とする。風の大陸への自力での渡航、航海は、“リヴァナビレッジ”を中継地とし、当村周辺地域のみ許可する。
(ニ)“ラスカ諸島”救助隊連盟本部の壊滅により、救助隊各チームは本部機能復興までの間、例外無しの休業とする。ダンジョンへの潜入は、ウルトラランク以上、探検隊連盟ギルドを通じ保安協会に申請したチームのみ許可する。
(三)探検隊員は通常の業務を行っても良いが、一部例外を除くハイパーランク以下のチームは登録大陸内のみとし、登録外大陸への渡航、依頼の遂行を禁止する。但し本日午前九時以前に申請した場合のみ、この限りではない。
(四)先告の事件に関し、安全のため“パラムタウン”、“エアリシア”両市への立ち入りを禁止とし、周辺市町への立ち入りを制限する。
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[Side Haku]
「…すぐ使える機能は、このぐらいなのだ」
「大体分かったで」
何か色々あって大変やけど、ダンジョンの探索が楽になりそうやな。フィリアさんがギアを使う環境を整えてくれてから、ウチは実際にその使い方を教えてもらった。型が同じやからって事でスパダにも教えてもらっとったんやけど、便利な機能が多くて覚えるのが大変そう。やけどスパダのオススメのやつだけに絞って教えてもらったで、実戦とかはしてへんけど何とかなるとは思う。一通り説明が終わったって事で、スパダはこんな風に話を締めくくっていた。
「私は昼には発つつもりだけど、何かあったら緊急用のアドレスに連絡して頂戴。すぐに対応出来る訳ではないけれど、可能な限りサポートするわ」
「何から何まですまへんね」
「なのだな」
仕事やからやと思うけど、それでも助かるね。ギアの事を全部教えてくれたフィリアさんは、一度ギアに目線を落としてからウチにこう言ってくれる。副代表やから結構な数の仕事が詰まっとるらしく、多分彼女は時計で時間を確認したんやと思う。そんで視線をウチの方に上げたグレイシアは、任せて、って言う感じでにっこりと笑顔を見せてくれた。
「そうですね。…ええっとハク師匠? 師匠はこの後どうするんですか? 」
「ん、ウチ? そうやな…、とりあえずハイドを呼んできてくれへん? 」
「ハイドさんって…、先輩達が保護したフローゼルさんですよね? 」
一人で行ってもええんやけど、土地勘が無いでなぁ…。ギアの事が一段落したって事で、リオルのリルはウチに直接訪ねてくる。正直言うとこれからの事は何も考えてへんかったで、目線を上に泳がせながらウチはすべきことを思い出そうとする。聞いた感じやとパラムの弟子達の事は、スパダとシリウス、それから入れ違いになったラテ君達とキュリアさん達…、その時ギルドにおった人達が対応してくれとったみたいやから、全部済んどるらしい。詳しくは何も聴いてへんけど、人数が少なかったって事で部屋数も足りとる、…悲しい事やけど…。そんでそれがきっかけでやけど、すぐにパラムの事件の事が頭に浮かんできた。それに関して思い当たる事があるで、ウチは弟子の彼に、同郷のフローゼルを呼ぶよう頼んでみる事にした。
「そうやで。それとついでにチアゼナ、っていうゴチルゼルも頼んだで。地下の演習場におるはずやから! 」
「はっ、はい! 」
船とか泳いでいってもええけど、チアがおるならそのほうが早いでな。続けてもう一人の事も頼んだら、リルは首を傾げながらも応じてくれた。直属の師匠にあたるウチに対してぺこりと頭を下げてから、リルは小走りで階段の方へと走っていく。ウチらが留守にしとった時の事は分からへんけど、その前から変わらんかったら、ハイドは地下の水中演習場でリハビリを兼ねて体を動かしとるはず…。そう思ったで、走っていく愛弟子の背中にこう付け加えた。
「…ハク、何をするつもりなのだ? 」
「思いつきやけど…、“リヴァナビレッジ”に行ってくるつもりやよ」
「リヴァナ…、あぁ!
あのダンジョンの近くの村なのだな? 」
「そうやで」
「確か…、風の大陸の東側にある村、だったかしら? 」
行ったところで何も変わらへんと思うけど、“リヴァナビレッジ”は…。思いつきで言った事やったけど、考えもなしにこう提案した訳やない。リヴァナはパラムから離れた小さい村やから知名度は低いんやけど、ウチら明星とスパダ、リオの四人にとってはそうやない。やからスパダはすぐに分かってくれたらしく、パッと明るい表情でウチに返事してくれる。“ルデラ諸島”のフィリアさんが知っとったのは意外やけど…。
「そんであっとるで。朝ラムルで聞いた事なんやけど、リヴァナ…」
「あっ、フィリアさん! その感じだと終わったんだね? 」
「えっ、ええ…」
…ん? ウチは思う事があってスパダとフィリアさんに言おうとしたんやけど、その途中で活発で明るい声に遮られてしまう。若干ビックリしながらもそっち…、二階への階段の方に目を向けると、そこには赤いスカーフを首に巻いたエネコロロ…。シャトレアさんが一段飛ばしで降りているところやった。何か話題を持ってかれた気がするけど、キョロキョロと見渡すといきなりフィリアさんに話しかける。多分ギアの事やと思うけど、駆けてくるシャトレアに驚きながらも何とか頷いていた。
「それでフィリアさん? 何か話してたみたいだけど、何してたの? 」
「えっ、ええと…」
「パラムの事件の事を話していたのだ。けど…」
「あっ、そういゃあ話そびれとったな。ニ等保安官のシャトレアさんと、“パラムタウン”の親方のスパーダ」
「少し複雑かもしれないのだけど、親方だった、って言った方がいいかもしれないのだ」
パラムがああなってしまったでなぁ…。
「…そっか、そういう事なんだね」
ウチもうっかりしとったけど、今まで話していたことを訊いてきたシャトレアさんに、初めて顔を合わすはずのスパダの事を紹介する。大分端折った説明になってまったけど、それぞれに目を向けながら紹介してあげると、二人は前足をとり合って握手を交わし合う。スパダは少し浮かない顔をしとるけど、何を思ったのかシャトレアさんは納得したように声をあげる。
「…で何…」
「師匠、ハイドさんを連れてきました」
「ハクさん、何か用事があるって聞いているんですけど…」
「ふっ、フローゼルさん? その腕…、尻尾も…」
あんま様子見てあげれへんかったけど、この感じやとリハビリは順調そうやな。シャトレアさんは何を言おうとしとったんかは分からへんけど、その途中で下の階からリルの声が響いてくる。遅れてハイドも上がってきてくれたんやけど、初めて会うスパダ以外は当然声を荒らげてしまう。真っ先にフィリアさんが言葉を失ってしまっとるけど、ハイドは“捌白の丘陵”で右腕の肘から先と尻尾を一本失ってしまっとる。流石にもう傷口は塞がっとるけど、何日も経っとる今見ても痛々しい…。
「あぁ、俺の腕ですよね? 」
「ええっと…、ダンジョンで怪我したんだよね? “捌白の丘陵”みたいだから…、“ビースト”だね、きっと」
「なっ、何で分かっ…」
「びっ“ビースト”? シャトレアさん、“ビースト”て“ヴィシリア島”で戦ったあの生き物の事よね? 」
「そうだよ。…あまり他人には言わないんだけど、“読心術”使ったんだよ」
どっ、“読心術”? ウチはハイドが怪我の事を話すかと思ったけど、何故か初めて顔を合わすはずのシャトレアさんが口を開く。多分ウチとハイドは同じ理由で驚いとると思うけど、フィリアさんだけは違うはず…。その“ビースト”とか言うのが何なのか分からへんけど、それはもしかすると、ラテ君達が“白艮の祭壇”で倒したっていう怪物の事かもしれへん。“ヴィシリア島”とかいう場所がどこなのかも知らんけど、フィリアさんも、ウチらと一緒で見た事のない生き物に出逢っていそうな感じやった。
「そうらしいわ。ハクさんなら分かるかもしれないけれど…、シャトレアさんはウォルタ君と同じ伝説の当事者らしいわ」
「ウォルタ君と? 」
「うん! それで…、ハクさん達って“リヴァナビレッジ”に行くんだよね? 」
「そっ、そうやけど…」
「それなら私も連れてってくれない? 楽しそうだし、結果的に目的が一緒になる気がするから」
「目的って…、どういう事なんですか? 」
シャトレアさんと、ウチが? 話が飛び過ぎて訳が分からんくなってきたけど、エネコロロの彼女は唐突に提案してきた。話しとる時に話題が逸れたで伝えれてへんのやけど、ウチの心を読んだのか、シャトレアさんは自信満々に名乗り出る。自信があるっていうよりは興味津々、って言った方が正しい気がするけど、ウチと同じで置いてけぼりを食らっているハイドも彼女に尋ねる。
「ここのギルドって、異界の生物の事も調査してんでしょ? 私もウォルタ君から引き継いでしてるんだけど…、そのためにフローゼルのこの人を呼んだんだよね? 」
「…ハク、そうなのだ? 」
「…そうやよ。まさかここまで言い当てられるなんて思わへんかったけど、“リヴァナビレッジ”だけやなくて、村の近くの“玖紫の海溝”に行くつもりやった」
「きゅっ、“玖紫の海溝”? 」
「そうやよ。スパダはよく知っとると思うけど、“玖紫の海溝”は水中のダンジョン。ウチら四人には思い入れがあるんやけど、ウルトラレベルなんよ。…ただ環境の指標が最高のハイパーレベルで、それ以外がプラチナとスーパーやったと思う」
「それで…、ハクさんの知りあいのチームとかの話を聞いた感じだと、そのダンジョンの奥地に“ビースト”がいるかもしれない。…そうだよね? 」
「そんであっとるよ。野生の強さはそれほどでもないで、ハイドのリハビリついでにどうかと思ったんよ」
「俺のために…? 」
「そうやよ。…でもシャトレアさん、水中のダンジョンや…」
「それなら心配しないで! それよりも…、保安官と探検隊と救助隊がチームになるって、楽しそうじゃない? 」
「楽しいって…、ダンジョンは遊びに行くような場所じゃない、って俺は思うんだけど…」
「シャトレアさんの実力なら、私が保証するわ」
「フィリアさんが? 」
「ええ! 」
…やけどシャトレアさんって、保安官やんな? 伝説の当事者なら何かの“チカラ”は持っとると思うけど、やからといって強いとは限らんやんな? …確かに、救助隊となら何度もあるけど保安官とは無いから、一度はやってみたい、っていう気持ちはあるけど…。…やけど“玖紫の海溝”の環境を考えると…、保安官についてきてもらうのは勧めれへんよな…。シャトレアさん、エネコロロやし…。
つづく……