Six-Second 回線開設
―あらすじ―
宿泊していたラムルの町で“パラムタウン”の事を耳にしたウチらは、言いようのない不安を抱きながら“アクトアタウン”に到着する。
ウチは親友の安否の事でそれどころやなかったけど、弟子のリルの励ましのお蔭で何とか気を持ち直す。
そんでその後偶然、ウチらは“ルデラ諸島”から戻ったばかりのライトちゃん、エネコロロのシャトレアさん、グレイシアのフィリアさんと会う。
有名人のフィリアさんは仕事で来ているらしく、ウチらのギルドに来てくれることになった。
――――
[Side Haku]
「…ここが師匠のギルドです」
「ここがそうなのね? 」
「へぇー。ギルドだから大きい建物かと思ったけど、何か水車小屋みたいな感じだね」
「まぁ水車小屋ってのも、あながち間違いとちゃうかもしれへんな」
買い取った後に修繕するのが大変やったけど、その分格安で済んだでな。雑談をしながら街を歩くウチらは、数分で拠点のギルドに到着する。シャトレアさんの言う通りウチらのギルドはそれほど大きくはないんやけど、一応拡張できるスペースとかは残しとるつもりではおる。…というのも建屋の地下にフロアを増やすことになるんやけど、今のところはせんでもええかな? まぁこれからZギア? の設備を急遽導入する事になるで、拡張の事は後になるけど。
そんでリルが先頭に立って案内してくれとったんやけど、リルはリルでフィリアさん達にアクトアの街の事を話てもくれていた。多分シャトレアさんもそうやとは思うけど、一応アクトアは観光地としても知られとる街…。今回は出張みたいなもの、ってフィリアさんは言っとったけど、同い年の元同業者としても街では楽しんでいってもらいたい。やから率直な感想を言ってくれたシャトレアさんに続いて、ウチはこんな風に…。
「シリウス、今戻…、ってスパダ? 昨日帰っ…」
「ハク! ハクももう知ってるかもしれないのだけど、パラムには帰れなくなったのだ…」
「ぱっパラムに帰れない? てことはまさか、“パラムタウン”で何かがあったってことよね? 」
街が壊滅した、って昨日聞いたけど、その事で帰れなくなったんかもしれへんな…。リルに続いてギルドの入り口をくぐり、ウチは留守を頼んでいたシリウスの姿を探す。そやけどパートナーの姿はそこには無く、代わりに見つけたのが同期のゼブライカ。彼は予定では昨日のうちに“パラムタウン”に帰っとるはずやけど、ウチの姿を見つけるなりこっちの方に駆け寄ってくる。やけどその表情は、いつものスパダと違って浮かないような暗いような…、そんな感じがある。きっとスパダもリオの事が心配なんやと思うけど、訳を話してくれとる最中に、驚くフィリアさんに遮られてしまっていた。
「そう…、なのだ。ハクがどこまで知ってるか分からないのだけど、“パラムタウン”が壊滅したのだ…」
「かっ壊滅…。…だから、通信が途絶えて…」
「ウチらも早朝聞いた」
「それから…、俺は信じてないのだけど…、リオリナが死んだ…」
「りっ、リオが…? そんな…、スパダ…、
嘘…、やんな…? 」
シルクもおらへんのに、リオまで…。フィリアさんに問いかけられていたスパダは、顔を俯かせ、もの凄く躊躇った様子で声を絞り出す。パラムが壊滅したのは知っとったけど、ウチはまさかリオの命が絶たれたなんて思いもせんかった…。フィリアさんはフィリアさんで何か思い当たる事があったんかもしれへんけど、ウチは信じたくない最悪な事を叩きつけられたような気がして、絶望から体の力が抜けてしまう…。その場に崩れ落ちたウチは、恐る恐る尋ねたけど、スパダの顔に目を向ける事が出来なかっ…。
「…それが分からないのだ。新聞では死亡ってなってたのだけど、リオリナのギアの生体認証は消えて…」
「生体認証…。…ゼブライカさん、そのリオリナって人の識別番号を教えて頂戴」
「リオリナの…。俺が“001”だから、リオリナは“pal002cm”なのだ」
「“cm”…、マスターモデルね」
識別番号…? 何のことかさっぱり分からへんのやけど…。スパダはそんな筈は無い、て感じで話してくれとるけど、知らへん単語があっていまいち根拠が分からへんかった。右前足の蹄で左のソレを触りながら話しとったでギア? の事やと思うけど、この感じやとリルも状況が分かってへんと思う。いつの間にかライトちゃんとシャトレアさんはどこかに行っておらへんけど、他で唯一残っていたフィリアさんが、何かを思いついたようにスパダに問いかける。ウチには呪文みたいに聞こえてさっぱり分からんけど、彼はすぐに番号? をフィリアさんに教えていた。
「なのだ」
「助かるわ。…」
その番号? っていうのを聞きとったフィリアさんは、腰を下ろして自身のZギアを操作し始める。
「…管理コード03、ユーザー認証、コネクト。対象コード、“pal002cm”。第一認証、スタート」
「…フィリアさん、さっきから何しとるん? 」
「…第一認証、サクセス。第二認証、スタート。…対象端末の接続の確認ね。
CCMだから時間がかかるけど」
本当に何をしとるのかは分からへんけど、フィリアさんはZギアの画面に表示されているらしい文字を読み上げる。ウチには難しすぎて暗号にしか聴こえへんけど…。…その途中でも、フィリアさんはふと訊いてみたウチの疑問にも答えてくれる。これでスパダはピンときたみたいやけど、やっぱりウチには全然イメージする事が出来なかった。
「確認って…、アクトアだと回線が通ってないのだけ…」
「私のギアは
AdmimistratorModelなのよ。…認証コンプリート。紹介が遅れたけど、私はウォズの開発副責任者のフィリア」
「それと“ルデラ諸島”の事件の解決者の一人なんです」
「るっ、ルデラの? 」
「そうよ。…と、紹介している間に認証が完了したわ。今は圏外になってるけど、認証上は生きてるわね」
「ほっ、ほんまに? って事は、フィリアさん、リオは…」
「ええ。どこにいるかまでは分からないけど、彼女は無事よ」
無事…、無事なんやな?
「本当なのだな! …よかった…」
ウチは聞くのは二度目やけど、フィリアさんは作業の合間に自分の事を話してくれる。この紹介でスパダは凄く驚いとるけど、スパダが取り乱すのも何となく分かる気がする。副責任者っていうのもそうやけど、スパダにとってフィリアさんは故郷を救ってくれた恩人、って事になる。ウチもそうやけど、前足の端末から視線を下げて上げ直した彼女からの言葉で、スパダは暗かった表情に微かな光が戻っていく…。フィリアさんが言いきってくれたで、ウチも何となくやけど、言いようのない不安が大分和らいだような気がした。
「…やけどスパダ? 他の弟子達は…」
「ギアで強制転送する事も考えたのだけど、出来てないのだ…。メールを送信したから連絡はいっているのだけど、パラム…、風の大陸以外にいた弟子しかここに来れてないのだ」
「…って事は、五人だけですか…? 」
「…なのだ。五人には二階の部屋で…」
「…大体状況は分かったわ。元々キノト君の事で設置する予定だったけど、私も協力するわ」
ふぃっ、フィリアさんも? 安心できたのは出来たけど、そうなると別の事が気になってくる。パラムの町が壊滅したって事は、当然スパダの弟子たちも巻き込まれたことになる。やからウチはその事についても聞いてみたんやけど、スパダはその首を小さく左右にふる。リルが訊くと縦に頷いとったけど、その人数はウチが思ってた以上に少ない。その五人はウチらの事案を担当する事になとったはずやけど、それにしては四人足りない。それでもスパダは明後日の方向…、二階への階段を横目で見ながら、その五人の居場所を教えてくれようとしてくれていた。
そやけどそれは、話を聞きながら荷物の整理をしていたフィリアさんに遮られる。そのキノトっていう子の事は知らへんけど、フィリアさんはウチらのギルドにZギアのルーター? を設置してくれる、って言っとった。そやから予定としては変わらへんのやけど、人手が足りへん今協力してくれるんなら凄くありがたい。そやからウチは…。
「ほんまに? じゃあフィリアさん、頼んだで! 」
「ええ! 」
同い年のグレイシアの言葉に大きく頷いた。
「ええっと確か、ルーターとかいうやつを設置するんやんな? 」
「そうよ。それもだけど、ハクさんには先にこれを渡しておくわね」
「これって…、Zギアやんな? 」
そう言う話になっとったで、ウチはギルドに着く前に頼まれていたことを話題に出す。するとフィリアさんは、探っていた荷物の中からリストバンド状の端末…、スパダのソレと同じ物を取り出す。右の前足で持ったそれに口と左前足で紐を通してくれとるで、多分これをウチが首から提げればいいんやと思う。頭を下げてそうしやすくしながら、ウチはフィリアさんにこう訊ねてみた。
「Zギアじゃなくて、Cギアね。ハクさんのそれはその中でも、ギルドマスター用の専用モデル。ハクさんは手も足もない種族だから…、そうね…、尻尾に通して尻尾の先か口先で操作する事になるわね」
「なのだな。…という事はシリウス…、副親方の分もある感じなのだ? 」
「ええ」
シリウスの分も?
「使い方は…、ゼブライカのあなたから聞いたほうが早いから、後回しにするわね。あとは…、コード3の7の2、新規登録。送信先、“000”。試験電波、送信スタート。…今から“アクトアタウン”の回線を新設するから、少し待ってて頂戴」
「うっ、うん」
「となると、アクトアでも機能を使えるのだな? 」
「そうなるわね。…リーフ、今いいかしら? 」
『はい。えっとぉ…、ルーターの件ですよね? 先程、試験データの受信を確認しました』
「通信は順調のようね」
『“ラスカ諸島”なので速度は遅いですけど、電波強度は8と安定しています』
「意外とあるのね」
『そのようです。…フィリアさん、そちらの方はどのような感じでした? 』
「嫌な予感が的中、といったところね…。“パラムタウン”のアクセスポイント…、街そのものが壊滅的な状況らしいのよ」
『ま、街がですか? という事は、災害か何かが…』
「私もまだ全部は確認できてないけど、その事に関しては追って連絡するわ」
『りょ、了解しました。…フィリアさん、接続テスト、完了しました』
「案外早かったわね。今度は…、コード3の7の3、ベースデータ、受信開始」
「…スパダ、今度は一体…」
「ギアの電波を飛ばすための設定中、みたいなのだ」
何も知らへんウチはただ見とるだけしか出来へんけど、この感じやとフィリアさんは、自分の端末越に誰かと話しとるらしい。それとは別にフロアの端に置いた何かの機械をいじっとったけど、その最中も作業の手は全然止まってへんかった。分からへんなりに見た感じやと、慣れた感じでテキパキと作業する…、そんな感じ。作業に集中しとるみたいやから、ウチは見守っているスパダに、フィリアさんがしていることを訊ねてみる事にした。
「設定? 」
「そうなのだ。俺も詳しくは分からないのだけど、これが終わればアクトアでもギアの機能を使えるようになるのだ」
…やけどウチには、いまいち何をしとるのかイメージする事が出来ず、ただ首を傾げる事しかできへんかった。
つづく……