Five-Eighth 捕虜の願い
―あらすじ―
メガ進化した状態で、自分はアルタイルさんと共闘する。
それに対し相手は“加護”のようなものを纏っていましたが、これは状態異常のようなものらしい。
見た事のない技を使う二人の攻撃に苦戦しましたが、アルタイルさんのサポートもあり、ひとまず撃退する事が出来ました。
――――
[Side Flay]
「…ん? あれはもしかして…。…アークさん、お久しぶりです」
「フライゴン…、
何故拙者の名を…」
「あっ、そっか。二千年代の“絆”、それと鈴の塔って言えば分かりますか? 」
「“絆”…、思い出した。“絆”の一員のフライだな? 五千年前のあの時は世話になった」
「いえいえ、ボクも任務としてお助けしただけですので。…ですけど、覚えていて頂けて嬉しいです」
「拙者含め、弟子が世話になった身、恩を忘れぬのは当然の事だ。…しかし何故この時代に? シードの導きと察しがつくが…」
「その通りです。ボクも急遽呼ばれた身なんですけど、“月の次元”の件にあたるよう言われています」
「そうか。…であれば話が早い。ではフライ殿、汝はどの程度認知している? 」
「ええっとですね…」
――――
[Side Silius]
「…さっきの二人よりは聴き訳があるようだけれど、あんたも覚悟する事ね」
「あぁ」
この人が戦う気はなかった様ですか、犯人グループの一員である事には変わりないですからね。異世界からの侵入者を退けた自分達は、倒した二人を簡単な縄で拘束し、身動きが執れないようにする。自分は保安官に差し出す事を考えたのですが、アルタイルさんをはじめ伝説の種族達も扱っている事案らしいので、この二人の身柄は任せてほしい、と言っていました。そしてその間種族不明のもう一人は、逃げようと思えば逃げる事も出来たと思うのですが、何故か黙って自分の作業を見守っていました。その彼はどこか安堵したような、開き直ったような表情をしていましたが…。
「さっきも言った通り、俺はお前らと爪を交える気は微塵もねぇ…。所詮自由の利かねぇ平凡な一般市民だ、煮るなり焼くなり好きにするがいい…」
「降伏と言ったところね。アタシ達も無駄な戦いをしなくて済むから助かるわ」
「相手が“感情の神”となれば、当然だ」
「
…ですけど、何故あなたは彼女の事を知っているんですか? あなたも“月の次元”の方のようですけど…」
戦意がないのはありがたいことですけど、そこが分からないんですよね…。無気力に座り込む彼は、ひとり囁くように呟く。初めからそうでしたが、彼は半ば諦めているような…、自分にはそんな風に見えています。ですが彼の種族を含め分からない事が多いので、自分は項垂れる彼に一つ、こう質問してみる事にしました。
「俺は軍人でも政治家でもない、ただの史学…、いや、“太陽の次元”でいう考古学者だ。確かに俺は最初期に偶然連れてこられた身だが、人を殺す気はもちろん、町を侵攻する気も微塵もない。…そもそも平和な世界を崩して何になる? 憎しみや苦しみが増えるだけだろぅ? 」
「
考古学者、ですか…」
「…逃れるための嘘、じゃないわよね? 」
「“神”の御前で嘘をついて何になる? 天罰が下り、身を滅ぼすだけだ」
嘘を言ってなさそうですが、やっぱり信じられないですね…。意を決した様子の彼は淡々と話してくれていますが、自分には作り話の様に聞こえてしまう。本人はまじめに話してくれているので信じてあげたいですが、パラムの惨状、命を落とした多くの人の事を思うと、素直に受け入れる気にはなれない…。アルタイルさんも彼に探りを入れているので、おそらく自分と同じ考えなのでしょう。まるで尋問でもするように、降伏した彼を問いただし続けていた。
「それなら何でこの町に来たのよ? もし平和を願うなら、アタシなら意地でも戦地には行かない…。行きたくないわ! 」
「それは俺も同じだ! 平和な世界を知らない“月”の軍の連中には分からねぇ事だろうが、俺はそうじゃねぇ! 出来ることなら止めたかったが、史学にしか能がねぇ俺には無理だった。そもそもここには首元をひっ掴まれ、無理やり連れてこられた身だ」
「
言われてみれば、あなたはバンギラスに掴まれていましたね」
「…だから何ていうのよ? 自分に抗う力が無いから、言いなりになってここまで来たようにアタシには聞こえるわ。…じゃあ何で、あんたは隙を見て逃げ出さなかったのよ! 」
「そんなの決まってるだろぅ! ここで逃げたら俺もあいつらと同類…、この惨状に目を瞑り、“太陽”でも同じ過ちを繰り返すだけだ! この町は手遅れかもしれねぇが、異世界とはいえ俺の様な戦争孤児を出すような国は見るに耐えん! 折角この“太陽の次元”は戦争の無い平和な世界なんだ。俺は史学者としても、安心して暮らせる平和な、
子供が笑って暮らせる世の中を守りたいだけだ! 」
「…っ! 」
嘘を言ってるようには聞こえませんが…。自分はアルタイルさんの聴取に耳を傾けていましたが、最初は綺麗事を並べているだけかと思っていました。ですが彼はフワフワと浮遊するアルタイルさんの目を真っ直ぐ見つめ、真剣に彼女に訴える…。その表情には鬼気迫るものがあり、傍で見ている自分も狼狽えてしまうほど…。後半は口論の様な感じになっていましたが、何かの言葉が刺さったのか、
尋問官は一瞬驚いた表情を見せてしまっていた。
「…分かったわ」
「
あっ、アルタイルさん? 」
「…恩に着る」
「
いっ、いいんですか? あんな……っ、あんなに…、問いただして…、はぁ…、いましたけど…」
もっ、もしかしてアルタイルさん、この人の言う事を信じるつもりなのでしょうか…。ここまで頑なに問いただしていたアルタイルさんが、渋々という感じでこくりと頷く。自分はてっきりそんなつもりは無いと思い込んでいたので、彼女の決定に思わず声を荒らげてしまう。彼女自身もどこか暗いような思い悩んだような…、何とも言えない表情をしているので、もしかしたら過去に何かあったのかもしれない。思い当たる事と言えばルデラの事ですが、これを確認する前に、急に力が抜けてしまう。一瞬灰色の光に包まれた後、雲散するといつもの姿に戻ってしまう。同時に尋常じゃない倦怠感がのしかかり、息も切れ切れになってしまった。
「なっ、お前はアブソルだったのか? 」
「…本当だったのね」
「はい…。…ですけど…、アルタイルさん…。…はぁ…、はぁ…、本当に…、はぁ…、良かったんですか…? 」
「ええ…。本当はそうは言ってられないけど、子供の事を想う人に嘘つきはいないわ…」
子供の…? やっぱり、アルタイルさんに何かあったのでしょうね、きっと…。自分の突然の変化に、尋問されてた彼、アルタイルさんの二人は揃って言葉を失ったらしい。当然と言えば当然ですが、姿が変わる事は滅多にみられるものではない…。ですがこれで自分がアブソルだという証明が出来たことも事実ですので、自分は密かに安堵する。ですが自分としても気になる事はあるので、まだ息は整っていませんが、表情の暗い彼女にこう訊ねてみる事にする。すると彼女は、意味ありげに表情を緩め、尻すぼみになりながらも答えてくれました。
「…はぁ、何か調子が狂うわね…。…シリウスと言ったわね? 」
「はい…」
「彼の身柄、あんたに預けるわ」
「自分に…、ですか…? 」
「ええ。その様子だと、あんたは動けそうにないから、かしらね…」
でしょうね…。アルタイルさんは一度種族名の分からない彼を見てから、ため息を一つつく。すると何を思ったのか、優れない表情のまま自分を見、頷くと自分にこう頼んでくる。何故自分なのか分からなかったのですが、言われてみればアルタイルさんがこう思うのも分かる気がします。共闘し余力があると分かっていると思いますが、生憎自分は、メガ進化が解除された反動で息があがってしまっている。それだけだと普通は任せられないのですが、問いただされていた彼に逃亡する意思は全く無い。もし自分が彼女の立場なら、もしかすると同じ事を言ったかもしれません。ですから自分は、彼女の方を見上げ、無言で頷きました。
「…ですけどアルタイルさん…、一つだけ頼みたい事があるんですけど…、いいでしょうか? 」
「構わないわ」
「でしたら…、テトラ、というニンフィアを…、捜してもらえないでしょうか? 」
「ニンフィアのテトラね? 」
「はい…。この町のどこかにいるはずですけど…、色違いなので…、すぐに分かると思います…」
「…分かったわ」
本来なら自分が捜さないといけないのですが…、こんな状態では出来そうにないですね…。自分も不本意でしたが、代わりにという感じでエムリットの彼女に頼んでみる。ダメ元の頼みだったのですが、自分の予想に反して彼女はすぐに頷いてくれる。本当に何でかは分からないのですが、あっさり引き受けてもらったという事もあって、自分は少し拍子抜けしてしまう。ですが行方の分からないテトラさんの捜索をしてもらえるのは事実なので、安心した、という感情の方が大きいかもしれません。
「それなら…、もし見つけたら、アタシはどこに行けば…」
「“アクトアタウン”…、そこのギルドに…、お願いします」
「あっ、アクトア? “アクトアタウン”は確か…」
「“アクトアタウン”ね? 」
「はい。…お願いします」
「…テレポート」
アルタイルさん、テトラさんの事、頼みましたよ。彼女に場所の事を尋ねられたので、自分は迷わずギルドのある街を指定する。ですがアクトアの街は水中区画を含めるとかなり広いので、忘れずに施設の事も付け加える。彼女が来た時に自分がいる保証はありませんが、ギルドであれば、少なくとも自分が信頼できる誰かが迎え出てくれるとは思います。必要最低限の事しか言いませんでしたが、これだけを聞くと、彼女は一度自分の方を見、こくりと頷いてから姿を消しました。
「“神”に頼み事か…、お前も中々の事をするな…」
「他の方にとってはそうかもしれませんが…、自分にとって…、伝説の種族は身近な存在…、ですからね…。…さぁ、戻りましょうか。…チアゼナ」
「はっ、はい! 」
「もう一度アクトアまで…、お願いします」
テトラさんの事が心配ですけど、アルタイルさんなら大丈夫でしょう。無事だといいのですが…。ここまで黙っていた彼は、ふと自分に対して呟く。彼の言う事ももっともだと思いますが、チェリーと頻繁に会っているからなのか、自分にはそんな気は全くありません。確かに伝説の種族は特別な存在ですが、彼女達も普通の人だと自分は思っています。なので自分は彼にこう言ってから、申し訳ないですが忘れかけていたチアゼナの姿を探す。一歩下がった瓦礫の陰にいたので、彼女はすぐにそこから出て、自分のところまで駆け寄ってくれま…。
「アクトアか…。無理な願いだと思うが、その街の病院に寄ってくれねぇか? 勿論、タダでとは言わねぇ」
「…何故ですか? 」
「“エアリシア”に連れ戻される前、気を失った同業者を搬送するのを手伝った。結果的に同伴者に黙って去る事になってしまったが、まだまだ小さいミズゴロウだった」
考古学者のミズゴロウ…、ウォルタ君で間違いなさそうですね。という事はもしかして、スパーダとキュリアさんが病院にいたのは、ウォルタ君の見舞いのため…? …偶然でしょうね、きっと。ですけど…。
「…分かりました。あなたの身柄を拘束する身ではありますが、自分も鬼ではありません。自分の責任で、あなたをアクトアの病院にお連れします。…ですけど少しでも不審な動きをしましたら、その時は覚悟してください」
「あぁ、分かってる」
「…もしかしてシリウスー、この人の事を信じ…」
「五分五分、と言ったところでしょうか」
「すまない…。…ルガルガンのミナヅキ、これが俺の名だ」
「ミナヅキ、ですね? チアゼナ、お願いします」
「えっ、ええ…。テレポート」
つづく……