Five-Seventh 触ラヌ神ニ祟リ無シ(情神の翼)
―あらすじ―
アーシアさんの状態が分かり、病院を後にしようとした自分達はスパーダとキュリアさんの二人と出くわす。
アーシアさん自身が状況を話し始めてくれたのですが、その間に自分は、申し訳ないと思いながらもチアゼナとこの場を去る事にする。
大急ぎで戻ったギルドでランベルさんに貸していた“覚醒の原石”を返してもらい、とんぼ返りで“パラムタウン”に引き返す。
廃墟と化した町で自分は、エムリットのアルタイルさんから町を破壊した犯人だと誤解されてしまう。
何とか釈明できましたが、直後に自分と彼女は、真犯人を捕まえるため共闘する事になった。
――――
[Side Silius]
「
…過ちを悔い改めてもらいます! 」
相性は良くも悪くもありませんが、負ける気は微塵もありません! パラムの町を破壊した犯人と対峙している自分は、威勢よくこう言い放ってから戦闘態勢に入る。遭遇する前に分身を出現させていましたが、戦闘という事もあってその全てを一度消滅させる。一般人のチアゼナを戦わせる訳にはいかないので後ろに下がらせてはいますが、向かい合っているこの様子だと向こうも同じ…。当の本人たち、バンギラスとツンベアーはそのつもりではないのかもしれませんが、種族不明の誰かは後ずさりしながら、警戒するようにこの場の様子を伺っていました。
そして自分のかけ声が均衡を破る事になったらしく、両者四人は一斉に行動を開始する。相手二人は両手に握り拳をつくり、敵対する自分達に向けて迫ってくる。目線と向かってくる方向から推測すると、二人の狙いはおそらく自分。まだ二十メートルほど距離はあるのですが、相手二人はこのタイミングで僅かに経路を左右にずらす…。これに対し自分とアルタイルさんは…。
「挟み撃ちにする作戦のようね」
「
影分身。…そのようですね」
「リフレクター! 」
戦闘のための前段階として、それぞれで補助技を発動させる。相性を考えるとアルタイルさんを前線に立たせるわけにはいかないので、自分は前に跳ぶように駆け抜け、相手との間合いを測る。向こうが二手に分かれ始めたところで、自分は一体だけ分身を作りだし、同じスピードで並走させる。一方のアルタイルさんは自分の真上を陣取り、二メートルぐらいの高さで技を発動させる。すると自分から見て六メートルぐらい先の位置に、ハの字になるよう透明の壁を二つ創り出す。正確な大きさは分かりませんが、おそらくこのサイズなら四メートル四方…。挟みこむよう走ってきているので、その妨げになるように設置したのかもしれません。
「分身…。“太陽”のクセに厄介な術使いやがる…」
「…だがその程度、関係ねぇ! 」
「
ギガ…、っ? 」
なっ、何ですか? あれは…。まさか…、“加護”…? 相手が二手に分かれて攻めてきたので、自分もこれに迎え撃つ。アルタイルさんも何か次の行動をしようとしているはずですが、本体の自分はツンベアーの三メートル手前まで来ているので確認できそうにない…。三足で跳躍しながら力を溜め、正面から接近してきている相手に狙いを定める。溜めた力を開放し捨て身で突っ込…、もうとしたのですが自分は左前足だけで踏みとどまり、勢いそのままに左へと跳び退いた。
上手く言葉に出来ませんが、薄水色のオーラを纏わせた拳を振り下ろしてきた相手は、何かが違う…。自分が跳びかかろうとした一瞬なので見間違いかもしれませんが、ツンベアーの前身には何か…、薄いオレンジ色のベールの様なものが纏わりついていたような気がします。どこかで見たような気がしなくも無いのですが、シルクとウォルタ君が使う“加護”のような…、そんな印象がある。結果的に回避したので何とかなったのですが、相手が発動させた技自体にも見覚えがありません。おまけに威力も相当高いらしく、拳が捕らえた地面は数センチほど
窪んでしまっていた。
「ちっ、かわされたか。…だが次はそうはいかねぇーぞ! 」
「
…っ、影分身」
また…、…という事は、見間違いじゃない…? 回避した先で身を翻し、折れてない左前足を軸に方向転換。後ろ足も着地してから、自分はバックステップで距離をとろうとする。相手の行動も早く、続けて攻撃を仕掛けてきた。相手は地面に叩きつけた右の拳に全体重を預け、逆立ちをするような感じで足を後方に振り上げる。つま先が地面と平行に項を描くように振り抜く事で、回避に徹している自分を追撃…。その瞬間もまた、彼に一瞬だけ薄い橙色のオーラが纏わりつく…。咄嗟に立ちはだからせるように分身を作りだしたのですが、それを左前足で押し出して下がった瞬間、相手の脚がヒットして消滅させられていた。
「
悪の波動! 」
「くっ…。魔まで使うか…」
「…守る。シリウス、あんたは無事? 」
「
はい! ですが相手は“加護”か何かを発動していると思われます」
アルタイルさんだけ…、という事は、分身は消されたという事でしょうか…。自分は足が地面から離れている間に、エネルギーレベルを高める。活性化させたエネルギーを悪属性に変換し、一気に発動させる。今回は相手の方が背が高いので、黒の波紋に若干高さをつけて放出する。この頃には相手は立ち直していたのですが、相当戦闘経験を積んでいるらしく、両腕を体の前で交差させるようにしてダメージに備える。自分も牽制のために放ったからなのですが、見たところ大したダメージにはつながらなかった。
そしてこの間にアルタイルさんの方でも事が進んでいたらしく、彼女は自分と背中合わせになるように飛び下がってくる。横目で見た限りでは動きが素早くなっているので、もしかすると高速移動の類を発動させたのでしょう。まばたきをするかしないかの短い時間でシールドを作り出し、言葉を交わし合う時間を作り出してくれました。
「アタシも確認したわ。…でもあのオーラは、“加護”とは違う。…っ、スピードスター、守る! 」
「
ちっ、違う? 」
それならアルタイルさん、あのオーラは何なんですか? 自分の高さまで下りてきてくれたアルタイルさんは、シールドを自分が入る広さまで広げてくれる。この間も相手は壊そうと殴りかかってきているのですが、そこそこの耐久があるらしくヒビだけで留まっている。両手を前に突き出した状態でエネルギーを送り込んでいるのですが、その状態でも彼女は、自分の言ったことに答えてくれました。
「ええ。アタシも見るのは初めてだけど、“陽月の穢れ”、て言うらしいわ」
「
…何ですか、それは。“チカラ”の一種…」
「いいえ、恒常的な状態異常、て言った方が近いわ」
彼女が教えてくれる情報を聞きながら、自分は周りの空気を渦巻かせる。円形のシールドで囲われているので、今いるシールドの中は一種の竜巻みたいなものが発生してしまっている…。ですがアルタイルさんはそれでも動じることなく、シールドにエネルギーを送り続けてくれる。自分の質問に首を横にふりながらも、相手の攻撃で入った亀裂を修復してくれていた。
「異世界から私達の世界に侵入してきた人の特徴で、何らかのステータスに…くっ…」
「
鎌鼬! 」
「っぐぁぁっ…」
「…テレキネシス」
「なっ、体が浮…」
「ステータスに異常が出てるらしいわ」
続けてアルタイルさんは語ってくれますが、相手二人は修復の進んでいない一点を集中的に狙い、シールドを壊してくる。バリンッとガラスが割れる音がしたかと思うと、薄緑色の壁は安定性を失って崩れ落ちてしまう。ですがその影響もあり、シールド内で渦巻いていた強風が外界に解き放たれ、巨体を数メートル圧し返す。バンギラス、ツンベアーが怯み大きな隙が出来たので、自分は角を中心に準備していた溜め技、鎌鼬を発動させる。圧縮されたエネルギーを刃状にして解き放ち、正面にいたバンギラスの腹部に命中させた。
ですが自分自身ではバンギラス一人にしか対応出来なかったので、そこはアルタイルさんが補ってくれる。シールドが破壊されて硬直してしまっていましたが、倍速状態という事もあり、予想より早く立ち直っていた。そして即行で強く念じ、今にも爪を立てて引っ掻こうとしてきていたツンベアーをその場に浮かす。そうする事で、隙を作るのと同時に攻撃を防ぐことに成功していた。
「ちっ…。刃向かった割には守ってばかりじゃねぇーか。奇妙な術といい、貴様等は突っ立てる事しか出来ねぇーのかぁ? 」
「
これも戦略のうちです。…影分身」
「脳筋のあんた達には到底分からないでしょうね。…スピードスワップ、高速移動」
「
…助かります! 」
もしかしてアルタイルさん、サポート特化型でしょうか…? 自力での身動きのとれないツンベアーは、舌打ちしながらも口で攻めてくる。自分達からしても見た事のない技を使っているので気になっているのですが、それは向こうも同じなのかもしれない。明らかにイラついている様子で、荒々しく自分達に向けて言い放つ。ですが自分は殆ど相手にすることなく、三体の分身を作りだした。
それに対しアルタイルさんは、気に障ったのか毒のある言葉で言い返す。かと思うと即行でエネルギーを解放し、さっきまでとは別の補助技を発動させる。すると技の効果なのか、心なしか相手の動きが僅かに遅くなったような気がする。三体の分身に向かわせているのですが、直近のツンベアーだけでなく、やっと起き上がったバンギラスの移動速度も落ちているような気がする。横目でチラッと見たので分かったのですが、これはおそらく、自分自身のスピードが上がっていたから…。直後にアルタイルさんが発動させた技で、その事にようやく気付くことが出来た。
「そこまで言うなら、アタシ達も攻めさせてもらうわ! シャドーボール! 」
「
ギガインパクト! 」
「はっ、速…」
苦戦していた訳ではないですが、形勢逆転ですね。アルタイルさんの技で急激に加速した自分は、目の前で浮かされている相手、ツンベアーに向けて反撃を開始する。まず初めに分身三体に向かわせ、ギガインパクトで大幅に体力を削る。一応動けないなりに身構えてはいましたが、対するこちらは捨て身の大技…。それも分身を含めた四連撃ですので、悲鳴をあげる暇もなく意識を手放してしまっていた。
「なっ…」
「だから俺は止めておけ、…って言ったんだ。勝ち目は無…」
「戯言言う暇…ぁっ…、あるなら…、お前も戦…」
「戦わなかった分、彼の方が利口だったようね。…スピードスター」
「ぐぁぁっ…。…この俺が…、原住民…、なんかに…」
戦闘の間何をしていたのかはわかりませんが、種族の分からない彼は、ふらついているバンギラスに対してこう呟く。彼自身嫌われているのか…、どうなのかは分かりませんが、無数の黒球を食らっていたバンギラスは彼に食ってかかる。ですがその間にもアルタイルさんの流星がヒットし、巨体が揺らぎ始める。威力というより手数という感じでしたが、バンギラスは耐え切れずに頭から崩れ落ちてしまっていた。
つづく……