Five-Fifth 未知の毒
―あらすじ―
迫りくる刺客達を退けつつ、自分はチアゼナを連れて救助隊連盟の本部へと急ぐ。
リオリナがいるギルドの方も心配でしたが、その途中で二人組に襲わているアーシアさんと出くわす。
気絶させて助ける事が出来ましたが、アーシアさんは毒の影響でかなり弱ってしまっていた。
おまけに自分達の目の前で本部が崩壊し、テトラさんも救えなかった事に絶望する。
ですがチアゼナの一言で現実に引き戻され、自分は彼女に頼んで、保護したアーシアさんを救うべく“パラムタウン”を脱出した。
――――
[Side Silius]
「…テレポートは成功したけどー、ここは…」
「森…、ですね」
見覚えがあるですから、おそらくここは…。チアゼナのテレポートで町を離れた自分達は、どこかの森に移動していることに気付く。森と言えばこの諸島には沢山ありますが、そのどこも少しずつ特徴は違うので、判別しようと思えばする事が出来ます。自分とアーシアさんから添えていた手を離したチアゼナに返事しながら、自分は辺りを一通り見渡す。出来ればアクトアかワイワイに飛んでもらいたかったのですが、発動してもらっている手前、文句は言えないのですが…。
「街ではないですが、おそらく“実りの森”だと思います」
「“実りの森”…? 」
「はい。“アクトアタウン”と“ワイワイタウン”の間にある、ブロンズレベルのダンジョンです」
見たところ木の実の種類が多いですから、間違いないでしょうね。五感を研ぎ澄まして辺りを探ってみると、ここが馴染みのある場所であると気付く。寒すぎる事が無いぐらいに涼しい風が吹き、広葉樹の葉がカサカサと音をたてる…。今いる場所はダンジョンの中では無いですが、それでもオレンやモモン、嗜好品のセシナの実やズリの実なども多く確認できる…。なので自分は、今いる場所をブロンレベルのダンジョン、その入り口だと判断する。水の大陸にはあまり馴染みのないチアゼナには、有名な街の名前を出すことで大体の位置を説明した。
「という事は、水の大陸に飛べたのねー? 」
「はい! …ですが一刻を争います。チアゼナ、アーシアさん…、彼女を抱えて走れますか? 」
「両手で抱えれば、何とか…」
「ならお願いします! 」
自分が背負おうと思えば背負えますが…、今の自分では…。何とか分かってもらう事が出来たので、自分はすぐに気持ちを切り替える。話しながら左前足で鞄から種を取り出し、細かく砕いてからアーシアさんに食べさせる。復活の種での応急処置なので何とも言えませんが、毒に長時間侵されているので安泰とは言い切れない。強めに言ったので深刻性が伝わったらしく、不安はあるけど、という感じですが頷いてくれました。
「…っと。シリウス、あまり早くは走れないけどー…」
「やむを得ないです。…では、行きましょう」
同意して頂けたので、自分は腰をあげてすぐに動き始める。頭で押しあげるようにして補助し、チアゼナがアーシアさんを抱えるのを手伝う。アーシアさんは種族を考えても小さい方なので、チアゼナでも持ち上げられるでしょう…。何とか抱える事ができたらしいので、自分は右前足を浮かせた状態で、軽く前に跳んでからこう呼びかける。
「ええ」
するとチアゼナは、走りにくそうですがすぐに頷いていてくれました。
「…シリウス? 今度はどっちに…」
「アクトアです。“ワイワイタウン”でもいいのですが、アクトアなら自分達もすぐに対応出来ますので」
ギルドからも近いですし、提携しているので保険も適応されますからね。ダンジョンの突入口とは反対方向に走りだすと、チアゼナはふと呟き始める。結果的に自分が遮ったのですが、おそらく彼女はどっちに行くの、こう聞こうとしていたんでしょう。ここまで訊いたら粗方予想は出来たので、自分はすぐに行き先を伝える。アーシアさんを抱えて走るチアゼナのスピードに合わせながら、自分は理由も合わせて話すことにした。
「アクトア…、そういえばシリウ…、シリウス! ちょっ、ちょっと…! 」
「チアゼナ? どうかし…、なっ…! 」
なっ、何がどうなって…! でっ、ですが…! 並走するチアゼナな自分に何かを訊こうとしていましたが、何故か急に言葉にならない声をあげてしまう。何かに驚いたような感じだったのですが、自分に呼びかけていたので、ひとまず自分は横目でチラッと彼女の方に目を向けてみる。…ですが自分も彼女と同じように、あり得ない事を目にしてしまったので思わず声を荒らげてしまう。
「でっ、ですけど、こんな症状は聞いた事がありませんよ! 」
毒が原因だとは思いますけど、自分は知らないですよ! こんな事が起こるなんて…! 街道にさしかかって街が遠くに見えてきたのですが、自分もそんな事を気にする余裕がなくなってしまう。アーシアさんは毒状態だったのでそれが原因…、そうだとは思っているのですが、彼女の身に起きた事に心当たりが全くないので混乱してしまう。毒状態になるとその作用として、体力が削られるだけでなく様々な事が起こります。頭痛や吐き気は一般的ですが、猛毒状態ならそこに熱っぽさ、節々の痛み等も加わる。…ですが気を失う前に聞いた事も該当していますが、今起きた事はそのどれにも当てはまらない。毒に限らず、これはあり得ない事なのですが…。
「シリウスでもー? そうなるともう訳が分からないわ…」
「…ですよね。病院で診…」
「…っぅ…。…あれ、ここは…」
「あっ、アーシアさん! 気が付きましたね」
…アーシアさん…。走っている街道も終盤にさしかかり、自分達はアクトアの街に辿り着く。依然としてアーシアさんの身に起きた事が分からないので、診てもらわないと分からない、自分は抱えてくれているチアゼナに対してこう言おうとする。ですが街に着くタイミングを見計らってなのか…、どうなのかは分かりませんが、小さな呻き声をあげ、アーシアさんが目を覚ます。復活の種が効いてきたようなのでホッとしましたが、彼女は片手で抱えられている腕の中でキョロキョロと辺りを見渡していた。
「はいです…」
「…アーシアさん、どこか痛む所とか…、悪い場所はありませんか? 」
「悪いところ…、頭がボーっとして体もだるいのですけど、それ以外は…」
「そう、それなら良かったわー…」
モモンの実で改善されたとなると…、やはり毒? となると技以外の毒で解明されてない毒…、なんでしょうか…。意識が覚醒したばかりで朦朧としていますが、アーシアさんは何とか自分の質問に答えてくれる。悪いところがあると聞かれれば傍から見ている自分は即答できるのですが、アーシアさん自身には、自覚症状が殆ど無いらしい。
「…ですけどシリウスさん、ここはどこなのです? “アクトアタウン”みたいですけど、私達って、“パラムタウン”にいたはずですけど…」
記憶の方は、問題ないみたいですね。
「…そだ、テトちゃんは…、テトラちゃんはどうなったのです! 私を逃がすために一人で戦ってくれてるはずですけど」
「分かりません。…ですが、彼女なら無事なはずです! 」
「でもシリウスさん、テト…」
「アタシも戻れるなら戻りたいわよー! だけど、今のあなたをパラムに連れて行くわけにはいかないわよー! シリウス、そうよねー? 」
「そうです! 自分もアーシアさんには言いづらいですけど、心して聴いてください。毒の影響だとは思いますが、アーシアさんは今、ブラッキーではありません」
「え…。シリウスさん、どういう事なのです…? もしかして“闇に…”…」
「“闇に捕らわれし者”にはなっていないので、そこは安心してください。…ですがアーシアさん、今のアーシアさんはブラッキーのアーシアではなく、
イーブイのアーシアに退化しています。自分も何故かは分かりませんが…」
「うそ…」
「はい…。
紋章は消えていないので、“導かれし者”である事には変わりないと思いますけど…。ですので、見えてきましたが、念のため病院で診てもらおう、という事になっています」
「そう…、なのですか…」
――――
[Side Unknown]
「…隊長、お体の方は大丈夫なのですか? 」
「あァ…。まさか崩レるとは思わなかったが、―――な故問題なイ」
「それなら安心しました。…ですが隊長、アルビノなんか捕えてどうするんです? こんな汚らわしいモノなんかより、“導かれし者”の方が…」
「いや、コイツは十分利用価値があル」
「ですけど隊長、いくら隊長でも、ムナール様が許されるかどうか…」
「構わん。コイツから“導かれし者”の情報ヲ引キ出し、その後は俺ノ駒としテ使う。…最悪聞き分ケガ無ければ、“・・の首輪”で従ワセル。…それはそうと、貴様モ捕えたのダろうナ? 」
「はい。戦力となる・・名を捕獲しました」
「ナラいい…。…では、俺達モ退散するとしヨう」
つづく……