Five-Fourth 惨劇(救済の影)
―あらすじ―
嫌な予感と共に外の様子を見にいきますが、そこは戦場とも言えそうな光景に様変わりしてしまっていた。
訪れていたチアゼナのアパートも攻撃され始めたので、自分は彼女を連れて脱出する。
その後別行動をしているアーシアさん達と合流しようとしますが、その途中でデアナの殺し屋を名乗るフレフワンとの戦闘になる。
しかし大して苦戦することなく、自分は相手を撃退する事が出来た。
――――
[Side Silius]
「…シリウス、やっぱり強いのねー。けど…」
「大丈夫です。気絶させただけですので」
ここで殺めては、相手と何も変わらなくなりますからね。闘っていたフレフワンを倒した自分は、分身に守らせていたチアゼナと共に走り始める。念のため分身は残していますが、それでもやはり、警戒するに越した事は無いと思います。行き先を伝えずに走ってはいますが、ここで何か気になる事があったのか、黙っていたチアゼナは不安そうに訊ねてくる。ここまでに命を落とした方を見てきたせいなのかもしれませんが、あのフレフワンを殺した、そう思っていたのかもしれません。ですがそうではないので、彼女を安心させるためにも、自分は優しく彼女に呟きました。
「なら安心したわー。けどシリウス、一体どこへ…」
「救助隊連盟の本部です」
「救助隊の方に? ギルドじゃなくてー? 」
「はい。ギルドにはリオリナがいるはずですので、問題ないと思います。…ですが本部の方に、自分と来ている方が二人いるんです。…鎌鼬! 」
「…っぐぁぁッ…」
お二人なら大丈夫だとは思いますが…。雨に濡れて寒くなってきましたが、自分は構わずに三足で救助隊連盟の本部へと急ぐ。本来ならアパートを出る時に話すべきでしたが、状況が状況なので話せずにいた。…ですがそれでも何も言わずについてきていたので、守る側としては凄くありがったかった。
出た時から建物自体は見えていますが、何故か今日は異様に遠いような気がしています。利き足が使えない上に足元が濡れているという事もありますが、おそらくは慣れない状況下に置かれている、という事が最もの原因なのでしょう。そんな事をひとり考えながら走っていましたが、その途中で急に殺気を感じとる。なのであのフレフアンの一派が奇襲を仕掛けてきた、そう思ったので、自分は空気を渦巻かせてから刃として解き放つ。すると左手から斬りかかってきていたサンドパンに命中し、一発で気絶させる事が出来た。
「二人もー? 」
「はい! …」
「ほぅ、もうお終いかぁっ? 」
「はぁ…、はぁ…、…くぅっ…」
「んなら俺様達が楽にしてやるよ! 」
あっ、あの方は! 足を止める事無く走り続けていたのですが、その先でまた、戦闘中の場面に出くわしてしまう。手前にいる二人で隠れて最初は見えなかったのですが、自分は襲われている側が目に入ると、一瞬驚いで足が止まりそうになってしまう。何者かは分かりませんが、前者はジュペッタとゴルーグで、握り拳をつくっているので後ろからでも殴りかかろうとしているのがよく分かる。まだ後ろから見ただけなので何とも言えませんが、おそらく発動しようとしている技はアームハンマーか気合いパンチ辺り…。襲われている側が全く動けていない…、動けない状態なので、後者だとは思いますが…。
「気合いパンチ! これで死…」
「悪の波動! 」
「何ぃっ? 貴様、後ろからとは卑き…」
「男二人がかりで女性一人を相手にする方もどうかと思いますけどね。…悪の波動! 」
「ぐぅっ…」
やっと見つけました…。案の定ゴルーグは大きな体で跳びかかり、拳で相手を叩きつぶそうとする。この光景を目の当たりにした自分は、何も考えずに技を準備し、範囲を狭めて黒い波紋を解き放つ。ゴル―グが自分には気づいていないという事もあり、自分の奇襲は功を制する。拳を目標に振りかざすことなく頭から地面に墜落し、ジシ引きと共に崩れ落ちていた。
ですが流石にもう一人は自分に気付いたらしく、ハッとこちらに振りかえる。振り返るなり声を荒らげ、感情に身を任せて自分に技をかけようとする。何の技を発動したのか確認しなかったので、ジュペッタが何をしようとしていたのかは分かりません。…何故なら即行で黒い波紋で迎撃したので、見る間もなく気絶してしまっていましたから…。
「…シリ…、ウス…、…さん…? 」
襲いかかっていた二人を倒したので、ここに残ったのは襲われていた彼女…。自分が捜していた内の一人で、親友と同じ種族のブラッキー…。明らかに弱っているらしく、自分が見た限りでは立っているのがやっと。何とか踏ん張っている足もかなり震えていて、毒状態になっているのか顔色がかなり悪い。七メートルぐらい離れているので何とも言えませんが、見たところ擦り傷ぐらいで目立った怪我は見当たらない。ですが彼女を彼女たらしめる左前足の紋章で、自分は冷静ではいられなくなってしまいました。何故なら…。
「アーシアさん、何があったんですか! 」
その彼女は、自分と一緒に来ていたうちの一人で、ルデラの救助隊のアーシアさん。それもかなり衰弱しているように見えたので、自分は形振り構わず彼女に駆け寄り、体で彼女を支えてあげる。
「…はぁ…、くぅっ…。…はぁ…、はぁ…」
ですが彼女から伝わってくる温もりは殆ど無く、冬場の水みたいに冷たく冷え切ってしまっている。雨で濡れている割には体温が低すぎるので、毒か何かにやられている、自分は率直にそう感じる。ですので自分は持っている手荷物の中を折れていない左前足で探り…。
「アーシアさん、モモンの実です! すぐに食べてください! 」
「…ありがとう…、ございます…っ」
解毒作用のある木の実を取りだし、小さく割ってから支える彼女に食べさせてあげる。ですが毒状態になってから相当時間が経っているらしく、ブラッキーという種族
を考えてもかなり青ざめている顔が一向に改善しない…。
「…シリウス? この子が言ってた子ー? 」
「そうです! …アーシアさん、どうですか、少しは楽になりましたか? 」
「…わから…、ないです…。…体中が…、痛く…、て、感覚も…、なくて…。…それよりも…、くぅっ! 」
「アーシアさん、そんな状態で行こうとしないでください! 」
「でも…、テトちゃんが…、っあぁっ…、ひとりで…」
寄り添ってみて分かった事ですが、アーシアさんは肩で呼吸するのがやっとの状態で、目の焦点もあっていない。そんな状態なのにアーシアさんは無理やり立ちあがり、どこかへと走りだそうとする。ですが彼女は上手く体に力が入らなかったのか、一歩踏み出した右前足から前に転んでしまう。それでも行こうとするので仕方なく、自分は立ちふさがるように彼女の前に立つ。
「一人で、なんですか! 」
「…テトちゃんが…、ひとり…、で…、闘っ…」
「アーシアさん…、アーシアさん! 」
「…シリウス、この子…」
「…ダメです、気を失ってます…」
本当に…、マズいかもしれないですね…。倒れたままのアーシアさんは、声を絞り出すように何かを伝えてくれる。ですがその途中で力尽きてしまい、何を言おうとしてくれたのか分からない。…ですがアーシアさんは右の前足で前方…、丁度救助隊連盟がある方向を示してくれたので、ほんの少しですが言いたい事が分かったような気がします。自分の推測なのですが、テトラさんは連盟の本部にいる、、そう伝えようとしていたのかもしれませ…。
「ひゃぁっ…! 」
「…チアゼナ、大丈夫で…っ? なっ…、嘘ですよね? 」
何とかアーシアさんを介抱していたのですが、急な地響きに驚いてしまう。エスパータイプのチアゼナはとびあがってしまっていましたが、今までで一番大きな音、それもすぐ近くで大きな騒音もしたので、自分も思わず言葉にならない声をあげてしまう。轟音と地響きで何となく察してしまったのですが、揺れが治まって顔を上げた瞬間、それが現実だと嫌でも気づかされてしまう。何故なら…。
「ちょっ…、ちょっと! 救助隊連盟の…」
「じっ、自分も信じられないです! 連盟の本部が…、崩れるなんて…」
自分達の目の前で、諸島の主要機関である救助隊連盟の本部が倒壊してしまったから…。自分の推測なので何とも言えませんが、アーシアさんが言うには、テトラさんがそこにいる…。信じたくはありませんが、最悪の場合、テトラさんが…、瓦礫の下敷きになって…、しまっている…。
「そう、よね…。シリウス…、…シリウス? 」
そうと決まった訳ではありませんが、直前まで一緒にいたはずのアーシアさんが言うなら、その可能性が高い…。そうでなければ二人揃っているはずなので、ほぼ確実…。すぐにでも瓦礫をかき分けて捜したい…、ですが、やっと合流できたアーシアさんも、危機的な状態…。…自分がもっと早く気付いて駆けつけていれば、アーシアさんだけでなくて、テトラさんとも合流出来ていたかもしれない。…もしあそこでフレフワンと戦っていなければ、テトラさんを救…。
「シリウス! 」
「…っ! 」
「そんなに落ち込むなんてー、らしくないじゃない! 」
「チアゼナ…」
「落ち込む暇があるなら、この子をどうにかする時間に使えるはずよねー?」
「…そう、ですよね。…そうですよね! 」
…ですよね! テトラさんが巻き込まれたと決まった訳ではないですし、アーシアさんもどうにかして処置をしないといけないですよね! …ですけど、この町は…。…だから…。
「…チアゼナ、テレポートをお願いします」
「テレポートって…、どこに…」
「この町以外なら、どこでも構わないです! …もし可能なら、医療設備の整った“アクトアタウン”か“ワイワイタウン”…、そのどちらかにお願いします! 」
「水の大陸ね。そんな長距離は移動した事ないけど…、やってみるわー! 」
「お願いします! 」
「…テレポート! 」
自分の頼みで、チアゼナは右手で自分に、左手で気を失ったアーシアさんに触れる。その状態で技を発動させ、自分達三人はこの町から姿を消…、脱出した。
――――
[Side Liolina]
「…っぅっ…」
何…、なのよ…、あの一味は…。
「…早く、戻らないと…」
でもアタイがこんなんじゃあ…。
「っあぁ…」
示しがつないわね…。
「…くっ…」
左脚の関節は全部外されてるし…。
「……」
右腕も跡形も無いぐらいに…、折られてる…。
「…
あははは…、っはぁ…っ」
これじゃあ…、ねぇ…。…シリウス、今あんたがいたら…、血相を変えて手当てをしてくれたんでしょうね…。
「っ……」
前まで…、霞んできた…。…ハク、あなたは意地でも犯人を捜しだして…、敵を討ちにいってくれるんでしょうね…。
「
…スパーダ…」
あなたは…
『…やっと見つけたわ。ルカリオという事は、あなたが副親方ね? 』
「…そう…、よ…。こんなボロボロでも…、やっぱり…、肩書きは…、ついてまわるのね…」
…エーフィ…、確かこの町には…、いなかった…。…長い針を咥えたまま…、だから…。
「…でもあんたも…、アタシを…、殺しに…、きたのよね…。…そうよね、…絶対に…」
『殺しに…、ね…。今の立場ならそうなるけど、出来ればしたくない…。…助けたい! 』
「…助ける…? …そんな夢みたいな事…、どう信じろと…」
『そうよね、あなたからしてみれば敵側の私の言葉なんて、信じられないわよね…』
「……」
『でも、全てを解決するためには人手が足りないのも事実…。いくら伝説が就いてくれてるとはいえ…、流石に…』
伝説…?
「この辺にいるはすだ! 探せぇっ! 」
「…! 」
『じっ、時間がないわ! 無理強いする気はないけど、私はあなたには生き延びてほしい…。…けどあなたがその気が無いなら、無理にとは言わないわ』
何…、言ってるの、この…、エーフィは…。
『だから、今から私が言う二つのうち、どっちかを選んで』
「それ次第で…、エーフィのあんたが…、動く…、ということね…」
『そうよ。…あなたはこのままここで、追っ手に無惨に殺される。あるいは、全てを私に任せて、生きるために死ぬ…』
「……」
『もう一度言うわ。追っ手に殺されるか、生きるために死ぬか…。選んで』
…要は、どっちを選んでも…、アタイは死ぬって事じゃない…。…本当何言ってるのよ…、このエーフィは…。
つづく……