Five-Third 惨劇(影法)
―あらすじ―
“パラムタウン”に着いた自分達は、順番に用事を済ませ始める。
まず初めに町の市場を通り、救助隊連盟へアーシアさんとテトラさんを案内する。
そこで二人とは一度分かれ、自分は知りあいのチアゼルの家を訪れる。
思い出の肉じゃがの香りで過去を思い出していましたが、急に起きた地響きで、無理やり現実へと引き戻された。
――――
[Side Silius]
「なっ…、何なんですか、これは…」
一体何が起きて…! 自分は嫌な予感がしながらも外へと跳び出しましたが、そこでは想像を遙かに超える事が起こっていました。何者かは分かりませんがここから見える範囲のいたるところで戦闘が起き、様々な建物が破壊されてしまっている。その戦闘自体も一方的なもののように見え、無抵抗な人を複数人で襲う…。賑やかかだった町が一瞬にして、悲鳴の響く戦場と化してしまっていた。
「何がどうなって…」
「シリウス、何かまた凄い音…、ひゃぁっ…! 」
「分からないです! …やっぱりチアゼナ、自分と来てください! 」
もしかして、テロ…? ですが誰が何のために…? 自分はあまりの光景に言葉を失ってしまいましたが、部屋の中にいるチアゼナの声で我に返る。こんな凄惨な光景を見せる訳にはいかない、最初はそう思いましたが、この考えはすぐに取り消さざるを得なくなってしまう。完全に人為的なものだと思いますが、チアゼナの住むアパートに何かがぶつかり、その後轟音と衝撃が辺りに響き渡る…。その方を見ていないので分かりませんが、揺れの感じから、このアパートが破壊され始めた、信じたくはありませんがこう感じざるを得なくなってしまう。なのでこのままだと一般人のチアゼナ、もちろん自分もですが、倒壊に巻き込まれてしまうので、彼女を大声で呼びよせました。
「えっ、ええ…。けどシリウス、外の方が…」
「建物に潰されるよりはマシです! そもそもこの町にはもう安全な場所は無いかもしれませんが…」
「見れば分かるわ…。けどシリウス…? シリウスはそんな足で…」
「折れた状態で二、三日過ごしているので、慣れてます」
ここにいても何も始まりませんし、まずは二人と合流しなければ…。逃げ場所の宛はありませんが、ひとまず自分達は止めていた足を動かし始める。チアゼナもこのただならない空気を感じているのか、見上げた限りではいつもの表情は無く、不安と恐怖で曇ってしまっている。自分もこのような事を経験した事が無いので同じですが、同じように怯えていては話しにならない…。探検隊員だからという理由もそうですが、これでも自分は弟子達を束ねるギルドの副親方。人の上に立つ者が怖気づいていては、こういう時に護れるものも護れなくなってしまう。なので自分は心の中で無理やり自分を奮い立たせ、力を込めてチアゼナに言い放つ。守られる側の彼女は自分の前足に視線を落として怪訝そうな顔をしていますが、もう一度自分は口調を強めて声をあげました。
「話は変わりますが、チアゼナは何の技を使えますか? 」
「技って…、何でアタシの技なんかを…」
「万が一の時のために、把握しておきたいんです! 」
ひとまず自分達は救助隊連盟の方に向けて走りはじめましたが、その方向にはいかない方が良い、何故か自分の中の本能がそう呼びかけているような気がする。それでも自分は足を止めず、代わりに護衛対象の彼女にこう訊ねる。建物が破壊され市民が襲われている以上は、自分達にも襲いかかってくる可能性が十分にある。ですので対策と作戦を考えるためにも、最低限守る側の技も知る必要がある。
「戦った事なんて一度も無いけど…、念力とテレキネシス、父から受け継いだテレポートしか…」
「…それなら十分です! 」
おばあさんもそうでしたが、仕事柄あると便利ですからね。…ですがこの状況では、案外それ以上に役立ちそうですね。
「ですのでチアゼナ、…影分身! 自分が守りますが、危なくなったらテレ…」
「ほぅ、手負いのあんたがかぃ? 所詮凡人の癖に、よくも大それた事言うわねぇ」
「どなたかは存じませんが、そうとも限りませんよ? 」
噂をすれば影というものですか。…ですがおそらく、この方が実行犯なのかもしれないですね。自分はチアゼナを護りやすくするために、分身を一体創り出す。そして彼女に注意を呼びかけようとしたのですが、それは自分達の前に躍り出た人物の声に遮られてしまう。言動と態度からすると実行犯らしいフレフワンが、自分を見下すように声をあげる。戦闘においては当然なのですが、おそらく相手は自分を手負いの弱者、そう思ったのでしょう。言い返した自分に対しても、全く動じることなく堂々と仁王立ちしていた。
「ですがその様子では、この町をこのようにしたのは、あなたですね? 」
「そう、その通りよぉ。アタイらは“エアリシア”の連中に雇われた身だが、雇い主の依頼には応えるのが仕事人としての性分なんでねぇ」
「仕事…、アタシらの“パラムタウン”を破壊してでも、て言うのねー、あなた達は」
「裏稼業じゃ信頼がモノを言うんでねぇ、デアナじゃ常識さぁ」
雇い主…、という事は組織的な犯行…? 自分の問いに相手はすぐに答えましたが、その内容に自分は耳を疑ってしまう。これでも数々のお尋ね者を捕まえてきた実績がありますが、ここまで悪びれる様子の無い方は滅多にいません。“デアナ諸島”の事情は知りませんが、それでも常軌を逸している、それだけは長年の勘…、いや常識的に分かる。こんな相手に我慢できなくなったのか、チアゼナも思わず声をあげてしまっていました。
「常識と言いますが、非常識にも程があるでしょう。…影分身。その心理、許してはおけませんね」
「その足でよく吠えるわねぇ。…いいわ、殺し屋のアタシが、特別に凡人のアンタを屠ってやるわぁ! 」
「臨むところです! 」
相性は悪いですが、一人なら問題ないでしょう。これから戦闘になる、直感でそう感じた自分は、もう一体分身を追加で作り出す。最初の一体は護衛用ですが、もう一体は戦わせるため…。案の定殺し屋を名乗る相手は声を荒らげ、自分に向けて前傾姿勢で駆けてくる。雨が降ってきたので足元が滑りそうですが、この足なので自分はあまり動くつもりは無い…。ですので自分は、六メートル先にいる相手に分身を向かわせながら、エネルギーレベルを高め始めた。
「悪タイプの分際で、よくもアタシに生意気な口を利けるわねぇ、…ムーンフォース! 」
「属性相性では自分が不利でしょうが、戦法と戦略次第でどうにでもなりますよ。…悪の波動! 」
やはりその技を使えましたか…。相手は駆けながら手元に技を準備し、正面の自分…、の分身を狙う。一直線上にいるので狙いは悪くないですが、闘う以上こちらにも作戦はある…。相手が飛ばす前に分身に接近させ、鎌状の角で左から右に斬りかからせる。すると相手は狙い通り、自分から見て右の方に跳んで回避した。
攻撃されなかったので分身も左の方に跳び下がらせ、同時に自分も含めてエネルギーレベルを高め始める。するとこの隙に相手も行動に移り、遠くにいるアブソル…、本体の自分を狙ってフェアリータイプの弾を解き放つ。ですがこの行動は予想出来ていたので、自分は冷静にこれの対処をする。分身と自分、同時にエネルギーを解放し、黒い波紋を球体に向けて放出した。
「何ぃ? っく! アタシのムーンフォースがぁ? 」
すると二つの波紋はある一点から重なり、一つとなって薄桃色の弾丸に向かっていく。属性相性では自分の波紋の方が不利ですが、経験とエネルギーの質では勝っている自信があります。二つの黒の波紋は一つにまとまり、速度はそのままに弱点属性に迫る。ですが自分の予想通り、技二回分のエネルギーが込められているので、全く負けずに弾く。それどころか完全に打ち消し、そのまま発動者にもダメージを与える。有利という事もあって油断していたのか、相手は予想外の事に困惑してしまっていた。
「これでも自分は戦闘慣れしていますからね。…ですが時間が惜しいので、これで決めさせていただきます! 」
「…ギガインパクト! 」
無事だとは思いますが、アーシアさんとテトラさんと合流しないと…。ですのでこんな所で無駄に時間を使う訳にはいきません! 一瞬相手が怯んだので、この間に自分は一気に攻撃を仕掛ける。まずは始めに分身に力を溜めさせ、その状態で相手に向けて走らせる。自分自身は話すことで気を逸らせつつ、技を発動させる準備をする。すると降りしきる雨に紛れて、自分自身の周りに大気の渦が発生し始める…。
「っきゃぁっ…! っ…、まさか…、分身で…」
その間に分身は消滅覚悟で相手に突っ込み、大ダメージを与える。結果的に分身は消滅する事になりますが、こうすれば自分自身への反動を防ぐことが出来る…。
「これが戦略というものです、鎌鼬! 」
当然自分自身は自由に動けるので、準備段階だった技を完全に発動させる。自身の周りに渦巻かせいた空気を角に集め、そこへ更にエネルギーを混ぜ込んでいく。一定の量を混ぜ合わせてから、角で弧を描くように頭を大きく、素早く振り下ろす。最高速度になったタイミングで思いっきり爆ぜさせ、刃状にしてエネルギ―体を撃ちだした。
「っあぁぁ…っ」
「身をもって感じた事でしょう、属性相性だけが全てでないと」
直前に大技を食らっていたという事もあり、相手はふらつき回避する事が出来なかったらしい。正面からまともに命中し、苦痛の声と共に崩れ落ちてしまっていた。
つづく……