Five-First 連盟間での違い
[Side Silius]
「…自分からは、以上です。何か質問のある方は…」
相変わらずすべきことは山積みですけど、ここが正念場ですね。一晩明け、朝食を済ませた自分は、いつもの朝礼で諸連絡を話しきる。昨日は昨日で忙しかったですが、ダンジョン以外で調査する事も悪くは無いと思います。ハクが会議に向かってからもギルドに残っていた自分は、まず初めにフローゼルのハイドさんからの情報収集。自分もうっかりしていましたが、彼はハクと同じ“エアリシア”の出身。“ニアレビレッジ”の救援活動前なのでしばらく前になりますけど、その時の“エアリシア”の様子について…。ですがハイドさんが知る限りでは不審な点は無かったらしく、普段通りで異様な事は無かったらしい。自分は何か知っていると期待していましたので、少しざんねんではありましたが…。
その後自分は、ハイドさんが右腕を診てもらうために病院へ行くと言っていたので、彼に同行する事にしていました。自分自身も先日の調査で右の前足を折ってしまっていますので、その健診も兼ねて…。初診なので時間はかかってしまいましたが、それでも昼前には終わっていたと思います。診察結果も予想通りでしたので、合流して二人で昼食をとっていました。昼食後は一度ハイドさんと別れ、自分だけ街の図書館に向かいました。そこでは主に、“参碧の氷原”で戦ったあの生き物についての情報収集。アーシアさんが先に来て調べていましたが、自分も彼女に加わっていました。…そこから夕方まで籠り続け、暗くなってきたので撤収…。その帰りにアーシアさんと翌日…、つまり今日の予定をたて、夕食も兼ねてギルドに戻りました。…大雑把に話しましたが、昨日の事はこのくらいですね。
「…無いみたいやな? そんじゃあ、今日も頼んだで! 」
話を今の事に戻しますと、副親方として弟子…、それからラテ君達やその他多数の前で話していた自分は、一通り辺りを見渡す。今回は話すことが特に多かったのですが、その都度ハクや弟のリク君が答えていたので、弟子たちも要項を理解してくれていたらしい。なので隣で話すハクがこう締めくくり、長引いた朝礼をお開きにする。本格的な調査が始まる初日という事もあり、リルとフレイ以外の五人の弟子たちも、それぞれで行動を開始してくれた。
「…それじゃあハク、自分た…」
「シリウスさん、調査の方はどうですか? 」
「…ん? 」
この声は…、案外早かったですね。自分達も始めましょうか、ハクにいつも通り声をかけようとしましたが、それは外の方から聞こえてきた声にかき消されてしまう。誰の声なのかすぐに分かりましたが、予想より戻ってくるのが早かったので、自分は少し驚いてしまう。ですが遠くから呼びかけられた手前スルーする訳にもいきませんので、自分は鎌状の角を高く掲げて会釈する。するとしっかり気付いてもらえたらしく、自分達の方にデンリュウ…、チーム火花のお二人とテトラさんがこちらの方に来てくれました。
「あぁ、ランベルさん。あれから色々な事が分かりましたよ。キュリアさんにテトラさんも、お疲れ様です」
「うん、ただいま。…って事は、何かいいことが分かったんだね? 」
「はい。キュリアさん、そちらの方はどうでしたか? 」
「えっ? そっ、そうね…」
キュリアさん、何か考え事でもしていたのでしょうか…。自分が訊かれたことに答えていると、三人がこちらに着いたタイミングでアーシアさんも来てくれる。アーシアさんはテトラさんと話し始めていますが、自分はそのままランベルさんとキュリアさんに語り続ける。“陸白の山麓”は“ジョンノエ”タウンからも近い位置にあると聞いていますが、朝礼直後に戻ってきたという事は、もしかすると始発の船に乗って来ているのかもしれない。自分の気のせいかもしれませんが、昨日の疲れが残っているのか、キュリアさんは若干ボーっとしてしまっていた。ランベルさんに軽く肩を叩かれて、それでようやく気付けていましたが…。
「…予想通り、種類は違ったけれど知らない生き物がいたわ」
という事は、言っていた昔話は事実だった、ということになりますね。
「…ただ山頂に行くまでの登山が、凄く過酷でしたね。僕達は一日で強行しましたけど、“陸白の山麓”は二日がかりで挑戦した方が良いかもしれないです」
二日となると、並のチームは挑戦を控えた方がいいかもしれないですね。“陸白の山麓”が二日を要するダンジョンだという事に驚きましたが、そこを一日で突破した二人は流石だと思います。それもただ二人で調査をするというものでなく、テトラさんという同行者がいる状態なので、その分難易度は上がる事になる。テトラさん自身の実力はどのぐらいかは分かりませんが、もし相当の実力を有していてもダンジョン自体には慣れていないはず…。
「一日がかりで、ですか…。そうなると、相当難易度が高かったんですね? 」
ランベルさんとキュリアさんでもこれだけかかったという事は、広さはハイパーレベルで間違いなさそうですね。
「高かったと言えば…、そうかもしれないわね。これから調査結果を申請するつもりだけれど、五つのダンジョンに分かれていたわ」
「前半二つは良かったんですけど、残り三つは中々でしたね」
区画に分かれているダンジョンでしたか…。それなら、一日かかるのも納得かもしれないですね。自分は山全体が一つのダンジョンと思っていたので、キュリアさんの言葉でこの予想がハズレだと気付かされる。区分けされているダンジョンは沢山ありますが、大体二つで多くても三区画…。そう考えると五区画は、かなりの数になる。まだどのような環境だったのかは聞けていませんが、それだけでも突破の厳しさがうっすらと分かったような気がしました。
「火花のお二人がそういうって事は、相当ですね。詳しく聴きたいですけど…」
そろそろ出ないと、船に乗り遅れるかもしれないですね…。本当は未開のダンジョンの話を聞きたかったのですが、自分はあえてここで話を切る。横目で時計を見ると長針が真下を向いていたので、自分は慌ててアーシアさんの姿を探す。それと同時に事情を話し…。
「…これから別件で予定があるので、帰ってから聞かせてください」
「という事は…、あの生物の事かしら? 」
「いいえ、ハクの案件と、ちょっとした私用です」
すぐにアーシアさんの姿を探し当てる。丁度今いる場所から一番手前の水路を跳び越えた場所にいたので、自分はランベルさん達に申し訳ないと思いながらもその方に足を向ける。自分も調べた事を話したかったのですが、それは戻って来てからでも出来ると思う。それ以前にハクとフロリア、ラテ君達にも前もって話してあるので、自分の口から話す必要が無いのですが…。
「なので申し訳ないですけど、自分達の方はハクに訊いてください。…アーシアさん、お待たせしました。そろそろ行きましょうか」
早口で無理やり締めてしまいましたが、自分はぺこりと頭を下げてからアーシアさんの方へ歩き始める。痛み止めを処方してもらっているので少しはマシになってはいますが、まだ痛むので右前足は軽く浮かせた状態で…。未だに慣れない三足での歩き方に苦戦しながら、自分はテトラさんと話していたアーシアさんにこう呼びかける。
「はっはいです」
すると少し驚きながらも、アーシアさんはすぐに気付き駆け寄ってくれました。
「あっ、シリウスさん! 私もついていっていい? 」
「えっ…、テトラさんもですか? 」
ですけどギルドの出口に向けて歩き始めた丁度その時、テトラさんが慌てて自分達の後を追いかけてくる。テトラさんにはアーシアさんが話しているのかもしれませんが、自分はまさかテトラさんも来るとは思ってもいなかったので、思わず頓狂な声をあげてしまう。そもそもテトラさんは火花のお二人と戻って来たばかりなので、無理して来ようと思っている、自分は率直にそう感じました。
「はいです。元々私一人で申請するつもりだったのですけど、テトちゃんも手伝ってくれる、て言ってくれましたので」
「テトラさんが、ですか? 」
「うん。シアちゃんに訊いたら、臨時っていう扱いになるけど、チームメンバーとして登録できるみたいなんだよ」
「臨時で…」
「はいです。探検隊とは少し違うのですけど、“ラスカ諸島”の救助隊は、ダイヤモンドランク以上ならできるみたいです。私は“ルデラ諸島”のプラチナランクだから、申請すれば二週間ぐらいは活動できるかと…」
申請の件は知っていましたけど、まさか隊の人以外も加われるとは思いませんでしたね。訳が分からず首を傾げていると、アーシアさんがすぐに説明してくれる。“ルデラ諸島”の事情はあまり詳しくありませんが、探検隊関係なら自分、それからハクも知ってはいる。“ルデラ諸島”関係の事はウォルタ君とシルクが良く知っていますが、自分達は生憎向こうには行った事が無い。ですので彼女達の説明に、そもそもの連盟が異なるという事もあり、その違いに再び驚かされてしまった。
つづく……