Four-Fifth 見習い時代の同期
―あらすじ―
一組だけ欠席があったけど、定刻になったで予定通り親方会議が幕を開ける。
“オアセラ”と“パラム”の親方も申請しとったみたいやけど、ウチが先やったみたいやから一番手で放し始める。
最初にシリウスの不在を謝ってから、ウチは“エアリシア”の事についての話題を提起する。
すると他二軒も関係する内容だったらしく、途中で挟みこむような感じで会議は進行していった。
――――
[Side Haku]
「…それでは、今回の会議は閉会とします。皆さん、お疲れ様でした」
ふぅ。これでひとまず、会議は一段落やな。途中トレジャータウンギルドの親方のプクリン、ラックさんの奇行で止まったけど、とりあえずは親方会議は一つの方向で話がまとまった。大雑把に決議した内容を言うと、ウチ、それと“パラムタウン”と“オアセラ”の親方が提起した“エアリシア”の件は、当事者のウチらと風の大陸の二人親方を中心として解決に向けて動くことになった。解決すべきことは、三つ。一つは連絡が取れない“エアリシア”の親方と副親方の捜索。これは“エアリシア”からも近い“パラムタウン”のギルドがメインで担当する事になり、弟子達にも協力してもらって風の大陸中を捜索する…。二つ目は、“エアリシア”での大量殺人事件と、それと関連すると思われる町人の捜索願の案件。これはウチら“アクトアタウン”と“トレジャータウン”、それから“パラムタウン”の一部の弟子たちが調査する事になった。リクをはじめとした生存者の保護ももちろんやけど、町人の一斉捜索がメインになるような気がしとる。…ただこれには一つ条件があって、事件が事件やからゴールドランク以上のチーム、隊員だけ、っていう制限が付いとる。やけどその代わりに、この案件に限ってゴールドランクのチームでも他の大陸での捜索活動が認められる。…ゴールドからプラチナランクに昇格するんは最難関の一つとして知られとるで、ゴールドランクのチームにとってはいい経験になるんやろうなぁ…。…途中で話が脱線したけど、最後の一つは事件の首謀者の調査。これだけは少し特殊で、主体的に活動するんは保安協会の本部がある“オアセラ”のギルドの一部と、スーパーランク以上のチーム。これだけの大規模な事件やから、首謀者は一級かそれ以上の零級の危険人物である可能性が高い。やから隊員自身の身の安全の確保、それと相手側に感づかれない為にも、少数で捜索する方向で纏まった。確かスーパーランク以上は全体の五パーセントしかおらんはずやし、経験も豊富で実力も折り紙付き。全員がラスカにおる保証は無いけど…。
「姉さん、最初はどうなるかと思ったけど、何とかなりそうですね」
「そうやな。多分黒幕はあの暴君やと思うけど、これだけの人数でかかれば案外すぐ解決するかもしれへんでな」
古参の親方達には渋られたけど、フラットさん達と“オアセラ”もおるし、心強いな! そんな感じで会議が終わり、司会の役員の号令でお開きになる。後半の方はウチは一通り資料に目を通しとったけど、会議の内容は全部頭ん中に入っとるつもり。…万が一聞き逃した事があっても、明日の昼には会議内容をまとめたレポートが連盟から郵送されるで、何の心配もしてない。丁度今他の親方達が席を発ちはじめたで、ウチもふぅと一息ついてから強張っていた体を軽く解す。その途中で疲労の色があんま無い弟に話しかけられたで、ウチはそっちを向いてこう答えた。
「かもしれないね。…だけど驚いたよ。同じ会議でも、市政と隊の方ではこんなに違うんだね」
「そんなの当然やろ? 今回の会議は稀なケースやけど、ウチらの方は最新のダンジョンの情報交換とか…、ダンジョンの事が中心やからな。それに救助隊連盟と保安協会とのれ…」
「ちょっとハク! あんな事隠してたなんて酷くない? 」
「まぁまぁ…、ここはひとまず落ち着くのだな」
「その事は本当にすまへん! 悪気はないんやけど、ウチも決心できてへんかったで…」
…まぁ、こう言われるのも仕方ないやんな…。リクは会議というものに慣れとるはずやけど、この感じやと今回の事に何故か新鮮さを感じたらしい。身内の事を諸島全体で解決してもらえる、って事が嬉しいんかもしれへんけど、それは親方のウチも同じ。ウチは家出した身やから市政の方は知らへんけど、市会議員のリクが言うんなら間違いないんやと思う。今回みたいな大事件の時の会議に出席するのは二回目やけど…。
そんでリクにいつもの事を話そうとした丁度その時、ウチは発とうとした会議室の奥から活発な声に呼び止められる。それを宥めるもう一つの声もしとるけど、ウチは振り返らずともこの二つの声にすぐにピンとくる。やからウチはよく知ったこの声達に、後ろめたい気持ちに満たされながらも振りかえって応える。平謝りになってしまったけど、この二人なら、分かってくれるとは思う。
「ええっとお二人は…、“パラムタウン”の方ですね? 話し方が違いますけど…」
「会議は公の場だからね、ちゃんとした喋り方で喋らないといけないのだからな」
「そうやんな。ウチはまだ戻せてへんのやけど、スパダも苦労しとったみたいやでな」
「そうそう。アタイもつい地元の言葉出てしまうけどハクはハクで苦労してるでなぁ」
…でもその割には訛ってないような気がするけど? 話しかけてきたのは、この会議に参加していた親方達のうちの一組、“パラムタウン”の親方と副親方。ウチとシリウスにとっては馴染の二人組やから、親方同士になった今でも頻繁に連絡はとり合ってる。そのうちの一人、リクに指摘された親方のゼブライカは、会議の時とは違って独特な話し方で彼に応える。もう一人も普通の喋り方とはいえ、その彼に共感しながら話に参加して来ていた。
「やけどリオリナ達もそうやと思うで? 」
「ええっと姉さん? 凄く仲良さそうですけど、このお二人とは…」
「あぁごめんごめん。どこから話したらええか分からへんけど、二人はウチらの親友? 戦友? みたいな感じやな」
「そうなるのだな。俺は見ての通りゼブライカのスパーダ。会議でも言った通り、“パラムタウン”の親方をしているのだな」
「…そしてアタイはルカリオのリオリナ。消去法するならアタイは副親方。アタイらはハクとシリウスの見習い時代の同期って訳さ! 」
「そうやな」
「うんうん」
「同期…? そうなるとお二人は、チームメイトという事でしょうか? 」
「ううん、俺達はチームを組んでいないのだな。ハク達のチームはギルドを卒業したけど、俺達は元々他の弟子と組んで活動していたのだ」
「そういえばそうだったね。アタイとスパーダは二日違いで弟子入りしたんだけどハクとシリウスはその一週間後。“パラム”での修業時代四人で一緒に依頼をこなしてた事もあったね」
「そんな事もあったな。そんで二人の事をもう少し話すと、スパダとリオリナはラスカの出身やないんよ」
「えっ? という事は…、他の諸島から…」
「そうなのだ。俺はルデラで、リオリナはデアナの出なのだ」
「デアナから越してきた身だからアタイはそうなるね。…そういえばハク? リルは元気してる? 」
「うん、よくやってくれとるで。最近はウチらのギルドの弟子たちを纏めてくれとるし、バトルの指導もしてくれとるんよ」
「えっあのリルが? 」
「俺は半年前にあったけど、あの頃のリル君とは見違えるほど強くなっていていたのだな」
「リルって確か…、フレイ君のチームメイトのリオル、だよね? 」
「そうやよ。ウチも初めて知った時はびっくりしたんやけど、ウチらの直属の弟子のリルはリオリナと従兄弟同士やでな」
「いっ、従兄弟? だっ、だから姉さんは…」
「ただの偶然なのだな。確かハク達が活動拠点を移した先の“トレジャータウン”のギルドの弟子で、そこを卒業したチームが友達だから気にかけてた、っていってたのだな? 」
「そうやよ」
こう思うと、世界って案外狭いって感じてしまうよなぁ…。ウチらの同期のリオリナはリルの従兄弟で、リルとウチは師弟関係にある。スパーダはルデラの出身やから、もしかするとウォルタ君の事を噂ぐらいでは聞いた事があるかもしれへん…。生憎デアナとルデラには他に知りあいはおらへんけど…。
つづく……