Four-Fourth 親方会議
―あらすじ―
余裕を持ってカピンタウンに着いたウチは、初めて来たリクのためにこの町の事を話してあげる。
その中でウチは、カピンタウンの代名詞とも言える農園の話題を出し、会議までそこを見学しようと提案する。
やけどその話の最中、ウチらはトレジャータウンの親方達と再会する。
結局ウチらは、その二人と世間話をして時間まで過ごす事になった。
――――
[Side Haku]
「…それでは時間になりましたし、会議の方を始めましょうか」
「そうだな」
話に夢中になってギリギリやったけど、まぁ何とかなったな。大急ぎで会場になる連盟本部に向かったウチらは、何とか会議には間に合った。着いてから五分ぐらいしか無かったんやけど、とりあえず息だけは整える事は出来た。いつもは会議の前に資料を見直しとるんやけど、今回はそれはしてへん。何しろ今回はウチが招集した会議やから、言うべきこと、訊きたい事は全部頭の中に入っとる。シリウスはいつも他の親方達に挨拶回りをしとるんやけど、今回はリクやから出来てへん…。ウチの隣の席も同族のリクやから、いつもと違うって事もあって会議室は若干ざわついとった。
「…一軒のギルドが欠席していますが、今回はお集まりいただきありがとうございます」
昨日の今日で呼び出したで心配やったけど、殆ど集まってくれたんならありがたいな定刻になったって事で、いつも会議の進行をしとる連盟の役員が喋りはじめる。司会進行のザングースは一度咳ばらいをすると、会議に出席した十六…、リクは違うで十五人やけど、集まったギルドマスター達を一通り見渡す。やけど二席だけ空席やから、それだけ言ってぺこりと頭を下げていた。
「今回はパラムタウンとアクトアタウンの申請により、開催する事となった次第です」
えっ、パラムタウンの方も申請しとったん?
「ですので申請順に、アクトアタウンの方から議題をよろしくお願いします」
「ん、あっ、はい! 」
パラムタウンの方が近いのに、ウチらの方が先やったんやな? 司会の彼は開会の宣言をすると、申請をした親方…、ウチとパラムタウンの方に目で合図を送る。申請したんはウチらだけやと思っとったで、ウチは思わず言葉にならへん声をあげてしまった。
「ええっと議題に入る前に、二つだけ謝らせてください」
そやけど呼んだ手前取り乱す訳にもいかへんで、ウチは気持ちを切り替えて背筋を伸ばす。種族上椅子には座ってへんで、会議で発言する時はいつもこうしとる。
「謝罪する事とは…、副親方がいないという事だな? 」
「そうです。まずはその件なんやけど、ウチらのギルドで別件で手ぇ離せへん事があって、アクトアの副親方は欠席とさせていただいてます。その代わり、二つ目と議題に関係ある事なんやけど、マスター以外の彼が出席する事をお許しください」
話始めたウチに、副親方の一人が訊ねてくる。その通りやったから、ウチは素直にその事情を話し、リクに目を向けてから頭を下げる。
「議題とですか♪ 」
「はい。…リク」
「あっ、うん。彼女の弟の、リクと申します。訳あって姉のギルドに身を置いていますが、エアリシアの市会議員をしています」
そこへトレジャータウンの副親方、フラットさんが疑問を投げかけ、その後リクに視線を流す。会議の前に紹介はしとるけど、リクの事は弟、って事しか伝えてへん。…そやから、先に対面しとるフラットさんが疑問に思うのも不思議やないと思う。
ある意味その質問を待っとったってのもあるけど、ウチはすぐ頷いてリクを見る。陸には前もって伝えてあるで、すぐに自分の事を名乗り始めてくれた。
「…ひとつよろしいでしょうか? 」
「はい、パラムの方」
やけどその途中で、何か質問があるのかパラムタウンの親方が机についている右の前足を挙げる。
「俺達側の議題と関係あるのですが、エアリシアのマスターの所在、聞いていますでしょうか」
「いいえ、副親方とは親交はありますけど…、すみません、把握していないです」
「そう、ですか…。ありがとうございます」
エアリシアの所在? パラムが知らへんとなると、嫌な気しかせぇへんけど…。挙手した親方、ゼブライカの彼はリクを真っ直ぐ見て質問する。やけどされた側の彼は、一瞬暗い顔をしたけどすぐに答える。本当に知らへんのか話せへん事情があるんかは分からへんけど、謝りながら首を左右にふっていた。
「ではアクトアの方、続きをどうぞ」
「はい。…二つ目から議題に入る事になるんやけど…、ウチの出生について…。今まで決心できなくて明かせへんかったんやけど…、ウチの本名は“ハク=リナリテア”…」
「りっ、“リナリテア”? 」
「“リナリテア”って、古い貴族の、あの“リナリテア”よね? 」
…やっぱ、こうなるやんな…。ウチがずっと隠していた本名を明かすと、予想通り会議室が一気にざわつき始める。現代ではそれほどではないけど、“リナリテア家”は千年前から続く古い家系。当初は貴族として王族に使え、国政にも関わっていた家柄…。王政が廃止された後は、王族に代わり政治の最前線に関わってきた一族…。歴史の授業でも出てくる名前やから、エアリシアの住民やなくても一度は聴いた事のある名前…。
「だっ、だがアクトア! 何故そ…」
「お静かに! …アクトアの方、続きを」
「…はい、ありがとうございます。ウチは“リナリテア家”の第一子やけど、家出して継承権を放棄しとる。やから今は第二子の彼が、継承権を持っとる。…ここからが議題になるんやけど、市会議員のリク…、リク=リナリテアは今、亡命してうちのギルドに身を隠しとる」
「亡命っ? 議員のあんたが何で亡命する必要あんだよ? 」
まぁ、疑問に思うのも無理ないやんな…。
「結論から言うと、一昨日の夕方、エアリシアで大量殺人事件が起きた…」
「何ぃっ? そんな根拠のない事、二年目の小娘のクセに…」
「
本当です! 」
「だが…」
「なるほど、これで合点がいった」
「合点? この戯言のどこが…」
「だからか…。アクトアの方、続けて下さい」
「オアセラの方、パラムの方、ありがとうございます。議題に戻るんやけど、市会議員の彼も、命を狙われた身…。これはウチとリク…、それから匿っとるもう一人の推測なんやけど…」
「姉さん、ここからは僕が話します」
リク、あんま無理して話さんでも…。途中で年配のマスターに遮られたけど、何か知ってそうなゼブライカとオアセラの親方に制止してもらえる。オアセラのボスゴドラが察した理由が分からへんけど、会議で一番の古株の彼を黙らせれたのならありがたい…。二人に感謝しながら気持ちを切り替え、ウチは止めていた口を再び動かし始める。やけどその途中で、ウチは当事者のリクに尻尾で発言を止められてしまった。
「おそらく皆さんの耳に入っていると思いますが、先日エアリシアで記名投票が行われたのはご存知ですよね? 」
「ええ。無記名が原則だから、あの時は本当に驚いたわ」
「その投票の内容は、現市長の信任を問うものでした。…ですが事件当日、市内全体で無差別の事件が発生した…。僕は逃げるのに精いっぱいで気付けなかったのですが、その一人が見た限りでは、市長の意向に反対している人ばかりだったそうです。…物凄く言いづらいんですけど、反対に投票した住民の中に、エアリシアの親方と副親方の名前もありました。ですので、ギルドで避難したか、あるいは…」
あの人達も、反対していたんやな…。って事はまさか、あの人達も襲われた…? やけどそれなら、撃退しとるはずやんな? …そやけど、行方が分からへんってことは、信じたくないけど…、やっぱり…、そう考えるしか…。
「そう、ですか…。あの方達に限って殺られるなんて事は無いと思いますが…、行方が分からない以上、そう考えるのが自然…」
「…ですね。…俺達からも一つ、エアリシアの件について報告があります」
「我々もだ」
「…ではパラムの方、どうぞ」
パラムとオアセラも? 何か知ってそうな感じやったけど、もしかしてこの事なんかな?
「ありがとうございます。救助隊連盟の話によると、エアリシア在住者の捜索願が大量に出されているそうです。…アクトアの方の話を聞いて感じたのですけど、この件と捜索願の件、同じ事ではないかと思います」
「たたたたっ、確かにそうですよね♪ 私もこの場で初めて聞きましたけど、オアセラで沢山の方々と大量の捜索願…、これだけの大ごとが一度に起きたとなると、無関係とは私は思えないです♪ 」
「私もトレジャーに異論は無いわ。…けれど、この二つを結びつける証拠が無いのも事実ね…」
「いや、決定づけるものではないが、保安協会によるといくつかの目撃情報があるそうだ」
「オアセラの方、その…、目撃情報と言うのは…」
「我々も聞いた話なので確証は無いのだが、一昨日の夕刻、見ず知らずの集団がエアリシア市内で目撃されたそうだ。保安協会の報告によると、同刻に市長のカイリューの姿が確認されたそうだ」
市長…。あの暴君…、リクから聞いとったけど、やっぱり…。
「その事についてですけど、僕も確かに市長…、父を街で見かけました。…ですけど父は…、自らの手で…、市民…、娘…、僕達の妹を…」
「まっ、まさか…」
「そのまさか…、やと思う」
「という事はこの件、エアリシア市長も犯に…」
「
エアリシアの市長を捕まえるよー! たぁぁーっ! 」
「おおおっ、親方様♪ まだそうと決まった訳では…」
「…トレジャータウンの親方は、相変わらずですね…」
「はぁ…」
「…そうね」
「そうやな…」
っていうかラックさん…、話聞いとったん? …まぁいつもの事やけど…。
つづく……