Four-Third 会議前の世間話
―あらすじ―
アクトアタウンの水中区画を進むウチとリクは、そのまま海中のダンジョンへと潜入する。
流れの強い一方通行のダンジョンやから、体力も時間も節約できるでここを通る事にした。
その途中で野生としたで、ハクリューの戦い方を見せる意味も込めて率先して戦う。
その後ウチは、雑学のつもりでリクに水中での戦闘法をレクチャーしていた。
――――
[Side Haku]
「着いたで。ここがカピンタウンやよ」
「へぇー、噂では聴いてたけど、ここがそうなんだね」
まぁ草の大陸の玄関みたいなものやでな、流石にリクでも聞いた事ぐらいはあるかもしれんね。“蓮華の海流”を通ったウチらは、飛んだ時の三分の二ぐらいの時間で抜ける事ができた。ダンジョン自体は十分ぐらい前には抜けたんやけど、びしょ濡れのまま町中を飛び回る訳にはいかへんからね、少し早めに空に出て水気を落としてた。本当はタオルとか借りるのが一番ええんやけど、生憎今日は持ち合わせに余裕が無い。そういう事でほんの少し飛んで、今丁度カピンタウンの上空近くに着いたところ…。適当なところで高度を落としながら、鼻先でその町を示した。
「草の大陸では一番大きい町やでな。町自体は他と比べるとそれほど大きくないんやけど、探検隊連盟の本部がある事で有名やな。これはリクを連れてきた事にも関係するんやけど、ラスカの親方達の会議も、ここでやっとるんよ」
「って事は、姉さん達の大元がここなんだね? 」
「まぁそういう事やな」
他にも細かい事はあるけど、真っ先に浮かぶんはこれだけやな…。船着き場の辺りに降りたウチらは、一通り町を見渡す。日の傾きからすると十一時ぐらいやと思うけど、パッと見今日は人通りが多いような気がする。親方会議が開かれるからなような気がするけど、それにしては多いような気もする。
そんな事を思いながら、ウチは初めて来るリクに観光案内みたいな事をしてあげる。住んだ事ないでローカルな事は知らへんけど、一般常識ぐらいな事は知っとるつもり…。
「他に有名なんは…、あっ、そうやそうや! カピンタウンといえば林檎とか…、木の実の一大産地として有名やな! 」
「そう、なんだ…」
「そうやよ。まぁアクトタウンの近くに“実りの森”っていうダンジョンがあるんやけど、そこで採れへんもんもあるでな。ここで栽培されとるんは高級品やから、もしかすると“エアリシア”でも出回っとったんとちゃうかな? 」
「うーん、僕はそこまで気にしてなかったけど、もしかしたらあったかも」
「そうやろ? 折角やし、農園の方も見に行ってみない? 会議までまだ時間ある訳やし」
逆に言えば、そんぐらいしか見るとこ無いでな…。この時期やと確か…、ドリーの実辺りの収穫体験やっとったよな。時間に余裕を見てこの町に来たで、ウチはその間する事を考えながら会話を繋ぐ。その途中で思い出したんは、この町の近くに“ニアレビレッジ”にも負けへん規模の大農園がある、って事。ウチらは一回も体験した事ないんやけど、農園では季節によって色んな木の実の収穫体験ができる、って聞いた事がある。時間的に今日は無理やけど、見学ぐらいならできるで、ウチは暇な時間を潰すためにもこう提案してみた。
「見てみたいけど、時間は大丈夫なの? 確か会議って、一時半からだったような気がするけど…」
「それなら問題ないで! 一番近い農園やと、町から五分ぐら…」
「おやハクさん、お久しぶりですねー♪ 」
「ん? うん、久しぶりやな! 」
シリウスは最近会いに行っとるけど、ウチは行けてへんでな! 多分この感じやと、リクはウチが進めた農園に興味があるんかもしれへん。…やけど時間が足りへん、もしかするとリクは知らないなりにこう思っとる気がする。実際ウチらは草の大陸におった時に見に行った事があるんやけど、一番近くて五分、遠くても三十分ぐらいで行けるで、手ごろと言えば手ごろ。それに農園の方にはちょっとした直売所みたいな感じで果物が売られとるで、買い物したり手料理を嗜んだりして時間を潰す事もできる。…やからウチはこの事を教えてあげようとしたけど、その前に別の誰かに先を越される。特徴的なしゃべり方やからすぐに分かったで、ウチは声がした斜め後ろの方に振りかえる。
「リルとフレイはどうですかー♪ 」
「よぅやってくれとるで! フラットさん達も、元気そうで安心したで」
そこにいたのは、ウチらがギルド運営の事でお世話になった知り合いの親方達…、トレジャータウンの副親方をしとる、ペラップのフラットさん。彼はもしかすると、副親方としてやなくて情報通としての方がよく知られとるかもしれへん。実際に会議の時でも、ウチらが知らへん情報を色々提供してくれとる。他の親方達も昔から一目置いとるみたいやから、その情報収集力はもしかするとラスカ一かもしれへん。それからもう一人は…。
「久しぶりだね、ともだちともだち〜」
「ラックさんも相変わらずやな」
いつものようにはしゃいどるプクリン。彼が親方のラックさんで、踏破してきた未開のダンジョンは数知れず…。ウチらが探検隊になった時から有名やったけど、正直なところ、こんな感じやから年齢不詳…。多分三十代は言っとると思うんやけど、フラットさんの言葉借りると妖精みたいな人やからね…。…やけどそんな印象とは真逆で、実力そのものは折り紙付き。これはウチらが親方になってから聞いた話やけど、ラックさんとフラットさんは、マスターランクへの昇格試験の時によく選ばれるらしい。…やけど見かけ…、いや、精神年齢? 兎に角それに見合わへん強さやから、初見では結構高い率で不合格になるんやとか…。
「…ええっと姉さん? この人達は? 」
「この二人はトレジャータウンのギルドの親方と副親方の、ラックさんとフラットさん。フレイが正式に所属しとるギルドの親方なんよ」
「フレイ君達の? 」
「そうそう♪ フレイはハクさん達に直に指導してもらっていたことがありましてねー、そのままギルド外の師弟関係になってるんですよー♪ …それはそうと、ハクリューの彼方ははじめましてですねー♪ 」
あっ、そうやん! うっかりしとったけど、お互い知らへんかったな。
「あぁはい。リク、と言います。これでも一応、市会議員をしていました」
「そうですかー、議員さんなんですね♪ 」
「今回の議会の事と関係あるんやけど、そうなんよ。リクはウチの弟なんやけど…」
「ちょちょちょちょっ、ちょっと待って下さい♪ ハクさん、弟さんがいらっしゃったんですか? 」
「はい。姉はずっと隠していたと聞いてますけど、彼女と僕は血の繋がった姉と弟なんです」
「隠し子とか生き別れたとかやなくて、普通のな。…まぁウチが家出したってのもあるんやけど…、この話は会議でやな。ここで話すんもあれやし」
ウチの話しで長なりそうやけど、会議を招集した事と関係あるでな。ここで話すとフラットさん達にとっては二度手間になる訳やし…。久々に会った彼らとの雑談を兼ねて、ウチは両方の事を紹介してあげる。ウチの予想通りフラットさんは物凄くビックリしとったけど、この反応はまぁいつもの事。“星の停止事件”の時に初めて連絡した時もそうやったし、ギルドマスター試験前に報告に行った時もそうやった。ラックさんはラックさんで、あまり話が長いと目を開けたまま居眠りしとる時があるけど…。
「そうだよね。…ええっと姉さん? そろそろ会場に行き始めた方がいいんじゃないの? 」
「えっ…、ほっ、ホンマや! もうこんな時間やん! 」
「わっ、私もうっかりしてました♪ ここにいないって事はシリウスさんも待ってるかもしれないですし♪ 」
今回はウチとリクだけで来てへんけど…、そういう事にしとこか。話しに夢中になっとって気付けへんかたけど、リクは一度空を見上げてからこう教えてくれる。この感じやとフラットさんもそうだったらしく、ウチと一緒で短く声をあげとった。そんでウチらは声を揃えて頷き、足を連盟の本部の方へと向ける。…まぁハクリューのウチとリクには向ける足は無いんやけど、ウチら四人は速足でその建物の方へと向かう事にした。
つづく……