Three-Sixth 親方としての決意
―あらすじ―
ハクの様子を看ていた自分達は、この場でエアリシアの事を話し始める。
その中で自分達は、テトラさんの指摘である違和感に気付くことになる。
何者かによる情報操作が疑われ始めましたけど、話し合っている途中にフロリアとラテ君が部屋に入ってきた。
ラテ君はシルクの救出に成功したらしく、その報告を兼ねて迎えに来てくれたらしい。
ハクの事が心配でしたけど、フロリアの気遣いもあり、自分はラテ君とテトラさんと共にワイワイタウンへと駆けだした。
――――
[Side Haku]
「……ぅぅっ…」
「あっ、姉さん。気付いたね? 」
…あれ? ウチって何で気ぃ失っとったんやったっけ…? 朝から食欲が無いウチは、朝礼を終えてからもあまり動き出せずにいた。頭がボーっとしとってあんま思い出せへんけど、確かテトラちゃんとハイドとロビーで話しとったような気がする。その時に弟のリクが急に訪ねてきたような覚えがあるけど、そこから記憶が途切れとる。…そんで気づくとウチは自室で寝かされとったで、いまいち状況が分からん状態…。
「…うん」
「ハクさん、体調の方は…」
「頭がボーっとするけど、それ以外は…、大丈夫やな」
…あっ、思い出した。確かリクからエアリシアの事聴いて、気ぃ失ったんやな、ウチって…。ウチが目を覚ましたのに気付いたらしく、一番近くで寄り添ってくれとったリクが、優しく話しかけてくれる。リクとは何年か文通でやりとりしとったけど、こうしてへんと向き合って話すのは、確か家出して以来十年ぶりやと思う。長い事あってへんかったけど、リクは昔からこんな感じやったですぐに分かった。…けど今のウチが言える事やないけど、リクはどこか疲れ切ったような…、そんな感じがあるような気がする。ウチに訊いてきたジヘッドもそうやと思うけど…。
「それなら一安心でしゅ」
「ソーフさんが看てくれていたからな。…んだけどハクさん、あまりむ…」
「知っとるよ…。ソク…、ウチらの妹が殺されたんやろ…? 」
ソーフちゃん…、ありがとな…。目が覚めたばかりでまだ意識がはっきりせぇへんけど、呟いたウチに対してソーフちゃんはホッと肩を撫で下ろす。いつのならアロマセラピーとか癒しの波動辺りやと思うけど、彼女には弟子達の特訓をみる時に凄く助けてもらっとる。
そこで寝たまま話す訳にもいかへんで、とりあえずウチは体を起こしてみる。少し怠さはあったけど、この感じならすぐに消えてくと思う。…けど直近で二回も気ぃうしなったのを知っとるハイドは、そんなウチに対してこんな風に話しかけてくる。何を言うつもりやったんかは知らへんけど、この感じやと多分、エアリシアの事を伝えてくれようとしたんやと思う。そう思った訳やから、ウチはハイドの言葉を遮って直接その事を口にする。ウチ自身も未だに信じられへんけど、そうならそうとはっきり言ってほしい、そういう考えも心のどこかには確かにある。
「…
うん」
「…そうなんやな…。…リク、その時エアリシアで何があったんか…、教えてくれへん? 」
「えっ…。でもハクさん…」
「…大丈夫、決心はついとるよ」
市会議員のリク達が急に押しかけてくるぐらいやから、ヤバい事があったんは想像できるけど…。ウチに訊かれた弟は、消え入りそうな声で小さく頷く。ウチも聴くだけで気が滅入りそうな気ぃするけど、それでも十年会ってない…、会えなくなった妹の最期は知っておきたい。シルクの事ももちろんそうやけど、ギルドの親方としても知るべきやと思っとる。場合によっては他のギルドとかチームに要請せなあかへんで、そういう意味合いも込めてジヘッドのトレイにも訊いてみる事にした。
けどまさかウチの口からこう訊かれるなんて思ってなかったらしく、種族上二つの頭がある彼は頓狂な声をあげる。彼も確か市会議員のはずやから、本来なら第一子のウチが統治しとるはずのエアリシアの事情は確実に知っとると思う。ウチの記憶が正しければ、確か彼はリクと同い年。小さい頃、彼がモノズの時によう家に遊びに来とったんは
見かけたで、間違いないはず…。その彼は続けて何か言おうとしとったけど、分かりきっとるでウチはこくりと頷きながら遮った。
「それなら…。…どこから話せばいいか分からないけど、僕は夕飯を食べに行ってる時、いきなり襲撃された…。姉さんが教えてくれた竜の舞で何とか逃げれたけど、その時の街は…、地獄絵図…そのものだったよ。多分街の外から雇ったんだと思うけど、市政反対派の一斉弾圧…、多分反対派の市民全員だけが殺害されてた…」
「俺も逃げるので精一杯だったけど、臭いを嗅いだ感じでは無差別、って感じだったな…。それで逃げてる途中に偶然リクと合流できて、そのすぐ後に妹さんの件があったって訳だな…」
嘘やろ…。街中で殺人事件が起きとったなんて…、何十年か前にあったらしい事件しか聴いた事ない…。
「そうだね…。…結論から言うと、ソクを殺したのは父上…。最初は大柄の虫タイプだと思うけど、その人に捕まってるところに父上が来て、ドラゴンクローで殺られた…」
「…あの暴君が…? 嘘やろ…? 」
権力の事が絡むと手段を択ばん人やけど、まさか人の命…、それもソクにまで手を出すなんて…、ありえへんやろ…。ウチはある程度覚悟しとったけど、それでもその内容に言葉を失ってしまう。街中で起きた殺人事件、それもウチが大嫌いな父親も関与しとるとなると、もう驚くって範囲を超えてしまう…。あの人は昔からそうやったけど、自分の権力と支持率を維持するためなら、市の条例を変えてでも維持しようとする人やった。…やけどそれでも、人の命を奪う様な事だけは絶対にせぇへんかった。それも街規模となると、この十年の間に人が変わった、そう思うしか説明がつかへん…。
「俺も信じられないけど…。…んでその後は、リクとトレイは命かながら逃げてきて、朝着いたって感じだな…。その時ハクさんは気を失ってたけど、シリウスさんが戻ってきてからこの事件の事を話し合った。…んだけどハクさん、不可解な事が一つあります」
「不可解な事…? 」
「そうなんでしゅ。テトラさんが最初気付いたんでしゅけど、エアリシアの事件、報道されてないんでしゅ」
「しっ、知られてへんの? そっ、そんな事、あり得へんやろ! 」
街規模の大事件なんやから、いくら何でも知れ渡るはずやんな? 途中からハイドとソーフちゃんも参加してくれて、この事件について詳しく話してくれる。この感じやとウチが寝とる間に話が進んどったらしく、その事も合わせて教えてくれる。…本当は出身…、身内の事やからウチとリクがせなあかんのやけど、今のウチは、やっぱシルクの事が頭から離れへんで集中できそうにない。…やけどただでさえ大変な時やのに、これ以上ソーフちゃん達を巻き込む訳にはいかへん。シリウスも前足を骨折しとって自由が利かへんから、最悪ウチ独りで…。
「フレイ君達が知らせてくれたけど、そうなんだよ…」
「だね…。んで、これはリクの推測でしかないんですけど…、事件が
隠蔽されてる、んだと思います」
「
隠蔽…」
「父上の事だから、自分の手を汚さないため…、なんじゃないかなって…」
「…そうやな…。あの暴君ならあり得る話やな…」
事実隠蔽となると、調べようにも手ぇ出せへんな…。リクは驚くウチに対し、神妙な様子でこくりと頷く。多分ハイドは今朝聴いたんやと思うけど、話していたらしい事を一言ずつ絞り出す。難しい顔しとるで確信しとる訳やなさそうやけど、リク達の話を聴く限りでは妙に信憑性があるような気もする。それにあの暴君は自分の事しか考えてへんで、自分の地位を護るためなら何でもするのは目に見えとった。自分の事以外には興味ない人やから、当然子供にあたるウチらでさえ全く構ってなくれかった。…父親が父親やから、金の猛者…、母親もウチらの事は眼中になかった。ウチらが学校に通う費用でさえ出し渋るような人やから、ウチだけやなくてリクの分までバイトで稼がなあかんかったんはよう覚えとる…。その癖に自分だけ沢山ブランド品を買い込んどったし、酷いとウチが必死に稼いだバイト代でさえ持ちだされた…。…やからウチは、ウチの偏見やけどカイリューという種族が大嫌い…。今年二十五になったで進化できるけど、傲慢なカイリューになるぐらいなら死んだ方がマシ…。
「そうだよな…」
「…リク、ハイド、トレイも、ありがとう…。話聴いた限りやと、かなり深刻やな…」
そうなると、ウチらだけやと対処しきれへんかもしれへんよな…。そんなら…。
「…やから、連盟を通して他の親方達にも協力を要請してみる。…それに殺人事件となると、保安協会にも話通さなあかへんよな…」
「そうでしゅよね…。それならハクさん、トレジャータウンの方にはミー達が伝えておきます」
「ほんまに? じゃあ頼んだで」
「はいでしゅ! 」
「そうなるとウチら主導で取りかからなあかんな。やけどあの暴君の事やから…」
血眼になって排除しにかかる事も考えられるやんな…。そんなら…。
「リク、トレイ。二人の身はウチら匿う」
「姉さん…」
「シリウスから話はフロリアから話は聴いとるけど、ハイド、ハイドはリクとトレイの警護」
右腕を失っとるけど、元々プラチナランクの救助隊員なんや…。リクの同級生やし、ハイド以上の適任者はおらへん。
「…そんでアクトアタウンギルドの親方のウチ…、
ハク=リナリテアが指揮を執る。それでいくで」
シルクの事も心配やけど、多分ウチらの親が起こした大事件なんや…。ウチ以外、誰がおるん…? …おらへんやんな? それに家出したとはいえウチの実の親が起こした事件…。大嫌いな両親やけど、実の娘のウチも無関係やない…。骨肉の争いになりそうやけど、妹を殺されたんや…。…寧ろ大嫌いな暴君を引きずり下ろせるまたとないチャンス…。そやから、ウチは…。
続く……