9-0 エピローグ
[Side Ratwel]
『こちらB1のヒュルシラ。G班のひと、聞こえてるかなー?』
「G4のウォルタ。はい、ちゃんと聞こえてるよ」
シロさんが乱入してからしばらくして、ギルド前の戦闘はあっけなく終わりを迎えた。一応僕達が半分以上は倒した、っていうのもあるけど、時間的にはシロさんの方が圧倒的に短かったと思う。それでギルド前の安全が確保できたって事で、僕とウォルタ君で気を失ってるベリーとシャトレアさんの解放をしていた。今はシロさんの背中でゆっくり眠ってるから、残りの僕たちで本部の連絡待ち、って感じだね。
それで何分か待ってたところで、ウォルタ君のZギアに着信が入る。途中でアーシアさんとテトラさんも合流してたけど、ほぼ同じタイミングでアーシアさんのそれにも着信が入っていた。だから僕達は一度二人の周りに集まり、本部からの連絡に耳を傾ける。
『……うん、全班きいてるねー。じゃあ業務連絡に入るけど、みんな、お疲れ様。さっきA1から連絡が入ったんだけどー、今回の作戦は無事完了。事件の首謀者、“エアリシア”市長のジク=リナリテアの拘束に成功したよー』
「本当ですか! 」
『うん。だから作戦前にも言った通り、これから順次撤退を開始してー。でもS1とG4はそこで待っててー。今僕達のB1がそっちに向かうからー』
拠点からの待ちに待った連絡に、この場にいる僕達全員が歓喜する。全員無事、とは言い切れないけど、作戦自体は無事遂行できたことになる。他の班の状況はまだ何も分かってないけど、この感じだと何事も無くいってたのかもしれない。
「わかったよー。……ラテ君、みんなも、聞いたよね? 作戦成功って」
「はいです! 」
「だけどまさかシロさんが来るなんて思わなかったね」
「僕はフライがいること自体驚きだったよ」
「ですよね」
作戦の緊張が解けたって事もあって、僕はやっと安心して肩をなで下ろす。最初は僕達G班だけがギルド前に向かうことになってたけど、いつしかシャトレアさん達とフライと出くわして、大所帯になってた。だけど終わった今考えてみると、フライ達が駆けつけてくれてなかったら、ここまで上手くいってなかったかもしれない。何より、シャトレアさんもいないはずだから、ベリーはここで完全に命を落としていたことになる。厳密に言うと今も助かったとは言えないから、ベリーとシャトレアさん、二人の気持ち次第なんだけど……。
「うん。……あっ、あれは……」
「案外近くにいたんだね」
話している間に、僕は遠くの方に四つの人影を見つける。全員イーブイ系の種族だからすぐに分かったけど、あれはB1、グレイシアのフィリアさんとサンダースのコット君、それからシャワーズのヒュルシラさんと、リーフィアのリフィナさん。もっと時間がかかるって思ってたから驚いたけど、この感じだと本部のすぐ傍だったのかもしれない。前足を振って駆けてくるコット君達に笑顔で応じてから、僕達は全員揃って“アクトアタウン”の方に帰還した。
――――
――――
[Side Ratwel]
あれからしばらくの時が経ち、事件の喧噪が収まりつつある。戦場になった“エアリシア”は完全にダンジョン化して、“パラムタウン”は再起不能な状態になってるみたいだけど、辛うじて“リヴァナビレッジ”、“ニアレビレッジ”は復興作業が始まったらしい。これはあの時“エアリシア”のギルドの前で合流したテトラさんから聞いた話だけど、“パラムタウン”で行方不明になってた人達……副親方とか救助隊連盟の役員達は、僕達とはもう一つのグループに保護されていたらしい。その人達指揮していたのが、保安協会の代表と、大分前から行方不明になっていたシルク。シルクは行方を眩まして……、偽名を使ってまで、密かに敵を壊滅させるために行動していたらしい。……あんな状態だったのに動いてたなんて、よく出来たよね……。シルクらしいと言えばシルクらしいけど……。
それで今僕がいる場所は、“アクトアタウン”の総合病院の、ある病室。一部屋に四人が入院できる共同部屋で、ここではベリーとシャトレアさんが眠ってる。二人が運ばれて今日でちょうど十日目だから、ベリーが受け入れていたら目覚めるはず……。僕とソーフ以外にフライとライトさんがいるんだけど――
「……っうぅっ……」
「っ! ベリー! 」
とここで、ずっと眠り続けていたワカシャモがピクリと動く。これが合図になったかのように、彼女はすぐに意識を取り戻す。まだ目覚めたばかりでぼーっとしてるみたいだけど、彼女は何とか薄目を開ける。
「ベリー、分かる? 僕だよ、ラテだよ! 」
「……うん。って事は私、助かったんだ……! 」
「そう、そうでしゅよ! もうだめなんじゃないか、って心配だったんでしゅけど、隣のシャト――」
パートナーの意識が戻ったから、真っ先にチームメイトの僕達が歓喜の声を上げる。ベリーは搾り出すように声を出しているけど、僕はその彼女の右手を両前足で握る。これはシャトレアさんの“チカラ”で生かされてるからなのかもしれないけど、ベリーの手は炎タイプにしては考えられないぐらいに冷え切っている。意識が戻った今も脈はほぼゼロに近い状態だけど、彼女は確かに生きている。夢なんかじゃなくて、現実に――。
「知ってるよ。夢の中でシャトレアさんから聞いたから。シャトレアさんの命、私に半分分けてくれたんだよね? 」
「しっ、知ってたの? 」
「うん」
「ラテ君、ベリーちゃんの方も目が覚めたみたいだね? 」
「はいでしゅ。ということはフライしゃん……」
「うん。シャトレアさんも、今起きたよ」
「“チカラ”で繋がってるから、かもしれないね」
とライトさんの言うとおり、後ろに振り返ると、隣で眠っていエネコロロの彼女も目を覚ましたらしい。シャトレアさんの“チカラ”で一つの命を二人で使ってるから、多分そういうわけで目覚めたタイミングが同じになったのかもしれない。コレに気づいたベリーは寝返りを打ち、隣のシャトレアさんに目を向ける。
「……ベリーさん、おはよう」
「うん、おはよう。シャトレアさん、ありがと。私のために、命を貸してくれて……」
「お互い様、かな? 私こそ、ありがとね。生きたい、って言ってくれて」
「どういたしまして。だけど……、これから私たちって、どうなるんだろう? もう離れられないから……」
「それなら、多分大丈夫だと思うよ。勝手に話を進めて悪いんだけど、シャトレアさん、探検隊資格取って、僕達のチームに入らない? 」
「ベリーさん達の? でもなんで? 」
「ラテ君達から聞いたんだけど、そうしたらずっと一緒に入れるよね? ボクもサードさんに確認してきたんだけど、保安官の方はそのまま継続できるみたいだよ。特例だけどね」
「特例? 」
「うん。事情が事情だからね! それで……どうかな? 過去出身の私たちが訊くのもどうかと思うけど」
「へぇー、保安官と探検隊の兼任なんて、面白そう! じゃあそれでいこっかな? 」
「うん! シャトレアさん、これからよろしくね? 」
「ベリーさんに、ラテ君にソーフさんも」
「はいでしゅ! 」
「あっ、うん。よろしく」
……何かいつの間にかこう決まったけど、ベリーが戻ってきてくれたから、それだけで十分かな? フライとライトさん達が動いてくれてたのは知ってるけど、案外あっさり決まっちゃったね……。まさか特例で認められるなんて思わなかったけど、よく考えたら今に始まったことじゃないのかな……。本当なら僕達、“弐黒の牙壌”に潜入した時点で謹慎処分になってたはずだから……。
だけどこうして無事事件も解決したから、しばらくはゆっくりと過ごせそうだね? 成り行きとはいえ仲間も増えて、行方不明になってたシルク達も無事って分かったから、今はそれだけで十分だね。だから僕は、今この時を思う存分喜ぶことにするよ。
新生悠久の風の誕生、それからみんなの無事を祝うためにもね!
“たんけんのきろく〜七の色彩と九の厄災〜”
悠久の風編 完