8-7 白き翼の流した涙
―あらすじ―
“ルノウィリア”の凶拳で、ベリーが力尽きてしまう。
ラテ君がベリーの脈を診てけど、僕は絶対にその結果を信じたくは無かった。
僕、それからラテ君も絶望の淵に立たされてしまったけど、そこへ“志の賢者”のシャトさんが駆けつけてくれる。
彼女は僕達の心を読んだらしく、文字通り命がけで“チカラ”を発動させた。
――――
[Side Ratwel]
「……ウォルタ君」
「うん、分かってる」
僕も気持ちの整理が出来ないけど、ウォルタ君はもっとだよね……。ベリーが“月の次元”の人の攻撃を食らってしまって、それが原因でベリーは倒されてしまう。すぐに駆けつけて脈を測ったけど、当たり所が悪くて即死……。すぐに仇をとりはしたけど、とてもじゃないけど戦い続けれる気分じゃ無かった。だけどこの場ではそうは言ってられないから、僕はベリーと発狂寸前のウォルタ君を守らざるを得なかった。だけど一人で沢山の攻撃を防ぐことになってたから、僕は隙を突かれてやられそうになってしまう。だけど間一髪のところでエネコロロ……、シャトレアさんが駆けつけてくれて、何とか難を逃れた。それで彼女が言うには、倒れたベリーを何とか出来るらしい。だけど僕達二人の答えを聞かずに、“チカラ”を発動させたシャトレアさんも倒れてしまった。そのお陰で、またベリーと話せるかもしれない、っていう希望が見えてきたけど……。
それで戦場のど真ん中に二人を置いておくわけにもいかないから、僕とウォルタ君で二人を安全な場所に移動させた。敵の隙を突いてだったから上手くはいかなかったけど、建屋の屋上に避難させたから、少なくとも流れ弾に当たることは無いと思う。多分二人は大丈夫だとは思うけど、それよりも心配なのがウォルタ君の方。二人を運ぶ間も気にかけてはいたけど、心ここにあらず、って感じ。本当に抜け殻みたいになっていて、話しかけても気のない返事が小さく返ってくるだけ……。運び終わって戦場に戻った今、やっとちゃんとした返事を返してくれたぐらいだから……。
「辛いのは僕だけじゃ……、ないよね」
言葉に力が籠もってないけど、それでも何とかウォルタ君は返事してくれる。ベリーは僕のパートナーだけど、流石に幼なじみのウォルタ君には敵わない。僕にはそういう記憶が無いけど、ウォルタ君にとってベリーは親友以上。小さい時はベリーの家に預けられてたみたいだから、兄弟同然って言っても過言じゃ無いと思う。……だから、こういう時こそ、僕がしっかりしないといけない。だけど……。
「……うん」
僕は底まで沈みきった彼に何も言ってあげることが出来なかった。
「……だよね。そうだよね! 」
「ウォルタ君? 」
「ここで落ち込んでたら、ベリーに合わせる顔がないよね」
ええっと……。何か独りで呟いていたけど、ウォルタ君は急にぱっ視線をあげる。目が涙で赤くなってるけど、僕が見た限りでは何かを悟ったような……、そんな風に見える気がする。あまりに急すぎる変化でビックリしたけど、もしかするとウォルタ君は心の中でシロさんと話していたのかもしれない。涙を拭った彼は僕の方をまっすぐ見て――。
「ラテ君。ベリーとシャトさんのためにも、絶対に勝つよ、この戦いに」
「えっ? うっ、うん……」
逆に僕が激励させてしまった。立ち直れたなら、僕はそれでいいけど……。
「シロ! 」
『ウォルタ殿、拙者も同じ事を考えていた』
「ええっ、しっ、シロさん? 」
同じ事って……、何を? 落ち込んでたウォルタ君が立ち直ってくれたから、僕はホッと一息つくことが出来た。だけどそう思ったのもつかの間、彼がこう呼びかけると急に頭の中に声が響いてきた。すぐに空高くにいるシロさんって分かったけど、あまりに唐突すぎて声を荒らげてしまう。
「ラテ君も、いくよ! 」
「うっ、うん」
僕とは違って完全に再起したウォルタ君は、先導するように大きく翼を広げる。まさか僕がながされるなんて思わなかったけど、飛び立った彼を追いかけ始める。ベリーとシャトレアさんを安全な場所に寝かせに行ってたから、僕達二人は二百メートルぐらい離れた戦場へと駆け出した。
「“真実の導きに、光あれ”! 」
「ベリーのためにも……」
絶対に負けるわけにはいかない! 低空飛行するウォルタ君を追いかける僕は、真っ直ぐ敵味方が入り乱れる戦場に目を向ける。僕自身まだ心の整理が出来てないけど、いつまでも落ち込んでるわけにもいかない。だから口に出して自分に言い聞かせ、無理矢理だけど気持ちを切り替える。ウォルタ君はウォルタ君で“真実の加護”を発動させたから、僕と違って立ち直れてるはずだけど……。
「シャドーボー――」
それで一番近い敵まで三十メートルぐらいになったから、僕は一番使い慣れた技を準備する。口元に即効でエネルギーを集中させ、それを丸く形成する。同時に背筋が凍るようなイメージも混ぜ合わせ、ゴーストタイプに――。
『今すぐ全員退避! 』
「――ええっ? 」
「こっ、この声って……」
『これより拙者も参戦する! 』
ゴーストタイプに変換し、近くにいるジュペッタんんび向けて放とうとする。だけどその直前頭の中に声……、シロさんが語りかけてきたから、驚いて技を中断してしまった。僕が見える範囲でフライとソーフも声を上げてるから、多分味方全員に話しかけてるんだと思う。かと思うとシロさんは力強く声にない言葉をあげ――。
「
クロスフレイム! 」
炎を纏って急降下してくる。偶々僕達の誰もその場所にはいなかったから良かったけど、結構な数の“ルノウィリア”のメンバーが熱と炎、シロさんの勢いに吹き飛ばされてしまっていた。
「なっ……、嘘だろ? 何であのレシラムが……」
「れっ、レシラム? レシラムだなんて承伝に属するはずだよな? 」
もちろん僕も驚いたけど、彼の攻撃を免れた敵は当然ざわつき始める。僕達にとってはウォルタ君がいるから身近だけど、普通は伝説の種族は一生かかっても会えない存在。オレンジ色のオーラを纏ってる敵もおんなじ反応をしてるから、、この感じだと“月の次元”でも似たような感じなのかもしれない。
「敵の汝等に語る気など無いが、拙者もこの世界の住民に相違ない。故に拙者が手出ししようと問題なかろう。第一汝等も汝等だ! 他の者の意識を奪い道具のように扱うなど……、命を何と考えている! 」
シロさん、完全にキレてる……。元々見上げるぐらい大きい種族だからだと思うけど、この戦場にシロさんの力強い声が響き渡る。だけどその声には心なしか、怒りとか憤りとか……、そういう感情が混ざってるような気がする。“心”が繋がってるウォルタ君も似たような感じかもしれないけど、僕でも迫力がありすぎて尻込みしてしまう。伝説の種族が怒り狂うなんてただ事じゃ無いけど、それはシロさんにとっての敵ならばの話。こういう時に思うことじゃない気がするけど、結構心強いかな。
「ふん、使えるものは徹底的に使う、例え原住民そのものであってもな。それが戦争というものだ。伝説だか神だか知らんが、“太陽”の奴らはそんなことも知らないのか……。笑わせるな」
伝説の種族特有の緊張感が襲いかかってきてるけど、それでも敵のリーダー格、ゴルーグが荒々しくシロさんに言い放つ。本当にこの人達は何て考えてるのか分からないけど、まさかこんな言葉が出てくるなんて思わなかった。サンドラさん達の自由を奪って奴隷みたいに扱うような人達だから、それなりには覚悟してたつもりだけど……。
「それは拙者の台詞だ! “命”を粗末に扱う汝等に分かるはずも無いと思うが、残された者の想いを考えたことはあるか? 」
「ハァ? そんなこと、知ったことか」
「近しき者の最期を看取る、これがどれほど辛いことか……」
……あれ? もしかしてシロさん、泣いてる? 最初珍しく荒々しく声を上げていたシロさんは、今度は急に言葉に詰まり始める。見上げて彼の表情を見てみると、嗚咽を堪えてるような……、歯を食いしばってるような表情をしてる気がする。怒っていて急に涙を流し始めたからビックリしたけど、コレは多分、目の前でベリーを失い……、失う可能性が高いウォルタ君の影響だと思う。シロさんとウォルタ君は“心”が重なってるから、思ったことだけじゃなくて感情もそのまま相手に伝わるらしい。
「歴代十六にんの“英雄”だけでなく、拙者がこの数千年関わった全ての者がそうだ。今までに無数の者の最期を看取ってきたが、今でも胸が張り裂けそうになる……。拙者も戦乱の世を生きたこともあったが、コレばかりは慣れない……、慣れてはいかんのだ」
「何を言い出すかと思えば、デカい図体して……。俺らは戦争しか知らん。だから他人の死など知ったことか。死んだのならソイツが弱かった、ただそれだけのはな――」
「青い炎。ならば尚更見逃すわけにはいかんな。……ウォルタ殿、ラテ殿、フライ殿。ヴァース殿にハンナ殿、ソーフ殿、分かっているな? 」
「えっ、うっ、うん」
「“真実”名の下に、これより“太陽”の均衡を乱した不得者、“ルノウィリア”の殲滅を開始する! 」
続く……