8-6 一代に一度きりのチカラ
―あらすじ―
八人っていう大所帯で行動してる私達は、目的地の“エアリシア”のギルドの前にたどり着く。
ハク達も警戒していたみたいだけど、あまりに静かすぎて私は不安になってしまう。
だけどそんなときに、私達はあっという間に“ルノウィリア”に包囲されてしまう。
フライの作戦で開戦したけど、私は隙を突かれて……
――――
[Side Wolta]
「っくぅっ……っ! 」
「うっ、嘘でしょ? 」
「小娘の分際で、潔く死ね」
そっ、そんな……、ベリーに限って……! ギルドの前で“ルノウィリア”を迎え撃つ僕達は、多勢に無勢だけど対処し始める。陣形を組んで一人ずつ倒していってるけど、次から次に敵が出てきてキリがない。これならダンジョンのモンスターハウスの方が大分マシな気がするけど、今はそんなことを考えてる暇さえ無さそう。
それで僕はフライの指示で空から殲滅してたんだけど、尋常じゃない悲鳴がして思わずそっちの方を見下ろす。最初は敵の誰かかと思ったけど、視界でとらえたとき、それからちゃんと声が聞こえたタイミングで、それが誰なのか嫌でも分かってしまう。断末魔にも似た声を上げてしまっていたのは、僕の幼なじみでワカシャモのベリー……。
「ベリー! 」
いても経ってもいられず僕は彼女の方に急降下し、殴り飛ばされたところを助けに向か――。
「間に合って! ゴッドバ――」
「……っ! 」
「己の不幸を恨むがいい」
一気に光を吸収して加速したけど、あと一歩の所で間に合わなかった。ラテ君も間に入ってシールドを張ろうとしていたけど、飛ばされる彼女、渾身の一撃を食らわせたカイリキーの方が早くて手遅れ……。ベリーは薄茶色のオーラを纏ったカイリキーの凶撃をまともに食らってしまっていた。
「――ード! よくもベリーを……! 」
「っぁぁっ! んなこと……、知ったことか……。これが戦そ……」
「真空斬り」
幼なじみが倒されてしまったことで、僕の中で何かが煮えたぎってしまう。ちょうど技が完全に発動したから、僕は怒りに身を任せて元凶に突っ込む。右の翼を力任せに叩きつけて急浮上したけど、体が丈夫なのか“陽月の汚れ”のせいなのか……、どっちかは分からないけど、これだけでは倒すことができなかった。浮上した勢いを利用して左の方でも攻撃しようとしたけど、全速力で駆けつけてきてくれているラテ君が見えない力で切り裂き、とどめを刺してくれた。
「ウォルタ君! シャドーボール」
「分かってる! ベリー! 」
ベリー、大丈夫だよね? 降下してラテ君と合流してから、僕達は飛ばされたベリーの方に急行する。途中で敵の何人かに邪魔されたけど、僕は翼、ブラッキーの彼は漆黒の球体を連射して蹴散らす。さっき見た感じでは“汚れ”たカイリキーの攻撃を食らってたけど、接近戦の方が得意なべリーなら大丈夫、そう信じたい。
「ベリー、大丈夫? 」
「……」
「……無事だよね、ベリー。 ベリー! ……ベリー? 」
嘘……だよね? 飛ばされたときに叩きつけられたらしく、ベリーは壁際でぐったりと横たわってる。慌ててラテ君が前足でゆすり、僕が何度も、何度もなんども呼びかけても、彼女は何も答えてくれない。
「ベリー、ねぇ、聞こえてるよね? ベリー! 」
「……」
「ごちゃごちゃとうるせ――」
「守る。ウォルタ君……」
あまりにも反応が無さ過ぎるから、ラテ君は前足を彼女の手首の辺りに添え、脈を診てくれる。だけど、彼は……。
「信じたく……、ない……けど……」
チーゴの実を噛み砕いた時みたいな顔をし、僕の方から目をそらす。僕もそんなことは信じたくないけど、彼の様子だけで、嫌でも最悪な一文字が頭を過ぎってしまう。
「そんな……。なっ、何かの間違いだよね? ねぇ、そうだよね? そうだって言ってよ! 」
絶対に信じたくはないから、僕は歯を食いしばってるラテ君を問いただす。
「……っ僕だって……信じたくないよ……」
前が霞んで見にくくなってきたけど、僕は構わず問いかけ続ける。だけどラテ君から返ってくるのは、僕が思ってることとは真逆の反応だけ……。
「そっ、そうだ。ラテ君、復活の種は持ってるよね? 復活の種で――」
「……」
「じゃあ癒やしの種とかオレンの実は? 体力だけでも回復すれば――」
考えつく限りのことを繰り返したけど、彼はただ首を横に振るだけ……。
「ウォルタ君……」
「シルクの回復薬だってあるんだから――」
「ウォルタ君! くぅっ……! っ守る! 」
嘘だ……。
「っ! 」
「背中見せるだなんて、“太陽”の――」
「真空斬り。守る! 」
嘘だうそだ……!
「防戦一方かぁっ? インファ――」
「黒いまなざし! 」
「っ? 」
嘘だうそだうそだうそだうそだ嘘だ!
「シャドーボール! 」
絶対に嘘だ!
「ギガインパ――」
「しまった……! まも――」
ベリーに限って逝ったなんて……。
「アクアテール! ラテ君、そっちは大丈夫? 」
「シャトレアさん……。大丈夫じゃ……ないです」
絶対に信じない!
「大丈夫じゃないって……。……うん。状況は分かったよ……」
だってあの時、熱水の洞窟でベガさんが作り出したグラードンの幻影と戦ったときだって……。
「シャトレアさん……。僕もまだ気持ちの整理がつかなくて――」
シルクとフライにも助けてもらったけど、無事だったよね?
「気持ちはよく分かるよ……」
“時限の塔”で闇に囚われたツェトさん……、ディアルガと戦ったときだって……。
「“読心術”、使ったんですよね……? 」
全員無事で帰ってこれてたよね?
「うん」
だからあんな一発……、“陽月の穢れ”ごときでベリーがやられるなんて……。
「……うん」
「……シャトレアさん? 」
あり得ない……、あったらいけないんだ……。
「ウォルタ君。……ウォルタ君! 」
「……っんなっ……何? 」
「ベリーさんって、ウォルタ君にとって大切な人なんだよね? 」
そんなの、決まってるでしょ? 誰にも変えられない、大切な人だって……。
「ならもし……、もしもだけど、ベリーさんともう一度話せるよって言ったら、話してみたい? 」
もう一度? 一回だけじゃなくて、いつでも話したい。いつまでも一緒にいたいよ!
「シャトレアさん、それってどういう……」
「ウォルタ君なら、“志”は回復に特化した“チカラ”ってことは知ってるよね? 」
「知ってるも何も、僕がシロから訊いて――」
「なら“
志半倒断”は知らないよね? 」
「何かの“チカラ”みたいだけど……、ウォルタ君、どいういう“チカラ”――」
「“志の賢者”が一生に一度だけ使える“チカラ”。尋常じゃないぐらい“代償”があるけど、……“我が志に、希望あれ”。私が使える技を三つ、使いたい相手の技を一つ、十年間封印する。“チカラ”を使った後は十日間意識が無くなるけど、私と対象……、ベリーさんの命を直接繋げることができる。成功するかはベリーさんの気持ち次第で、失敗したら私も死ぬんだけど……」
「しっ、死ぬって、シャトレアさん――」
「しゃっ、シャトさん! まさか――」
「だけどウォルタ君、訊かなくても答えは分かってるよ。だからウォルタ君、ラテ君も、十日後のいい知らせ、期待してるよ? 」
「それだとシャトさんが――」
「“
御神より賜りし此の御魂、心より感謝申し上げる。我が御魂、汝と共にあらんことを欲す。我が志を以て、汝再来の猶予あれ! ”。っくぅっ……ぁぅっ! 」
「
シャトさん! 」
続く……