8-5 猛る炎に灯る闘志
―あらすじ―
合流したウォルタ君とシロさんから敵のことを聞いている時に、僕は偶然フライ達四人と出会う。
残りの三人は“英雄伝説”の当事者みたいで、ウォルタ君とフライの二人に紹介してもらった。
それで話はシルクのことになり、その内容に僕達は唖然としてしまう。
彼女が無茶をするのはいつものことだけど、今回はその度を超しているような気がしてしまった。
――――
[Side Minaduki]
「……
鎌鼬! ミナヅキさん、大丈夫ですか? 」
「ああ、俺は問題ない。シリウス、お前こそ無事か? 」
「
自分は問題ないです」
「目覚めるパワー! ならいいな」
――――
[Side Berry]
「ベリー、ここがそう? 」
「うん」
ここであってるか心配だったけど、大丈夫そうだね。偶々会ったフライからシルクのことを聞いてから、私達は目的地のギルドに向かっていた。偶々フライ達も同じ所に行ってるところだったみたいだから、“英雄伝説”の三人も一緒に……。それで雑談とかをしながら歩いてるんだけど、あれから全然敵らしい敵に会えてない。何かエネコロロのシャトレアさんは凄く退屈そうだったけど、それはそれで良かったのかな? 私もついうっかり忘れそうになっちゃうけど、“エアリシア”は敵の本拠地だから、肝心な時に疲れてるとやられちゃうしね。
それで今丁度目的のギルドに着いたんだけど、それまで私はちょっとだけ不安だった。一応私はここに来たことはあるんだけど、お父さんに連れてきてもらったのは何年も前。だから場所とか特徴もうろ覚えで、正直に言って自信がなかった。だけどそんな不安も現地に着いた今は、霧が晴れたみたいにパッとしてる。ウォルタが見上げながらこう訊いてきたから、今まで不安だったのを隠しながら大きく頷いた。
「……だけどそれにしては静かすぎない? 」
「そうですよね。風の大陸で一番大きいギルド、って聞いてたんですけど……」
だよね……。一応着いたことには着いたんだけど、私達八人以外誰もいなくて拍子抜けしてしまう。ソーフの言うとおりの噂通りなら、今ぐらいの時間なら人通りも多くて賑やかなはず。“エアリシア”は観光都市としても有名なのに、これじゃあ静かすぎて耳鳴りがしてきそう。
「これも“ルノウィリア”に占領されてるからかもしれないね」
「うん。S2がこの辺で襲われたのは間違いなさそうだけど……」
「ええっと、S2って? 」
「僕達とは違って、捕まった人達を解放するためのグループ。その第二班です」
噂とは違うのはこれだけじゃなくて、ウォルタの言うとおり、ココで何かがあったのは間違いないと思う。ここのギルドは五階建てで、その周りの建物も同じぐらいの階層はある。石造りで古風な佇まいなんだけど、あちこちにヒビとか…、破壊された跡が沢山ある。それも昔からのものじゃなくて、ついさっきできた真新しいもの。風がないから空気も埃っぽいし、足元の石畳にも沢山亀裂が入ってる。建物の壁も焦げたり凍ったり……、大きく抉られたりしてるから、私はウォルタの予想はあってると思う。
「ってことは私達と同じね? 」
「ボク達も市民の解放が目的だからね。シルクからギルドに囚われてる、って聞いてるけど、ちょっと拍子抜けしたね」
「まさか間違ってたんじゃな……」
シルクが調べたなら、間違ってないと思うけど…。フライが意外そうに呟いてるけど、本当にその通りだと思う。ギルドは“エアリシア”の中でも大きい方の建物だから、敵の拠点に使われていてもおかしくない、って思ってた。部屋の数もアクトアと“トレジャータウン”よりも多いはずだから、組織で使うなら最適だと思ったんだけど……。だけど人がいるような気配が殆どないから、オドシシのハンナさんと一緒で情報が間違ってた、って思えてきてしまう。見た感じシャトレアさ……。
「おおっと、それは俺達の事じゃねぇのかな? 」
「っ? 」
えっ、だっ、誰? シャトレアさんが続けて何かを言おうとしてたけど、ここにいる誰か以外の声に遮られてしまっていた。
「だっ、誰? もしかしてウォルタ君達が言ってたS、何とかっていう……」
「ううん。僕は全員を把握してる訳じゃないけど、ゴルーグがいたら気づくはずだよ」
ハッと声がした方を見てみると、ギルドの入り口には一つの大きな影。目を向けた時には腕組みをしてたけど、そこで仁王立ちしてるゴルーグ。私達も全員とは話せてないけど、二メートル以上あるゴルーグがいたら流石に気づくと思う。だからオンバーンのヴァースさんの問いかけに、ウォルタが大きく首を横にふる。
「ていうことはもしかして、ハンナさん達の仲間でもないのですね? 」
「うん」
そうなったらフライ達の方、そう思ったんだけど、ソーフが訊いた問いですぐに間違いって気づかされる。って言うことは、もしかして……。
「じゃあ……、“ルノウィリア”? 」
今回の事件を起こした、殺人集団って事になる。捕まった人達って事もあり得るけど、それなら他に誰かいても良いはず。だけど私が見た限りでは、サンドラさんみたいに赤黒い鎖で繋がれてないから、市民でも捕まった探検隊員でもない。
「ご名答。お前達に満点をやろう」
「じゃっ、じゃあ、S2を全滅させたのも……」
「あぁそうさ。ノコノコと潜り込んできた奴がいると聞いていたけど、たった三人で喧嘩売ってくるとは思わなかったね」
いかにも上から目線のゴルーグはこう答えると、私達を嘲笑うように呟く。軽く手をたたきながら話し続けてきたから、相手にならない、私にはそんな風に見えた気がする。
「てことはまさか、一人……」
「おおっと、誰が俺一人だって言ったかな? お前ら! 」
「ええっ? 」
「うっ、嘘でしょ? 」
どっ、どこにいたの? こんなに沢山……。ゴルーグの彼一人、そう思ってたけど、そんな甘い考えはすぐに潰されてしまう。本当にどこに隠れてたのか分からないけど、右、左、後ろ……、気づくとどこを見ても沢山の人達。私達八人を囲うようにして、属性も種族もバラバラの集団が取り囲ん……取り囲まれてしまっていた。
「お前達は数で勝ってる、って思ってたみたいだけど、追い込まれてるのはそっちの方じゃないのかな? 」
「まっ、まさかボク達を誘い込むためにわざと……」
「生憎俺にも立場というものがあるんでね、手段は選んでられないんだよ。……お前ら! リフェリス様から預かった戦場だ。奴らの生死は気にするな、
奴隷共も惜しみなく使え! 戦地に迷い込んだ子ネズミ共を血祭りに上げてやれ! 」
「くっ、来るよ! 」
分かってるけど、この数、どうやって倒せば良いの? ゴルーグの彼がリーダー格なのか、その一声に周りの軍団が一斉に勇み立つ。その迫力に一瞬怯みそうになったけど、何とか堪えて前を真っ直ぐ見る。ラテが凄く焦った様子で促してくれたけど、私は何となくこうなる気がしてたから、気持ちだけは準備できてた。だから横目で味方七人に目を向けてから……。
「うん! 」
「はいです! 」
「やっと面白くなってきた! 最初からそのつもりだよ! 」
パートナーの号令に大きく頷いた。エネコロロの彼女は、何か場違いなこと言ってる気がするけど……。
「ボクが正面の方を相手するから、ラテ君は右、ベリーちゃんは左、シャトレアさんは後ろを頼んだよ! 」
「うん! 」
ってことは私の相手は……、十人ぐらい?
「ヴィレーさんは“チカラ”でサポート、ウォルタ君は空から全体の援護、ソーフちゃんはハンナさんを護って! 」
「俺にはそれぐらいしか出来ないからね、任されたよ」
敵の軍団が動き始めた少しの間に、フライが私達全員に指示を出してくれる。シャトレアさん達がどれぐらい戦えるのかは分からないけど、フライがこう言ってるなら、これが一番良い作戦なんだと思う。そうなると私の相手は、左方向の一団、ぱっと見十二、三人ぐらいの相手を一度に相手することになると思う。こんなに沢山と戦う事はモンスターハウス以外では凄く久しぶりだけど、負ける気がしない!
「“我が術を以てして、友に幸あれ”! 」
「っ? これって…」
もしかして、何かの“加護”? 気合いを入れて走り出したとことで、私は急に何かに包まれる感覚に襲われる。一瞬薄緑色の光が纏わり付いて消えた気がするけど、こういうのは前にも何回か会ったから、それだけで何なのか分かった気がする。
「そうだよ。ベリー達は初めてだと思うけど、ヴィレーさんの“友情の加護”。ヴィレーさんは一切の攻撃が出来なくなる代わりに、“加護”で強化技を味方全員にかけれるんだよ。……熱風! 」
シルクもそうだけど、流石にソレって反則レベルじゃない? その場から真上に浮上し始めたウォルタは簡単にその“加護”の事を教えてくれる。攻撃出来ないっていう“代償”は結構大きいけど、それがあってこその“チカラ”なんだと思う。
「おおっと、無駄口を叩いてる暇なんてあるのかい? 」
……だけど教えてくれた事を整理させてくれる暇なんて無さそうだから、真っ先に距離を詰めてきたキノガッサに狙いを定める。
「マッハパンチ! 」
丁度伸びる腕で五メートルぐらい先から殴りかかってきたから……。
「君たちだって、私達を甘く見ない方が良いと思うよ? オウム返し……、マッハパンチ! 」
向けていた意識にエネルギーを混ぜ、発動した動作をそっくりそのまま真似する。偶々物理技だったから、力を溜ながら相手の拳を狙う。技の関係で一歩遅れたけど、素早い動きで右の爪で突く。
「くっ! 流石格闘タイプ、まだまだ若いけど大した……」
狙い通り腕を真っ直ぐ伸ばしたところでぶつかり合い、互いに逆方向に弾き飛ばす。
「火炎放射! 」
「っきゃぁぁっ! 」
「数で負けてても、戦い方次第で何とかなるよ! 」
後ろに弾かれながら、私は即行で喉元にエネルギーを集中させる。すぐに燃えさかる炎を吹き出し、正面のキノガッサ、それから右斜め前から接近してきたバリヤードをまとめて焼き払った。
「さぁ、それはどうかな? 」
「オウム返し…くぅっ! 」
わっ、技が効かない? もしかしてこれが“術”? 左足から着地した瞬間次の敵が襲ってきたから、私はそっちに目を向けることなく相手の出方を伺う。視界の端でゴウカザルが握りこぶしを作ったのが見えたから、なぐりかかってくる、私はそう思った。だから左足を軸に右を向いて、コピーした技で反撃……、しようとしたけど何故かその技のイメージが全然流れ込んでこなかった。受けの体勢をとる間もなく、私はまともに拳の一撃を食らってしまった。
「痛っ…」
骨を二、三本、やられたかな……。
「今だ! あの小娘から片付けるぞ! 」
「応! 」
だけどここで止まる訳には……いかない!
「リーフブレード! 」
「フレアドライブ! 」
「熱っ」
殴られておなかの上の方が刺された時みたいに痛くなってきたけど、ここで怯んでたら戦えなくなる。だから痛む胸を我慢しながら、咄嗟に体に炎を纏う。フレアドライブは高い威力の物理技だけど、炎を纏うことで防御にも使える。何とか草の刃を防ぐことだけは出来たから……。
「これで……! 」
技の効果が切れないうちに、ラランテスに捨て身で突っ込んだ。
「ちっ……、猛火か」
……あれ? 私のフレアドライブって、こんなに威力、高かったっけ?
「猛火だか何だか知らないけど、ただ倒せば良いだけの話じゃない? 」
「っスカイアッパー! 」
一瞬こんな考えが浮かんだけど、すぐに頭の外に追いやって別の技を発動。利き手の左にありったけの力を溜め、相性は最悪だけどランクルスに向けて思いっきり振り上げ……。
「っあぁぁっ! 」
「脇がガラ空きよ? アクアテール! 」
「っくぅっ……っ! 」
いっ、いつの間に? ランクルスに思いっきり爪を振り上げたのが仇になって、私はミロカロスの攻撃の……っ餌食になって……しまう。水を纏った尻尾が……私の左の脇腹を……正確に捉え……、その部分を水浸しにする。炎に水で……相性的な問題もあるけど、それ以前に攻撃……そのものが重い……。お尋ね者なら一級でも……おかしくなさそうな重撃が……私をいとも容易く……吹っ飛……。
「――っ」
「小娘の分際で、潔く死ね」
その先で待ち構えていた……薄茶色のオーラを纏った……拳が、正面から……っ私……の左胸……に……ヒット……する。今……まで聞い……た事ない……音が
私……
の中で……
響……
き……
…渡
り……
私……
続――……